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Vol.10 英国からやって来た
後編

2004年11月号

8月27日 新潟 Niigata

最もアットホームな雰囲気で全員の参加プレイヤーとうち解けた時間を過ごせたのは、新潟のキングスロードだったのではないでしょうか。エキシビジョンが終わった後の質問コーナーでは、ダーツのことのみならず、個人的な事へも及び爆笑の渦でした。新潟の皆さん、楽しかったですね。
ダーツはどうだったでしょうか。それほど人数が多かった訳でもないのに、なんとたくさんの女性プレイヤーに集まっていただけたことでしょう。英国ではパブにたくさんの女性が集まってダーツをするシーンは滅多にないので、二人は目を丸くしていました。二人もエンジョイしたのは言うまでもありません。それ故、一緒に組んだ女性を勝たせようと、ダーツも一生懸命に投げていましたし、負けると、相当悔しがっていましたよ。
英国では男勝りに豪快に投げる女性ダーツプレイヤーが多い中、日本女性特有の繊細で器用なダーツに驚き、感心していました。

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疲労と共に、二人のいろいろな面が現れ始めたのも、この頃ではないでしょうか。当日は名古屋城を見学、そして飛行機で新潟に長距離移動したため、お酒が入ると二人は言い合いを始めてしまいました。周りの方々は少々心配していたかもしれませんが、彼らはエキシビジョンを行う際のプロのあるべき姿を論じていたのです。アラン:「コリン、まだ若いよ。投げるときに、もっと笑顔でプレイしろよ、そうでないとファンが増えないじゃないか」。コリン:「そっちこそ、女性ばかりにサービスし過ぎだよ、日本は習慣が違うんだから、変に取られたらどうするんだ、気をつけろ」。なんて調子でした。
それほど彼らは、真剣にこのツアーを行っていたんです。10日間の異なった場所でダーツを投げ、多くのプレイヤーと触れあいましたが、サインをする時に一度も嫌な顔をする事など見ることはありませんでした。すべての日程を一緒に過ごしましたが、彼らのプロとしての姿には、本当に敬服しました。調子が悪いにもかかわらず辛い顔も見せずにプレイしたり、サインに応じる姿を見た時は、横にいて涙が出るほど感動したことをお伝えしたいと思います。

8月28日 横浜 Yokohama

横浜は日本のハードダーツ発祥の地。中でも妥協を許さない店のひとつ「チャビー」で今回のツアーを開催。前日より徹夜で用意していたチャビー氏は疲労困憊にもかかわらず、会場入りすると満面の笑みで迎えてくれました。その暖かい出迎えにホッとして、長旅が癒されたのは言うまでもありません。

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各方面の横浜のプレイヤーを集めていただいていたのですが、様々な事情で二人の会場入りが遅れたため、たくさんの方々にご迷惑をかけ、プレイに支障をきたしたことをお詫び申し上げます。
トーナメント形式でプレイされたのですが、舞台では大事件が発生、なんとコリン・ロイド氏が第一回戦で敗退してしまったのです。彼との対決を楽しみにしていた竹山大輔さんもそれを聞いて、しばし唖然、声も出ませんでした。しかしながら、決勝戦は竹山さんとアラン氏との対決になり、大熱戦の上、アラン氏がPDCのプロプレイヤーの面目を保ち優勝、スタッフ一同胸をなで下ろしました。ダーツというのはいろいろな事が起きるものですね。

ここで本人の名誉のためにも、コリン氏のことについて、少し補足しておきましょう。経験したことがない暑さで、彼の身体はすっかり憔悴しきっていたのです。馴れない食べ物や毎日の移動でダーツに集中できなかったのが真実。特に身体の汗疹はかれをイライラさせ、それを補おうと過分のアルコールを飲んだのもいけないのかもしれません。
アラン氏は年齢を積んでいる分経験を活かし、順当に決勝戦に進み、大きなトロフィーをゲットしました。
竹山さんはアラン氏と、今年カナダの大会で会っています。メジャーなハードの世界大会で同じ緊張を感じていた二人、再会してのゲームを楽しんでプレイしたのではないでしょうか。その心の動きを外で見ていて知り得ることはできないのかもしれません。それは選ばれた者だけが、特別な舞台で体験できる、彼らだけのアンタッチャブルな世界だと思うからです。言葉や文章で表現するのは、あまりにもチープ…。

