Darts Psychology

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Vol.55. 2012年5月号 ダーツはほとんどがメンタル
具体的なメンタルトレーニング

(1)「セルフコントロールで自分に勝つ」

 前回この連載では、自分がどんなプレイヤーなのか、さらにはどんなタイプの人間なのかということを考察し、自分自身を知ることから始めようという話をした。今回は、そこで見つけた自分の特徴を生かし、自分自身を上手くコントロールすることによって一段上のダーツプレイヤーを目指す方法を探ってみたい。


 自分をコントロールして自分に打ち勝つことは、ダーツをプレイするにあたってとても重要な課題だ。スポーツ全般に言えることだが、試合の時に極度に緊張してしまい、いつもの実力が発揮できないということや、逆に緊張感を欠いて集中しきれずに負けてしまうということは良くある。こういった現象は自分で自分をコントロールしきれず、外的/内的なプレッシャーにつぶされてしまうことによって起こる。それならば、それを上手くコントロール出来れば、常に自分の実力に見合った安定した力を発揮できるはずだ。しかし自己コントロールと一言で言っても、すぐには具体的な方法もわからないし、そのやり方も人によって千差万別で、プロ選手でも様々な手法を自分なりに取り入れているのが現実だ。
 今年のフィギュアスケート男子世界大会で見られた場面がその良い例だろう。日本の高橋大輔選手とそのライバルであるカナダのパトリック・チャン選手は、共に優勝を期待されマスコミからも注目されていた。決勝ラウンド前は、どちらの選手に対しても極限のプレッシャーが掛かっていたことだろう。しかし印象的だったのは、両選手の試合前の過ごし方がまるで正反対だったことだ。音楽を聴きながら一人黙々と振り付けなどを確認し、究極の集中を目指す高橋選手に対し、チャン選手のほうはリラックスした様子で周りと雑談を楽しんでいた。傍目から見ると、高橋選手は上がり症なので、より自分の世界に閉じこもってリラックスする必要があり、チャン選手は会場に入った時点ですでにリラックスできているかのように見える。しかし、これが一概にそうとも言えないところに人の心の難しさがある。
 結論から言うと、どちらがどんなタイプなのかということはその人の集中やリラックスを高める方法からは推測できないものなのだ。自分に合ったリラックスや集中の方法は、各々のタイプに関係なく自分自身で試行錯誤して編み出さなければならない儀式のような「ルーティーン」だと言える。

 これから幾つかの自己コントロール法を紹介していくわけだが、どんな方法を取り入れるにしても、まずはそのゴールを知る事が大切だ。いったいどのような状態に自分を持って行ければ自己コントロールが完成したことになるのだろうか?最近のスポーツ界のトレンドとして、「ゾーン」という考え方がある。これがいわゆる完成された自己コントロールの姿だと言えるだろう。「ゾーン」というのは、自分にとって最高の状態でリラックスと集中がブレンドされたメンタルステイトで、その領域にいる時、プレイヤーは自分の持つ力を最大限に発揮できる。
 一流アスリートなどを見ていると、良く何かに導かれたように素晴らしいパフォーマンスを見せることがあるが、こういう時彼等は「ゾーン」に入っているということになる。「ゾーン」を経験したアスリート達の多くは、その時の心理的状態を振り帰り、「無心だった」と答えている。つまり、リラックスはしているが、同時に雑念が入らないほど集中力も高まっているため、周りのことやプレッシャーなどは頭からは消えていて、ただ目前にある動きだけがスローモーションでクローズアップしたように感じられるというのだ。
 理想の自己コントロールとは、この「無心」を導き出すことにあるようだ。勿論、どんなに優れたアスリートでも、試合の度にいつでも究極の「無心」状態になれるわけではない。だからこそ皆がこの「無心」を目標にして、それを達成すために日夜涙ぐましい努力をしているのだ。
 この「無心」状態を達成するための一つのアプローチとして、最近脳波研究が大きくクローズアップされている。アメリカ大リーグのチームや世界的に有名なサッカーチームなども、こぞってこの脳波コントロール法を取り入れているというのだ。
 これは、アスリート達の脳波を測定しながら、リラックス時と集中時の脳波を訓練によって意図的にコントロール出来るようにする手法で、かなりの効果を上げているようだ。残念ながらこの手法には特別な装置が必要であるため、私たち素人ではなかなか実践できるものではない。
 しかし脳波を測ることは出来ないにしても、自分がリラックスしている時の状態や、集中している時の状態を自分自身で繰り返し記憶することによって、意図的に再現させることは可能なのだ。そこで、以下リラックスと集中を自分にとって最高のブレンドで体感するための、具体的な方法を考えてみたい。
 先ほどアスリートによってリラックス/集中法が違うという例をご紹介したが、どんなものを実践するかは個人の好みや適性によるし、様々なものが考案されていて分かり難いのも確かだ。ここでは、その多岐に渡る方法に多く共通する、基本的な考え方をいくつかご紹介しよう。
 まず一番大事だと思われるのが呼吸法だ。呼吸によって人間の交感神経と副交感神経は大きな影響を受ける。交感神経が優位であると人は興奮状態となり、より活動的になる。これだけ聞くと交感神経が優位なほうが試合などには向いているように感じるかもしれない。しかしこれには緊張で身体が硬くなるといった弊害もあるので、リラックスとは反対の状態なのだ。これを和らげるためには、ゆっくり深く呼吸し(いわゆる深呼吸)、吸う長さの倍程度の長さで息を吐き出すと良い。このときの呼吸は複式呼吸を心がけると良いだろう。お腹に空気を入れる感じで呼吸してみよう。そうすることによって緊張した体や脳が緩む感覚を体感できる。試合などでのプレッシャーや緊張を強く感じるときは、簡単な深呼吸でも緊張を和らげることができるのだ。

