Vol.103 森田 真結子
まよんぬ 大特集

2020年7月号

前回2019年1月号Vol.95で表紙を飾った時にはショップ、ネットで数日間で完売となりました。本当に人気があるプレイヤーですね。コロナウィルスの影響で編集内容で困っていたところ、行き着いた先が明るいキャラの彼女の特集でした。
お電話すると「よろしくお願いいたします」と快諾をいただきました。大きなスタジオでたっぷり時間をかけて撮影しました。水着にもなっていただき本当に頑張っていただいた、と思います。素晴らしいカットの連続でファンにはたまらないことでしょう。ロングインタビューも収録、お楽しみください。

『100日後に脱ぐ森田』
今年は世界的に大変な状態になってしまいましたね。
本当にそうですね。誰もこんなことが起こるとは思ってもいませんでした。

現在のダーツ界も明るい状況とはいえないので、少しでも元気にするために、いつも明るいまよんぬさんに再登場をお願いしたわけです。
ありがとうございます!性格だけじゃなくて髪の色も明るくなりました(笑)。

ステイホームの間はどのように過ごされていましたか?
この期間はYouTubeを結構やってました。ダーツというのはお店に人が集まったり、イベントや大会をやって直接人と触れ合うものじゃないですか。それが難しい状況ですが、そんな中でソフトダーツの良いところは遠く離れた友人とでも対戦できるところです。家庭用ダーツボードの普及もあって、室内競技としてステイホームをしながら練習したり対戦したりできます。これは他の競技ではできないことだったので、ダーツ人口を増やすきっかけの一つになったかなと思います。

ソフトダーツの使い方の幅が広がったということですね。
ダーツはナイトマーケットというのが主で、夜にお酒を飲みながらというイメージが強かったと思うんですけど、そうでない部分が取り上げられたのではないでしょうか。ダーツの健康的な部分を押し出していける期間だと思ったので、SNSでも積極的に発信していました。

SNSやツイッターも頻繁に発信されていて、結構忙しかったのではないですか?
いろいろやっていて、『100日後に脱ぐ森田』というハッシュタグもやってたんです(笑)。

あれは驚きましたよ(笑)。
イベントで直接会えない代わりに何か面白いことを、ネットを通じてやりたいなと思ったんです。自分のためにもなるし、見ているみんなもワクワクするようなものはなんだろうと考えました。それで、せっかくなので身体を鍛えようとこのプロジェクトを思いつきまして、無事完結いたしました(笑)。

撮影当日に着替えていただいた時はいきなり水着になられたので「これか」と思いましたよ。「ついに脱いだ」と(笑)。
せっかくなのでやるしかないと思いまして(笑)。本当はツイッターに上げるだけの予定だったんですけど、NDLさんで取り上げていただけるということになったので、「脱いじゃってもいいかな」と思ってやってしまいました(笑)。

SNSでは自分を作り過ぎない
こういう時期なので、この企画を受けていただくにあたっては、まよんぬさんもいろいろ思案されたと思います。
何を話したらいいかなと考えました。私が話すことで、何かみなさんのヒントになることが少しでもあればと思っています。
動けない間は、こんな時期にできることは何だろうと考えました。とにかく悲観的にならずに、前に進むための準備期間としていい時間が過ごせたかなと思っています。

前向きなんですね。
そうありたいと思っています。無くなってしまったお店などもありますし、大会がないというのは社員さんを抱えているディーラーさんや事業者さんも大変だと思います。お店に行けないお客さんは投げられないフラストレーションがあるはずです。崩れてしまったことも多いですが、今できることを考えて、少しでも気持ちを明るく持ちたいと思います。

ツイッターのフォロワー数が2、9万人というのはかなりの人数だと思いますが、発信する際に気を付けていることはありますか?
最近は自分を作り過ぎないことを重視しています。SNSでは自分を良く見せようとする人が多いと思うんです。良い部分を見せて人気が欲しいというか。私は作られたまよんぬではなくて、森田真結子として考えていることを発信するようにしています。