8月29日 東京 Tokyo

東京では、今ソフトダーツで日本のダーツシーンをリードするダーツバーBeeの主催する頂上決戦でのイベントが開かれました。ポール・リム氏も参加しプロ3人が一同に集うドリームマッチとなりました。
午後2時頃会場入りすると、なんと既に数百人がトーナメントの真っ只中、熱気で溢れかえり、想像を絶するほどの盛り上がり。それもその筈、各Beeの店舗を勝ち上がってきた強者達が我こそがプロプレイヤーへの挑戦権を得ようと、躍起になって熱い戦いを繰り広げていたのですから。
しかしながら…、二人は早々に敗退してしまいました。
アラン:「ダーツが思ったように飛ばず、みんなの期待通りのプレイがお見せできなかったのが残念。でも、ダーツというのはそんな日もあると、自分を納得させることにする。専門外のソフトダーツのトーナメントだけど一番悔しいのはもちろん僕だから、今度はリベンジできるよう頑張るよ」。
コリン:「全く自分の目指すダーツができなかった。全く面目もないけど日本人プレイヤーのレベルがよくわかったよ。ソフトでは一回ミスするとその後のカバーが難しいね。ハードとは違う怖い面を思い知った」。

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二人を弁明する意味で、ここでPDCのプロの試合形式について少し書いておきましょう。試合は1日、1試合のみ。スケジュールは事前に発表され、それに向けてプレイヤーはイメージトレーニングも含め、集中していきます。スタートの時間も全て決まっているため、今回のように次の試合が予測できないという日本のソフトのトーナメント形式には馴染んでいなかったのかもしれません。プロプレイヤーには、彼らなりのルーティーンがあるのですね。
Bee池袋はVIPルームにスタッフも在中、本当に申し分のないダーツ会場でした。数十台のダーツマシーンに数百人のプレイヤー達が一斉にプレイする様子は実に壮観、二人も日本のダーツプレイヤーの真剣さには驚いていました。そして二人がプレイしやすいように様々な環境を調えて下さったスタッフのみなさんに心から感謝申し上げます。

8月30日 埼玉 Saitama

埼玉ではフィエスタ大宮で開催、お店の作りが正方形に近いので観客がとても見やすく、二人のプレイを満喫できたことでしょう。ダーツではソフト、ハードの両方をプレイ、彼らと対戦したいプレイヤーと一人につき、3ゲームずつ行いました。プレイは真剣そのものでしたが、雰囲気はたいへん和やかで、素晴らしい時間を過ごすことが出来ました、と後から二人もそう語っていました。
参加者の一人である少年プレイヤーとのゲームはなかなか楽しく、皆さんの笑いを誘っていたのが印象的でした。まず少年が投げると後に続くアランは3本のダーツを少年と全く同じ場所に投げ同じ点数を獲得していったのです。こんなエキシビジョンもあるんだなと、改めてダーツの楽しみ方を知ることになりました。少年にとっては、良い思い出になったことでしょう。

