Vol.49 T-arrow Wantan
テイクバック フォロースルー

2011年5月

T-arrow × Wantan 対談
お二人とも随分久しぶりのようですね?
T:ほんと、お久しぶりです。アジア・パシフィック大会以来ですね。今トーナメントの方は出場していないのですか?
W:そうですね。目の問題があって、ちょっと嫌になってしまったというのはありますね。見えにくいんです。
T:では、ほとんど投げていないんですか?
W:いえ、ソフトのリーグ戦はちょこちょこ参加してます。でも、トーナメントには出てませんね。
T:最近は日本でもソフトで賞金大会が出てきていますが、その状況をどう思いますか?
W:僕は、それはそれでいいと思います。僕にとってソフトもハードも、基本は同じダーツという感覚はありますから。僕自身は、ハードでダーツを始めて今まで投げてきましたが、ダーツ仲間の間では、ハードのように計算しなくていいのでソフトに転向した人もいました。ソフトは比較的簡単だし、入り口が広がり、気軽にダーツを始める人が増えたのはいいことですよね。でもやっぱり、「世界に通用する」という意味では、ソフトにはまだまだ課題はあると思いますよ。
T:確かにソフトでどんなに活躍しても、世界的には取り上げられないですよね。ハードだと、各国から注目されたりしますからね。
W:世界ではソフトが盛んな国はまだまだ少ないですね。ハードではWDF(世界ダーツ連盟)という団体もあって、世界中で多数の国が加盟しています。そういうしっかりした団体があって運営しているので、ハードはちょっと違いますよね。

T:日本では、ハードの団体がちょっとごちゃごちゃしている状態があるじゃないですか。それが、綺麗にまとまればもっとハードを投げる人が増えるんではないかと思うんですが。
W:確かにそうですね。プレイヤーの立場で言えば、日本のソフトでは営利が先攻しているようなところがあるような気がします。そのせいでダーツを止めてしまうプレイヤーが多く出ないといいですね。
僕の願いとしては、日本から凄く強い選手が出てきて、世界で活躍してくれたらいいなというのがあります。そのためにも、僕は、ダーツの知識や技術を教えることに力を注いできました。
T:ソフトのプレイヤーは増えていますが、ハードでは、「どうせ勝てない」とか一部の人しか上位に上がれないという感覚があって、プレイする人はまだまだ多くないですよね。
W:それは変わってくると思いますよ。ソフトから始めた人でも、ハードに転向していく人は今後増えてくるでしょう。ワールドカップなどは歴史がありますし、PDCですら僕にとっては新しい団体です。現在活躍しているフィル・テイラーや、オーストラリアのサイモン・ウィットロック等もWDFにいました。そういう活動が下地になって、今の彼らがあるわけです。WDFで活躍すると、PDCに行きますね(笑)。
T:僕が見たWDFの選手でも、バーニー(ヴァーナベルド)選手がワールドカップで優勝してPDCに行きましたよね。
W:僕は当時、ウィットロック選手と対戦もしましたし、バーニー選手とはパブで投げたこともあります。フィル・テイラーともワールドカップの練習で一緒に投げました。他のボードが空いているのに、わざわざ僕の後ろに並んできたので、びっくりしましたよ。
T:僕がその状況にいたら、ビビリますね!でも、僕の後ろについてくれたのなら、一緒に投げたいです。
W:その頃フィル・テイラーは、エリック・ブリストウ、ジョン・ローに続く3番手くらいの選手でしたね。
T:その頃ワンタン選手は、ジョン・ロー選手などにも勝っていたんですよね?
W:そうですね。エリック選手ともいい勝負がありました。
T:注目されていたんですよね。

