2004年11月号
世界最高峰のダーツのプロが所属するPDCのトッププロ、二人が日本の各地を巡り 日本のダーツプレイヤーと触れあった10日間涙あり、笑いあり、それはどんなダーツ旅だったのか…
来日までのいきさつ
初めてのPDCの取材ということもあり、昨年のアイルランドのパディーパワー・ワールドグランプリでは本当に興奮しました。その様子はVOL・5にてお伝え致しましたので、ぜひ一度お読みいただけるようお願い致します。
その際にどうにかしてこのプレイヤーたちのプレイを日本のプレイヤーに見せることはできないだろうかと考え始めました。しかも日本の各地を巡って、たくさんのプレイヤーに触れることができるような形式がいいな…。日本に帰ってから数人のプロたちとメールや電話のやりとりをした結果、特に意気投合したアラン・ウォリナー氏に正式に打診することにしました。彼のフレンドリーな性格や、大きなトロフィーを幾つも取っていること、そしてコリン・ロイド氏と大の親友だという事などが理由として挙げられます。言葉も習慣も違った国、長いツアーを一人でこなすのはなかなか難しいものですから。こうして二人の来日が決まったわけですが、来日の契約書にサインがされた時は思わず椅子から飛び上がるほど興奮しました。そして日本各地の方々と相談、現実的なツアー計画を始めました。場所の選定、接触した人物などは普段からおつき合いがあり、即決していただいた順番で他意はございません。
8月22日 到着 Welcome Party
二人が到着した8月22日は成田は夏期休暇真っ只中、大混雑でした。入管を通って出るまでに約2時間、そして高速は大渋滞。ウェルカムパーティーの開始予定時間に随分と遅れてしまったことを誌面で深くお詫び申し上げます。
アラン氏、コリン氏、共に長旅の疲れも見せず、ご参加いただいた面々と楽しくダーツを投げていただきました。日本のトッププレイヤーにもご参加いただいき、プレイできたことは彼らにとってもかけがえのない経験となったようです。誌面にてお礼を伝えてほしいとの伝言を預かっております。
パーティーはハードが2面設置されている東京の英国パブで開催したのですが、それはほとんどソフトダーツを投げたことがない二人からのリクエストです。やはり英国人、パブが落ち着くのでしょう。そして初日から全く異なった文化との触れあいは特にダーツにおいては避けたかったのかもしれません。
私どもがVOL・9の締め切りに追われ、パーティーがいささか中途半端なセレモニーになったことに関しては、ご容赦いただけるようお願い申し上げます。
8月23日 松山 Matsuyama
二人を招く際に各地でささやかれ、危惧されたのが、本当にPDCのプロプレイヤーがソフトダーツを気持ち良く投げてくれるのだろうか?という事でした。世界最高峰のハードの舞台で活躍する彼らは、当然ハードにおいて強烈なプライドを持っているので、ソフトダーツは遊びダーツとしか認識していないのでないか?
来日する前からコンタクトを取っていた本誌は、その点で全く心配をしていませんでした。それどころか、彼らはソフトダーツに興味を持っていたほどなのです。日本はダーツではあまり知られていない国だが、何でダーツがブームになっているんだろう?普段はハードダーツしかプレイする機会がないが、果たして人々を魅了するソフトダーツというのはどんなものなのだろうか?これからのダーツシーンしだいで英国でもポピュラーになるのだろうか?いつか世界中のバーで見ることができるようになるのだろうか?
そんな、いくつかの疑問を持って彼らは来日したのです。ですからこのツアー期間中、ソフトにおいてもハードと同様に、心のある、魂の入ったダーツを投げていただきました。
初日の松山ではハードとソフト両方のトーナメントが開催されました。会場入りすると、月曜日にもかかわらずかなり多くのプレイヤーが待っていました。休みを取って参加していただいた方や仕事帰りにかけつけてくれた方も多かったようで、本当に感謝申し上げます。
試合はハード、ソフト共に二人は勝ち面目を保ちましたが、旅の疲れと時差ボケの影響で必ずしもダーツの飛びは納得のいくものではなかったようです。
余談になりますが試合が終わってから、スタッフの方々と一緒に二人にとって初体験の居酒屋に行きました。そこで初めて日本酒と焼酎を味わいました。感想:アラン「これは相当、奥の深い飲み物だね、美味しいよ」。コリン:「これは強い飲み物なのかな?スムーズに飲めるから、危険だな。ダーツの時はワインかビールぐらいが適当だと思うよ」。
四国を代表する篠原さんや遠く東京から駆けつけていただいたジョニーさん、熱い戦いができて二人ともたいへん喜んでいました。ぜひ再対戦しましょう、と伝言しておいて下さいとのことです。
8月24日 岡山 Okayama
二日目は岡山まで瀬戸大橋を通って車で移動、約4時間の道のりでしたが、途中で後楽園に寄ることが出来ました。本などで日本庭園の美しさはよく目にしている二人ですが、実際目の前にすると、さすがに感心しきりでした。日本の誇る有数の庭園なのですから、当然のことです。しかし、日本茶は少々苦手のようでしたが…。
ダーツはどうだったでしょうか。昨日よりは飛びが良くなってきていたようですが、それでも二人は満足していませんでした。しかし、ソフトダーツだけを投げ続けるという練習にはなったと思いますし、Dー1というマシーンも経験しました。昨日はメダリストの機械だったので、後に印象を尋ねると、両者共に「そんなに違いは感じられないね。きっともっとプレイしていくと幾つかの相違点が見つかるかもしれないけど、ダーツはダーツ。ようするに楽しめるかどうかじゃないか」という返事が返って来ました。
