Takehiro Suzuki-Vol.50.2011.7-Top

Vol.50 鈴木 猛大
ダーツ台の前に立つとお店でも足が震える

2011年7月

パーフェクト、昨年は年間ランキング5位でしたね。
この結果は悔しいですね。最終戦、小野選手との対戦だったんですが、その試合に勝ったほうが4位という状況だったんです。僕が2レッグ先取していて、3レッグ目も9・9のスタートでした。この頃から緊張感が出てきて最後逆転されてしまい、最終的には2ー3で負けました。終わりよければ全てよしとよく言いますが、僕の場合は納得できる順位ではなかったですね。

2010年パーフェクトの1年間を振り返っていかがですか?
僕は2010年最初の頃は10位~8位をうろうろしていたんです。自分としては、去年一般の大会に出場すると優勝していたという印象があるんですが、やっぱりパーフェクトはレベルが凄く高いなと思いましたね。誰とあたっても決勝戦のような雰囲気があったので、前半はちょっと戸惑いました。僕はパーフェクトに挑戦を始めたのが2010年からだったので、やっぱり新しい雰囲気に慣れるのに時間がかかりました。
でも新潟で優勝できた頃から、「行けないことはないな」と思い始めたんです。実は僕、去年1年間練習時間というものをほとんど作らなかったんですよ。お店のほうが順調だったせいもあって、本当に1日カウントアップを2~3回出来ればいいという感じでした。そんな状況でも優勝できたので、まだいけるんじゃないかと思ってました。でも、やっぱりそこまで甘く無かったですね。

今年の調子はいかがですか?
今の時点で4戦終わっているんですが、ベスト16とベスト8までしか勝ち上がれていないんです。色々な人に言われるのは、可も無く不可も無いちょっと中途半端な位置だということですね。凄く悔しいです。自分としては、気が抜けている訳でもないし、疲れがピークに達している訳でもないんですが、何か集中力がふっと切れてしまうような感覚があるのかもしれません。
この前江口選手に、「長い時間戦うのによく集中力が保てるね」と聞いたら、「集中してないもん」と言われました。気負わず投げて入るような感覚を身につけてしまえば、集中しないでも入るということなんでしょうね。僕もなるほどな、と感心させられました。フルレッグまでいくような厳しい試合1戦ごとにあまりにまじめに力を入れすぎると、逆に集中力や体力は切れてしまうので、もう少しラクに投げられる方法を今考案中です。

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鈴木選手は、ご自分をどんなプレイヤーだと思いますか?
僕は、勝てると思う瞬間が来ると、気が緩んでしまうところがありますね。だから、競り合っている試合のほうが良い成績を残せる気がします。負けそうな時のほうが集中力が続くんです。だから、僕は2ー0から負けることが凄く多いんですよ(笑)。調子が良いと隙が出来るんでしょうね。この前のスーパーダーツのときも、01の削りは完璧だったと思うんです。それで相手との差が300点以上離れていたので、バーストしても次をしっかり狙って01を獲り、クリケットを頑張れば大丈夫だろうと高をくくっていたら、気が緩んだみたいです。その後のクリケットが、まったく入らなくなってしまいました(笑)。甘えが出てしまう性格なんでしょうね。

ダーツを始めたきっかけを教えてください。
飲んでいるときの遊びではなく、競技としてのダーツをまじめにやろうと思ったきっかけは、今のトゥルーブルーというお店の店長を任されたことが大きいですね。店長を始めてみたら、お店がとても暇だったんです。でも営業時間は決まっているから、その間はお店にいなければいけませんよね。それで、お客さんがいなくてもダーツは出来たので、自分がダーツを一生懸命練習して、それでお客さんを呼べるようにしようと考えたんです。それが1年くらい続きました。それから、近くのお店のハウストーナメントなどに出るようになりましたが、大体どこでも優勝できるくらいの実力は付いていたんです。
そして、初めてシングルスの試合に出てみようと思ったのが、エレメントサードという大会でした。そこで1番最初に戦った相手が、burn.に出場していた選手だったんです。相手の選手も多分緊張していたせいか、最後のクリケットで相手が、15シングルを3本入れれば勝ちという状況にもかかわらず3振したんです。それで、結果的に僕が勝つことができました。そこから勢いが付いたのか、もう自分でも驚くような勝ちが続いて、自分のダーツ競技人生が始まったという感じです。それが2008年の5月頃のことでした。

