Vol.91 PDCアジアン・ツアー
参戦記 マカオ
DOLLiS 灰田 裕一郎

2018年5月号

開幕戦韓国に次いで、第二戦の開催国はマカオ
今回はホテルで開催され、フィリピンのイラガンが二日間連勝

合計151名、13ヶ国からの参加
2018年4月28日~29日の2日間マカオのリジェンシー・アートホテルでPDCアジアンツアー第3戦、第4戦マカオステージが開催された。
今大会はPDCアジアンツアーで予定されている6カ国・全12戦のうちの2カ国目である。参加者は151名。前回の韓国とほぼ同じであった。主要参加国は香港・マカオが53名、続いて日本37名、フィリピン28名、中国13名、韓国11名といったところ。少数ながらマレーシア、シンガポール、台湾、タイ、モンゴル、カンボジア、インドからの参加もあわせて計13カ国からの参加となった。

マカオ大会の会場はホテル
今大会の試合会場はカジノも併設されている本格ホテルでの開催。宴会場スペースが会場であったが決して広いとはいえず、韓国大会と比べると1/4ぐらいの広さといったところ。ホテルということで床は一面カーペット。
試合ボードは今回もユニコーン製エクリプスHD2が採用され、全ボードに赤い無地のサラウンドが取り付けられていた。会場内にはメインステージのボードを含め16面の試合ボードが並び、会場外の通路スペースにも試合ボードが8面、そして練習用ボード4面が設営されていた。
メインステージには観戦用の椅子が40席ほど用意されていたが、それ以外に選手の控えエリアや座席は用意されていなかった。
そして前回のソウル大会で問題とされていたオッキの設置。残念ながら今大会もオッキは設置されていなかった。(オッキ(OCHE)とはスローイング位置を示すために床につけられた印のことをいう)。
スティールトーナメントには当然のように設置されているはずのオッキが今回も設置されておらず、代わりにガムテープによるスローラインが準備されていた。またこのスローラインに関するルールもなぜか前回とは違うルールであった。

ソウル大会ではスローラインの前側であわせる「オンザライン ルール」であったが、マカオ大会はスローラインの後ろ側であわせる「オフザライン ルール」だった。スローラインを踏んでいいルールと踏んではいけないルールなので間違えるとボードまでの距離が大きく変わってしまう。
前回と今回ではルールが違うということで、選手によってはその点を把握できておらず対戦中にトラブルになっていたケースも見受けられた。オッキが設置できないとしても、せめてスローラインのルールだけは前回と統一したほうがよかったように思う。このオッキがないことに関しPDC側は何も言わないのかと考えたが基本的にアジアンツアーに関してはPDCはほぼ関与していないというのが現状らしい。
今大会もオフィシャルレフリーとしてPDCからラス・ブレイ氏が招かれていたが、彼の存在だけがアジアンツアーがPDC公認の大会であることを証明していたように思う。
とはいえアジアンツアーはまだ始まったはかりのツアーだ。開催に関してもすべて主催国ごとに委ねられていることもあり、ルールや条件を統一することは難しいのかもしれない。それでも各国の主催関係者が互いに連絡を密にして情報を共有することで、今後のアジアンツアーが良い方向に向かっていくということを期待したい。

改善された幾つかのこと
もちろん改善され良くなっている点もあった。前回の韓国大会と比べて格段に良くなったのが各選手のドレスコードだった。アジアンツアーではドレスコード(服装規定)がルールで定められており、選手が着用するユニフォームにはロゴ規定、そして履く靴にも色などの制約がある。
残念ながら前回大会では第1回ということもあってかユニフォームのロゴ規定が守られていない選手も多く、靴の色もまったく守られていなかった。主催者側もドレスコードに関する意識が低く、Tシャツ・ジーパン・スニーカーという規定違反豪華3点盛りの選手にまで出場許可を出していた。
そんな前回大会と比べ今大会はドレスコードに関して主催者側も厳しく考えており、開催一週間前からSNS等でドレスコードに関しての呼びかけをおこなっていた。
またルールやマナーに関してのアナウンスも前回と比べ大幅に良くなったように思う。主催者側が開会式に行ったルール説明でも英語・中国語・日本語と複数の言語でルール徹底を呼びかけていた。
こういった国際大会では言語の違いへの配慮はとても大切だと思うので、今後の大会でも、ぜひ続けていただきたい。

ワールドカップ出場権利
さて前置きが長くなったが今回のアジアンツアー第3戦、第4戦は5月末~6月初めにドイツで行われるPDCワールドカップの日本代表選手が決まる大事な試合であることも忘れてはいけない。
アジアンツアー第1戦~第4戦までのランキングで各国上位2名をその国のPDCワールカップ代表にするというアナウンスがPDCから発表されていた。
韓国大会終了時のランキングでは第2戦で優勝した浅田斉吾が一歩抜きん出ている状況であったが、マカオ大会の結果次第では、誰でも代表になる目はあるということで、上位選手たちはその点を意識しながらの戦いとなった。