そうですね。確かに地が出ている感じがしますね。
地が出てますねぇ。自分ですね。飾らずに生きていたいと思っています。

素晴らしいと思います。毎日何回も上げるのは大変なことだと思います。
全然大変じゃなくて、息をする様にツイッターしてます(笑)。
それから『エゴサーチ』というのもやってます。何かと言うと、検索欄に自分の名前やあだ名を入れると、ファンの方が「今日まよんぬのバレル買った」とか「動画見たよ」とかつぶやいてくれるんです。それにいいねボタンを押したり「ありがとう」とかリプライするのが習慣になっているので、会えなくてもコミュニケーションが取れるんです。
そんな小さなことで喜んでもらえることが嬉しいので、ツイッターもインスタグラムも全然大変じゃないんです。

今回の撮影はたっぷり時間をかけてたくさん写真を撮らせていただきましたが、衣装も工夫されていろいろな雰囲気がありましたね。
とりあえず思いつくパターンの服を全部詰め込んだんです(笑)。ダーツなので英国っぽい格好もしたいと思って選んだのが帽子を被っている服です。

広くていい場所が確保できて、カメラマンさんと3人だったので密にもならず、いい撮影ができました。
本当にいい場所でしたね。ゆったり楽しく撮影できました。

『マヨ ジェネレーション2』
ところで、ターゲット社から新しいバレルが発売になりましたね。
はい。第2弾のバレルで『マヨ ジェネレーション2』です。

売上も好調のようです。
もう嬉しくて嬉しくて(笑)。
でも本当はこんな時期に出すのは正直反対だったんです。試合もないので投げてる姿を見てもらうこともできないし、イベントもできないので買ってもらった人にサインしてあげることもできないじゃないですか。だからちょっと待った方がいいのではと思ってたんですけど、いざ蓋を開けてみるとありがたいことに予想以上に好評です。
みなさん実際に投げられない分ダーツ欲が高まっていたのか、結構買っていただけました。このバレルはスペックとかも変わったので、私にとっても挑戦だったんです。

ネットで見るとランキング1位になってましたからね。
そうなんです。6月26日に発売されてから30日までの4日間で、上半期のランキング1位になりまして、本当にびっくりしました。すごく嬉しかったです。

それだけファンが多いということですね。
本当にありがたいです。
私達プロは、本来ならユニフォームを背負って試合やイベントに出て、その対価としてスポンサー料をいただいています。でも今は試合ができないので、その代わりに何ができるかを考えてSNS などを発信していました。
バレルが売れているということはスポンサーさんの為になっているので、役割を果たせてホッとしています。この時期に新製品を発売するのはすごく不安でしたが、予想以上の反響でした。

ターゲットはとても喜んでいることでしょう。それからもう一つの大きなスポンサーのLスタイルにも結構貢献されているんですね。
フライトが売れてくれているなら嬉しいです。Lスタイルは私がダーツライブのオフィシャルプレイヤーになる前から商品のCMの動画などに起用してくれていたんです。最初に私のキャラクターに目をつけてくれたメーカーさんなので、とても感謝しています。
最初の動画はライトリーグでしたが、そこでチャイナドレスを着たり、コロコロ衣装を変えてYouTubeに出ていたんです。それから『GOMU』という、シャフトが緩まない商品の動画にはポール・リムさんと一緒に出演させていただきました。

Lスタイルはまよんぬさんのスポンサードをしながら、有名になる手助けをしてくれたわけですね。
そうなんです。私は最初からそんなに名前が知られていたわけではないので、Lスタイルに助けてもらいながら、一緒に手を取り合って歩んで来たと思います。すごく感謝しています。

すごく良い関係ですね。
はい。Lスタイルが大好きです。

テレビやラジオのお仕事もされているようですね。
少しずつ出させていただいてます。テレビのお仕事は年に1〜2回で、ラジオはTBSラジオさんと「初心者向けダーツイベント」をやらせていただきました。

そうやってダーツがいろいろな方向から広まっていくといいですね。
メディアには強い選手が呼ばれることが多いと思いますが、強いだけではダメなんだと考えています。例えば日本人選手が強かったりする競技があるんですが、その強い選手がテレビに出るからといって、その競技をする人が増えるかというとそれも難しいと思います。ただ「日本人が勝ちました」というのだけでは弱い気がします。
ダーツももっといろいろな方向からアプローチしなくてはいけないと思いながら活動しています。

