2010年3月
日本のダーツ市場は今や国産ブランド花盛りだ。そんな中、ダーツの本場イギリスの老舗ブランドであるターゲットスポーツの社長、ゲイリー・プラマー氏を直撃。世界中を飛び回り、ダーツの現状を目の当たりにしているプラマー氏だからこそ語れる、世界のダーツ事情、ダーツの未来予想図、更には、日本ダーツの今後をお聞きした。
まずは、自己紹介をお願いします。
ターゲットスポーツの社長ゲイリー・プラマーです。今日はニューダーツライフで色々お話したいと思っています。
あなた自身はダーツをプレイしますか?
趣味としては投げます。あんまり上手くはないですけどね。でも投げるのは好きですよ。ただ、あくまで趣味の範囲内で、大会に出たりはしません。
そもそもターゲットがダーツビジネスを始めたきっかけは?
ターゲットスポーツが設立されたのは1973年です。創立者のベアード氏がバーで、ダーツグッズを手に入れるのに苦労するという話を聞いて、ダーツの会社を作ったのがきっかけですね。1970年代初めは、ダーツ用品を製造している会社がユニコーン等わずか数社しかありませんでした。そこで彼もターゲットブランドとして、ダーツ用品を製造し始めたのです。そこから全てが始まりました。
日本に初めていらしたのはいつですか?
2004年です。日本でダーツが盛り上がってきているという情報を得て、市場を見てみようということでやってきました。初めて来たのは東京でしたね。
それ以降何回くらい来日していますか?
だいたい25回は来てますね。3ヶ月に一回は来るようにしています。そのくらいの頻度で来ないとマーケットの変化についていけなくなりますから。
日本は好きですか?
日本大好きです!食べ物も最高ですが、文化などもとても気に入っています。私は世界中を周りますが、日本で過ごす時間はどこにも負けないくらい本当に楽しいです。
ターゲットスポーツとはどんな会社ですか?
先ほども言いましたが、ターゲットは、1973年以来ダーツ用品の製造を行っている会社です。我々は、世界一のダーツを作るために日夜励んでいます。今までも最高品質のダーツを作ってきたという自負がありますし、これからもそれは変わりません。そのためダーツを製造するマシーンも世界最高の日本製のものを使っています。工場は今も英国が主ですが、中国でも工場を新設し、そこでも8種のマシーン中4種が日本のものです。最近やっと中国工場でも英国とほぼ同じ品質のものが作れるようになりました。
なぜ中国に工場を作ったのですか?
イギリスでは費用がかさむようになってしまったんです。賃金を含むさまざまなコスト面が大きな負担になってきていましたので、中国に工場を作りました。そうすることによって同じ費用でもっと多くの人員を、高い品質の商品を作るために割けるようになったんです。また将来的に中国のマーケットは大きな魅力です。
ターゲットが契約している選手を紹介していただけますか?
もちろんです!まずコリン・ロイド。彼はターゲットプレイヤーになって3年目で、現在世界ランキング7位です。去年は彼にとって、成績に波がある一年でしたが、今年は幸先よくすでにジブラルタルでの大会で優勝しました。それからトニー・オーシェイ。BDO(英国ダーツ協会)1位の選手です。彼のダーツがもうすぐターゲットからリリース予定です。
前ワールドチャンピオンのキース・デラーもターゲットプレイヤーです。彼はターゲットの素晴らしい親善大使といったところです。更にエイドリアン・グレイ、ケビン・マクダインといった、若手プレイヤーもいます。また日本人プレイヤーとの契約も検討中です。華があり強いプレイヤーが良いですが、どんどん素晴らしいプレイヤーが登場するでしょうから急いではいません。
世界何カ国くらいで販売しているのですか?
大体、80カ国くらいですね。色々なルートでビジネスを展開しています。メールオーダーやネットショップでも販売していますから、ターゲットは世界的ブランドと言えるでしょう。
世界的に不景気の波が来ていますが、ダーツビジネスはいかがですか?もちろん中国は例外のようですが。
中国はたしかにいいですね。我々もオフィスを開いたばかりですよ。中国は今経済が伸びてますからね。ダーツにとって今はまだ大きな市場ではありませんが、今後10年で成長すると考えています。ソフトが今後盛り上がりそうな国がもう一つあります。それがスペインです。過去2年間で随分成長してきました。スペインのマシーンは日本のものと似たような型になってきていて、カメラやスクリーン等技術的にも優れています。
プレイヤー達も日本と同様に、ダーツにおいて安物でなく高品質の製品を選ぶ傾向があります。今スペインではダーツがお洒落なんです。ちょっと前の日本のブームに似ていますね。それから、香港も良いですね。規模の小さい日本といった感じです。ソフトはかなりはやってきてます。ショップに行くと日本のブランドが多く取り扱われています。これは我々にとってはいいことです。なぜならプレイヤー達が求めているのが安価な品ではなく製品の質だからです。このようにダーツビジネスを世界規模で捉えると、あるところで縮小しても他でブームが始まり、世界全体が一気にしぼんだりはしません。
あなたの夢は?