W:そういうこともあって、フィル・テイラーが後に並んだのかもしれませんね。今のフィル・テイラーは半端じゃなく強いですけど、当時は勝てると思いましたよ。だから、今活躍しているタロウ選手も更なる伸びしろがあるので、それを無駄にせず、もっと上を目指して欲しいです。
一番は練習ですね。僕はダーツを始めたのが遅くて25歳だったので、時間が無い分濃い練習をしなくてはと思ってました。ただ投げるだけで時間を無駄にしたくなかったんです。身になる練習を考えました。
T:僕はダーツを始めてそろそろ10年になるんですが、「もうひとつその先」に行くのが難しいと感じているんです……。
W:人より頭ひとつ抜け出すためには、自分で自分自身のことをわかっていないとだめだと思います。どこが悪いのか、自分でわかってないといけません。腕が悪いのか、メンタルが弱くなっているのかというように、何が自分の問題なのかを理解すれば、大丈夫ですよ。
T:ワンタン選手ご自身では、そういう経験はありませんか?
W:僕はわりと自分をわかっていたと思います。もちろんわかっても、ではそれを治すためにどうすればいいかということは難しい問題ですね。僕の場合は、メンタル面のことが難しかったですね。技術的なことは、目一杯練習しているので悔いなく投げられるし、負けても反省点が見えやすいんです。でもメンタルはそれとはちょっと違いますよね。メンタル面をどうすればいいか、ということが課題でした。色々な人と話す中で、ヒントを得ていくという感じで乗り越えてきました。色々やってみて、自分にプラスになることを探せばいいんです。
T:ワンタン選手はそれを30年近く続けてこられたんですよね。やっぱり凄いな。
W:いえいえ。以前ワールドカップで、アイルランドの選手がエリック選手と決勝で対戦したことがあったんですが、その時僕はその選手の年齢を見て、凄く驚きました。55歳だったんですよ!(一同驚く)

NDL:それならワンタン選手もまだいけますね!
W:僕は59歳ですから。
T・NDL:え!若いですね!
W:まあそれを見て、僕も55歳まではいけると思いました。実際そのくらいの時にダブルスでは勝ってました。やっぱり、プラス思考が大切ですね。
T:僕がワールドカップに出場したときは、メンタルの部分でも助けていただきました。おかげで不安を感じなかったです。
それに学ばせていただくことは本当に多かったですね。

お話は尽きないようですが、そろそろお二人の近況などお聞かせいただけますか?
W:僕の近況としては、老眼もあって、目が昔のようには見えなくなってしまったということですかね。自分でも、投げられないなと感じるようになることがあったんです。でも、最近は、「適当でもいいや」と開き直って、かえって投げられるようになりました。
本当はピシッと狙いたいですし、負けるのも嫌なんです。だから自分の中では葛藤があります。しばらく出場していたこともあったんですが、やっぱりいい気分ではないですよね。でもそれが、ごく最近、見えないなりに投げていたら、それなりに投げられるようになってきてます。ただ、周りは僕の状況を知らないので、入って当然という目で見るんですよ。それはプレッシャーでした。
T:それもメンタルですね。今の若いプレイヤーはワンタン選手が現役で投げていたのを知らない方もいますよね。僕の世代でも後半の活躍を知ってるだけですから。

NDL:タロウ選手の近況は?
T:パーフェクトに2戦出場しました。初戦は32位、そしてこの前はベスト8まで行きました。パーフェクトには今まで経験したことの無い独特の雰囲気がありますが、少しずつ慣れてきています。去年は試合から少し離れていたので、久しぶりに試合感覚がだんだん良くなってきているという実感はあります。だから、ダーツも楽しいですね。
W:タロウ選手なら勝てるでしょう。僕とやったときは凄く良かったですよね。それは、僕も一時期試合に出ていない状態だった時に出場した大会で、いい調子で勝ってたんですよ。でも、タロウ選手と当たったら、凄く強くて、びっくりしました。
T:僕もワンタン選手は僕にとって師匠みたいなものなので、胸を借りるつもりで思いっきり戦えるんです。
W:あの時のタロウ選手のダーツは、世界クラスでした。
T:ちょっと試合から離れていた間は、自分でも嫌になってしまうような気分だったんです。
でも、今年からまた出られるようになり、不安は大きいですし、周りからも期待されているところもありますが、あまり気を取られ過ぎないように、自分らしさを取り戻していきたいですね。最近は普段投げていても、良い感触です。ただまだ波があるので、この前のPDJでもそうですが、ダメなときはスコンといきます。もったいないことしたなと思います。
W:何が原因なんですかね?
T:やっぱり自信がないんですかね。メンタル的なところです。それに加えて、最近のプレイヤーは底上げが激しいです。レーティング17~18くらいに団子状態で選手がいて、そこから先に抜けているのが、何人かしかいないという状況です。そこから抜け出したいということです。今年、来年とあせらず固めていきたいですね。