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今までにスランプの経験はありますか?
恐らく、今がそうですね。スランプという程大げさなものではないのかも知れませんが、ダーツ台の前に立つと、それが例えお店でも足が震えるんです。自分で何かを抱え込んでしまっているのかなと思います。最近はちょっと、言い訳をしながらダーツを投げている感じです。そのトゥルーブルーというお店も、今は平日でも県外からたくさんお客さんが来てくれていて、その方々に良いダーツを見てもらいたいと思うんです。

でもそう思えば思うほど、足がガクガクなってしまうんですよ。それ以外には特に症状のようなものは無いんですが、トーナメントなどで多くのお客さんが見てくれていると、良いダーツを投げたいという思いが強すぎて、かつて無いほど緊張するんです。僕は元々1試合目は緊張するタイプなんです。1試合目というのはそのトーナメントの雰囲気を見ながらやるので、やっぱり緊張するんですよね。でも最近の緊張の度合いは、ちょっと今までと違う感じがします。

過去に印象に残った試合などはありますか?
2008年、フェニックスカップ北九州という大会に出場しました。僕は宮崎に知り合いが居て、今度大会があるから旅行においでと呼ばれ、その大会に出場させていただいたんです。その大会ではダブルスとシングルス両方出たんですが、そこで、DVDでしか見たことの無かった星野選手と初めて対戦したんです。そのときのゲームが、01、01、チョイスというフォーマットで、先攻後攻入れ替わりでした。1レッグ目は僕が先攻で獲って、2レッグ目は星野選手が先攻だったんですが、星野選手が1本はずしてそのレッグも僕が獲ったんですよ。そうしたら、後ろで見ていた観客の方々が、一斉に居なくなりました(笑)。「やっちゃた、俺?」と思いましたね(笑)。それが凄く印象的でした!その試合は、僕も本当に緊張しましたが、DVDなどでいつも見ているあの星野選手でもはずすことがあるんだなと、とても思い出に残っています。

練習方法を教えてください。
対パーフェクト用の練習は、試合の2週間位前からまず腕立て伏せをやります。試合で緊張すると、力み過ぎてもの凄い力でダーツを投げてしまうので、そういう状況でもダーツをコントロールできるように、身体の筋肉を張り詰めておくんです。軽く投げてもしっかり飛んでいくような、筋肉の張りが欲しいんですね。それは昔から続けています。大会が無い普段のときは、20回を2セット腹筋と一緒に寝る前にやるんですが、大会2週間前から3日前までの間は、その倍の量をやります。寝る前にやると、次の日ダーツを投げると筋肉が張っているのがわかるんです。
僕は基本的に一人で練習するのが嫌いなんですよ。だから、カウントアップを2~3回やったら、あとはオンラインでやります。オンラインって、凄く緊張するんですよね。だから、その感覚の中で、どんなゲーム展開になるかなと、考えながら練習します。練習は時間が許す限りやります。最近では、朝お店が始まるときの1時間と、終わってからの2~3時間やったりします。

ダーツの技術面で一番大事にしているポイントは?
上から投げ下ろすことですね。構えがいくら低くても、肘が目線に来るように上げて、叩き落すような感じで投げます。僕の理想は、直線でダーツを投げることなんです。そうすると、飛びがきれいですから。リリースするときの打点の高さを凄く意識しています。僕はそんなに身長が高いプレイヤーではないですが、60を狙うときでも精一杯上から落とすような感じで投げてます。

鈴木選手は、イベントでも大人気だと聞きますが?
僕のやるイベントは基本的にチャレンジマッチが多いですね。でも僕自身は、イベントをやるならできれば1日店長をやらせて欲しいんです。お店を面白い雰囲気にするのが好きなので、チャレンジマッチなどにとらわれるのではなく、行ったお店のカウンターに入って、自然な感じでお客さんたちと接したいんですね。「1試合やりましょう」と言われたらダーツを投げて、またカウンターでみんなと話してから試合をする、というような雰囲気で出来たらいいですね。チャレンジマッチと変わらないように思うかもしれませんが、お客さん達とコミュニケーションを取りながら、ダーツの面白さを伝えたいんです。普通のチャレンジマッチだと、話をしたり出来ないんですよね。それだともったいないので、自分としては、1日店長のつもりでコミュニケーションしながらやっていきたいです。

