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Vol.56 松原 弘明
COSMO DARTS 

2012年7月

最初に松原さんがダーツと出会った時のことを教えて下さい。
二十歳ぐらいの時に偶然ダーツバーに行って、そこで「ダーツという物があるんだ」と知ったんです。まぁ元々ダーツは知っていたんですけれども、そこで初めてソフトダーツのマシンを見て、そこからハマって、ダーツプレイヤーという感じでお店に通って…当時はみんなでわいわいやっていましたね。

丁度ソフトダーツがブームになり始めた頃ですね。
そうですね。今のような優秀なマシンが出るかなり前ですね。反応が悪い、なんて全然分からない時だったので、みんなでキャッキャして遊んでいました(笑)。

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今日本の「物作り産業」は大変なようですが、その辺りについてはどう思われますか?
当社も最近でこそ、いろいろなことに取り組んでいますが、一番のメインな仕事は「精密射出成型プラスチック金型メーカー」で、金型や精密金属部品を作る工業をしています。仕事は大手のメーカーさんからの依頼を受けて、製品の為の金型を作って納品するというものなんです。
しかしながら価格競争や海外への生産移転、または自社製造工程の中に金型まで組み込むという事が結構多くなって来ているのが実情です。

最近の不景気とも重なって、やはり仕事の量は年々落ちて来ています。特に酷かったのがリーマンショックの時期ですね。一気に仕事が激減し、そして更に去年の震災の影響などもあり、金型製造の仕事というものは、本当に厳しい時期に来ている感じです。これは私たちだけではなく、周りの同業者さんなども同じような状況だと思います。皆さんも新聞、テレビの番組などで目にされているでしょうが、日本の物作りはまさに正念場を迎えていると思っています。

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ダーツの製品を作ってみようと思われたきっかけは何ですか?
ダーツを始めた頃…もう10年程前になりますが、その頃に通っていたバーの常連の方や、そこのマスターさんが、僕の仕事のことをお話しした所「自分の工場で作れるんじゃない?」という話題になったんです。その当時、国産のダーツというものはまだあまり無かったんですね。ユニコーンやハロウズのダーツがメインで、DMCさんのダーツはプレミア価格がついて出回っているような時期でした。
そして準備を始め、実際ダーツの製造を始めたのはそこから4年後くらいになります。その時期というのは、丁度会社として安定していた時期だったので、別の事業を始めるにも良い頃合いだったという事情もあります。

最初に作った製品は?
みんなが「バレルメーカー」と言っていたので、まずはバレルから作ろうという事でスタートしました。でもその頃から同時に金型を使ったプラスチック製品の商品展開というものも考えていました。バレルを作って、すぐ後にチップを作って、その後フライト、シャフトという流れになって行くんですけれども、バレルを作っている時期は鳴かず飛ばずでしたね(笑)。
その頃は僕自身も工場の中の一技術者だったので、営業職がいなかった訳ですよ。外に出て行って、というのも難しい状態で一個一個手探りというか、勉強しながら進めて行く状態でした。思ったよりもダーツ業界、複雑な人脈で繫がっていますからね…(笑)。最初はその事に全く対応できませんでした。

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ダーツ製品を作る上で色々とご苦労なさったと思いますが、コスモダーツの「物作りの姿勢」というものを教えてください。
バレルにしても何にしてもそうですが、「見た目を綺麗に作る」というのが第一のポイントだと思います。綺麗に作るという事はどういう事かと言いますと、図面に引いて、そしてその通りに作り上げるという事です。例えば、ちょっとした所でいうと、刃物で制作した物は加工をすると絶対に「かえり」という、鉄が湧いて来たようなものが出るんです。そういうものをきちんと綺麗に取って、図面通りに仕上げていくというのが一つの基準になります。もちろん寸法も図面通りにすべて合わせこみます。
FIT FLIGHTの金型だと一番厳しい工差で5/1000mmくらいですね。当然ながらバレルを作るよりはるかに難しいです(笑)」。
それに加えて、例えばプラスチックもそうですが、色々な材料で色々なグレードがあり、そういったものをどう組み合わせるか、どういったチョイスをするかですね。それは強度、耐久性に大きく影響します。使用用途に合わせた材料選びというのをしっかりして、より信頼性の高いパーツを作って行くということが、僕たちの製造姿勢と考えています。