今のテイクバックにたどり着くまでには様々な紆余曲折あったと思いますが、いかがですか?
T-ARROW
僕は最初ダーツを始めた頃は、テイクバックをこういうふうに引かなきゃいけないとか、考えたことはなかったんです。そのころは、最初の段階として自然な流れで引いてました。それからだんだん、より良い引き方に行き着くためにはどうすればいいか考えるようになったんです。その後、二の腕の方に手が倒れてくるようなテイクバックが一番真っ直ぐだし、自然なのではと思うようになりました。それが今の形の元になっています。
最初のうちは試行錯誤するようなこともなかったんです。でも、より正確に的を狙っていくためには、テイクバックは意識すべきところだと考えるようになりました。毎回テイクバックする位置がズレていると、リリース後のダーツも当然ズレてきますよね。だから、少なくとも、腕に対して手の先が真っ直ぐ折りたたまれているようなテイクバックになるように気をつけています。

WANTAN
最初の頃は、構えが長かったんですね。だから投げる時に、身体を使ってました。それから色々考えて今の形になったんです。ハードなので、テイクバックを引いて投げるとき、狙う的はより小さいですよね。だから、いつでも同じ動きで引かないと正確さが出ません。そこで考えるようになったのが、「自分にとってどういうテイクバックの形が楽か」ということです。いかに投げやすく引くかということですね。
僕は人に教える機会が多いんですが、そんな時よく「出前持ち」の例えを出します。今の若い方はあまり馴染みがないかもしれませんが、昔はおそばやさんなどが出前を運ぶとき、手に乗せたお盆を肩に担ぐように持っていたんです。その形ですね。そんな感じで引くと、いつも同じようなテイクバックの位置になると思いました。だから僕にとってのテイクバックの位置というのは、そこが基本です。

T-ARROW
落ち着いているかというと、わからないです。まだ今でも変わっているところはあると思いますから。その時その時の肘の高さによってもテイクバックの形は変わりますよね。だから今自分の投げ方が、「落ち着いている」という状態かどうか、ちょっと疑問です。うーん、「落ち着いて」はいないですね(笑)。やっぱり、引きたくない方向に引いてしまったりすることもありますし、それは肘の動きも大きく関係してくることですよね。テイクバックには安定感が絶対必要だと思うんです。そのために、肩の使い方や肘の出し方、身体の向きといったものを総合的に見て、もう少し自分にとって楽だと感じられる点を見つけたいと、現在考案中です。
以前大会に出場したときワンタンさんに言われたことがあるんです。疲れていて目がスウィッチすることってあるじゃないですか。僕は右が利き目なんですけど、知らないうちに左目で狙おうとしてしまうことがあるみたいなんですよ。それで、ワンタンさんが、「左で見ているからズレるんだよ」と指摘してくれて、左目で見ているせいでテイクバックの引きがズレていることに気付いたんです。そういうこともちゃんと確立しないといけないんだなと、納得しました。目がスウィッチしてしまうのは、自然の原理なのかもしれませんけどね。

WANTAN
僕の場合も、最近テイクバックの形はズレてきていると感じます(笑)。昔は落ち着いてました。さっきお話したように、出前持ちの形です。でも今は狙い過ぎている部分があるのか、ちょっとおかしくなってしまったという感じが凄くあります。ダーツの投げ方として、構えた位置から出前持ちのように引いて投げる、というのが僕の基本だったので、そのやり方を思い出せるときは良い感覚で投げられるんです。最初に確立した投げ方というのは、自分にとって実は結構良い投げ方なんです。だから、それを基本にしてさらに色々発展させていくといいでしょうね。自分が元々持っていた良いものを、更に研ぎ澄ましていくという感じですかね。
僕が今たどり着いた投げ方というのは、使うところが腕ではなく身体と指なんです。腕は使わないほうが良いと痛感しています。

