Vol.96 牧野 百花 特集 2
苦労した時代

2019年3月号

苦労した時代
投げ始めた頃は、ダーツ投げたくて仕事しなくなって、当然お金が無くなるという負の状況に陥りました。ダーツするためにお金を稼がなくちゃならないんだけど…。

K ところで、苦労した時代などはありますか?
M もちろんあります。投げ始めた頃は、ダーツ投げたくて仕事しなくなって、当然お金が無くなるという負の状況に陥りました。ダーツしたい、ダーツするためにお金を稼がなくちゃならないんだけど、ダーツする時間がもっと欲しいみたいになって、カツカツな時期がありました。
そういう事情もあって、初年度は4戦しか出ませんでした。でも2年目にPERFECT のある先輩に「頑張って全戦出場してみろ」と言われたんです。「ギリギリになることもたくさんあってすごく大変なことだけど、どんなにカツカツでも自力で全戦廻ったら、一年後には必ず何かが変わるから」と言われました。それで頑張って一年廻ってみたら、ありがたいことにスポンサーさんが付いたり、地方で出会った方がイベントに呼んでくれる様になったんです。
そうしているうちに徐々にダーツをする環境が整ってきて、その時に「初期投資ってすごく大事なことなんだ」というのを実感しました。

K 身銭を切るということですね。目先の1円よりもその先の100円みたいな。
M ただ無駄にお金を使えばいいわけじゃなくて、ちゃんと賢く考えなくてはならないと思うんですけど、私は未だにちゃんとできてないですね(笑)。

K 苦労していた時代もあったんですね。
M ありますよ。いかに安くダーツできるか考えて、近所の店に行くよりも交通費がちょっとだけかかっちゃうけど、それを上乗せしても隣町の投げ放題のゲームセンターの方が安く済むなとか。とにかく数百円でも節約できるところは節約するようにしていました。そうしているうちに、結局はダーツバーのスタッフになることが一番練習できるという考えに行き着いたんです。
スタッフになってからは、お店は5時からだったんですが、いつも12時か1時に行って投げてました。もちろん練習したいというのもありましたけど、お客さんから「投げましょうよ」と誘われることも多かったので、そういう時にちゃんと応対できないのが嫌だったんです。だからお店のオープンまでには腕を温めてしっかりアップを済ませておきたくて、なるべく早くから行ってました。その時は、「練習にもなるしお金も浮くし、最高!」という感じでした(笑)。

K 意外に真面目なんですね。
M 真面目ですか(笑)!?たまに「真面目」って言われるんですけど、自分では全然そうは思わないんですけどね(笑)。

K 自分で当たり前だと思ってることだから、そう思わないんでしょう。でもそれってダーツバーのスタッフの鏡だよ。自分と対戦するためにいつでも完璧な状態でいてくれるなんて、お客さんにとってはすごく嬉しいことですからね。
そういう考え方ってアイドルやバンドの活動からきてるのかな。完璧な本番をこなすためにリハーサルを繰り返すのと同じで、百花にとってはステージであるお店でのパフォーマンスを、完璧にするためなのかなと思うんですが。
M アイドルは20歳からのスタートで最初は二人組だったんですけど、練習はほとんどしなかったんですよ。基本的には当日合わせ、しかも出番の30分前に前室で、初めて二人で一緒に歌ってみるといった感じでした。
声優の事務所にも所属してましたけど、レッスンも大嫌いでサボってばかりいました。
その時は「練習なんかしなくてもできるし」という謎の自信を持った自分がいたんですよね。
でもダーツは練習しないとできないですからね。スタッフとして働きはじめたばかりの頃、オープンしてすぐお客さんから「投げようよ」って誘われたんです。
その時はダーツもそんなに上手じゃない上にアップも全然できてなくて、さらにお店の仕事にも慣れてなくて余裕がなかったので、下手に下手を重ねるという状態でした。その時に「ちゃんと練習しておかないとできないんだ」ということを痛感して、それから意識が変わったかもしれないですね。