ダーツ業界は独特な体質を持っていると思います。その中で製品を売るという事に関して、何かご苦労があったのではないですか?
そうですね(笑)。正直「普通に物を売っていく」という感覚とちょっと違うという事はありました。対処の仕方や話の持って行き方にしても、細かな所でちょっとしたギャップのようなものがありましたね。
そういう事をやるのであれば、どこどこを通さなければいけない、というような事が色々とありまして(笑)。そういった事が分かっていない所からのスタートなので、やはり苦労はしました。当時はメーカーの縛りというものも結構色々とあったのかな…?と思うこともあります。当然、新参者なので入って行く事も難しいですし、自分たちの出来る範囲内で動いていって、どうにか販路を拡大して来た次第です。

コスモダーツさんの名前を耳にするようになったのは、フライト・シャフト、フィットを製造し始めた頃ですね。色々な所で「こんなものが売れるの?」という反応がある中で、突然売れ始めたようですが…。
タイミング的な事もあったと思いますが、丁度フィットを出した時にADAJファイナルがあって、そこである業者さんに取り扱って頂いたんですね。そこで当時のセット、それぞれ各3セットずつくらいを、色々な色やサイズをひっくるめて結構な数を用意して持って行ったんです。それが2日開催のADAJの初日に全て売り切れたんです。そこで関東地域の方々や出場していたプレイヤーの方々に認識して頂くことが出来ました。それまではネットなどで売り込んでいたんですけれども、そこから出荷数が一気に増えていきました。
プレイヤーさんとの出会いもありまして、その当時のトッププレイヤーなどが、最初に見た時に「これ良い!」と評価して頂きまして、「このフライトとシャフトが良いから、是非使いたい」ということでスポンサードして、僕たちも供給し始めたんです。そういった所で一気に知名度が上がったというのが実情です。

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最初の商品は一体型ですか?
いえ、一体型では無いです。フライトとシャフトは別売りでした。フィットフライトというのはある種独特な形で、シャフト側が棒状になっている所に対して、フライトがキャップ形状になっていてカチっと嵌るようになっている「プッシュイン方式」という形状を採用しているんです。付けやすいというメリットがあって、デメリットよりもメリットの方が大きい、という所でプレイヤーのみなさんに選択して頂き、それが僕たちの自信にも繋がりました。
開発時点で賛否両論あったため「これは良い製品なんだという」僕たちの認識も変わったんです。作ったのは良いけれども、受け入れられるかどうかという迷いがありましたから。何故かというと、普通のシャフトとフライトのセットだと他社さんの製品に全てあるんですよね。フィットの場合はシャフトとフライトがセットじゃないと成り立たないというのが大きな特徴であり、当時はそういった商品があまり無かったので、本当にその両方が一体型で市場の反応は?ということが心配だったんです。それが使用感であるとか、そういった所で受け入れられて来ていますので、僕たちとしても疑心暗鬼だった所が解消され、この商品に対して自信を持って販売していけるようになりました。

製品がどんどん増えて来ていますが、それはどんな発想から生まれるのでしょうか?
実際、求められているという所が大きいと思います。基本的に、例えば売れる形状はもう決まっているんです。世の中に多く出回っているスタンダードやシェイプですね。その辺りがほぼメインになっていて、他の形のものはそこまで出ないんですけれども、ただ、より多くのユーザーさんに使用して頂きたいというのが一番にありますので、そういったラインナップを揃えて行くのがメーカーの使命なのではないかと思います。

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フィットフライトを始められた時、何かの容器から発想を得たということですが。
「修正液」の容器からです。カチャカチャ鳴るタイプの普通の修正液ですね。フライトとシャフトを作ろうという話しは前からありましたが、その当時はバレルやチップだけ作っていて、フライトとシャフトに対する具体案というものは無かったんです。暇な時期に、偶然机の上に修正液があってカチャカチャやって遊んでいたんですけれど(笑)。その時、キャップをさした時にパチッとささる、回そうと思えば回転させる事も出来る、この回転というのは、ある程度丁度良い寸法を出してやれば、しっくり回すことも出来るし、逆に完全に止める事も出来ます。
これをダーツのシャフトでいうと、俗にいう「スピンシャフト」と「ロックシャフト」に当てはまるなと思ったんです。付け方にしても、普通のフライトは十字に切ってあって薄いフライトを入れるというもので、これはすごく付けづらいですよね。僕はすごく目が悪いので、ダーツバーなど暗い環境でダーツを落として壊れると、付けるのに時間がかかって、もう苛々しちゃうんですよね(笑)。だったら、そういう事が無いように一発でパチッと嵌るようにしてやれば、より使いやすいだろうな、というのがフィットフライトの最初の発想です。

