Iyo Matsumoto-Vol.60.2013.3-Top

Vol.60 松本 伊代
人と話すのが苦手だったんです

2013年3月

ダーツの出発点を教えてください。
20歳になった時に父が「成人になったからバーというものを教えてやろう」と、ダーツバーに連れて行ってくれたんです。そこでマイダーツをもらえるというので父と勝負したんですけど、私は100円でもらえたんですが、父は5千円くらい使ってももらえなかったんです(笑)。負けず嫌いなので「娘に負けるとはありえへん!」と一人で黙々と投げてたんですけど、結局それでも足りなくて……。その時父は普通の飲食店をやってたんですが、次の日にいきなりダーツを置くと言い出したんですよ。それが私のダーツの出発点ですね。

真剣にダーツを始めたのはいつ頃ですか?
4年前です。父の店にダーツを置いた頃は全くダーツには興味がなかったんです。たまたまあるトーナメントにお客さんに誘われて、だましだましレディースシングルに出たら優勝してしまったんです。そうしたら周りからプロテストを受けろと言われてその気になったんです。私も負けず嫌いなので、受けるからには落ちて笑われたくないと、テストのために真剣に練習し始めたのが4年前なんです。

パーフェクトに参戦されていますが、いかがですか?
楽しいですね。今でもダーツ自体にものすごく興味があるかというと、そうでもないかもしれないんですけど、それでも誰にも負けたくないですね。同じように努力している人ばかりが集まってる舞台なので、その中で自分がどれだけやれるかといのも楽しいし、負けて悔しい思いをするというのもある意味の楽しさだと思うんですよね。パーフェクトは女子の中でもレベルが高いと思うので、その中でやっていける自分自身を楽しんで投げています。

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2012年は年間総合ランキング3位という結果でしたが、満足されていますか?
満足しているかと聞かれたらしてないです。やっぱり1位を目指して頑張ってきたので、年間を通しての結果については満足していません。もっとできたところもあったと思ってます。でも、最終戦まではランキングが4位でしたが最終戦で優勝できて、結果3位になれたことについては満足しています。最終戦ではスローハンドとしての最後のプレイヤーだったので、自分なりにプレッシャーもかけたし、その中で自分がどれだけやれるか、この一年頑張ってきた集大成だと思ってめいっぱいやりました。その結果が3位だったんで、そこに関しては満足しています。

2012年の第10戦で初めて優勝されて、涙の写真が編集部にも送られてきましたが、感激はかなりのものでしたか?
あの試合は自分の中でいろんな思いがあったんです。2012年はダーツを真剣に投げ始めて3年目、プロとして3年目という節目の年でした。そんな中で一緒に決勝の舞台に上がったのが同じKMプレイヤーだったので、「負けたくない、負けたらあかん」という気持ちが強かったんです。それと同時に、決勝まで同じKMプレイヤーが昇ってきたという感動もあり、さらに自分が優勝できたという喜びが込み上げて、涙、涙になってしまったんです。アマチュアの試合では優勝できてもパーフェクトでは優勝できないだろうと、お店のお客さんにもさんざん言われてきた3年間だったんで、「パーフェクトでも優勝できたんだ」という思いでもう感無量になってしまって……、ただただ泣いてしまいました。

今日は2013年の開幕戦ですが意気込みはいかがですか?
今までは「悪くても3位以内」というのを目標にしていましたが、2012年はその目標の3位に入れた年でした。今年はそれ以上のプレッシャーがあって、開幕戦は良い成績は残せないだろうという不安が正直ありました。もちろん優勝を狙いたいという気持ちもあったんですが、このオフシーズンにどれだけ練習してきたかの成果が今日の結果で、これが今の自分の実力だということを思い知らされました。今年は新たな目標に向かって頑張って行かなくてはならないと改めて思いました。

現在松本恵選手が4連覇中ですが、伊代さんから見てどんな選手ですか?
松本選手とは毎回当たりたいと思ってパーフェクトに出ています。でもどうせ当たるなら決勝でやりたくて、決勝まではなるべく当たりたくない相手なんです。今のところ決勝までに当たった時は私が勝つ方が多いんですけど、決勝で当たると全部負けてるんですよ。だから決勝で松本恵選手に勝つというのが一番の目標ですね。

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ご自分のことをどのようなプレイヤーだと思いますか?
そうですね……。プライベートもそうなんですけど、ハングリー精神が強いので負けず嫌いのプレイヤーです。有名な選手ほど倒したいと思うし、有名な選手には負けられない、負けたらあかんという気持ちが強いです。私はそういうプレッシャーを抱えれば抱える程強くなっていくんです。そのプレッシャーの壁をぶち壊すたびに強くなったと思えるんですよ。今年でプロ4年目ですが、この4年間で毎試合毎試合強くなっていくのは、このパーフェクトの会場であり他の選手達のお陰だと思ってます。そんな中でできるだけ自分自身にプレッシャーをかけるように、背負えば背負う程強くなる、それが松本伊代なんです。

