2006年3月
第二回 ブルシューターアジア大会
参加者は各国より合計500人、日本からは140人
会場は昨年と同じ『香港インターナショナルトレード&エキシビションセンター』。オフィシャルホテルである『ミラマー香港』からは、トーナメントのスケジュールに合わせて往復のシャトルバスが出ている。ホテルの前には顔見知りのドイツの選手達に加え、今回初参加のアメリカやオランダチームの選手もバスを待っていた。国際色豊かな車内では各国の言葉が飛び交い、それぞれ大会への期待と意気込みが感じられる。これらの国がどのような戦いを繰り広げるのか、香港や中国、そして我が日本の活躍はどうだろうか、これは昨年以上におもしろい大会になりそうだ。
初日の試合は夕方5時からなので、各選手はゆっくりのスタートとなる。
3時過ぎに会場に入った時は日本人選手はまだ到着していなかった。今回は昨年よりも多い500人の参加者がいるため、スペースも拡張して、106台のマシンが用意されている。そんな中で地元香港のスタッフとブルシュータージャパンの日本人スタッフ達も忙しく準備に追われていた。1年ぶりの再開となる主催者のクオン氏は昨年同様の笑顔で迎えてくれ、今大会への思いを語ってくれた。香港のみならず中国本土でもダーツを普及させようと、日々様々な努力をしているそうだ。その努力もあって、これだけの参加選手が集まった。各国の選手や関係者に、「ようこそ香港へ」と全身で歓迎の意を表す姿がとても印象的だった。
準備の様子などを見学しているうちに、日本人選手が会場入りしてきた。みんな空港から直接来ていて、スーツケースを持ったままという状態だ。早朝の出発だったにもかかわらず、少し休憩すると、早速マシンに向かってウォーミングアップを始める様子はさすがだ。
初日の競技はシングルスのハンマークリケット。数日前から現地入りしている他の選手に比べると、到着したての日本人選手は少々不利かと思われた。しかし、期待通りのプレイを見せ、男子は2度目の出場である佐藤敬治選手が3位、女子は初出場の濱田ちさと選手が準優勝と好成績を収めた。男子優勝はアメリカのScott Kirchner選手だが、彼は先日横浜で行われたトーナメント「ONE」でも優勝している実力者。女子は最近メキメキと腕を上げている、スロベニアのHumar Mojca選手が、初出場ながら的確なプレイを見せ優勝した。好戦した濱田選手は「安定したフォームで落ち着いて投げていた」と彼女の印象を語っていた。
2日目は昨日とは一変、会場は真剣な雰囲気に包まれた。
最初の競技はTop GunのMen & Women、日本人プレイヤーも会場のあちらこちらに散らばり、熱戦を繰り広げていた。
どのプレイヤーも、もちろん真剣には違いないが、それ以上に試合そのものを楽しんでいる様子が感じられた。各国のプレイヤーと談笑し、試合が終われば握手したり抱き合ったりしている姿が印象的。代表で何度も外国遠征している選手などは、すでに知り合いの外人選手も多い。彼らは会場で会えばお互いに再会を喜び、こちらもあたりまえのように抱き合ったりしているが、正直日本人プレイヤーがここまで外国人達に溶け込んでいるとは少々驚きであった。海外での日本人プレイヤーの知名度も上がり、お互いを良きライバルだと認めていることの現れではないだろうか。
試合結果は、接戦の末、安食賢一選手が3位、優勝はスロベニアのPECJAK SEBASTIJAN選手。それにしてもスロベニアは2人だけの初参加であるが、両選手とも強い強い…ほとんどの試合を制しそうな勢いだ。
さて続いての競技は今大会のメインイベントとも言える国別対抗戦だ。代表選手がそれぞれの国旗を掲げて入場してくるのだが、BGMには国家が流れるという凝った演出。星条旗のユニフォームを着たアメリカ、賑やかでひときわ目立つのはオランダ、はちまきをした日本チームや次回開催国のスペインも明るい。最後はホスト国の香港と、全14カ国13チームの選手が揃った。
昨年は日本が優勝したのだが、今年は強豪のオランダやアメリカの参加もあり、苦戦が予想された。しかしながら日本は着実に勝ち進み、強敵ドイツも倒した。波に乗って決勝まで来たところで、対戦相手はアメリカ。たくさんの観客が見守るメインステージでは、ハットの連続、決勝にふさわしい予想通りの好ゲームが繰り広げられた。
息を呑むほどの接戦であったが、結果はアメリカの優勝、残念ながら日本の2連覇は成されなかった。がっくりと肩を落とした日本チームからは、この試合への思いが強く感じられ、負けたとはいえ感動的ですらある。いろいろ言われることも多いダーツだが、これがスポーツでなくて何なのだろうか?と改めて感じた瞬間であった。
マレーシアという国はスティールダーツでは世界でも強国として知られている。昨年WDFが開催するワールドカップ・パース大会にも取材に訪れたが、欧米と遜色無く素晴らしいダーツを投げていたのはアジアではこの国だったという印象が残っている。ソフトダーツを投げ始めたならば、アジアにおいて日本の良きライバルとなることだろう。シングルス男子はマレーシアAmin選手が優勝。