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プロダーツプレイヤーは今やみんなの憧れだと思いますが、それについてはどう思いますか?
プロの試験を受けるだけなら誰でも出来ると思うんです。僕自身がプロになろうと思ったきっかけは、スポンサーさんが付いてくれたことが大きいです。そのスポンサーの方に、僕はアマチュアの状態で大会に出場して、プロの選手を全部倒せたら自分もプロになりたいと言ってきました。一昨年の年末のレボリューションでは、死に物狂いで頑張って優勝したので、これはプロとしてやっていけるなと感じました。それからプロに転向したんです。プロになること自体はさほど難しいことでは無いと思うんです。でも、プロとしての覚悟や目標を持ってやると、本当の意味でプロになれるのではないでしょうか。
パーフェクトの試合でもロビンの段階では、ダーツがとんでもないところに飛んでいくような選手も居ることは居ます。でも、そういう相手だとこちらも気が抜けてしまいますよね。だから、プロの大会に出ることに意義があるという考え方ではなく、プロであるからには、目標を持ってプレイして貰いたいですし、アマチュアのプレイヤーには絶対負けないという気概を持って欲しいです。ただ漠然とプロを目指すのではなく、優勝を狙うくらいの決意で挑むといいでしょう。

尊敬するプレイヤーはいますか?
やっぱり星野選手ですね。バレルメーカーが一緒ということもありますが、星野選手がプロという存在を一番守っていると思うんです。本当に凄いです。もう、ご本人自体がブランドという感じですよね。見習いたいです。星野選手を毎回「ぎゃふん」と言わせるような選手になりたいですね(笑)。

鈴木選手にとって、ダーツとは?
ダーツボード自体がお笑い芸人だと思います。お笑い芸人の方々は、人前以外ではつまらないというじゃないですか。ダーツボードも置いてあるだけではつまらないものですが、そこにダーツを投げる人々が集まってくることによって、凄く楽しくなるんです。だから僕にとってダーツボードは、動かないお笑い芸人が立っているように思えるんですね。それをどんな風に面白くするかは、自分次第ということでしょう。

今後の目標を聞かせてください。
日本で今ナンバー1といわれる選手がいます。でもダーツというのは、1番だから必ず勝てるという訳ではないですよね。それで、今ナンバー1は誰かと考えたときに、それぞれの人の意見があって、色々なプレイヤーの名前が挙がると思うんです。僕のひとつの目標としては、その中に自分の名前が入るようなプレイヤーになることです。もちろん、出るからには全ての大会で優勝したいというのが本音です。でもとりあえずは、強いといわれる選手たちの間に入って、こつこつとひとつずつ勝って行きたいですね。
それからもうひとつは、初めてダーツバーに行った人達に、楽しそうにプレイしているところを見てもらえるような選手になりたいです。自分が居るお店に来てくれた皆が、凄く楽しんでくれて、「ダーツが癖になったよ」と言ってくれたら本当に嬉しいです。あの店に行ったのに、身内ばかりで盛り上がってあまり相手にされずにつまらなかったという声を、たまに聞くことがあるんです。それは違うと思うんですよ。ダーツは色々な人達と簡単に繋がれる、シンプルなところが特徴なので、どこでもダーツを楽しめるように、皆に広めていける教祖のような存在になるのが夢ですね。

最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
ダーツはたった1投で決まるものではないです。今まで自分が投げて来た積み重ねが重要です。それから、1回投げるごとに「あれ?」というように首を傾げるのではなく、外れても毎回頷けるような、楽しいダーツを実践して欲しいですね。首を傾げていると、周りの人も面白くなくなってしまいます。プレイする人は1本1投を楽しんで投げてくれると、色々な人にダーツの面白さが伝わる筈です。それはトッププレイヤーだけに言えることではなく、普通にダーツを投げている人達も同じです。もっともっと自分自身がダーツを楽しんで、もっともっとダーツを盛り上げて欲しいです。幸せになれるダーツを、皆で楽しくやりましょう!