今フィットフライトがかなりのシェアを占めていると思われますが、その中で新しく東レさんと共同して作った、より強度のある製品が発売されるようですが。
フィットでよく言われていたのが、シャフトが折れやすいという事です。僕たちは「折れやすくない」と考えているんですけれども、やはり一般のユーザーさんが落とした時に、若干「他のメーカーさんのものより折れますね。」といった声が結構あったんです。
本来メーカーとしては、ある程度壊れてくれないとリセールス的な事でいうとダメなんですけれど、僕たちにも「意地」というものがあります。そこでほぼ折れない、壊れないシャフトを出したいというのがきっかけです。それに合った材料という所で、カーボン繊維入りの樹脂を使用したシャフトを開発しようという事になりました。そして、今回材料メーカーさんを始め、愛媛県の産業創出課というものがあるんですけれども、そこと愛媛大学の担当者と当社の開発者が入って、カーボンシャフトを作るために色々と協議して、それを形にしたものが今回のシャフトになります。
ダーツ業界で作っている商品で、ここまで外の会社さんであるとか、行政や大学などが関わって開発された商品があるのかな?と考えると、今回のカーボンシャフトについては、すごく意義のある商品だと思います。「たかがダーツ、されどダーツ」という所で、どれだけ強度を出せるか、それに合う最適な材料のマッチングはどれが良いか、その引き出しを持っている人達と共同して、僕たちが「形状はこういうものが良い」「こういった使用感が欲しい」「デザインが欲しい」などの色々な意見を融合させて、意見交換した上で作り上げています。結果としてすごく良い物が出来上がっています。
今回これが実現に至ったのは、今愛媛県が炭素繊維を使った商品を日本全国、世界に売り出して行こうという政策を愛媛県知事が進めているおかげなんです。この創出事業の一環の第一例になるのがこの商品です。また、このような努力を重ねていきますとダーツ業界の外から見たダーツに対する視点というものも、変わってくるのではないかなと思います。

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海外では、かの有名なジョン・パート、ジャスティン・パイプなどと契約され、日本でも数多くのプレイヤーと契約されていらっしゃいますね。その辺りについては、どう思われますか?
日本国内でいうと、今年はプロツアーが3つありますね。その中で、ある程度「活躍出来る選手」というのを、どんどん出して行きたいと思っています。基本的にはトップクラスの選手も居れば、2番手3番手、4番手くらいまでの選手それぞれに対してスポンサードを行っています。
実際、選手としてツアーに全部参戦しようと思ったら、やはり「お金」というのは必要になって来ます。スポンサードはレベルに応じた活躍でプレイヤーによって異なってきますが、いろいろな形でスポンサードしています。例えば道具一つにしてもそれを提供される・提供されないという事でやはり差が出て来ると思うんですね。当社の商品ですと1セットに対して大体1400~1500円くらいになって来るので、それがプロとして使う頻度となりますと、月に5セット、多い人だと10セット無くなる人も居ます。そうなると、それだけでも結構な負担になって来るので、そこの所を当社で軽減出来て、当然選手が活躍してくれれば、プレイヤーの名前も演出でき、コスモの名前も出るという共存関係が出来るのではないか、と思います。
最近だと、先程言われた海外のジャスティン・パイプやジョン・パートも使っていただいて、実際は海外の選手はこの2名だけでなく、もっと沢山の選手にもスポンサードしています。それはもう世界中ですね。その規模でどんどん動いていくために、やはりプロモーションであるとか、今後のニューヒーローの育成にも力を入れて、プレイヤーを取って行きたいと思っています。

当然、海外選手の場合は海外のマーケットを強く意識されていると思いますが、アメリカやヨーロッパなど、少しずつ受け入れられていますか?
そうですね、僕たちも行ってみて思ったんですけれども、最初の頃は日本の商品は値段が高いから、海外ではまず受け入れられないだろうというのが業界関係者の一致した意見でした。
しかし僕たちとしては「製品」に絶対的な自信を持っていましたので、とりあえず持って行こうという事で海外に出してみたんです。すると、やはり「ジャパンブランド」というもの、今までに色々な企業さんが培ってこられた「メイド・イン・ジャパン」という信頼度がすごくあって、当社の商品を選んでくれる方が最近増えて来ています。
実際にそのフィットフライト、シャフト、バレルとはどんなものなのかと実際に触れて頂いた方々と海外でお話しをすると「こんな便利なものがあるのか」「ずっと使いたい」と言って頂ける事が結構ありました。北米では2年目になりますが、少しずつ販路が広がっています。
PDCの選手に対するスポンサードも始めていますので、ヨーロッパでも徐々に注目度が上がって来ています。後はアジア市場ですね。今香港が盛り上がって来ていますけれどもフィットの選手でいうとロイデン選手など、その辺に対してもみなさん選手が使っているのを見て、実際に使ってみて「これ良いよね」という風に言って頂いています。
ちょっと値段は高い、でもそれに見合う価値はある、という評価は嬉しいですね。