ダーツを真っ直ぐ飛ばすためには、テイクバックは利き目の下に直線で引いてくるのが一番楽だと思いますが、それは難しいことですよね。フィル・テイラーなどは目に入るような位置まで引いてます。
T-ARROW
そうですね。僕はさっきも言いましたが利き目が右なので、右目の下までテイクバックを持ってくればいいんですけど、どうしても、時には鼻の辺りまで引き過ぎてしまうこともありますね。そういう時は腕が真っ直ぐ引けていないので、真っ直ぐ出ないんです。そういう時は見え方も違うみたいなんです。だから僕の場合は、まだ今の時点でテイクバックが確立されてないんですね。それが不調のきっかけにもなってるところはあります。自分では、利き目は右だと思うし、そこに引こうとしてはいるんですけど……。

WANTAN
利き目が曖昧になってしまうなら、違う方の目をつぶるといいですよ。タロウ選手の場合は右目が利き目だと思うなら、左目をつぶるんです。それから狙う位置を決めるとブレませんよ。同じ位置に引くという行為が狂ってしまうことはあるので、そのやりかたで練習するといいですよ。目をつぶると自分でも視野を確認できますからね。昔ボビー・ジョージというプレイヤーがいたんですが、左目の下に向かって右手で引くテイクバックだったんです。彼はイギリスではかなり有名な選手で、エリックとよく戦ってました。その投げ方を見て、僕はテイクバックの引き方を意識するようになったんです。

ユーミングは大事な動作
NDL:ジョン・パート以来、左が効き目のプレイヤーは手を曲げずに腕を真っ直ぐ伸ばして、頭を傾けるようなテイクバックの人が多くなったように感じますね。
W:ジョン・パートはそういう投げ方ですよね。でもマーク・ダドウィッチはちょっと違いますね。

NDL:そうでしたね。以前写真を撮らせていただきましたが、変わった投げ方で驚きました。
W:僕はジョン・パートの投げ方が、特に手の形が独特だと思いましたね。

NDL:次の質問なんですが、お二人はテイクバックを始動するタイミングをどのように取っていますか?
T:僕の場合は最初の段階で力みたくないので、軽いユーミングをいれ、ワンテンポおいて形をしっかり作ってからテイクバックに入ります。一時期ノーテイクバックで投げようとしていた時期もあったんですが、そのときでも軽くユーミングはやってましたね。

NDL:ユーミングにはどんな意味があるのでしょうか?
W:リラックス効果があると思います。
T:そうですね。やっぱりがちがちに握っているとユーミングできませんし、リズムを取るためにもやってます。

NDL:ゴルフでもユーミングは大切だとされていて、マスターズに優勝したような選手が、ユーミングが多すぎる自分のフォームを気にして回数を減らしたところ、まったく勝てなくなってしまったというエピソードを聞いたことがありますよ。
T:ダーツでは肘を固定する分、指でタイミングを取りたいんですよ。だから、ユーミングは必要な動作だと思います。いきなり投げ始めるのではリズムは取り難いですね。肘の土台が固まった状態から、軽く指でタイミングを取ることで投げやすくなりますし、変な力みも取れますね。
W:僕もそれはやってるかもしれませんね。僕の場合は、指にスナップを利かせながら引く感じです。それでリラックスできます。手首のスナップではなく、指のスナップで調子をとる感覚です。そうやって投げると、気持ちよく飛びますよ(笑)。指が離れるときに力が伝わりやすいんでしょうね。

NDL:フィル・テイラーもそういうテイクバックですよね。手首を引きながら、指も引くんです。
W:だからよく飛んでいくんですね。
T:投げ出す瞬間はどうしても余分な力が入ってしまうので、そのためにはそういう動作は効果的ですね。
W:テイクバックのときそういう指の動きをすると、自然に、そして楽に投げられるんです。(実際に投げる動作をしてみているタロウ選手に向かって)フォーム、変わってきてますよ。楽に投げてるみたい。
T:僕もワンタンさんのやりかたで試してみます(笑)。