確かにそうですね。様々な角度から注目されることが必要ですね。
心からそう思います。
去年から変わったことはダーツカフェ&バー『trico』を始めたことと、コロナで延期にはなってしまいましたが、関西で女子ダーツトーナメント『FRESH!!』を開催する為に、クラウドファンディングをやったことですね。

クラウドファンディングは結構集まりましたか?
目標金額は60万円だったんですけど、最終的には120万円集まりました。これからはそういう方向でも、少しずつ動いていけたらなと思っています。

ダーツバーやショップも営業再開を始めていて、またいろいろなところに呼ばれて忙しくなりそうですね。
そうであってほしいですね。

でもまた東京の感染者も増えていますしね。
そうなんですよ。だからまだワイワイするのは早いかもしれないですけどね。

今日、7月5日にインタビューをしていますが、今の段階だとみんなに来て来てと宣伝できない状況ですよね。
できないですね。ダーツはみんなと握手したりハイタッチしたりは当然ですし、飲食も伴うので乾杯する場面も多いですよね。どうしても密を作ってしまいがちで感染リスクが高いと感じるので、まだ大々的に再開するつもりはないです。私はすごく慎重でいなくてはならない立場だと思っています。

お店の営業時間はどうしていますか?
通常営業に戻しましたが、元々昼の12時から夜の11時半までと短いんです。
カフェ&バーなので朝まで営業しているわけではないんです。感染予防対策として、3台あるダーツマシンの真ん中は空けて2台しか稼働していません。

2019年はプロとして十分な用意ができなかった
プロツアーもそろそろ再開するようですね。
JAPANが8月30日に京都大会を開催予定ですが、東京都から県をまたいでの不要不急の移動は控える様にとの要請が出てしまったので、どうなるのでしょうか。ダーツプレイヤーにとっては必要な事ではあるんですが、ここは我慢しなくてはならないかなと思っています。再開されるのはすごく楽しみなんですけど、ちょっとまだ不安が大きいですね。

感染者の少ない県にしてみれば東京から大人数が移動してくるのは怖いですよね。
来ないで欲しいでしょうからね、きっと。

難しいですね。
私はあまりあせらないことが重要かなと思っています。あせってやったことで万一「ダーツの会場でクラスター発生」みたいなことになってしまうのは絶対に避けたいですから。

競技によっては定期的に全員にPCR検査を実施するという団体もありますからね。
他の競技と全然違うのは、野球やサッカーは自分の球団やチームがあるので選手を完全に管理できる状態じゃないですか。でもダーツの場合は個人でしかないので、一人一人の責任に任せるしかないわけです。もし感染があったとしてもどこまで追っていけるのかは疑問だと思います。それが個人競技の難しいところだなと思いますね。

プロツアーといえば、去年の試合結果が良くなかったそうですが。
そうなんです。選手として一番ダメな一年になってしまいました。

総合何位でしたか?
55位です。プロ一年目は全試合出場していないんですが63位で、それ以降は毎年上がってて、それなりに納得のいく結果で終わっていたんです。2017年に初めてベスト8に入って2018年も入賞したので、2019年はもっと入賞して年間ベスト8くらいには入りたいという気持ちで開幕したんです。ところが全く逆の結果に終わってしまいました。

何か不調の原因があったのでしょうか?
2019年は私にとって大きな変化の年でした。まずお店を始めたこともそうですし、モンスターを卒業してターゲットに入りました。ターゲットは大きなメーカーさんなので結構ビビってたのもありまして(笑)。思う様に準備ができませんでした。
プロというのは準備が一番大切だと思うんです。例えば料理人なら、日々料理の腕を磨いて営業前には念入りに仕込みをしているからこそ、いざお店を開けてお客さんから注文が入った時に素敵なお料理を出せると思うんです。ダーツプロの準備というのは、試合に向けての気持ちの持って行き方だったり身体のケアだったり、もちろん技術面の練習もそうですし、そういうことをしっかり整えることが大事じゃないですか。
でも私はちゃんと準備をしてから試合に臨むことができませんでした。いつも忙しそうにしてるし、落ち着いてなかったんです。忙しいというのは言い訳だなとは思うんですけど……。