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また、女性プレイヤーがコリン氏から、ハードで1レッグ取ったということも特筆しておきましょう。これには、コリン氏も大喜びで、その善戦を讃えました。
この日の二人のダーツの飛びは、まあまあだったのではないでしょうか。前日に疲労困憊していた彼らも、お酒を控えホテルで出来るだけ休憩を取り、改めて望んだだけのことはあります。また、ツアーの終わりも見えてきただけに最後の力を振り絞って、という感じでしょうか。
プレイの途中で二人への質問コーナーの時間が設けられましたが、その内容はとても真面目なダーツの質問が多かったことでもわかるように、埼玉は真剣なプレイヤーが数多くいると聞いておりましたが、それが実感出来ました。
このエキシビジョンがソフト、ハード両方でプレイされたため、参加者が両方の魅力を知る絶好の機会になったことはとても良かったと思います。日本ではソフトが大ブームなので、ソフトだけをプレイし、ハードダーツを敬遠するプレイヤーも多いのですが、ダーツはダーツ、ぜひ両方の魅力を知って欲しいと思います。ハードを投げることによって多くのことを学べるというのも真実です。日本のプレイヤーも最近一段とレベルが上がっていいますが、その多くのプレイヤーは両方プレイすることによってダーツの虜になっています。

8月31日 茨城 Ibaraki

日本最後の地は茨城のラ・セーヌ。まさに、この時に新規開店したダーツバーです。参加されたプレイヤーのマナーもよく、優しいスタッフと観客に囲まれて、日本最後の夜のプレイをしました。「もう、疲れたでしょう、長いツアーご苦労様でした。うちではゆっくり過ごして下さい」。オーナーの玄さんにそう言って迎えられたことが忘れられません。
最後の日の二人のダーツは、どうだったのでしょうか。少し疲労も回復し、自国に帰るとソフトを投げる機会もなくなるという思いからか、かなり彼らもソフトダーツに興味を持って投げていたように思います。ソフトの難しさやゲームの楽しみ方も理解し始めていたことでしょう。何か、ソフトダーツに名残惜しさのようなものを感じていたのかもしれません。丁寧に、まるでその感触を味わうかのようにダーツを投げていました。ソフトダーツプレイヤーにとっては嬉しいですね。

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参加するプレイヤーをお店で限定したため、ほぼ全員とゲームを行うことができました。ダーツプレイヤーにとっては贅沢な時間を過ごせたことと思います。プレイが終了すると恒例の質問コーナーでしたがここでは少し短めで終わりました。質問の内容は大体どこでも同じ内容なので、二人とも相談して誌面できちんと整理して伝えた方が良いだろうということを話し合っていました。いろいろな質問を真剣に聞いていなかったと受け取るプレイヤーがいらしたら、そんな理由があったのだと言うことをご理解いただきたいと思います。
当日は次の日のことを考えて、成田に宿泊していたのですが、帰路の車の中でたくさんのことが話題に上りました。あの地はダーツがエネルギッシュだったね、あそこではダーツうまく飛ばなかったな、日本女性は本当に素敵な人が多かったよ、日本のダーツシーンは聞いていた噂以上のものだった、日本の古城はぜひまた訪れたいな…など、話は尽きません。英国のプロプレイヤーが来日して、日本の各地を巡り、たくさんのダーツプレイヤーと触れあう「ニューダーツライフツアー」お楽しみいただけたでしょうか。一人でもより長くダーツを続けていただき、少しでもプレイに役立っていただけたら、嬉しいですね。

アラン・ウォリナー氏とコリン・ロイド氏への質問をまとめると

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毎日の練習はどのようにしていますか?

アラン:永らくプロダーツプレイヤーとしてプレイしていますが、実は僕はダーツのみに時間の全てを費やしたことは、まだありません。今現在もですが、病院で精神科の看護士として週に3日間働いています。何回もダーツだけに徹底しようかと考えた事はあったのですが、その仕事もとても魅力的なため、踏み切れないで来ました。そのため練習時間においては他のどのプロプレイヤーよりも少ないと思います。試合の前に集中して投げる…これが僕に許されたダーツの時間です。ですから、皆さんも練習は時間だけでなく、内容が大事だということを忘れないようにして下さい。
しかし最近、人生に悔いを残さない意味でも、ダーツだけの時間をもっと作りたいと考えています。もっとダーツだけを考えた生活をしたいという欲求が強いので、数年間病院を休むことで、只今交渉中です。もし、実現できたら、PDCのランキングを上げて、大きなトロフィーも幾つか取って見せますから、応援して下さい。
コリン:PDCの試合は、ほとんど毎週開催されますので、僕は負けても勝っても徹底的にそこで投げます。なんたって、ダーツする環境が完璧に用意されているのですから。練習内容は、最初にダブル、そしてトリプルの数字を狙い続けます。そして、試合の直前はイメージトレーニングに励みます。大きな試合ほど、このダーツをイメージする時間が重要です。

スランプ脱出法は?