テイクバックしている間は何か考えていますか?
T-ARROW
僕はテイクバックを出来るだけ短くとりたいんです。半円を描くイメージです。円ではなく、最短距離で引くと力が伝わり難いから遠くに飛ばないんです。遠くにしっかり飛ばすには、肘を動かない支点としてイメージしながら投げるようにしています。それに集中してますね。

WANTAN
僕は構えたときに考えます。ほんの一瞬なのに、もの凄くたくさんのことを考えてますよ(笑)。試合の流れの中だし、周りから見たら本当にわずかな構える間に色々考えますね。この一本のダーツを入れるために自分はどうしたらいいのかということを、瞬時に考えるわけです。それまで練習してきた経験の中で、どうやってダーツを入れてきたのかを、しっかり思い出しているということでしょうね。構えた瞬間に過去のダーツがフラッシュバックのように、頭に流れるんです。あんなに短い時間に考えているなんて信じられないくらい、何項目も瞬時にチェックするような感じですかね。もちろん、考えているからといってタイミングは普通のリズムで投げてるんですよ。でも、構えた瞬間はフラッシュバックが来てるんですね。

テイクバックの終わりのポイントは決めていますか?
T-ARROW
テイクバックは引き過ぎるとダーツが視界から消えてしまうので、引いている間ずっと目で確認できるところにダーツがなければだめですね。どんなに引いても、ダーツのティップが見えている位置まででおさえるようにしています。ダーツが視界から消えず、尚且つ普段自分が練習している自然な位置ということでしょうね。だから、ここまで引かなきゃだめだとは考えません。毎回まったく同じポイントまで引くというのは難しいですよ。だからそこにこだわり過ぎないで、ただ腕を真っ直ぐ倒してきて、手とダーツが視界から消えないポイントまで引き、ダーツの軌道を描きながら投げるということを普段の練習から心がけてます。
確かに「このポイント」と決めてしまうのは無理ですね。人間はロボットのように正確には動けませんよね。
やっぱり投げ方が形として一定に固まっていたからでしょうね。引き終わりのポイントを決めてしまうと投げ方も硬くなって、変な動きになってしうでしょうね。だから、ワンタンさんが言ったように、一連の手の形でテイクバックを持っていくように考えると自然に投げられると思います。

WANTAN
僕は引き終わりのポイントに関しても、出前持ちの形だと思ってます。自分のグリップで持ち、いつものテイクバックをすると、その形になるんです。だからズレは少ないですね。つまりどこまで引くかということより、どんな手の形になったときがそのポイントかという事を重視しているんです。引き終わったときの手の形が同じになれば、同じ動作で投げられます。いつもここまで引くんだということを目で確認するのは難しいので、手と指のグリップの感覚でその位置を憶えるんです。その感覚を憶えると、いつも自然に同じ動きでテイクバックできます。同じポイントというのは、位置をいくら決めていても毎日の投げ方で狂ってしまうものです。だから、自分が自然に引いたところの手の形を憶えたほうが簡単ですよ。
でも、僕は最初の頃「ロボット」と呼ばれてましたね(笑)。

今のフォロースルーの形が完成するまでには大変な苦労があったと思いますが、いかがですか?
T-ARROW
確かに色々試してきましたね。最初は狙うところに向かって手を出す感じでした。でもそうするとどうしても肘が上がってしまうんです。それも自然な流れであれば間違ってはいないと思います。ただ、二つの要素の動きが重なるというのは無駄だと考えるようになり、肘の支点は動かさずそのまま腕だけ払うようになりました。これは海外の選手によく見られる動きですね。そうすることで投げる動作の中心点が一つになるところがいいかなと思います。どちらのフォロースルーも試してきましたが、現在は肘を動かさないやりかたの方で、より良いダーツを投げられるようにしています。フォロースルーにはその時点までかかっていた力を逃がすという役割があると思うんです。そうしないと腕に負担がかかりますよね。だから投げる力の流れを止めないように、そのまま真っ直ぐ出すというのがいいですね。

