Yoshifumi Nomura-Top

Vol.26 野村 佳史
ダーツ界の変遷

2007年7月号

最初にダーツに触れたきっかけは?
20歳の頃、今からもう23年前のことになるのですが、友人の家でおもちゃのダーツで遊んでいた時に友人が「駅前の喫茶店に本物のダーツがあるらしいぞ」と。なんだそれ!ってことで見に行ったのが本物のブリッスルボードとの出会いでした。勿論、それに向かって投げ始めたんですが、これが本当に楽しかった。俺は天才に違いないと。(笑)その日にダーツを購入しました。当時は普及していないだけにダーツは高価なものでした。最初のダーツはユニコーンのバリー・トゥモローモデルでしたが、18000円もしました。今と比べると驚かれるでしょうが、その価格は当時としては普通でしたね。まだ市場が小さかったので輸入業者もビジネスになりませんから、当時では当然な事だったんですね。

その後のダーツ界の変遷は?
それからの約15~16年くらいはダーツにとってはマイナーな時代と言えるでしょう。「ダーツやってます」なんて人に言っても誰も興味を持ってくれなかったですね。本当にソフトダーツが普及するまではそんな状況でした。「ダーツライフ」の様なダーツの雑誌はもちろんビデオも国内のものは無く、海外から取り寄せてダビングを繰り返した画質の悪いものを擦り切れるまで見てました。その後スティールダーツのプロの団体も立ち上がったのですが、スポンサーが付かなかった為に残念ながら1年で消滅しました。
東京に居た頃TDOのオフィシャルの仕事もしていたので、当時の役員の人たちに、自分の現役のうちにもう一度プロ団体を立ち上げて欲しいと何度も懇願した事を覚えています。プレイヤーとしては自分が強い時に出来るだけダーツの最盛期に身を置きたいですからね。現在ソフトダーツが日本中に広まり本当に良い状況になりましたが、選手としての立場からだけ考えると正直10年早くこうなってくれていたらなと。(笑)でも今回のBurnを見ていても谷田さんや朝村さんの様に50歳を過ぎた今でもあのレベルのダーツが出来るのを見ると励みになりますね。

現在のダーツ界について
長い間マイナーな競技の中に身を置いてきた僕としては、今のソフトダーツブームの状況は全く信じがたい事です。昔は300~400人の大会でも「デカイ大会だな」と思ってましたから…。この素晴らしい状況を出来るだけ持続させたいですね。マイナーな時代にまた戻してしまってはいけないという危機感は常に常に持っています。
最近ダーツを始めた人たちは当然この良い時代しか見ていないわけで、一般のプレイヤーは勿論ただただダーツを楽しんでくれれば良いのですが、ビジネスという側面から見るとそれは実はとても怖い面を併せ持っていると思います。例え意識していなくても結果的に気が付いたら焼け野原にしてしまい、誰もが撤退…なんてことにもなりかねません。どんな競技にも浮き沈みはあると思いますし、これだけ急激に盛り上がったダーツも例外ではないかもしれませんが、そうならないように出来るだけ長く、出来ればずっとこの状況が続くように、さらにはもっとダーツという競技が広く認知されて根付いていくよう願っていますし、その為の活動を続けていきたいと思っています。

ダーツ界の将来は?
この数年で、ダーツを通して知り合ったプレイヤーの方が結婚し、その子供がダーツを始め、という光景を目にする事が多くなってきました。学校などでもダーツの同好会ができ始めているという話も耳に入ってきます。
ヨーロッパ等の状況を聞くと若いプレイヤーでも既に長いダーツキャリアを持っています。20代のプレイヤーでも多くが5~10歳の頃から投げ始めているので既に15年、20年プレイヤーです。日本にもそんなグランドが求められますし、そうなり始めているのを感じます。そうなればプレイヤーの裾野はぐんと広がり、おのずと世界の舞台でも通用するプレイヤーが出現することでしょう。過去10年で日本のダーツはこれだけ成長したわけですから、未来には大いに期待できると思います。ヨーロッパやアメリカでプロとして活躍する日本のプレイヤーが出て来たらと思うとワクワクしますね。

ダートワールドグループについて
結果としてダートワールドのディーラーになったのですが、とても良かったと思っています。現在トーナメントの開催が大きくクローズアップされていますが、初期の頃から今に至るまで心血を注いで取り組んできたのがダートワールドの各地のディーラーではなかったでしょうか。多くのトーナメントプレイヤーを輩出し、そのことは今のブームに少なからず影響を与えてきたような気がします。またリーグについても真剣に取り組んできましたが、さらに良いものにする為にミーティングを重ねています。
トーナメントやリーグは、プレイヤーに様々な目標を持って楽しんでもらう為には欠かせないものだと思いますし、その事に当初から真剣に取り組んできたグループでやってこられた事は恵まれていたと思います。