一緒に活動する仲間を増やしていく時期
実際忙しかったのではないですか。
正直いろいろ手を出し過ぎたなという後悔も少しあるんです。選手として自分がどこまでできるのかを考えた時に、ダーツを発信していく活動と、選手として勝っていくことと、どちらが重要なのか悩みました。そしてプライベートについても考えました。
私には26歳と中学2年生と一番下が6歳の弟が3人いるんですけど、特に6歳の弟は私にとって可愛すぎる存在なんです。うちは片親なので、なるべく学校の行事にも行ってあげたかったんですが、大会やイベントで入学式や運動会にも行けなくて、そんなことがなんか嫌になっちゃったんです。私にとって大事なものって何だったんだろうって、すごく悩んでしまったんです。それで年度の更新の時に、どうしてこんなにダメだったのか、自分が一番やりたいことは何なのかを改めて考えて、優先順位をつけることにしたんです。

選手として全ての試合に出ることはある程度重要なことです。でも一つの試合が終わっても「また次があるし」、という考え方になってしまうのは良くないと思ったんです。もっと一回一回の試合を大事にする意味でも、毎回出るのが当たり前ではなくて、試合を選んで出場しようと思いました。
そのことは全てのスポンサーさんにも相談しました。自分の今の正直な気持ちを伝えて「今までの半分くらいしか試合に出場できないと思います」と話したら、それでも応援してくれると言ってくださったんです。選手として勝って結果を残すだけではなく、他の活動もしていきたいというわがままを受け入れていただけて、本当にありがたいと思いました。
今後どの試合に出るのか迷っている最中ですが、全国に私を応援してくれる方がいるので、行かない地域の方には申し訳ない気持ちがあります。それについてはこれから考えていかなくてはならないと思っています。

では、前回もお話ししていただいたと思いますが、改めてこれからの夢や目標を教えていただけますか。
今まではとにかくダーツを広めたいと思っていました。街を歩いてたら「ダーツの人だ」と言われたいとか、電車に乗ってるサラリーマンの半分はカバンの中にダーツを忍ばせていてもらいたいとか、中学高校の部活にダーツ部があってほしいとか、こうなったらいいなということがたくさん浮かんでいたんです。
ダーツのプロがもっとちゃんと生活できる様になってほしいし、プロ選手の団体だけではなくて、ダーツに関連する仕事でもっと雇用を生みたいとか、一般企業にスポンサーになってもらいたいとか、本当に小さな夢がたくさんありました。でもそれらをすべてまとめると、私の中で一つのことが光っているのに気がついたんです。それは『ダーツを文化にする』ということです。
例えばダーツ雑誌はあまり一般には流通してないですよね。発売日からしばらくは大きな書店の専門誌のコーナーに置いてありますが、他のメジャースポーツ同様どこの本屋さんに行ってもいつもダーツ雑誌が手に取れる世界にしたいと思ってるんです。

ダーツはもっともっとポピュラーになる可能性を秘めてると思うんです。ダーツが好きな人は多いんですよ。でも一時期ハマってたけどやめちゃったという人が多いのも事実です。例えば女性だと結婚して出産すると夜は出られないし、子供を連れてたばこの煙のあるダーツバーには行けないですよね。
そうやってダーツから遠ざかってしまう人が多いんですが、それは心からもったいないと思うんです。どうしてもダーツは夜の不健康なイメージが強いんですけど、今は受動喫煙法の改正もあったし、いろんなタイプのお店もあるんだということを広めていきたいです。
大会やイベントにしても、これから私がやっていきたいことは一人ではできません。最近は同じ志をもってくれている仲間が少しずつ集まってきているんです。今はダーツの未来のために一緒に活動する仲間を増やしていく時期かなと思っています。

ダーツを文化として定着させたい
読者のみなさんに改めてメッセージをお願いします。
ダーツが好きな方の中には、「勝ってる人がすべて」「強いことだけが素晴らしい」と思ってる人もいるかもしれません。でも、スポーツというのはなんでもそうだと思いますが、「強い」の前に「楽しい」があるんです。野球ならまずはキャッチボールや草野球から初めて、そのうち少年達は強い選手の背中を見てあこがれて、「かっこいいな」「お金も稼げるな」とプロ野球選手を目指すと思うんです。
私はダーツでもその世界を作りたいんです。まずは楽しむことから、そしてみんなが憧れるキラキラした世界になる様にしたい。だから選手としてだけではなく、そのキラキラした世界を作り上げていくことに、ダーツを文化として定着させるために力を注ぎたいんです。