WANTAN
タロウ選手のやり方はオランダ風ですね。僕にとってフォロースルーとは最初の構えのときに見えているものなんです。構えて狙った軌道を通らなければだめですね。テイクバックして、投げて、フォロースルーした軌道が、最初構えたときに狙ったものに重ならないと、ダーツは入りません。だから、目が悪くなると投げるのが難しくなるんですね(笑)。

お二人が追い求めている理想のフォロースルーとは?
T-ARROW
バーニーのあのやわらかい感覚は真似したいと思います。彼のあの投げ方は長身だからこそ出来るという部分もあると思うんですが、幸い僕も身長はあるほうなので、彼のように手の力が抜けたやわらかいフォロースルーを目標にしています。
試合では色々考えすぎて、理想の形を意識するあまり、硬くなってしまうんですね。

WANTAN
やはり試合になると硬くなってしまいがちですからね。だから、ブレが少ないように力を抜いて投げられるといいでしょうね。硬くなってしまう時は、ダーツを離す位置が狙いとズレているのかもしれません。自分の飛びを理解していて、飛びが良い状態なら、リリースポイントは早くなります。そうすると狙ったところにダーツが行きやすいんです。
そうなると肘が上がってしまうんです。ダーツを長く持ちすぎると、肘は自然と上がるしかないですからね。逆にリリースポイントが早いと、肘は自然に伸びます。手を伸ばすことにこだわり過ぎてダーツを長く持ち過ぎないことです。リリースポイントと的の二点が架空の線でつながるように意識を集中すると、的への距離も短く感じますし、肘も上がらず自然なフォロースルーになりますよ。手を離したすぐそこに的がある感覚ですね。この感覚を理解すれば、力みもなく軽く投げられて、面白いように入りますよ。
肘や腕、手や指といった身体のどこにも力を入れ過ぎることなく、軽くダーツを飛ばして、リリースしたポイントから的がまるで5センチ先にでもあるように、ダーツが狙ったところに吸い込まれていくということですね。
そうすれば、外しようがないでしょう(笑)。

フォロースルーにとってやはり肘がポイントのようですが、そのコントロール方法についてお聞かせください。
T-ARROW
僕は、肘を内に絞っているような感覚でいないと動いてしまいますね。横に開いていると、投げる瞬間に逆側に力が入ってしまうんですよ。だから肘を内側に絞るような感じにして真っ直ぐを作るというか、そういう状態で投げるようにしています。これには個人差があると思うんです。僕の身体の形や筋肉の付き方がそういう投げ方じゃないとだめなんだと思います。

WANTAN
僕は、テイクバックの手の形を意識するくらいで、肘のコントロールについてはあまり考えていません。だから自分の感覚としては外や中に絞るというような意識はしません。自然に構えた位置から自然に投げれば、肘はそれに必要な動きをしてくれます。自分の身体のつくりが要求するようにしています。
考えると、確かに人間にとって、肘は開いた方が楽なのかもしれません。逆にジョン・ローなどは引いたときに肘が内側に入るようなフォームでしたが、それでも無理がなくリラックスした投げ方で、いいなと思ってましたね。やっぱり、楽な感じで投げるのが好きなんです。
ダーツは、無理があったら絶対だめだと思いますよ。どこかで破綻してしまいます。僕は、楽な投げ方を追求してきました。それにテイクバックの位置が決まっていると、そんなに肘が開いたりはしませんよ。出前持ちが手にお盆を乗せているイメージなわけですから、肘が動いたら全部こぼれてしまうでしょ。そのイメージだと肘は自然に真っ直ぐになります。

フォロースルーの最後の手の形は決まっていますか?
T-ARROW
理想を言えば、人差し指と親指が一番上になり、小指が下を向く形であって欲しいんです。それがズレると、投げるときひっかいたりする要因になると思います。グリップの基本が人差し指と親指なので、そのままの形で残るのが一番いいんじゃないですか。それが自然に、当たり前のようにポンポン出来れば、良い結果につながると思います。