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コスモダーツさんとして、夢・目標などはありますか?
当社は今、事業的に製造の金型事業部やダーツ関係の仕事をするアミューズメント事業部、そして農業のアグリ事業部などがあります。会社として色々な事にチャレンジして、どんどん色々な事をやって行こうという姿勢で動いています。
その中でダーツに関して言いますと、もっと様々な商品を手掛けていきたいと思っています。まず一番念頭にあるのが、ダーツの商品というのものはすごく長い歴史の中で、その形や仕様はほぼ変わっていないんですね。それを今2012年の段階で「昔からあるものが何故そのままなのか?」という所に疑問回帰して、今の技術を使った新しい発想の製品を開発したいですね。
それは理論、数値がしっかりと基礎にある製品だと考えています。また今まで、日本のメーカーさんは基本的に「バレルメーカー」だとか「フライトメーカー」という風に、みなさん一つのものにこだわってされています。しかし当社は「総合メーカー」というものを目指しています。コスモダーツは「バレル、チップ、シャフト、フライト、ダーツボード、ユニフォームもあります。ダーツをやることに関してはほぼ全部揃っちゃいます」、という形を作っていきたいですし、徐々にそこに近付いて来ているのかなと思っています。

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今の日本のダーツの地位を「スポーツ」としての認識に持って行きたいとおっしゃっていましたが?
それについて考える時期があったんです。海外に出る事が多くなって、例えばカナダのような昔からダーツをプレイする土壌がある所に行ったりすると、やはりみなさん子供の頃からダーツに慣れ親しんでいるんですね。
プレイヤーさんと話しをして「どういうきっかけで始めたんですか?」と聞くと、大体「子供の頃にお祖父ちゃんと遊んで、その流れで今もプレイしているんだよね。」といった話しが多いんです。それを聞いた時に、やはり若い頃から触れていないと、ダーツで世界に通用する選手は現れないと思いました。それが文化の一つとして取り入れられない事にはどうしようもないのかな、ということでしょうか。
子供の頃からダーツをする、というのを日本に当てはめると、小学校や中学校の時からクラブ活動の一環であったり部活動の一環であったり、そういった所で「ダーツ」というものを取り入れてほしいですよね。今の業界の現状はアミューズメント色が強いと思いますので、そうではない「スポーツとしてのダーツ」というものも確立したいと思います。夢ではないと思います。
若い世代だけではなく、ダーツは高齢者でも出来ますので、そういった所でコミュニケーションも取れますし、ダーツというものはもっと色々な事に使えるのではないかと思います。
「もっとスポーツ志向の強いもの」になってほしいです。今の状況だと、ダーツをやっていない、例えば行政の方々には中々認められづらい状況にあると思うんですけれども、そういった方々にも「ダーツというものはスポーツなんですよ」と少しずつ認めてもらえる環境作りというものを、進めていきたいと思っています。

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今週、愛媛県知事に面会する機会があるそうですね?
「ダーツというスポーツ」を知って頂くきっかけとして、まず地域のトップの方に紹介したい、というのがあります。知っていただいて、意見を交換する機会を設けて、徐々に一つずつ問題をクリアしていくというのが必要だと思ったんです。時間を作って頂く機会が出来ましたので、公開型で「ダーツというものは、こういったスポーツなんですよ」ともっとアピールしていきたいなと思います。

その中で僕たちの「愛媛県の企業として、地元にはこういった産業もあるんですよ」といったアピールにもなりますし、「こんな産業があるので、スポーツとしてのダーツというものをもっと広めていきたいです」という事をもっとアピールして、それが実現出来るようにがんばっていきます。

最後に、何かメッセージはありますか?
当社の場合、基本的には発想力というものですね。結構自由な考えで柔軟にやっていますので、今までに無い商品であったり、今まであった商品をもっと使い易くしたり、今の時代に合ったものをどんどん作っていきたいと思っています。
インパクトのある新しい製品、出していきますので楽しみにしてください。

COSMO DARTS をよろしくお願いいたします