日本に関して言えば、ターゲットブランドをもっと日本のブランドのように受け入れて欲しいということです。もちろんターゲットは世界のブランドですが、日本に事務所もありますし、日本人スタッフもがんばってくれています。ですから、できるだけ日本のブランドと肩を並べて同じように溶け込みたいというのが私の夢です。この夢はゆっくりですがだんだん叶ってきているように感じます。我々は現在スポンサー提供できるプレイヤーを探しているところです。そうすることによって、日本の市場で得てきたものを還元できるからです。
アメリカダーツの情勢は?
アメリカの市場は停滞していますね。景気後退が始まる前からだんだん落ち込んできていましたが、あのリーマンショック以降は厳しいですね。特にスポーツ業界への打撃は大きいように思います。最近では少し改善の兆しが見えてきたかなという感じもしますが、完全に持ち直すには何年もかかるかもしれません。ただ、ダーツプレイヤーがたくさんいるのも事実です。今ではソフトよりハードのほうが人気があるようですしね。
しかし、デザートクラシックのような大きな大会が、テレビで中継されないために開催が危ぶまれています。問題は、テレビ業界を初め、大きな会社からのサポートがまったくないということです。本当にアメリカの市場は厳しい状況です。
なぜアメリカではテレビ等のサポートが得にくいのでしょう?
アメリカにはその他の競合スポーツがたくさんあります。アメフト・野球・バスケットといったビッグなスポーツが目白押しです。そういったスポーツに比べて、ダーツはいまひとつ小物とみなされているんです。3年前にコネチカット州でダーツのワールドシリーズをやってテレビ中継もされました。当時は私もこれでダーツ人気が復活すると思ったんです。でも蓋を開けてみたら、対戦方式がアメリカ人プレイヤー対ヨーロッパ人プレイヤーの1対1という形になっていて、1回戦でアメリカ人プレイヤーはごっそり消えてしまった。
結果は明らかでしょう?当然アメリカのオーディエンスにして見れば、おもしろくないのでテレビを消してしまう。アメリカの視聴者はやっぱりアメリカ人がプレイするところが見たいんですよ。ちょっと悔やまれますね。
オランダはいかがですか?
オランダ市場も今急激に下降し、とても難しい局面を迎えています。オランダの人口はわずか1500万人です。にもかかわらずダーツはテレビなどで過剰に中継されていました。ちょうどアメリカとは正反対の状況ですね。ヴァーナヴェルドがワールドチャンピオンシップで優勝し、オランダ人としては全てのスポーツを通して初の世界チャンピオンになりました。
彼はあらゆる雑誌の表紙を飾り、新聞でも取り上げられましたので、ダーツ市場も一時は盛り上がったんです。しかし、盛り上がり過ぎて共倒れとなり逆にテレビ中継なども急激に減ってしまったんです。オランダのスポーツチャンネルが現在PDCと再び契約してまた中継を始める準備をしてはいるようですが、市場はブーム前のレベルに戻ってしまっています。
その他の国はどうですか?
先ほども言いましたがスペインは盛り上がっています。それからイタリアですね。彼らは本当にソフトダーツが好きですね。バレルも日本式のものを好んでいます。我々はイギリスのブランドで初めて、日本式のバレルをイタリアに紹介し、好評を博しています。
他と違うものを紹介できるというのは、嬉しいことですね。イタリア人も日本人同様デザインやスタイルにこだわりを持っているんです。グッチやフェラーリは世界を代表する偉大なデザインですよね。だからイタリア人は日本人のように、品質というものを理解していますし、良いものを欲しいと思っているのです。そこで我々はおしゃれな日本式のダーツやケースなどを提供しているわけです。ちょっと他と違うとか、そういうものを求めてるんだと思います。
では最後に本国イギリスの状況はどうでしょう?なんといってもダーツ発祥の地ですし、今でも世界をリードしていますが。
PDCの出現がイギリスのダーツを劇的に変えました。ちょうどこの前ロンドンで開催されたプレミアリーグを見てきたんですが、8000人の観衆が8人のプレイヤーのダーツ決戦を見守っていて、本当に圧巻でしたね。PDCが成し遂げたのは、観客にダーツを魅せるということだと思います。観客自身がダーツをプレイするとは限りません。
でも彼らはゲームそのものを楽しんで見ているのです。今ではダーツは大人気で、プレミアリーグもあと3箇所イギリス各地を回るようです。まったくPDCの貢献は大きいと思いますよ。そんなわけでイギリス市場も伸びています。これはやっぱりテレビの力が大きいのではないでしょうか。スポーツにしても何にしても、テレビの後ろ盾があるというのは強いです。
イギリスのその他の団体、例えばBDOについてはどうですか?
私にはあまり情報が入って来ないですね。よく知らないことで間違ったことも言いたくないですから。
世界のダーツの未来はどうなりますか?