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【ダーツ テクニック】

GRIP
4フィンガーグリップ。親指と人差し指で軸を持ち、中指で上から押さえ、薬指で下を支える持ち方。
僕は4フィンガーグリップです。親指と人差し指で軸を持ち、中指で上から押さえ、薬指で下を支える持ち方です。僕はダーツを始めた時からこの持ち方で、まったく変わらず今も同じ形を通してます。握りの深さはコンディションによって変わりますが、基本の持ち方は変わりません。僕は2005年にburn.に出場した時のタロウ選手のフォームが凄く好きだったんですよ。それで、タロウ選手のグリップを見たらやっぱり4フィンガーでした。でも自分のグリップは誰かから教わったとかいうことはなく、初めに握ったら自然に4フィンガーだったんです。

SET UP
重心は右足に100パーセント。
セットアップのとき、足への重心は右足に100パーセントかけます。左足は0です。更に右足は、踵を上げるくらい親指のところに力を集中させ、前に重心を傾けて構えます。その時肩などはあまり意識しません。右足に重心をかけ、自然に手を引いてきたところに肩がある感じです。足はスローラインに対して45度くらいで立ちます。

TAKEBACK
手首をこれでもかというほど反り返らせること。
テイクバックで気をつけていることは、手首をこれでもかというほど反り返らせることなんです。ゆるやかに後ろに引くのではなく、思いっきりグッと手が一番下に行くところまで曲げます。つまり手首の曲がる限界まで真っ直ぐ引いてくるという感覚です。利き目である右目とターゲットのボードを結んだ線のところに、思い切り手首を折り返した点が来るようにします。それから位置的には、フライトが顔にあたるぎりぎりのところまで持ってきます。その時ダーツは、目の前というよりは目の横のところに引いてくる感じですね。

FOLLOW THROUGH
肘を中心にその弧の一番遠くを通るような気持ちで、たたきつけるように手を出す。
テイクバックでバレルを置く位置は右目とターゲットの延長線上なんですが、投げるときはその線より更に上を行くように腕を振ります。つまりその線に肘が行くような感覚で、肘から上の腕の部分が、肘を中心にその弧の一番遠くを通るような気持ちで、たたきつけるように手を出します。だからフィニッシュのときには、肘はかなり上がっている状態ですね。肘のバネで跳ね上げて、あとは手首を下のほうに落とすようにフォロースルーをとります。
僕は以前から、タロウ選手のように身長が高い選手のほうがダーツには有利だと思っていたんです。それで、松本嵐選手が足をバレリーナのように上げて投げるのを見て、誰でも打点が高いところを狙っているんだなと感じました。だって、高いところから手を振り下ろすだけで投げられたら、凄く楽ですよね。僕のこのスタイルは、そういうところを意識したフォームなんです。この形にしたら、飛びが凄くきれいになりました。ダーツが素直に真っ直ぐ飛んでいくんです。インブルに入ったときなんて、気分爽快ですよ。この投げ方をしていたら、負けても悔しくないと思えたんです。手離れもいいですし、本当にきれいに気持ちよく投げられます。それから、僕は以前野球をやっていたんですが、野球ではスナップが大事なんですよね。ダーツも同じではないかと考えて、スナップを利かせてみたら、これが飛ぶんです。
それを発見してからは、上からスナップを掛けて投げるようにしています。

SPIRIT
誰かから次の相手のことを聞いてしまうと大概負けてる気が…(笑)。
僕の場合、特にジンクスを持って同じ動作をするというようなことはしません。それにこだわると、逆にそのことが気になってしまうからです。でも実を言うと以前は、トイレに入ったら同じところを使うようにしていたんです。でも、そうすると混んでいるときなど大変なんですよ(笑)。だからやめました。今は一切こだわりはありません。スピリットとしては、強気で試合に臨むことですね。たとえ相手が無名のプレイヤーだとしても、「勝てるもんなら勝ってみろ!」という気持ちで戦います。逆に星野選手やジョニー選手のような強豪プレイヤーでも、まったく同じ強気で挑みます。それから、トーナメント表を見ないようにもしてます。知らないときのほうが調子が良いようです。でも誰かから次の相手のことを聞いてしまったりすると、大概負けてる気がしますね(笑)。