プライドとか言ってられるような立場じゃない
よく「歌ってください」って言われるんです(笑)。でもこれって私にしかできないことで
自分の商材になってることでもあるので、それについて特別どうこういうつもりはないんです。

K ダーツバーのスタッフがオープン前や後に練習するというのは、基本的には自分のためのことが多いですよね。でも百花はお客さんのために練習しておこうとしている、それってステージでお客さんを経験しているからだと思いますよ。
M 私はとにかくお客さんに喜んでもらいたいんですよね。

K 自分を商品だと意識しているんだと思う。地下アイドル時代は練習が嫌いだったかもしれないけど、やっぱりそんな経験が根底になければ、今の様な考えには至らないんじゃないかな。アプローチの仕方が違うだけで結局は同じことをやってるんだと思いますよ。
では、イベントでチャレンジマッチの時などはどう挑んでますか?
M 最近はそこまでアップに時間がかからなくなったんですけど、以前は一時間くらい投げ込まないと腕が暖まらなかったり、感覚が分からないことがあったんです。そういう時はイベント前に近くのお店で投げ込んでから行きましたね。

K 百花はダーツだけではなくて、麻雀など様々なイベントなどにも出場してるけど、ジャンルはこだわりはありますか?
M 私ができることなら何でもやりたいと思ってます。
周りの先輩から「歌もちゃんと歌ってるんだから、もしダーツバーに呼ばれて歌も歌わされるなら、ちゃんと別料金も取らないとだめだよ」って言われるんですけど、私にはそれって何か違うんです。

K そういえばチャレンジマッチで歌ってるよね。
M そうなんです。よく「歌ってください」って言われるんです(笑)。でもこれって私にしかできないことで自分の商材になってることでもあるので、それについて特別どうこういうつもりはないんです。ある意味何でも屋さんですよね(笑)。

K そうかもしれないね(笑)。
M 何でも屋さんでもいいんです。だって適応能力って一番の武器だと思うんですよね。
声優の事務所にいた時に真っ先に言われたことは「一回の指摘で、一回目で直せる様になれ」ということなんです。「それができなかったら声優業界ではやっていけないよ」って言われました。とにかくすぐに対応する、言われたことに柔軟に対応できる力というのは、どんな業界でも武器になることだと思います。

K 例えば、ダーツプレイヤーとして呼ばれてイベントに行くのにそこで歌うというのは、ダーツプレイヤーとしてのプライドはどうなんだという人がいるかもしれないですよね。
M プライドとか言ってられるような立場じゃないですから(笑)。

SNSを自分のパワーの根源にする
私はなるべくみんなのリプライには返信するんです。例えみんなが同じリプライをくれたとしても、その人と私は一対一ですから。

K 百花の中で絶対にゆずれないプライドというのもあると思うけど、それはどんなことですか?
M 「別に勝たなくてもいいんでしょ」って思われるのにはものすごく腹が立ちますね。でも「ダーツプロなのにダーツイベントで歌うなんてめちゃめちゃじゃない」なんて言われることについては、別に何とも思わないです。

K では、イベントに対するプライドは何ですか?
M ダーツイベントでもスタッフとして働いている時でもライブでも同じですが、お客さんをがっかりさせたくないんです。お客さんに楽しい時間をお金で買ってもらっているわけなので、絶対に損はさせたくないです。そのために努力するのが私のプライドだと思います。

K なるほど。そういう考えの根底が地下アイドルだと思うんですよね。
トッププロの人で「オレは投げることしかできない」と、すごく悩んでいた時期があったんだけど、でも彼は悩みながら成長していって、お客さんを楽しませる術を身につけたんですよ。
例えば話術がすごく上手くなったり、一芸を持ったりといろいろな表現方法があると思うけど、それがプロなんです。お客さんからいただいた金額の倍も楽しませてくれるから「あいつなら間違いない」と、
あちこちから呼ばれるんですよ。
百花にもそういうプロとしての高い意識がありますね。本当に素晴らしいことだと思います。
M やった!褒められました(笑)。