国によって違うでしょうね。個人的な意見を言わせてもらうなら、盛り上がっていく国はソフトが主流のところだと思います。例えばイギリスのパブでは10年くらい前からダーツボードを取り払って替わりにテーブルを増やす傾向があります。もちろん食べ物の売り上げが増えることを期待してです。一方スペインもバールの文化がありますが、今ではソフトのマシーンを置くことで、店は儲かる。更に、ソフトにはもっともっとプレイしたくなる、ちょっと抗い難い魅力があります。
私にとっては、それこそが成長なんです。個人的にハードダーツは大好きですが、成長というのは人がお金を使うから起こるのです。ソフトはそういう意味で動きのある市場が期待できると思います。それが盛り上がるということにつながるんです。
初めて日本にいらしたのが6年前ということでしたが、そのときから日本の印象は変わりましたか?
私の日本の印象で一番大きく変化したものは、バレル市場です。初めて来日した頃と今では、随分違うタイプのバレルが出回っていますね。日本ブランドのものが増えました。6年前はプレイヤーにあまり選択の余地はありませんでしたし、ダーツグッズを作っているのもほんの数社でした。でも今や多くのブランドが参入して、世界的ブランドも苦戦しています。特にプレイヤーたちのニーズ等に合わせて、市場の動きが早いですからね。でも、本当に日本市場のバレルには想像力を掻き立てられます。
デザインなどを含め素晴らしいですよね。もう新しいものは出ないだろうと思っていると、また違ったアイデアのものが現れる。だから我々も、それに太刀打ちできるようなデザインを作り出すよう努力しているんです。それから、服とか小物なども全体的に更におしゃれになりましたね。
ニューダーツライフを見ても、そういうお洒落なものが紹介されています。我々としてはその傾向は大歓迎です。ダーツはスタイリッシュ、ダーツはかっこいいと思ってもらいたい。あのカッコいいバレルが欲しい、お洒落なダーツケースも良いな、みたいにね。だからそれは、ただダーツをプレイするということだけではなく、ライフスタイルの提案なんです。
去年からPDJがスタートしましたが、あなたもメンバーの一人ですよね?
ええ。横浜でファイナルをやりましたね。東地区と西地区に分かれて予選もありました。大成功だったと思いますよ。PDCの予選でも150人集まれば良いほうなのに、300人近くの参加者が来てくれて、びっくりしました。あんなにたくさんのプレイヤーがハードに挑戦してくれて嬉しかったですね。プレイヤーの質も高かったです。ソフトで名が知られてきたプレイヤーが、ハードもプレイするようになってくれるというのが、まさに我々の狙いなんです。
将来的には、PDCサーキットで活躍する日本人プレイヤーに出てきて欲しいですね。もちろん時間はかかるでしょうし、簡単なことではありません。でも次世代のスーパースターは、アジアから出てくるというのが私の持論なんです。アジアのプレイヤーのダーツへの取り組みを見ているとそう思えてならないんです。
日本代表ハルキ選手の試合はご覧になりましたか?
見ましたよー!すごく良いゲームでした。巨大なワールドチャンピオンシップのステージに対照的に、彼は小柄なプレイヤーですからね。でも彼の姿を見て誇りに思いました。第一ラウンドは勝ちましたし、次でもロニーを苦しめていましたからね。よくやったな、という感じです。PDJにとっても、日本のハードダーツシーンにとっても、凄くいい出来事でした。やれば出来るというのを見せたと思います。
6年前と比べて日本人プレイヤーの印象は変わりましたか?
そうですね、みんなが憧れるような頼もしいスターがでてきましたよね。今やダーツは経済面でも貢献していると思います。それはそういう有名選手が各ブランドの顔として、自分のダーツを売ることが出来るということです。彼らが勝つと、みんなはチャンピオンの使っているダーツを欲しがる。そういう図式はビジネスとしても、ダーツシーンそのものにも良い影響を与えるんです。それに値する良いスタープレイヤーが増えてきてますよね。
日本のダーツの未来は?
トーナメントの賞金がどうなるかというのは、日本のダーツの未来を大きく左右すると思います。今のところ法的に色々問題があるようですが、賞金が出ることによって、職業としてのダーツがもっと成立しやすくなるんです。15年くらい前にPDCが始めたことに少し似ています。ランキング上位に入れば、他に仕事は持たなくても、プロのダーツプレイヤーとしてやっていけるというシステムを作ったんです。日本でも同じようなことが実現できれば、将来は明るいでしょう。
特に日本はすでに良いプレイヤーも多くいますし、スポンサーする会社も他の国と比較するとたくさんあります。ここで言っているのは、小さい額のお金ではありません。大きい賞金を出すことで、ダーツシーンが活性化するんです。PDCもそうです。ランキング35位でも生活が成り立つ。そのくらいの賞金です。そうすれば生活の心配なくダーツに集中できる。そういう図式が出来れば、おのずと人は集まり、人が集まるスポーツは自然と栄えるのです。