2022年5月号
ダーツは信頼関係が大事なので、信頼がおけないものを使うと絶対入らないです。
プロの試合はなおさらそうだと思うので、自分にあったセッティングを数パターン持っているのはいいことだと思います。
改めてダーツ歴はどのくらいになりますか?
20年弱だと思います。長いんです(笑)。
最初にマイダーツを買った時のセッティングは覚えてますか?
あまり覚えてないですけど、確かハロウズを買ってその時に付いてたのをそのまま使ってたと思います。あの頃は折りたたみの紙フライトでしたよね。その後すぐにレーザーダーツのブラックウィドゥを買ったはずですが、その時もクモマークが付いた付属の紙フライトを付けてた気がします。
意識して変えた時はマイクロシャフトというのを使ってました。
マイクロシャフトとはどういうものですか?
シャフトの長さが1cmくらいしかないんです。バレルに直接フライトが付いてる感じです。
それはどこのメーカーですか?
どこだったかなぁ……。その時はあんまりメーカーとか気にしてなかったので、確かどこかのショップにあったのを買いました。
どうしてそんなに短いのを付けたのですか?
シャフトを付ける意味がわからなくて(笑)。
バレルを投げるわけなので、バレルにフライトさえ付いてればバシッと飛んで行くだろうなと思ったんです。早い飛びがいいと思ってたので、単純に短い方が飛ぶだろうと。ちゃんと刺さるし、そこそこ問題なく投げられましたよ。
長いダーツ歴の中でセッティングについてはいろいろ考えてこられましたか?
考えましたね。やっと落ち着いてきた感じがしますね。
深く考えるようになったのはいつ頃からですか?
ダーツを始めて一年くらいした頃からです。耐久性を考えて長さを考えて、フライトもいろんな形を試しましたし、その当時からもう数え切れないくらい買いましたね。
当時はそんなに種類もなかったですよね。
そうですね。ナイロンシャフトかアルミのシャフトかのどちらかだし、長さもスモールとミドルと、ロングってありましたっけ…!?
10年くらい前から商品のバラエティがすごく増えましたが、そこからもいろいろ研究されましたか?
しました、しました。それこそLスタイルが登場したころですよね。それから間もなく成型フライトが誕生して、そこから考え方が変わりましたね。
チップもさまざまな種類が増えましたよね。
増えましたねぇ。当時僕が一番重要視してたのが耐久性ですね。試合中に折れたりしないようになるべく頑丈なものを選んでました。
それから僕の悪い癖なんですけど、すぐまとめて買っちゃうんです。ナイロンシャフトが出た時も100セットとか買ってみたり(笑)。
100セットですか!?
はい。中国の安いやつだと思うんですけど、結局は使わないで捨てたパターンです(笑)。シャフトやフライトがなくて困るのが嫌なので、常にたくさん在庫してました(笑)。
最近はフライトもチップも固まってきていますか?
そうですね。2年前くらいから二択になってきて、ここ一年はほぼ一択です。
チップは何を使われてますか?
ずっとLスタイルのプレミアムリップポイントを使ってました。でも刺さりすぎる時があって、抜く時にものすごく力を入れないと抜けないことがあったんです。それが気になったのでプレミアムショートが出たタイミングで変えて、今はずっとそれを使ってます。ショートはすごくいいですね。ちょうど良く刺さってスポンと抜けるんです。
シャフトはいかがでしょうか?
ここ数年はLスタイルのカーボンしか使ってないです。
長さはどのくらいですか?
だいたい260です。まれに330も使うことがありますが、ほとんど260ですね。
フライトはいかがですか?
自分のフライトの絡みもあって、ずっとLスタイルのシェイプを使ってました。でもなんとなくしっくりこなかったので、今はLフライトのKAMIのスタンダードタイプを使ってます。今までいろいろなフライトを使ってみましたが、結局はスタンダードですね。
セッティングによって飛びがかわりますよね。
違いますね。シェイプとスタンダードでこんなに変わるのかと思うくらい違います。最初は分らなかったですが、今ははっきり分りますね。本当に微妙な差だとは思うんですが、今のダーツ界はものすごくレベルが高いので、その差が命取りになることがよくあるんですよ。
初心者にとっては誤差のレベルだと思いますが、上達すればするほど大きな差になると思います。試合を左右する大きなポイントです。
セッティングを工夫するのは理想の飛びに近づけるためだと思いますか?
どのプレイヤーも毎回同じ感覚ではないと思うんです。人間の運動神経は脳によって動かされてるので、脳が疲れるとちょっとの差で伝達が遅れて、ダーツだとリリースポイントがズレたりするんです。脳と身体が完璧な状態なら問題ないですが、やはり日々によってそうでないこともあるでしょう。
そういう時に補修できるのがセッティングだと思います。ちょっとシャフトを長くすると安定するから今日はこれで行こうとか、そんな感じで使い分けるプレイヤーも多いと思いますね。
昔と今のセッティングでは、考え方が少し違うと思います。昔は早く飛ばしたい遅めにしたいなどの時に、例えば大きいフライトを付けると安定するとか、その程度だった気がします。
でも今は種類が増えたせいもあって、もっと微妙な違いを追求するためにセッティングを調整することがほとんどではないでしょうか。
理想とするダーツの飛びはどのような形ですか?
山なりですね。自分の目で見てきれいな山なりに飛んで行ってくれるのが一番いい飛びです。直線的だったり、そもそも見えてないという時は良くないコンディションですね。
直線的よりは山なりの方がいいのですね。
僕はそう思ってます。山なりに投げないともたないと思います。直線的に見える人は直線に入れるので、外れた時にそこにダーツを持ってこようとするんですよ。そうするとだいたいリリースが遅れるので、そこから合わなくなって崩れてくるパターンが多いかなと思いますね。
試合によってセッティングは変えますか?