試合前に気をつけている事などはありますか?
一つの試合に出る度に特に女子はフォームが崩れやすいと思うんです。だから試合後はフォームの確認のために、盤に近い所からなるべく遠い所に手を伸ばすことを意識して、狙わずに調整しながら投げることをしています。それから、試合の前日はとにかく体を休めるようにしています。普段は店に出ていて夜の仕事なので、試合の時は生活のリズムが変わってしまいます。その分体を休めるのが一番の練習方法だと思うんです。

今までで印象に残った試合は?
初優勝した去年の横浜でのパーフェクト戦です。初優勝した時は何とも言えない気持ちですよね。決勝の相手は松本恵選手じゃなかったけど、念願のパーフェクト優勝だったんで、やっとプロとしてのスタートを切れたかなと思う試合でした。今までではあの試合が一番印象に残っています。

普段の練習時間や内容は?
練習内容は、カウントアップや1501でフォームの確認をします。1501では下2桁で上がり目の練習をしたり、クリケットを一人でやって各ナンバーをセブンマーク以上出してから次のナンバーを狙うという練習をしますね。練習時間は特に決めていないので、自分で納得がいったらそこで終わりにしています。お店が日曜日休みなので、その一日だけは休みますが、それ以外はほぼ毎日投げています。

今ダーツで一番大事にしているポイントはありますか?
自分の理想のフォームがあるので、それを大事にしています。動画を撮ってもらって、負けた試合と勝った試合のフォームの違いを研究したりしています。それから精神面も重要なポイントですね。一人で練習することが多いので、自分が倒したいと思う相手を想像しながら練習したりして、精神面も鍛えるようにしています。

現在はご自分でお店をなさっていますが、いかがですか?
私は元々人見知りな性格なので、人と話すのが苦手だったんです。今もまだ人見知りなんですけど、お店を始めたこととプロになったことによって自分自身が変わりました。まず自分から積極的に話ができるようになったし、自然と笑顔が出るようになりましたね。せっかくお店に飲みに来てくださっているお客さんに楽しんでいただきたいという気持ちがあるので、何気ない会話ができるようになったのが最近の自分です。お客様を自分の友達のように思うと、その人がどんなことを考えているのかが少しわかるようになってきました。これはお店を始めて、いろんなお客さんが来てくださるおかげです。

先ほどもかなり強いお酒を飲まれていたようですが、お酒は相当強いのではないですか?
普段はまったく飲まないんですよ。練習する時も全然飲みません。飲まずにしらふで投げるのがメインなんですけど、試合の時だけは別なんですよね。集中しようとすればするだけ血糖値が下がりやすいんで、試合の時だけ飲むようになったんです。ちょっと体温を上げるというか、血糖値を上げるというか……(笑)。

尊敬するプレイヤーは?
プロとして頑張っているプレイヤーは全員尊敬しますね。自分でも実感しているんですけど、プロという名目がつくだけでそれなりのプレッシャーとか看板を背負っているじゃないですか。みんなすごく努力しているし、試合ではどの選手も優勝目指して必死です。そういうプロプレイヤーは全員尊敬しています。

ダーツの魅力は?
まず、自分がダーツをしてなくてダーツバーで働いていなかったら
出会えなかったような人達と出会えるというのが一番の魅力だと思います。そして初対面なのにダーツがきっかけで話が合って、共通の話題ができるというのもすごいことですね。
例えばプロ野球だったらプロの選手とキャッチボールをするなんてことはめったにないじゃないですか。でもダーツならお店に会いに行って話したり一緒に投げたりすることができるのは楽しいですね。年齢と性別も関係なく交流できるのはダーツだけの魅力だと思います。

ダーツ以外の趣味は?
ネイルです。全部自分でやっています。

今後の目標や夢は?
パーフェクトで年間ランキングトップを獲る事が目標であり夢です。今はそれだけを目指してただただ練習しています。みんなに抜かれたくない、トップのメンバーに追いつきたい追い抜きたい、という一心で頑張っています。

最後に読者にメッセージをお願いします。
私がプレイヤーとして出た時は、名前だけが先に目立ったと思うんです。松本伊代という名前だけが先走って、「名前だけは知ってるけど松本伊代ってどんな子なん?」って感じが強かったんです。その名前だけが目立った中で「松本伊代とはこういう人間だ」ということを分かってもらうことが最初の目標でした。
とにかく「私が松本伊代だ」ということを分かってもらうために結果を残さなくてはという思いで頑張ってきました。そんな中で最初から応援してくれた人もいるし、ある程度名前が知られてからも、一戦一戦動画を見たり会場に足を運んでくれたり前日にメールをくれたりと、私を支えてくれる人達がだんだんと増えてきました。その人達には本当に感謝しているし、私はその人達のためだけに、その人達のパワーをもらいながら頑張って行こうと思っています。今の松本伊代があるのはそんな方々のお陰です。本当にどうもありがとうございます。