ついに吉賀順子選手が大きなトロフィーをものにした。多くのトーナメントに参加する選手だが、いつも今一歩のところで苦渋を舐めてきた。大会にピークを持っていけない、調子が持続できないなどの悩みを克服した今回のプレイは実に見事だった。人には言わないが、どれだけの努力をしていることか…。彼女自身のみならず、日本にとって価値あるビッグタイトルだ。世界との壁は確実に近づいてきている。
最後の試合のトリプル701はドイツの優勝。今大会ではあまり目立った活躍のなかったチームだったゆえに、さぞ嬉しかったことだろう。日本よりも早くソフトダーツブームの始まった国の面目躍如だ。会場でもいつも難しい顔をしている気質をもつお国柄の国だが、この時ばかりは素直に満面笑みだった。
香港は日本人にとっては観光でも馴染みの深い国だ。渡航時間もそれほど長くなく、各地域から直行便も飛んでいるとあって、このトーナメントにも比較的気軽に来れたのではないだろうか。実に様々なプレイヤーが集まり、一瞬日本の大会と錯覚することすらあった。時間的に余裕のある日もあるので、熱心にひたすら練習する人もいれば、観光やショッピングに出かけるなど、それぞれの楽しみ方をしていたようだ。
確かに外国人と戦うという特別なプレッシャーもあるが、試合の後は皆で町へ繰り出し異国情緒を味わう。そんな楽しみ方ができるのも、海外トーナメントの魅力の一つだろう。
このグループはつぎにシカゴ、そして秋にスペインと世界のトーナメント予定が目白押しだ。いつもと違った大会を経験してみたいプレイヤーは、ぜひ挑戦してみよう!
昨年同様、最終日にはパーティーが開催された。しかし内容は、昨年の何倍も楽しいものとなった。7時頃から集まり始めた各国の人々は、用意された自国のテーブルに着くと、まず乾杯。そして子豚の丸焼きから始まる中国料理の堪能となる。やがてデザートのサービスが始まると、各国の代表の挨拶。アメリカ、ヨーロッパ、日本、世界のブルシューターのスピーチ。MVPの表彰。また、地元香港と日本のリーグ優勝チームのゲームと続く。
そして酔いも回り始めた頃、各国の余興の披露となった。これは最高に盛り上がっただけでなく会場を一つにした。まるで歌っているとは思えないような奇声…。上半身裸での必至の芸…。ただ腰をくねくねさせているような踊り…。しかしかなり笑えた。その中でも韓国チームのボトル投げ、口からの火の芸には全員が立ち上がり拍手喝采。アンコールの手拍子に応えて2度目の披露を終えると、次には豪華懸賞付のくじ引きが待っていた。それにしてもなんという心を尽くしたパーティーなのだろう。ダーツという同じ趣味で知り合った世界の人達を真剣に結びつけようとしている。こんな空間を供にしたら、次に会った瞬間、長らく会っていなかった友に再会したような錯覚に陥るのはまちがいない。
「ダーツって何?」という質問をぶつけるとそれが世界トッププロといえども「楽しむこと」と返ってくる。ゲームを楽しむ、勝負を楽しむ、スキルとしてステップアップを楽しむ。いろいろな意味がありそうだが、このパーティーを後にして何か、「ダーツを楽しむ」という意味をもっと知りたくなった。もっと違った大会に出向いてみようか…。
2度目の開催となるこの大会も大成功のうちに終わった。
昨年も感じたことだが、ホスト国の香港ブルシューターのホスピタリティには実に感心する。世界中から言葉の違う国の選手が一堂に集まる大会ながら、特にトラブルもなく、それどころかほとんどの国の選手を楽しい気分で過ごさせるというのは、そんなに簡単なことではない。しかし、来年もまたこの香港に来たいと願っている選手は少なくないのではないか。香港という地の特別な魅力もさることながら、やはりスタッフの努力によるものが大きいだろう。日本人参加者は昨年の50人から140人と飛躍的に増えた。全国から集まったプレイヤー達は、海外の選手と対戦してみてどんなことを感じたのだろうか。自分のダーツに、新しい何かが芽生えたプレイヤーもいるのではないかと期待するのだが。
いまや日本のダーツは、世界に向かって大きく羽を広げている。各国の選手と互角に戦う日本人を見ていると、これからの日本のダーツがまだまだ伸びていくことを感じずにはいられない。
ブルシューター香港代表 ジョセフ・クオン
今年は昨年より人数も増え、会場も広くなり充実した大会となりました。日本人選手は昨年はかなりのゲームで優勝し圧倒的な強さを見せましたが、今年は初参加のアメリカやオランダ、スロベニアなどの強豪との苦戦を強いられました。しかしそれらも大会をより面白くする要因のひとつとなり、また日本人選手にとってもよい経験であったと思います。
現在、香港でもプレイヤーを世界各地に遠征させ、ダーツの拡大やレベルアップに努めています。同様に中国での活動も進めており、アジア全土でダーツが活性化するよう、今後も様々なことを企画していきたいと考えています。みなさん、来年またお会いしましょう。