メジャーにするためにはいろんな側面からダーツを見てもらうことが大事で、エンターテイメント的な部分も必要だと思います。もしかしたらずっとダーツをやってきた人から見たら、「そんなのダーツじゃない」と言われることもあるかもしれない。慣れないことには拒否反応を示されるかもしれないけど、もっと大きな変化をもたらせていきたいんです。
みなさんには選手としてだけではなく、ダーツを改革していく人としての活動も見ていてもらえたら嬉しいと思います。

『cafe&bar trico』を作った理由
中学生の頃にカフェとかをやってみたいなと思っていたんですが、いつの間にかそのことは忘れていました。でもダーツのプロになりダーツバーで働く様になってから、そんなことを何となくふんわり思い出す様になっていたんです。

3〜4年前に長くお世話になっていた三軒茶屋のお店が閉店してしまったんですが、そこは私の中ではとても大きな存在のお店でした。プロ1年目からアルバイトをしていたので、プロとしての私を形作ってくれたお店だったんです。そこが閉店する時に、私にそのお店を継がないかという話が出たんです。でもちょうどそのとき母が病気になってしまって、当時はまだ未就学児も含めて3人の弟がいたので、この状況ではできないとあきらめました。
お店をやることは私一人ではできません。試合やイベントで全国を回らなくてはならないので、一緒にお店を守ってくれる人がいなくては無理だと思いました。大好きなお店だったので正直私はやりたかったですけど、そんな事情でやらなかったんです。
それからも「ダーツバーをやりたいな」と口には出すんですが、まず資金も必要だし、オーナーになれるなんて思ってもいませんでした。そんなタイミングの時に「この子とだったら一緒にやりたい」と思ったのが榎戸夏海ちゃんなんです。
夏海ちゃんは以前から私を助けてくれる存在でした。三軒茶屋のお店の時にオーナーさんが私にイベントを任せてくれたことがあったんですけど、その時にもお手伝いしてもらったり、急用でブースに立てなくなってしまった時も代わりにお願いしたこともありました。
イベントが被ってしまった時は「この子なら私の代わりに間違いなく盛り上げてくれますよ」とイベントを振ったり、とにかく信頼できる人だったんです。それで彼女と、彼女と一緒に働いていた店長の真栄平伸くんが「やるなら一緒にやってみない」と誘ってくれて三人で始めたんです。

私達のコンセプトは、ダーツバーにあまり来たことのない人やダーツが初めての人に、ダーツを身近に感じてもらえるお店にしようということでした。夜中までやっていると暗いイメージになってしまうと思い、営業を昼の12時から夜の11時30分までにして、店内も明るくしました。
3人ともタバコは吸わないので分煙にしたんですが、当時はまだ東京都の条例も施行されてなかったので、ダーツバーで分煙というのはなかったんです。日本の人口の7割は非喫煙者でその中には嫌煙家の人もいます。タバコが原因でダーツに近寄らない人もいるかもしれないし、やめてしまった人もいるかもしれないですよね。でもきちんとルールを守っていればタバコを吸うことは決して悪いことではないと思うので、吸う人も吸わない人も楽しめる様に喫煙室のあるダーツバーを作りました。そうすることによってダーツを暗いイメージから明るいイメージに変えたかったんです。

ダーツはバーから始まった文化なので、お酒を飲みながらタバコを吸いながらというのも勿論あると思います。ただ新しい層を捨ててしまうのはもったいないので、別の形態のお店も必要だと思っていました。そんな時にタイミングよくお話をいただいて、思い通りのお店を作ることができました。
ダーツを知らない人は「ダーツバーって暗いんでしょ」「お酒を飲まないとならないんでしょ」というイメージがあるので、そのイメージを払拭したいと思っています。はじめての人はまず『trico』に来て、「ダーツって怖くないんだ、こんなに楽しいんだ」ということを分かってもらって、それから他のお店に飛び立ってもらいたい。そんなきっかけになってほしいという思いのこもったお店です。

