Vol.114 野村 佳史
セッティングについて思う事

2022年5月号

PROFILE
2021年DMCの設立当初よりバレルデザインを担当。
選手モデル以外の殆どのモデルをデザイン。その他TARGET、Secret等のデザインも行う。
現在は主にDMCとプライベートブランドのStratoをデザイン。

「普段はファーイーストダーツ神戸店にいるので、バレルやセッティング等のご相談があれば声を掛けて下さい」
■ ファーイーストダーツ神戸店
神戸市中央区下山手通3-1-18 ラムールトアビル3F
TEL. 078-332-8140

ダーツのセッティングについて思う所を書いてほしいとの依頼を頂いてなんとなく受けてしまったもののセッティングに関する考え方は人それぞれで正解など無く、自分に合うセッティングが正解というしかないのです。ただショップをやっていて店頭でのお客様の話を聞いていると疑問に思う事もあるのでそのあたりを書いてみたいと思います。

私がダーツを始めた40年近く前のパーツ事情と言えば、ある程度の種類はあったものの、大別するとアルミシャフトとナイロンシャフト、プラシャフトが殆どであとはメーカー独自の特徴を持ったユニコーンのスリックスティックやハローズのコレットシャフト、アメリカのレーザー社のスパイダーレッグ等がある程度でした。
フライトもスタンダード、スリム、カイト、ティアドロップ程度。もちろんポリフライトが99%でした。(最近は「紙フライト」という人が多いですが紙ではありません。)
成型フライトもわずかにありましたが今の物とは全くレベルの違うものでした。20数年前あたりよりソフトチップダーツの普及に伴ってダーツ人口が爆発的に増えてからLやFit等の日本発の成型フライトが登場し、あっという間に普及していきました。
日本ではプロ選手の多くが使用している事で一般のプレイヤーも多くがそれらの成型フライトを使用するようになってきています。
販売していてのイメージとしてはいわゆる「シェイプ」というタイプのフライトを使っているプレイヤーがかなりの割合を占めている感じがしていますが、この「シェイプ」という形は元々Harrows社のスタンダードフライトの形です。
2001年にDMCの開発がスタートした後、完成したバレルに合わせてどんなシャフト・フライトをセットして商品とするかを考えるにあたって、当時海外のバレルメーカーではチップ・シャフト・フライトまで含めた重量表示が主流でしたので、18g表記のDMCのバレル重量は16・5gでした。スティールダーツのバレルと比べて比較的バレル重量が軽い為に、主流のスタンダードフライトでは抵抗が大き過ぎると感じていました。
しかし商品として最初にセットするフライトに、当時の海外製のソフトチップバレルの多くがそうであった様にスリムフライトを標準装備するのは違うなと思っていた中で、フライトの中では割とマイナーな存在ではありましたが主流のスタンダードより少し面積の小さな「Harrowsのスタンダード」を標準装備する事にしました。
発売当初から数年はHarrows社からフライトを購入してDMC製品に付けていましたが、その後イギリスのフライトメーカーに型を起こしてもらいオリジナルの「Harrowsスタンダード型」フライトを作って商品に付けるようになりました。
その後LやFitフライトの登場に伴って「シェイプ」が普及しているのを見ると正しい判断だったのかなと思っていますが。

一旦はコレだと思っても年齢やその他の要因で身体・グリップ・投げ方は微妙に変化していきます。
ダーツを続けている限りセッティングの探求は終わりが無いのです。
余談ですがずいぶん昔、ポール・リムさんと話している時に「なんで日本人はスタンダードフライトばかり使ってるんだ?ウェイトの軽いソフトチップにはスタンダードフライトはデカすぎる。スリムかティアドロップにするべきだ」と言われたことがあります。ポールさんは昔から一貫してティアドロップを使っていますが、一理あるとは思っていました。
ではなぜDMCにスタンダードフライトを使ったのか。「スタンダードを付けた方が製品としての見栄えが良いから」です。ただその中でもやや面積の小さなHarrowsのスタンダードを採用した事が現在の「シェイプ」の普及に繋がっているんじゃないかとは思っています。
最近までDMCの製品に付属していたシャフトはROTAシャフトというベースはプラスチックでフライトを差し込む先端だけアルミ製で回るタイプ。なぜこのシャフトを使ったのかというと製品として箱にセットした時に真ん中の1本だけフライトを付けた状態でセットしていた為、バレルの刻印が上を向く様にセット出来るからという理由だけです(笑)。
後々一般のプレイヤーから最初にセットされてるセッティングは何らかの理由があって最もバランスの良い様にそうしている筈だから、このシャフトを使ってますと言われた時は正直困りました。