試合で変えるといっても練習の段階ではそのセッティングで投げてますよね。ダーツは信頼関係が大事なので、信頼がおけないものを使うと絶対入らないです。プロの試合はなおさらそうだと思うので、自分にあったセッティングを数パターン持っているのはいいことだと思います。
僕の場合は、朝方は260を付けて、勝ち残って行ったら夕方は330に変えるということもあります。
ダーツの調子によって変えるわけですよね?
僕は調子が悪いということはないんです(笑)。例えば腕が重いとか、身体のコンディションが万全でないことがあっても、それはダーツの調子が悪いことではないんですよ。
スティールとソフトは同じセッティングですか?
今は同じす。シャフトはソフトでは金属の入ったプレミアムですが、スティールではそれは使ってないです。
それはどうしてですか?
投げた時の感覚だけです。何が違うのかうまく言えませんが「これはソフトには合うけどハードには合わない」と感じたので、ハードでは使わないです。
面白いですね(笑)。
微妙なんですけどね(笑)。今はプロの技術がほぼ同様に高いので、その技術をいかにピークに持っていけるかだと思うんです。そうすると何が大事かというと、技術ではなく感覚だと思うんです。
JAPANの1位から100位くらいのプロ達の技術はそれほど違わないと思うんです。でも上位にいる選手というのは、自分のピークを早く知ることができて、それを早く出すことができるんじゃないでしょうか。
以前はダーツが上下左右にブレないためにどうするかでしたが、今は試合当日に自分の技術をピークに持っていくためにセッティングを変えるのではないかと思いますね。
冷静に自分を分析できてるということですね。
そうですね。そのためにいろいろ研究して、自分のセッティングを見つける努力をするのだと思います。でもそれは今これだれのバリエーションがあるからできることですよね、昔はチョイスがなかったですから。
では初心者にセッティングのアドバイスをお願いします。
見た目で選んでいいと思います。まずバレルを選んでその形状を見て、シャフトとフライトとチップを組み合わせてみて「これ、一番かっこいいな」でいいと思います。
見た目が大事ですか。
はい。機能性とかそんなのは後からでいいんです。まずかっこいいものを使わないとテンションが上がらないじゃないですか(笑)。
それからだんだんに考えていけばいいわけですね。
そうです。始めて買ったセットをそのままずっと使ってる人というのは、ほとんどいないと思いますからね。
では、現在発売されているご自身のモデルについて説明をお願いします。
ちょうどワールドカップの時期をはさんだこともあり、いろいろ試行錯誤して時間をかけて作りました。心境の変化などで考え方も変わったりしたのですが、ひとつだけこれは譲れないというのが「絶対に中を抜かない」ということでした。よく前重心にするために後側を削ったりするのですが、そういうことはしないでソフトもハードもギリギリまで中を詰めて、形状で調整するということにこだわりました。
形状はソフトがストレートでスティールがトルピードです。スティールは以前のタイプより4ミリ程度長くてテーパーを緩くして、ストレートを投げていた人も移行しやすいようなトルピードに仕上げました。
ソフトとハードで形状が違うというのも面白いですね。
根本的には別ものですからね。同じだという人は本当にすごい人か、よく分かってないかのどちらかだと思います(笑)。
スティールの方がストレートのイメージですが、そんなこともないんですね。
今のモデルはⅡなんですけど、Ⅰの時はスティールがストレートでした。海外の選手はストレートが多いですが、ストレートじゃなくてもいいと思うんです。ストレートにするのは、持った時に変な動きをしないとかポンポンポンと投げやすいとか、ただ感覚を掴みやすいというだけのものだと思うんです。だから別にトルピードでも問題ないと思いますね。
かえってソフトの方が狙う場面が多いので、ストレートの方がいいような気がします。絶対入れなくてはならない場面では、ストレートの方がイメージ通りに飛んで行ってくれる気がするんですけどね。
僕はスティールの感覚にソフトを近づけたいという考え方です。
出来上がりには満足してますか?
もちろん満足してます。今回はプロトの期間が長かったので、プロトでも結構使ってたんです。
去年FIDOのオンラインカップツアーの最終戦で勝った時がこのプロトのデビュー戦だったんです。バレルを変えたデビュー戦というのはほとんどダメなんですけど、この時はちょっとびっくりするくらいよく入りました。決勝戦では「60はまず外れない」という感覚になれるくらいでした。完璧です!
ソフトはオンラインカップの予選から決勝トーナメントまで1ゲームも落としてないです。この時にも「完璧だ」と思いました(笑)。
ところで、プロトーナメントが再開されましたがいかがでしょうか?
楽しいです。楽しいけど大変です(笑)。
抜けた選手もいたりしてパーフェクトはどうのこうのと言う人もいますが、全然そんなことないです。レベルも年々上がってるし、みんな楽しいと言ってますね。
やっぱり実戦は違いますよね。
本来はこうだったんですからね。周りに人がいて交互に投げ合って、というのは本当に楽しいですね。
今年はどのくらい出場される予定ですか?
できるだけ出場したいと思っていますが、全戦は難しいかもしれないです。
今のダーツの課題は何でしょうか?
集中力です。人間はずっとオンにできないので、ここぞという時に超集中モードに入れるようにしたいです。そして終わったら切るというオンとオフの調整ができることが一番ですね。
技術的なものは求めてないです。もうこれ以上は無理なので(笑)。