Mayumi OuchiVol.87.2017.9-Top

Vol.87 大内 麻由美 特集
魅力溢れるダーツプレイヤー

2017年9月

父からの影響で20才を過ぎた頃からダーツを始めた大内麻由美。
日本ダーツ界でも屈指のキャリアを積んだプレイヤーという存在になった。今までの戦歴を上げたら、トップ級だということは疑う余地がない。
今までに多くの誌面を飾ってきたので、今回はあえて女子ではあまり語ることが少ないテクニック論をお願いした。
女子プロプレイヤーがどんどん登場する時代になったが、このようなインタビューが可能なのは彼女の他にはなかなか見当たらない。

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まずグリップについてですが、今までグリップはどのように変化してきましたか?
「鉛筆持ちからスタート」
グリップは一度だけ大きく変えたことがあるんです。始めた当初は鉛筆持ちで、指先でちょんと持ってるだけでした。でも、もっと指の腹でしっかり支えた方が安定すると言われて変えたんです。それが今の形に繋がってるんですが、もしかしたら最初の方が良かったかもしれないです。
親指の腹でグリップを支えた場合、ほとんどの人は問題なく反りますが、私は全然反らないんです。無理に腹で持とうとすると指が斜めになってしまうので、親指は頂点で下から支えてるという、少し変わった形にクセが付いてしまいました。
最初はそれで違和感が無かったんですが、今は自分のグリップは好きではないです。でもグリップはなかなか変えられないですね。

季節によって湿気や乾燥などが変わりますが、対処方法を変えたりしていますか?
化粧水で自分の手を保湿して、サラサラし過ぎない様にしています。これがないと投げにくいですね。

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立ち方はどんな感じでしょうか?
「足の骨盤の上に」
立ち方もずいぶん変わりました。昔は自分で鏡を見て「このくらいの角度だったな」と形を覚え込もうとしていました。良かった時の立ち方を思い出して同じ様にしようとしていたんですが、今は「ここに乗っていれば良い状態」という感覚が出来てきたので、それを崩さない様に立っています。
前足がこうで後足がこうでという細かい動きはあまり気にしていません。もちろん同じ形にしておかないとならないんですが、それよりも骨を意識しています。足の骨の上に骨盤をしっかり乗っけて軸を使って立つ様に心がけるようになりました。そうすると上半身の動きもスムーズになってきました。要は「筋肉を使って立たない」ということかもしれないですね。前は筋肉を使い過ぎていたせいで長時間立っているとすごく疲れました。でも今はそれほど筋肉を使わないで、体幹でしっかり立てる様になったと思います。

肘についてはいかがでしょうか?
「負担のない投げ方」
肘は一度ひどく痛めたことがあるんです。その日初めて腕を振る時は思わず声が出るほどで、お醤油のビンを傾けるのが困難なくらい痛かったんです。運よく長引かず治ってくれたので良かったですが、その経験を生かして肘に負担のない投げ方を考える様になりました。

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具体的にはどのような投げ方ですか?
痛めた時はフォロースルーの最後に振り過ぎていて、肘が逆を向くくらい負荷がかかってしまっていたんです。そうするとどうしてもその蓄積が出てくるので、それを避けるためになるべく早く放す様にしました。早く放すことによって腕の力も早く軽減されて、衝撃が和らいできたんだと思います。

テイクバックではどのようなことに注意していますか?
「ほとんど無い」
私はテイクバックがほとんど無いので少し欲しいくらいなんです。今はリズムを使って投げるように練習しているところなんですけど、あまりにもテイクバックが無さ過ぎるときっかけが難しくて良いリズムが取りにくいですよね。これでも少しは引く様になったんですが、周りから見るとほとんど引けてないみたいです。
でも私は1.5ミリでも引ければ充分です。ハンドルの遊びくらいの気持ちでテイクバックがあればいいと思っているので、軽く緩めるくらいでしょうか。

テイクバックの最終点は意識していますか?
ほとんど無いので、構えた時に投げ出す位置とほぼ一緒です。構えた位置が最終点という感じですね。

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リズムで意識することはありますか?
「一番の課題」
今これが一番の課題なんです。昔はリズムが良いと言われていたはずなのに、体の動きをいろいろ考え始めたらリズムが悪くなってきたんです。以前に比べると全体的な安定感は生まれたんですが、リズムが崩れていることを感じました。
リズムを掴むことで同じ動きが出来るというメリットもあると思うんです。リズムを良くすることによって毎回同じ動きが出来るというのを習得したいんですが、今はまだリズムだけに頼る自信が無いですね。なので、とりあえずそのまま動かしちゃうという練習をしています。
今は一本目から三本目までバラバラなので、三本とも一定のリズムで投げられるようにしたいです。練習はしていますが、いざ試合となると実戦できないのがここですね。苦しい時でも思いきってリズムで投げられるくらいにまで体を持って行きたいと思っています。