『cafe&bar trico』の名前の由来
まずお店の場所を探している時に見つけた店舗が3階でした。そして3人で始めたこと、ダーツの矢は3本だということで『3』という数字っていいなと思ったんです。そこからいろいろ考えた時にトリコロールカラーがパッと浮かんだんです。
それで『トリコ』という名前にしました。それからこれは後からなんですけど「このお店がきっかけでダーツの『とりこ』になってくれたらいいね」という思いも込めました(笑)。
実際にお店をやってみると、ダーツを知らないお客さんが来てくださることが多いんです。テレビのロケで使われたことがきっかけで「ロケ地巡りで来ました」という人もいたり、普通にカフェとしていらっしゃる人もいたりで、とにかく「ダーツバー初めて率」が高いんです(笑)。
お酒を飲まないことに罪悪感のないお店なので、お酒を飲まないお客さんもたくさんいらっしゃいます。私はお酒が好きなんですけど、夏海ちゃんも伸くんも営業中は飲まないんです。アルバイトの人達もそれぞれで、お店の空気に流されてこうしなくてはならないという雰囲気は全然なくて、それぞれが自由に楽しめるすごくいい空間になっていると思います。

常連さんがすごくやさしくて、初心者さんが来ると「カウントアップしてみます?」と誘ってくれたり、スタッフだけだと手が届かないところもお客さんがサポートしてくださっているので、とても感謝しています。みんな誘い合って楽しんでいて、一人で黙々と投げてる人はあまりいないかもしれないです。
『trico』にはJAPANに移籍した冨澤雅人プロが在籍しています。冨澤プロは常連さんへのアドバイスもすごく上手で、とても頼りになるプレイヤーさんです。それからプロではないんですけど、ダーツが大好きなわかちゃんという女の子がいるんです。わかちゃんはプロにはならなくても世界で投げたいという夢があって、心からダーツを愛してるプレイヤーなんです。この二人が携わってくれていることが心強くてありがたいですね。

『FRESH!!』ついて
ダーツは女子が少ないので、ダーツ女子を増やしたいという挑戦から『FRESH!!』という女子だけの大会を始めました。第1回目が2018年の3月で、同じ年の10月に2回目を開催しました。
女子がダーツを始めるきっかけは、彼氏に連れていってもらったとか、グループで行ってなんとなく始めたという人が多いんです。そうすると一人でダーツバーには行きにくいとか、彼氏と別れてやめちゃったとか、長く続かないことが多くて、そんな理由でやめちゃうのはもったいないなと思うんです。
でももしダーツ女子同士の友だちが増えれば、一緒に投げに行くこともできるし、もっと楽しみながら続けていけるじゃないですか。だからとにかくもっと女子プレイヤーを増やしたいと思って、交流の場のひとつとして『FRESH!!』を企画しました。
2回目の『FRESH!!』は渋谷のバグースさんを借り切って開催したんですけど、女の子だけで100人以上集まってくれました。この時の「ゲームオン」のかけ声が最高に楽しかったです。普通のトーナメントだと男子がほとんどなので女の子の声はあまり聞こえませんが、この時はたくさんの女の子の声で「ゲームオン!」。ダーツ女子の気持ちが一つになった瞬間を感じました。

1回目の大会で知り合って、その後お茶を飲みに行ったり別の大会でダブルスを組んだという人達もいて、「女の子のダーツプレイヤーってこんなにいたんだ」っていう声があちらこちで聞かれました。地元にはあまりいないからと、わざわざ新幹線で来てくれる人もいて、本当に嬉しかったです。
『FRESH!!』の特徴としては、みんなに名札を付けてもらって、それにはツイッターのIDとかも付けて自己紹介してからメドレーを始めるんです。なるべく声をかけやすい雰囲気作りをしているので、大会が終わる頃には友だちになっている人達もたくさんいましたね。