WANTAN
僕の場合は、指が狙ったところを指している手の形が理想ですね。グリップして、引いて、投げ終わったとき、人差し指と親指もその狙った場所に刺さっている感覚です。だから、指が下を向かないようにということでしょうね。
調子が良いと、フォロースルーの最後に指はターゲットを真っ直ぐ指してますが、悪いときは下を向いてしまうんです。手が下を向くときは、グリップがあまくなっているんでしょう。
飛ばない感じがするので指が残ってしまうんです。逆にダーツが気分良く飛んでいくときは、ポンという感じで軽く離れていくので指が的を指すような形になります。それを考えるとやっぱりグリップは大事ですね。僕はダーツを始めて30年以上経ちますが、いまだにグリップが利いていないとだめだなと思うことがありますよ。それは、力んで持つということではありません。あくまで軽く持って、ダーツの重さを感じるだけの力でいいんです。それでも効き目のあるグリップということですね。とにかく、手は下を向いたら絶対だめです。

テイクバックとフォロースルーというのは一連の動作として考えていますか?
T-ARROW
やっぱり一連の動作と考えていますね。そしてその動作を自然に出来なければだめだと思いますよ。ダーツを投げるというのは一瞬の動きなので、分けて考えることは無理です。練習によってその自然な流れを一連のものとして体得しないと、細かいところは狙っていけないでしょう。

WANTAN
僕も同じように考えます。それぞれのプレイヤーには自分のタイミングというものがあると思うんです。そのタイミングに合わせて自然なフォームで投げられるかということでしょうね。勿論、練習するときに独立してテイクバックの位置を確認したりするのは良いと思いますよ。
でも、実際に投げるときは自分のタイミングを大事にすると楽に投げられますよね。それは突き詰めて考えれば、テイクバックからリリース、そしてフォロースルーへと繋がる滑らかな一連の動作となって、身体が自然に動くということだと思います。

最後に
今日はタロウ選手とワンタン選手にお越しいただき、テイクバックとフォロースルーという深いテーマで語っていただきましたが、いかがでしたか?
T:ワンタンさんとは久々にお話できて、本当に目からうろこ的なことも聞けたので、早速試してみたいですね。ワンタンさんが持っている長年の経験に基づいた知識は貴重なものですから、今日は僕もその一部を吸収できて、凄く嬉しかったです。ありがとうございました。
W:僕はタロウ選手と色々な話をするうちに、もっとダーツを投げたくなりましたよ。
T:今僕はちょっと伸び悩んでいるような部分もあったので、今日は自分に足りなかった感覚があるんだということに、目覚めさせていただきました。
W:今日の僕の話が、少しでもタロウ選手や読者の皆さんのプラスになってくれたら、こんなに嬉しいことはありません。

ワンタン選手は今の日本のプレイヤーに関して、どんな印象を持っていますか?
W:最近のプレイヤーは凄いという話をあちこちでよく耳にするので、どれだけ凄いプレイヤーがゴロゴロいるのかと期待し過ぎていた部分もあるのかもしれませんが、正直もっと頑張れるんじゃないかなという印象はありますね。勿論それは前評判が凄く影響していて、もしこれが「いまひとつなんです」という噂を聞いていて実際に見たら、凄くいいと思うかもしれませんよね。
とにかくかなりのレベルに達しているのは事実なので、やっぱりどんどん海外に出て挑戦して欲しいです。そして結果を出してもらいたいなと、期待してます。そういうプレイヤーが出てきてくれたら嬉しいですね。

タロウ選手がそうなれるといいですね。
T:はい。でも、まだまだワンタンさんに比べたら若輩です。今後10年でなんとか頑張りたいですね。
W:10年というと長いような気がしますが、過ぎてみればあっという間です。やっぱり、1年、半年といわず、一日一日を大切に、「今日上手くなる」「今日勝つ」という気持ちで頑張ってください

一同:今日も楽しかったです!ありがとうございました。