アラン:あまりくよくよしないことです。僕たちプロプレイヤーも、よくスランプになります。長いとき、短いとき様々でしたが、経験として思い詰めるほど、脱出に苦しみ、パッと気持ちの転換が出来たときは、以外と短かったと思います。
コリン:もし、精神的なものでなく、技術的なものだったら、周りの友人などに、見てもらうのも良いでしょう。他人は意外と冷静に分析してくれるかもしれませんよ。
自分より強いプレイヤーと、対戦するときの必勝法を教えて下さい。
アラン:自分を信じることでしょう。それ以外にないと思います。
コリン:勝ったことをイメージトレーニングして下さい。最初から相手が自分より強いなんて先入観を持ってはいけません。ダーツの試合では何が起きるか分からないのですから。
どうして今のダーツを使っているのですか?
アラン:僕はデータダーツと契約しています。ですから、僕が仕様しているのは、刻みや細部まで、僕の要請で造られたアランモデルです。手の大きさや、バランス、すべてが僕にとって良いのは言うまでもありません。
コリン:今年の6月にユニコーン社と契約しました。現在、コリンモデルを開発中です。試行錯誤を繰り返していますが、できるだけ素晴らしいダーツを完成させるつもりですから、楽しみにして下さい。何故、軽いダーツを使っているのかを聞かれますが、特別に意味があるわけではありません。子供の時からダーツを投げていて、自然に軽い方が自分の好みに合うと思ったからです。でも、最近PDCのメンバーでも軽いダーツを使っているプレイヤーは多いですよ。

ダーツの技術面で一番大事なことは?

アラン:今回のツアーの最中でお見せした、膝を床について投げたり、椅子に座って投げたりしたのは何故でしょうか?目の位置が変わることによって、いろいろな違った場所の的を狙うという練習の意味もありますが、やはり身体が動いてはいけないということを知る効果的な方法だからです。身体が動くと、よりダーツを難しくします。そのことを体得できれば、ダーツって、とてもシンプルなスポーツなんですよ。
コリン:アランが身体を動かしてはいけないことについて語りましたので、僕はグリップについて一言。グリップは本当にダーツで重要なポイントです。でも、自分に合ったグリップは世界で一つしかないことを、知って下さい。皆さんは食事をするのに、お箸を使うという文化がありますよね。一人一人の持ち方はかなり似ている人がいたとしても、何処か違っているはずです。ですから、世界チャンピオンのグリップといえども、参考にすることはたいへん参考になり、新しい発見も多いとは思いますが、コピーすることは不可能ですし、お薦めしません。

今回のツアーでソフトダーツをプレイしましたが、いかがでしたか?

アラン:英国ではあまりプレイする機会がありませんので、勉強になりました。同じダーツでも楽しみ方のバラエティーが増えるのは、素晴らしいことです。
コリン:私たちはPDCに所属する、ハードダーツのプロプレイヤーです。そのため、ソフトにおいては、皆さんの期待に必ずしも添えなかったかもしれません。しかし、一生懸命にプレイし、エンジョイしました。次回、来日するときには今回負けたプレイヤーにリベンジしたいと思います。皆さんも機会がありましたら、私たちのプレイするPDCの大会を英国まで観戦に来て下さい。「カモーン!コリン!」と日本人のプレイヤーから応援される日が来るのを楽しみにしています。

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