K では、百花にとって、SNSとはどのようなものでしょうか?
M 真っ先に浮かぶのは「宣伝・告知」ですね。それから私の場合は、自分のモチベーションを保つために使ってるツールでもあります。
私は自分の写真をツィッターとかにめちゃめちゃアップするんですけど、それは「可愛い」って言ってもらいたくてしょうがないからなんです(笑)。「可愛い」って言ってもらえると、ものすごくテンション上がるんですよ(笑)。

K じゃあ、今度「可愛い」って言ってあげますよ(笑)。
M やった!そうすると「でしょ、可愛いでしょ」って、どんどんテンションが上がるんです(笑)。

K SNSを自分のパワーの根源にするわけですね。
M そうです。だから私はなるべくみんなのリプライには返信するんです。例えみんなが同じリプライをくれたとしても、その人と私は一対一ですから。

K ツィッター、フェイスブック、インスタグラムと主に3つあるSNSは使い分けていますか?
M あまり深くは考えてないですけど、フェイスブックはなるべく真面目に投稿してるつもりです。でも今はフェイスブックとツィッターってユーザーが同じなんですよね。一時期のダーツ業界だとフェイスブックしか知らない人達もいたんですけど、今はツィッターの方が全然盛り上がってるんです。だから私もそろそろツィッターの方にシフトチェンジかなと思ってるところです。

K 僕ダーツ業界で、結構早い段階でツイッター導入して色々企画やった一人なんだよね。
M えー、そうなんですか。でも全然つぶやかないじゃないですか。

K ツィッターというのは『言葉のゴミ箱』だという考えなので、なるべくきれいなゴミを捨てようと思ったんですよね。僕たちは評価されている反面アンチもいるんで、言葉には常に気をつけなければならない。自分の身から出た言葉はいわば言霊なので、ネガティブだったり汚い言霊を発するのは嫌だったんです。
例えば「疲れた」という言葉を発したとしてもそれを笑いに変えられるようにしたい。でも本当に仕事で疲れたりすると「なんかもういいかなって」って気持ちになって、そのままいつの間にかおろそかになっちゃってる状態で。
でもアカウントは2つ持ってるんで、いつかはまた復活しようかなとは思ってますよ。一応NAVERの「おもしろいツィート」とかでも出てたりしてたんで。
M えー、すごい!
でも本当に私も、ネガティブな発言はするべきじゃないと思ってます。

K 今はフェイスブック離れがすごくて、今またミクシィが息を吹き返しているらしい。僕はミクシィで「文章を読むだけでダーツが上手くなるかもしれない」というのを作って、結構多くの人にフォローしてもらっていたんですよ。
M ミクシィはダーツ業界でめちゃめちゃ盛り上がってたらしいですよね。そういう話はよく聞きました。

K ダーツと地下アイドルとバンドの活動をする中で、やはり偏りがあると思うんだけど、どうですか?
M そうですね。偏ってますね。

K 恋人が3人いるようなものだよね(笑)。
M はい、三股中です(笑)。

K そのバランスはどう配分しているのですか?
M 基本的には先着順です。例えばダーツイベントが先ならそうだし、ライブが入っていればまずはライブというようにしています。ただダーツのイベントのオファーが早くて、9月のイベントのオファーが3月に来たりするんです。速度が全然違うので、結果的に今はダーツのイベントがすごく多くなっている状態です。
一時期は一ヶ月にライブ10本ダーツ3本という感じでしたが、今は完全に逆転しています。なので、ライブを見たいお客さんは結構嘆いていたりするんです。

K 最初に出会った頃は撮影会をやってたけど、今でもやってますか?
M 今は撮影会の時間は全然ないです。

K 百花のポートレートを撮りたい人達が集まって撮影会をするんだけど、拘束時間が長いわりには大きな収入にならなくて、結構大変だなと思ってましたよ。
M でもあれは、お金を稼ごうとしてやっていたわけじゃないんです。こんなにSNSが発達している時代に、自分の見た目を利用しない手はないなと思っていたんです。一眼レフできれいな写真を撮ってもらって、タグ付けしてインターネットに乗せてもらえるなんて、こんな嬉しいことはないと思ってました(笑)。