ディーラーの業務とはどんなことを?
以前と違ってディーラー業務の現場はほとんどインストラクターに任せています。ロケーションを回りマシンのメンテナンスをしたり、リーグ戦やハウストーナメントのコントロールや集計などなど、ロケーションのオーナーさんやプレイヤーとのコミュニケーションも含めて、本当にダーツが好きでなければ出来ない大変な仕事だと思いますが、本当に彼らの力に助けられています。
トーナメントは派手でメディアに取り上げられたりと目に付きますが、ダーツビジネスはもっと地道な業務が多くを占めています。実際、一般にダーツをしているプレイヤーの多くは会社の帰りにたまに投げるのが楽しみだったり、仲間で集まった時に盛り上がるアイテムの一つとして楽しんでいるプレイヤーがほとんどで、ダーツビジネスはそこで支えられていると思います。
トーナメントやリーグには参加していなくてもダーツを大切な趣味としてプレイしている、そんなプレイヤーがさらに増えていく為の手助けをする事も大切な仕事だと思います。ディーラーの業務というのは皆さんが思っているよりずっと地味で泥臭い仕事だと思いますよ。
でも一番大切なのはダーツマシンを置いて頂いているリースロケーションだと思います。その存在があるからこそ我々ディーラーはトーナメントを開催し、リーグを運営する事が出来るわけですから。この根本が無ければ今のダーツブームは間違いなく終わってしまうと思います。

ダーツという仕事は
難しい質問ですが、ダーツというのはある面遊びですから、それを仕事にしている事が人によっては羨ましいと思われるかもしれません。しかし実際には本気で取り組めば取り組むほど儲からない。(笑)もっとドライにビジネスとして割り切るにはダーツが「好きすぎる」んだと思います。
ディーラーのみならずダーツバレルメーカーなども含め、新規で参入されるディーラー、メーカーは多いと思いますが、大きく膨らんだ業界は淘汰の時期を迎えると思いますし、もう始まっているとも思いますね。あらためて趣味は仕事にするもんじゃないなと。(笑)幸い弊社はスタッフにも恵まれていますし、これからもロケーションを大切にして、リーグやトーナメントはもちろん、ダーツを取り巻く状況を守っていく為の手助けが出来ればと思います。

DMCについて
ソフトダーツが普及し始めた頃にDMCというメーカーを立ち上げました。日本で作るからにはと、とにかくクオリティでどのメーカーにも追随できないレベルを一貫して追及してきました。そこまでのクオリティがダーツに求められているのか、という議論はあるでしょうが、最初から今までその姿勢は不動です。逆に自分達の作った厳しい規格に苦しめられるほどですが、その仕事が出来るということは大きな喜びですね。
デザインの面では長い間気持ちの中で暖めてきたものを吐き出しているといった状況でしょうか。自分がデザインしたバレルを製品化でき、たくさんのプレイヤーが使ってくれるなんて夢にも思っていませんでした。それだけに責任もあるわけですが、基本的には5年後も10年後もスタンダードとして残す事が出来るバレルを作っているつもりですし、それがメーカーとして最も重要な事と考えています。
その点に関してはDMCのラインナップにおいても最初に発表されたホークやマーヴェリック、レイヴンといったモデルが今も新しいモデルと同じように支持されている事からも、間違っていなかったと思っていますし、アキュートの様な実験的なダーツにも取り組んでいきたいと思っています。DMCはバレルメーカーとして、クオリティの高いダーツを作るという意味においては、世界最高のスタッフによって作られているのは間違いないと思います。

読者に
どんな事を趣味にしていても同じだと思うのですが、長い間やっているとテンションが落ちてくる時期があったり、やめようかなと思う時も。僕もこの20数年の間には何度も波のようにやってきました。お金が無い時期だったり、仕事が順調でなかったり…。
その度にダーツの前に引き戻してくれたのが、やはり仲間でした。必ずしもリーグに参加していてチームに迷惑が掛かるから…という理由でなくても、単純に一緒に飲めて騒げるからという時もありましたね。皆さんもダーツという趣味で出来た輪を大事にして欲しいと思います。
逆境の時に救いになる可能性だってありますよ。これだけ多くの人たちと少ない時間で出会えるダーツって、やはり素晴らしいと思いますよね。

最後に…
プレイヤー野村は只今、リハビリ中です。ビリー隊長の元でまずはダイエットから。(笑)やっぱりダーツは投げなきゃ面白くないし、勝てればなお面白い。最近は周りのプレイヤーの子達も本当に上手くなっていますから負けないようにしないと。トーナメントで当たるとちょっと鬱陶しいおじさん目指して頑張るぞ!半分本気だ!半分かよっ!