試合は岡山の誇るプレイヤーの山口さんと嵐さんとの対決。特に嵐さんはあと一歩でアランを打ち破るところでしたが、最後の1本を外してしまい、本当に惜しかったと思います。
嵐さんのダーツフォームはとても魅力的だと思うのでそれについて尋ねてみると「実にいいね、個性がある。身体が柔軟だしダーツに伸びがある。きっと彼はもっともっと上達するんじゃないかな」。と、アラン。
この後日本のダーツについて一緒に語り合いたかったのですが、時間の都合がつかず実現できなかったのが残念です。
試合が終わると一気にサインの時間です。あっという間に二人はたくさんの人々に囲まれ、用意された色紙やTシャツ、写真撮影と大忙し。そして、会場の後は二人分かれて、3店舗づつダーツバーを回りました。かなり日本のダーツ事情にも詳しくなった事でしょう。PDCの他のプレイヤーに、「火曜日の深夜なのに、どのダーツバーもかなりたくさんのプレイヤーがいたよ。日本のダーツシーンは恐るべしだね」なんて語っていたら嬉しいですね。
もし、そんな場面があれば、今回のツアーはある面において、成功と言っても良いのかもしれません。
8月25日 大阪 Osaka
さあ、3日目の地は日本の大都市のひとつ、大阪です。ソフトダーツの飛びも今までとは全く違ったものになっていました。力の入り方が実にスムーズ、ダーツの描く弧はより直線的になり、おもしろいように的に吸い込まれていきます。一緒にいても二人とも身体から素晴らしいオーラともいうべきパワーが溢れていました。きっと、時差ボケも解消され、長旅の疲れも癒されたのでしょう。「日本中のプレイヤー、挑戦に来い!」みたいな感じです。このツアー全体を通して彼らの調子がピークだったのは、後から思い起こすと、この頃だったのかもしれません。
実は彼らにとって、ツアーの忙しい日程以上に大敵が存在していたのです。それは日本特有の湿気のある夏なのですが…。英国では夏であっても、日本のような湿気はありません。また、夜ともなると、何か羽織るものが必要なほど、気温も下がります。
来日して以来、二人はずっとホテルで昼も夜もエアコンの中で過ごしていたため、ツアー日程の後半頃から、体調を整えることがとても難しくなりました。コリン氏は身体に湿疹ができ、アラン氏は腹痛に悩まされました。全国各地で必ずしもベストのプレイができなかったのは、そんな事情もあったことを、ご承知いただければと思います。
大阪のプレイヤーは大歓迎で迎えてくれました。彼らのダーツの調子も良かっただけに、楽しい時間を過ごしていただけたことでしょう。二人は張り切って、椅子の上から、または膝を床に着けてなどエキシビジョンで行ういろいろなプレイをしましたが、参考になったでしょうか。二人から:「ダーツでは身体は絶対に動いてはいけないんだ。自分で動くから、よりダーツを難しくしている。それを知るために、椅子にのって投げてごらん。土台がしっかりしないと投げにくいでしょう。それは足をしっかりさせなさい、という事なんだ。また、膝を床につけて投げることもぜひ一度試してみて。身長によって投げる高さは人それぞれ異なるから、各々のダーツの円の軌跡は異なるけれど、この練習は自分の軌跡が見えやすいよ。大阪のプレイヤーの皆さん、またお会いしましょう」。
8月26日 名古屋 Nagoya
大阪から名古屋までは新幹線を利用、距離も近いためとても快適な移動でした。二人ともそろそろ疲労を感じ始めていたので、会場入りする前はホテルで休憩…。午後7時に名古屋のダーツシーンをリードするマカンに到着、大声援の中、ダーツが始まりました。ここではプレイヤー一人ずつとゲームを行い、最後にワンポイント・アドバイスをもらうという形式を取りましので、ご参加いただいたプレイヤーには十分にご満足いただけたことと思います。
ゲームが始まると、初めは二の足を踏んでいたプレイヤーも会場の雰囲気が和むにつれ、我も我もと争ってゲームに挑戦するようになり、名古屋のダーツが熱いことを印象づけられました。
ゲームの後で行ったワンポイントアドバイスなのですが、彼らが多くを語らないので、不平不満を持ったプレイヤーもいたようですが、実はそれには訳があります。二人はけっして人のダーツについて批評しないからです。また、特に技術に関してはある意味で触れることを避けます。それは、伸び盛りのダーツを型にはめたくないということ、そしてダーツではこれが最も正しいという理論など無いと言うことを、示しているのです。自分の好きなプレイヤーがいたら、研究するのは勿論良いことですが、コピーするのは自分のダーツの個性を捨てることに等しいのではないでしょうか。ダーツというゲーム、本当に難しいですね。
しかし、彼らはリーグ戦などで、試合の経験を積むことを薦めています。その中から学んでいけることは、ダーツそのものとまで言い切っています。自分だけでプレイして、カウントアップという練習ももちろん良いのですが、ダーツは戦うスポーツだということが言いたいのでしょう。負けたから、もっと努力する、恥をかいたから、この次は…という様に、ダーツは人間らしいスポーツなのですね。
ハードでの二人のエキシビジョンを行うと会場は圧倒され、感動ともいえる溜息に包まれました。満喫した参加者の様子が感じられたので、予定していたソフトを見るまでもなくそこで終了させていただきました。PDCを代表する迫力満点のダーツを体感していただけたことでしょう。