Vol.6 2004年2月号 初めてのDMC商品紹介記事です。HARROWSのフライトを付けていました。 当時はコンバージョンポイントも入っていました。

※現在はパッケージも小型化した為、Lシャフトの260を標準でセットしています。
バレルに最初に付属しているパーツは、買った後“一応すぐに投げられるように「付属している“おまけ」です。ある程度ダーツを投げているプレイヤーであれば買った時にバレルだけ抜いてあとは箱と一緒に捨ててしまう人さえいるでしょう。自分のセッティングが確立している人にとっては不要な物ですからね。
一般のプレイヤーからもどんなセッティングにした方が良いかを聞かれることがありますが冒頭でも書いた様に正解などありません。
分かりやすい例で言うと知野真澄選手はLの19mmのシャフトにスリムフライト、村松治樹選手はエイトの44mmのシャフトにスタンダードフライトです。
同じトッププロでもこれだけ極端に違うセッティングですが、これはそれぞれの選手が自分に合うセッティングを時間をかけて模索した結果です。
プレイヤーはプロや一般プレイヤーや初心者である事に関わらず自分のグリップやスロースタイルに合ったセッティングを探さなければなりません。というよりそれを上手く見つけることが出来れば劇的にスタッツが上がる事さえあると思いますし、それを見つける為にもある程度のスキルアップは必要になって来るでしょう。
私自身はよく自分の投げたダーツが手を離れた後の「後ろ姿」を意図的に見る事があります。どうしてもうまくコントロール出来ない時に矢がロールしていたりダーツの先端が一瞬上がり過ぎていたり。セッティングを大きく変える事はありませんがシャフトは通常使っているLの295を260に変えたりはしています。それだけでもその日のダーツが改善する事もあります。
よく店頭で「僕は前重心のバレルしか投げられないんで」とか「後ろ重心のバレルを探してます」というお客さんがいるんですが、バレルの重心位置の違いを完全に把握できるプレイヤーに私は会った事がありません。(私自身も含めて)。
ずいぶん前の事になりますがDMCのイベントに際して全く同じ2BAのバレルで前を9mm後ろで重量調整した前重心のバレルと後ろを9mm前で重量調整した後重心のバレルを作りました。
見た目も重量も全く同じその2セットを数十人の参加者に前重心と後重心に3本ずつ分けてみてと投げたりさわったりしてもらったところ、ただの1人も正解出来ませんでした。
偶然当たっても良さそうなものですが本当に1人もいなかったのです。
ファーイースト神戸店に来て頂ければそのバレルがありますので良ければ試してみて下さい。1度なら偶然当たる事もあるでしょうが3回続けて正解する事が出来る人がいればバレルバランスマスターに認定します(笑)。

ダーツ界の知恵袋として今までに多く登場いただきました。

40数ミリ程度のバレルで最大限前重心にした物と後重心にした物とでも2mm弱程度しか重心位置は変わらないのです。
例えばDMCのAcuteシリーズが発売された頃に「究極の前重心」という言われ方をした事がありましたが、私自身は「それは違う」と思っていました。Acuteは後ろからしか重量調整が出来ないのでかなり深く掘っています。単純にバレルの長さの半分まで掘った状態が一番前重心な訳ですが、そこから先に掘り進めると重心は逆に後ろに移動します。DMCの同じバレル、例えばMaverickとMaverick Acuteでもその重心位置の違いは2mm程度しか無いのです。
掘る穴の深さで重心位置を操作したところで、そんな事よりもバレルのアウトラインそのものによる重心位置の変化や「重心の感じ方」の方が余程大切でしょう。
もちろんストレートで50mmを超えるようなロングバレルでそれをやれば4mm近い重心位置の違いが出るかもしれませんが、ダーツのバランスはシャフト・フライト・ポイントやチップを含めての事なのでバレル本体の重心にこだわるのはあまり意味のない事だと今でも思っています。

何が言いたいかというと、バレルの重心位置云々よりもシャフトの長さや形状・フライトの形状によるダーツ全体の重心位置の変化や飛び方の変化の方がはるかに大きい違いを生むという事です。
スティールダーツであればポイントの選び方一つでもグリップや飛びにも影響を与えます。
現在は様々なメーカーから以前には出来なかったような複雑なカットやレーザーによる模様を加えたスティールポイントも発売されています。こういったポイントの登場で以前は滑るためにポイントに指を当てるあるいは指を掛ける事が出来なかったプレイヤーが新たなグリップを試すことに繋がっていたりもします。
だからこそシャフトやフライトを含めたパーツの選び方は重要であり、自分に合ったセッティングを探す事はグリップやスロースタイルを確立するのと同じくらい重要だと思います。
最初に買ったシャフトやフライトを使い続けるのではなく、色々な長さのシャフト、色々な形状のフライトを組合せを変えながら投げてみて最も自分に合った組み合わせを見つけることだけでもスタッツは上がると思います。

よくセッティングは「沼」と言うぐらいで、一旦自分にとっての正解を見つけても時間が経つとだんだん合わなくなってきたりということもよくあります。
最近もTwitterでスタンダードフライトは初心者だって言われたとかなんとかってのを見たんですが、これに至ってはもう苦笑いするしかなく…。
PDCのトーナメントを見てもらえばわかりますが未だに大半の選手はナイロンシャフトにスタンダードのポリフライトです。(大事な事なのでもう一度言いますが紙ではありません。いったいいつから紙フライトなんて言うようになったんでしょう…)こんなに多くのプレイヤーが成型フライトを使っている国は日本以外に無いでしょう。

明らかに日本の影響で海外メーカーも成型フライトに力を入れてきており、成型フライトの選択肢の幅も広がっています。
ただポリフライトは「上手じゃない人が使うもの」で成型フライトを使わないと上手くならないといった誤解をしている人はPDCを見てみると良いでしょう。最近では各メーカーからの支給で成型フライトを使う選手も増えていますけどね。

自分に合ったセッティングは自分にしか見つけられないものです。様々な長さ・形状・大きさのシャフトやフライトやチップ・ポイントを試し、またそれぞれのパーツの組み合わせを試してみる事で自分に最適なセッティングを見つけて下さい。
特に初級・中級者の方はそれで大きく変わる事もありますし、プロでも多くのプレイヤーはまだ自分に最適なセッティングを見つける事が出来ていないかもしれません。
一旦はコレだと思っても年齢やその他の要因で身体・グリップ・投げ方は微妙に変化していきます。ダーツを続けている限りセッティングの探求は終わりが無いのです。