第3回目は2020年3月に開催する予定でした。どうして大阪を選んだかというと、東京に比べて関西は横の繋がりが浅いというか、県をまたいでの移動も少ないと聞いたからです。1回目2回目に出場してくれたプレイヤーにも関西の人がいましたし、東京同様関西でも女子プレイヤーの輪を広げたいと思って大阪大会を企画したんです。
スタッフはみんな関東なので下見や企画に何度か足を運ばなくてはならないことと、交通・宿泊費、日当などどうしても経費がかかってしまうので、クラウドファンディングをさせてもらいました。クラウドファンディングでは「女子が増えてくれたら環境がもっと良くなる」と賛同してくれた男性が多くて、一口3千円のステッカーやサイトに名前を載せる個人スポンサーにも協力してくださいました。企業さんでは一口10万円のサポートをしてくださったところもあって、おかげさまで目標金額を達成することができました。
ダーツ大会という性質上、コロナ禍での様々な規制がある中での開催は難しいと判断して、早々に延期を決断しました。開催の日程については、JAPANもPERFECTもあるので調整が難しいですが、みなさまにサポートしていただいたので必ず実行しますので待っていてください。
今は開催するまでの日々を準備期間として、無駄にしない様に務めています。女子だけでこれだけの需要があるんだと、SNSをこんなに使いこなしてるんだということをできる限り広めながら、スポンサーさんの獲得にも繫げたいと思っています。

業界を大きくするためにはダーツ以外からの賛同も必要ですよね。外の企業がどうしたら付いてくれるかを考えると、その業界がお金を出す価値があるものだということを理解していただく必要があります。JAPANにも一般企業のスポンサーが付いてほしいし、そのためにはプロ団体としての価値を上げていくことが重要だと思っています。

ダーツ業界ではそれについて長年言われ続けていましたね。現在の状況は同じパイの中で人もお金も動いてるわけで、これを打開することが業界の発展につながるわけです。そのためにはいろいろな切り口があると思いますが、まよんぬさんの動きは今までと違った方向からのアプローチになるかもしれないですね。
本来は選手が表立ってやるのは変ですよね。でも私は自分が変な子でいいと思っているんです(笑)。
逆に私が動かないと誰もやらないと思うので、どんどん動いていこうと思っています。

ライブ配信について
私は以前からリアルタイムでお客さんとお話しできる『SHOWROOM』というのもやってました。『SHOWROOM』というのは、実際のアイドルもいればタレントさんや芸人さんなんかも配信してるんですが、自分の応援するタレントをランキングで上位にするためにポイントを集めなくてはならないんです。そのポイントを集めるためには、自分が興味のない人の配信を一定の秒数見なくてはならないというルールがあるんですけど、自分に興味のない人が私の配信を見てくれるということは、すごく宣伝効果のあることですよね。

私はダーツのプロですと宣言しているわけですが、そこでダーツにプロがあるということを始めて知る人もいると思うんです。なので、私はこれをダーツを広めることと自分を知ってもらうひとつのツールとして使っていました。
ライブ配信アプリのいいところは、東京で配信していても北海道や沖縄の人とも話せるところです。一年に一度しか会えないような人達のことはなかなか覚えていられませんが、こうやってアプリを通じてお話しできると「この前どこそこに来てくれていた人だよね」って、お互いのつながりも強くなって良いことばかりなんですよ。でも周りからはよく「アイドルみたいなことをするな」と言われてきましたね。
私は今まで否定されてきましたが、コロナの影響でいろんなダーツプロがツイキャスとかYouTubeを始めました。たくさんのプロがいろんな形で配信する様になって、今は配信をするのが恥ずかしくないし当たり前になってきました。

そうすると、今までは賞金やイベントでしか収入がなかったプロ達の新たな収入源につながってくるわけで、これはダーツプロにとってすごく未来のあることだと思います。
Eスポーツの選手などは、試合だけではなくて普段練習している姿を垂れ流しで配信しているだけで何十万も稼げたりしてるんです。
ダーツのプロも同じことができる様になるんじゃないでしょうか。いつもステージ上で戦ってる選手が試合とはまた違う姿を見せることができるし、普段どんな思いで戦っているのかなどはファンの人達も興味があると思うんです。それを自分から発信できるツールなので、みんなどんどん活用してもらいたいです。
配信することは怖くも恥ずかしくもないことで、配信することで応援してくれる人が増えるんだという意識を持ってくれたらいいなと思います。
みなさん長いインタビューを読んでいただきありがとうございました。これからも応援よろしくお願いいたします。

※ 雑誌ではご本人から多くの写真を提供していただき掲載いたしましたが、ここでは撮影当日のみに致しました。