 逆に副交感神経が優位になり過ぎていると、緊張感や集中力を欠いて試合への気力も今一つ盛り上がらない。なんとなくだらけているなと感じたら、浅くて早い呼吸を繰り返すと良い。血流が活発になり緊張感も戻ってくる。ただ、試合の時により有効なのはやはり深呼吸のほうだろう。いざ大きなチャンスがやって来た時や、絶対負けられないピンチの時、人は知らず知らずのうちに緊張しているものだ。そんな時リラックスを促し、集中力を取り戻すためには、やはりゆっくりと深い呼吸で心身ともにリフレッシュするのが良いだろう。いずれにしても、リラックス/集中を作り出すためには、呼吸法は避けて通れない道だ。
 呼吸と同じくらい意識して欲しいのが、姿勢や目線などの身体的な状態だ。人は緊張が強かったりストレスが多くあると、お腹を丸めて守るような姿勢になりやすい。つまり、猫背になるのだ。これはリラックス/集中とは程遠い状態だと言えるだろう。意図的に真っ直ぐな姿勢を保ち、胸を開くように心がけると、自然と気分も変わってくる。軽く腕を回したりするのも効果的だ。また、こういう時は皆大抵怖い顔をしているが、あえて笑顔を作ってみて欲しい。自分をコントロールする第一歩は、実は自分を「だます」ところから始まる。辛いときは、余計に「笑い」を作る。表面的に無理やり作った笑いは、やがて心の中にまで浸透して、最終的には心の底から笑う余裕が出来るのだ。
 緊張が大きすぎると視線も定まらなくなる傾向がある。これを克服するためにはやはり意図的に視線を固定するのが良い。いつも同じものに視線を5秒間集中させるくせをつけ、その対象を見たら自分はリラックス/集中しているのだと自分に言い聞かせる。ダーツの場合はダーツの矢やボードなど、試合会場に普通に置いてあるものを選ぶといいだろう。そうすれば、いつでもリラックス/集中の感覚を呼び起こすことが出来るのだ。
 自己コントロールを目指す上でもう一つ大切な要素が言葉だ。先ほど言った自分をだますという考え方は、自分をその気にさせるという面も持っている。「自分は出来る」「自分は勝つ」という自分を肯定する言葉を、声に出して自分に掛けてあげよう。初めは「今日はだめだな」などと思っていても、正反対の言葉を自分が言うのを耳から聞くと、なんとなく勝てるような気分になってくるから不思議だ。人前で声を出すのが恥ずかしいなら、心の中でポジティブな言葉を繰り返すのでも良いだろう。耳から聞いたほうが効果は高いが、悪い方に考えてしまう自分の心を止めることは十分に可能だ。
 このように肯定的な言葉を自分自身に言い聞かせることをセルフトークと呼ぶが、それと並んで最近スポーツ心理学で流行しているのが、オノマトペだ。オノマトペとは、日本語に直訳すると「擬音」となる。日本語はこの擬音が大変豊富な言語だと言われている。例えば水が流れる様子を表す擬音だけ考えても、さらさら、ジャージャー、ポトポト、ザーザーなど、他の国の言葉に比べてもかなり多い。そんな豊富な擬音を持つ日本語を話す我々日本人にとっては、気合を入れる時の掛け声も人によって多種に渡る。有名なところでは、卓球の福原愛選手がスマッシュなどを決めたときに発する、「ッシャー」のような叫び声がスポーツオノマトペの一種だと言えるだろう。このオノマトペは、セルフトークのように特に意味を成す訳ではないが、力のリミッターをはずし、プレイのリズムを整えたり集中を高めたりするためにはとても効果的なものだ。人間は力を入れたり、感情が高ぶると、無意識のうちに声を出してしまうことがある。試合などで気合を入れる時、自分の中から自然にわきあがってくる音を素直に口から発してみて欲しい。それが自分なりのオノマトペとなって、自分の心理状態をコントロールするのに一役買ってくれることになるだろう。
 このようにリラックス/集中を達成し、自分をコントロールするために出来ることを幾つか考えてみると、どれも心というより、身体や外的要因をコントロールしているように感じるかもしれない。呼吸、姿勢、言葉と、どれをとっても身体に関係している行動だからだ。だが人間の心(脳)というのは、身体とは切っても切れない関係にあり、心が身体を支配しているように、身体が起こしたアクションに心もまたついてくるようにできている。つまり、心をコントロールするためには、身体をコントロールし、心にその状態を記憶させることがなによりも大切なのだ。
 ここで紹介したリラックス/集中法はダーツの試合会場でもできるものだが、本当に効果を上げるためには普段練習のときから実践して、必要な時にいつでも自分をコントロール出来るようにすることが大切だ。本番でプレイヤーのパフォーマンスを邪魔するものは雑念だと言われている。その雑念の中には、「勝たなければ」というプレッシャーや、いつもと違う会場の雰囲気などがあるが、「ポジティブに考えなければ」という考え方そのものが雑念になってしまうことすらある。だから無意識のうちに習慣づけによって、スイッチを切り替えるようにリラックス/集中モードに入れるようにしておけば、その一瞬に雑念達は心の中から消え去り、「無心」の境地を実現できやすくなるのだ。
 これらのリラックス/集中の方法を組み合わせ、自分に合った自己コントロールのルーティーンを見つけることが出来れば、確実に試合で実力を発揮できるようになる。これに「音楽を聴く」とか、「瞑想する」というような、自分を高めてくれるものを付け加えるのも良いだろう。どちらにしても、自分なりの「ゾーン」に入るために自己をコントロールするということを少し意識するだけでも、自分のダーツが良い方向に変化してくることを実感できるはずだ。

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