スローについてはいかがでしょうか?
「角度を変えずに」
最初に構えた時の角度が合ってればそのまま力を加えて出すというイメージです。角度さえ変わらずに引ければ、引いている途中のどこで放してもそんなに変わらないと思います。

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放す位置は決めているのですか?
特に決めてはいませんが、少し引いた最終地点からできるだけ早く放したいと思っています。

そういうことは普段の練習でも意識していますか?
メチャクチャ意識してます。特に角度ですね。角度を保ったまま出来るだけ早く放すことを意識して練習しています。力のかかる向きですね。

放す位置は狙う場所によって変えますか?
一緒です。腕の位置や投げる角度などの上半身は全部一定で、変えるのは腰の位置です。腰の位置を低くしたり高くしたりと微妙に変化させますが、実際は人目にわからない程度ですね。多少は感覚でやってると思います。

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男子では肩や肘の位置を大きく変える選手がいますが、大内選手は確かにあまり変えないですね。
変えたら全部練習しないとならないじゃないですか(笑)。でも、どうしてもやりにくい角度もあって、そういう時は足の向きなどで少し差は出てしまいますね。
それから目線の違和感というのもありますね。よく「16とか18が苦手なんです」というのを聞きますが、それは斜めに見えるから視覚的な要素でどうしても苦手意識が出てしまうんだと思います。真ん中で基準を作って、そのまま真っ直ぐならやりやすいですからね。私の場合も日によって視覚的にやりにくいことがありますが、そういうのはもう慣れるしかないと思っています。ですからどこを狙うにしても、基本的には腰を回して狙いたい場所へ真っ直ぐ飛ばせるようにしています。

ダーツの飛びや軌道は気にされていますか?
「今は見えるように」
考えたり緊張したりしてなかった時期は、軌道も見えなかったし飛びも気にしてなかったです。でもずっと投げているうちにいろいろな疑問が生まれて来て、今は気にする様になりました。良い感じで投げているのに、ほんの少しの差で入ったり入らなかったりすることが理解出来なくて、このままやっていても限界があるなと気がついたんです。
いざ軌跡を見ようと思っても、最初は刺さる直前しか見えませんでした。それがだんだんと真ん中辺りから見える様になって、今は放した瞬間から見えていますね。すごく良い状態の時は刺さる前に「入った!」と分る時もあるくらいですが、逆に軌道が見えなくなると安定しなくてダメになる日もあります。そのくらい飛びと軌道は気にして投げています。

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では次に練習方法についてお聞きします。決まった練習方法というのはありますか?
「決まった方法はない」
特に決まった方法はないですが、基本的には同じところに向かってずっと投げてることが多いですね。最初はウォーミングアップ程度に体をほぐすようにしてから、徐々に狙いを定めて投げ込む様にしています。どのスポーツでも同じだと思いますが、最初から大きく筋肉を動かしたりせずに、体を温めながらだんだんと動かす様にしています。体が温まる時間はその日のよって違って、すぐ暖まったなと感じる時もあれば、いつまでも硬い感じがする時もありますね。
それから、まずはこの動きでいいのかを探りたいんです。軌道がどうも曲がっている様に感じて納得がいかない時は、納得できる飛びになるまではそれに集中します。それが修正できてしっかり飛ばす作業が終わるまでは、狙いを定める段階にまでは進みません。納得のいく飛びになったらそこから狙う練習に入るのですが、なかなかそこまでいかないんですよ。だから同じことをずっとやってることが多いんです(笑)。

一年間のツアーをこなすモチベーションなどはいかがでしょうか?
「争うことは好き?」
もともと人と争うことが好きなタイプではないので、試合がわくわく楽しいということはないんです。でも試合はどんどんやってくるので、「覚悟している」といった感じでしょうか。もう長いことやっているし、ダーツを職業にしようと決めた時から「こういうものだ」と受け止めています。
毎年毎年「まだ出来るかな」と思いながら投げていますが、今のところ何とか成績も残せているので、「今年も出来たから来年もまたやろうかな」という感じですね。やり始めた頃は気合いでピリピリしてましたが、今はそれほどでもないです。