K 百花はどちらかというと二次元の世界だけど、動画に着手しないのはどうしてですか?
M 面倒くさいからですね(笑)。動画は時間がかかりますから。

ダーツが仕事として大きくなっている現状
ダーツのファンの方がライブを見に来てくれたり、逆にライブのファンがダーツを始めて試合を見に来てくれる様にもなりました。今は通気性良くいい感じなんです。

今は生配信アプリもたくさんあるみたいで、「公式配信者になりませんか」っていう連絡が、最近すごく来るようになりました。でも別にわざわざやらなくても毎日みんなに会ってしゃべってるし、という気持ちもあるんですよね。
たまに一人で飲んでて寂しくなった時に「一緒に飲んでよ」みたいな感覚でやる程度でしょうか。

K たまにはやるの?
M たま〜にやってます。3ヶ月に一回程度ですけど。

K でも熊本や沖縄など遠方の人とはそう会えないですよね。そういう意味では動画配信は避けては通れない道なのかなという気もするけど。
M そうですね。もしやるとしたら、youtubeのように一方的に発信できるものの方がいいかなと思っています。
生配信アプリって難しいんです。私の場合はダーツで知り合った人がいたりライブや麻雀だけで知り合った人がいたりなので、話が右往左往しちゃうんです。
見てる人みんなが楽しい会話ができるようにするにはいちいち説明が必要で、とても微妙なパフォーマンスになってしまうんです。時間もそれぞれなので、「さっきもその話したけど」みたいなことが頻繁になると思うんです。
実際に配信してる人はその辺は上手くやってるんだと思いますが、私は馬鹿正直に全員のコメントと会話しちゃうんで、「聖徳太子じゃないと無理」みたいになっちゃうんです(笑)。

K 先ほどの比重の話に戻るけど、現状として地下アイドルやバンドに比べるとダーツは収入面で大きいと思うんですよ。そういう意味合いでダーツが占める比重が大きくなるのでしょうか?
M 確かにダーツは仕事として大きいですが、どれも盛り上がればいいなという気持ちでやってるんです。私はライブでもそんなにお客さんを呼ぶ方じゃなかったんですけど、ダーツのファンの方がライブを見に来てくれたり、逆にライブのファンがダーツを始めて試合を見に来てくれる様にもなりました。今は通気性良くいい感じなんです。

K 例えば地下アイドルやバンドで成功したら、それでもダーツは続けますか?
M もちろん続けますよ。

K ダーツとアイドルを比べたら、ダーツはマイナーでアイドルやバンドの方がメジャーだと言う人が多いと思うんですよ。それでもダーツを続けると言える魅力は何なのでしょう?
M 単純に好きだからだと思います。私はまだ優勝もしてないし。

K じゃあ優勝したら、ステージ上で一旦マイクを置きますか?
M 百恵ちゃんみたいに(笑)!?

K そう、百恵ちゃんがマイクを置いた様にダーツを置く(笑)?
M 優勝といっても、いろんな優勝の形があるじゃないですか。まずは勝てる自分にならないと分からないです。勝ってみないとその辺の感覚は分からないですね。

K 女子では鈴木未来選手が完全に世界ナンバーワンのプレイヤーだと思います。彼女の強さは本当に群を抜いている。そういうプレイヤーが日本にいることについてはどう感じますか?
M 本当にすごいなと思います。すごいとしか言いようがないです。

K あそこまで行ってやろうとは思わない?
M 違う形になりたいと思いますね。私はハードのことは何もわからないですし、同じ一番の取り方は私にはできないし、しないと思います。

K 鈴木選手はハードでナンバーワンですよね。じゃあソフトでいつか世界に出たいとかは考えないですか?
M 私は海外が怖いんです。

K は(笑)?
M 日本語が通じない所が怖いんです。そこから意識改革をしなくては、まだ海外には出られないです(笑)。英語の勉強をしようかなとも思ったんですけど、英語よりも中国語かなとか考えたり…(笑)。