ランキング状況
PDCアジアンツアーのランキングを見るとやはりソフトダーツでも有名選手たちがほぼ上位を占めている。アジアはソフトダーツが主流であることを痛感する。
そしてアジアの強豪選手たちが集まる中でひときわ強さを見せている国がある。ローレンス・イラガンを筆頭とするフィリピン勢だ。フィリピンの選手たちは結束力が強い、ユニフォームもみんなお揃いだ。フィリピン勢は一戦ごとにユニフォームのデザイン・カラーを変えてくる。
そんなに裕福なお国柄ではないと聞いているが、ユニフォームひとつとってもフィリピン勢のPDCアジアンツアーへ意気込みが伺える。日本勢が上位に進出するためには、この強豪フィリピン勢を倒すことが大前提となる。
フィリピン勢はほぼ全員強い。彼らの強さの特徴はチェックアウトアベレージの高さ、ダブルの決定率にある。とにかくダブルを決める。大事なところほどしっかり決めてくる「上がりの強さ」がある。

今大会でフィリピントップ選手たちの平均チェックアウト率は50%前後。スティールダーツでは35%を越えればかなり良いアベレージである。3本投げればほぼダブルを決めるという確率だ。ところがフィリピントップの選手達は50%、単純に考えて2本に1本は決めるという高アベレージ。
これは対戦した人間からするとダブルが出たらまわってこない、という印象を持たされる。
これに加えて点数を取る「削りの強さ」も群を抜いているから手がつけられない。フィリピンの選手達はあまりスイッチングせずに1カ所にガツガツぶっこんでくる。180の数もここまでの4戦トータルでトップ4はみんなフィリピン選手だ。「削りの強さ」「上りの強さ」「勝負強さ」スティールに必要なものが揃っている。
技術に加えてハングリーさ、貪欲さが強いこともフィリピン勢の上位進出のカギになっているように思う。
フィリピン選手たちはダーツの海外遠征で出国許可を取るのも容易なことではないらしい。養っているファミリーの数も多い、ダーツが唯一の生活の糧という選手もいる。そんな厳しい背景を背負って参戦するからには是が非でも賞金を持ち帰らないといけない、という危機感が他の国の選手より強いのかもしれない。
もちろんどの国の選手だってみんな勝ちに来ていることに違いはない。ただフィリピンのそれとはちょっと違うように感じるのだ。

日本のレベルは高い
そんなフィリピン勢に国レベルで対抗できる唯一の国、それが日本だ。やはり日本ダーツ選手のレベルは高い。ここまでの4戦で得点アベレージ、チェックアウト率、TON数などトップ20に日本人が半分近く入っている。
日本勢がフィリピン勢を倒すためにはダブルの決定率であろうか。今回のマカオステージでは日本スティール界のエース村松治樹が、第3戦で3位入賞を果たした。準決勝ではフルレッグの末にフィリピンのローレンス・イラガンに敗れたものの大会を通してアジアトップクラスのダーツを見せてくれた。アジアンツアー第4戦まで日本選手勢は優勝が1回、3位が3回と素晴らしい結果を出している。
オーダオブメリット(賞金ランキング)にも3位浅田斉吾、8位村松治樹、10位樋口雄也、11位松本嵐、13位山田勇樹とトップ16に日本選手が5名もランクインしている(フィリピン勢は6名)。
PDCアジアンツアー2018は計6カ国12戦が予定されている。まだ2カ国4戦が終わったところだ。あと3分の2も残っている。残りのステージで日本選手vsフィリピン選手の戦いはさらにヒートアップしてくることだろう。そしてライバル国のおかげで日本スティールのレベルは間違いなく上がってくるはずだ。
とはいえ今回のマカオステージ第3戦、第4戦はフィリピンのローレンス・イラガンがまさかの2日連日優勝という快挙を成し遂げた。
連日優勝というのは肉体的にも精神的にもよほどタフでないとできるものではない。やはり技術とは違う、なにか別の強さも持ち合わせているように感じる。これからますますフィリピン勢が波に乗ってくるのは、間違いなさそうだ。

次回は神戸で開催
さて次のアジアンツアーは6月に日本の神戸で開催される。これまで海外遠征には行かれなかった日本の強豪選手たちも多く参加してくれることであろう。第5戦、第6戦の神戸では日本スティールの力をアジアのプレイヤーたちに、思い知らせるいい機会だ。
多くのジャパン・スティーラーたちが参戦してくれることを期待している。そして試合に出ない方もぜひ神戸に足を運んでアジアンツアーを実際に見て、応援してみてはいかがだろうか。アジア諸国のプレイヤーと真っ向から戦う日本人選手たちの背中をプッシュしてあげてほしい。
今回のマカオステージの結果を受け5月末に開幕するPDCワールドカップの日本代表選手が決定した。アジアンツアーランキング3位 浅田斉吾選手、同ランキング8位 村松治樹選手の日本人上位2名が選ばれた。このふたりに文句をいう人はいないであろう。まさに今の日本スティールを代表するツートップだ。
この記事をみなさんが読むころにはドイツへ旅発っているかもしれない。ニンジャとライジングサン、日本を代表する二人が世界中のダーツファンを驚かすような活躍をしてくれることを期待しつつ、遠い日本からダーツファン総出で応援しようではないか。
がんばれニッポン!がんばれジャパニーズダーツ!