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最近は女子プレイヤーの活躍が目覚ましいですが、ダーツでの男女の違いというのは何だと思いますか?
何なんでしょうね?身体的な男女差がないスポーツだとは言われますが、筋力やホルモンバランス等の差もありますし、やっぱりそうでもないですよね。
DNA的には女子より男子の方が空間把握能力が優れていると言われていますね。絶対的な人数が男子の方が多いので、上手いプレイヤーが女子よりも多いのは必然かもしれないと思います。

ソフトとハードの違いはなんだと思いますか?
「ハードは楽しい」
私は試合をするならハードの方が楽しいんです。ソフトは的が大きい分入る確立が高いので、外した時の恐怖感が強いんです。それに比べるとハードは入れるのが難しいので、気持ちを楽にチャレンジ出来るというのがあって好きなのかもしれません。でも今はレベルが上がって来ているので、そういう考え方も少し変えるべきかもしれないですね。

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長くダーツ業界を見てこられた大内選手ですが、今のダーツ界についてどう思われますか?
「世界レベル」
日本のレベルがすごく上がって世界のトッププレイヤーを倒すまでになっているのに、日本の考え方や基準が世界レベルと違うことが残念です。
ハードで言えば、スコアラーやチョーカーは対戦相手とは別にいるのが当たり前なのに、日本は後で本人が自分で足してきて、報告されたものを記入するというシステムなんです。日本人はちゃんとダーツをやってる人でも、それが当たり前だと思っていることにすごく違和感を感じます。それは日本だけであって世界では違うんだということを分って欲しいし、すぐにやめなければならないことだと思います。
それが良いことだったらどんどん広めていけばいいと思いますが、このやり方だと自分の点数をごまかすことも出来るし、ギリギリ入っていなくても「入りました」と報告するなど、不正が起きる場合もあります。日本人はまだまじめな人が多いですが、やっぱりいろいろな人がいますからね。
ソフトで言えば、投げ終わったプレイヤーの戻り方に問題があると思います。次に投げる人の邪魔になるような戻り方をするプレイヤーを多々見かけますが、そういうことをしてはいけないというのが本来のルールだと思います。海外では、プレイヤーが戻る時に直線上のマットの上に足をかけたり、ちょっとでも投げる側の人の方に寄ってしまった時、乱闘になるんじゃないかというくらいケンカになることがあります。投げ終わった人は、次に投げるプレイヤーが除けないとならない様な行動は絶対取ってはダメなんです。
海外では戻る途中に矢が飛んで来ることなんてしょっちゅうです。日本では安全を考慮し過ぎているのか、次の人が帰って来るまでは構えてはいけないし、とにかく投げ終わったプレイヤーが堂々と帰って来るんです。次に待ってる人に当たる様な状態がしばしば見られますが、こういうルールだという認識が正当化されていて、人の邪魔をしていることに気がつけていないのを自覚してほしいです。
こういうことも含め、今のこの状態が全て当たり前で正しいことではないんだということを、運営側もプレイヤーも考え直してほしいですね。これだけ世界に通じるレベルになってきたのだから、ルールも世界基準になっていくべきだと思います。

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ダーツの魅力について教えてください。これだけずっと続けられているのだから、もちろん大好きですよね(笑)。
「ここまでは奇跡」
大好きかどうか分らないんですよね(笑)。好きか嫌いかと聞かれたらもちろん好きなんですけど、だからといって始終触っていたい方ではないんです。本当のダーツバカになれないタイプで、ここまでやってこられたのは奇跡的かなと思います(笑)。
でも、これだけいろいろなことを教えてもらったり考えたり、いろんな場所に行ったりいろんな人に会えたのはダーツのおかげです。日本だけではなく外国の人とも交流があって、ダーツプレイヤーではない人とも知り合いになれました。自分の弱さや強さなどいろいろなことに気付かされもして、様々な面でこんなに世界を広げてくれたダーツはすごく魅力的です。

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これからの夢や目標を教えてください。
「続けていくこと」
大きいことを言ったらきりがなくて、本当は出る試合は毎回一番獲って、世界でも一番になってと言いたいです。でも、もっと身近なノルマも毎回クリア出来てるわけではないので、今は一つでも多く勝って成績を伸ばしたいと思っています。昔ほど簡単に優勝できなくなってきたので、まずは優勝して、その結果一番になりたいです。
私は今まで、ダーツをやめるということを考えたことがないんです。いつまでやれるかは分らないですが、周りから置いていかれることのないように、これからも続けて行くことが目標ですね。