Vol.83 ライバルの存在
佐藤かす美 藤野裕加里 

2017年1月

ライバルの存在
2016年決勝の舞台で戦ったお二人ですが、相手が決まった時はどう思いましたか?
藤野 「ついに来たか!」って思いました。ここまで来たらやるしかないという気持ちしかなかったです。
佐藤 もう逆山なのは分かっていたんですが、嬉しかったです。ゆかたんと対戦する機会はけっこうあるんですが、いつもふがいないダーツばかりだったので「今度はちゃんとやろう!」と思いました。

実際の舞台の上ではいかがでしたか?
藤野 変な気持ちでした。いつもと違う感覚でしたね。お店でよく対戦してるので、パーフェクトの舞台で二人で戦っているのが不思議な感覚でした。
佐藤 マーベラスかなって、一瞬疑うくらいリラックスしていたのは確かです。お店で投げてるような気持ちだったのか、他の女子と戦う時よりずっと楽な気持ちでした。
試合を拝見していましたが、お二人ともいまひとつ決まっていなかったように見えましたが。
藤野 やりにくかったですね。手の内とかも知ってますし、最初は特にお互いぎこちない部分があったと思います。
佐藤 変な緊張感みたいなものがあったのかもしれないです。二人とも普段通りには投げられていなかったですね。そわそわしてるというか、ふわふわしてるというか……
藤野 そう、地に足が着いていない感覚でしたね。

最後の方で藤野選手は靴紐を結びながら佐藤選手に笑いかけてましたね。
佐藤 あの時は普段どおり過ぎて笑っちゃいました。ゆかたんはああいうことをいつもよくやるんですよ。靴紐じゃなくても「チップが折れてるから変えよう」みたいなことをよくやるんですけど、決勝の舞台でも同じことをするので、そのなんでもない態度に「ああ、これはもう負けたな」と思っちゃいました(笑)。

結局藤野選手が勝ちましたが、結果についてはいかがですか?
藤野 今回は勝ちましたが、普段はかすみちゃんに勝てることがあまりないんです。
だから今回は勝ちたくて一生懸命やりました。「勝ちたい」ということだけしか考えてなかったです。
佐藤 最初はこの結果を受け止めるのは嫌だったんですけど、私は普段通りのプレイが出来なかったんです。
いつもの力を発揮できたゆかたんと、出来なかった私との差が結果として現れたんだと思いました。お互いにいつも一生懸命練習しているんですが、いざという大事な場面でそれを出せるか出せないかの違いが出てしまったんだと思います。

試合後佐藤選手はずっと号泣していましたが、あれは一年間が終わったという気持ちによるものなのでしょうか。
佐藤 正直、試合が終わって控え室に戻るまでは記憶があったんですが、控え室に戻ってからは記憶がなくて……。
決勝が始まる前に舞台袖で事務局長さんも交えて「勝った方が次の日の表彰に行けるんだよ」と話していたんです。私が表彰式の準備は万端だったのに対し、ゆかたんは「表彰式には興味ない」と、二人が対照的だったんですよね。
その言葉が頭にあったのか、「ゆかたん、表彰式興味ないって言ってたじゃん!」って泣きながら言っていたらしいです。
自分では全然覚えてないんですけど(笑)。私は表彰式を楽しみにしていたので、そのくらい悔しかったんだと思います。

ではホテルにドレスや靴を持ってきて準備していたのですか?
佐藤 いえ、一度家に帰るつもりだったので持ってきてはいませんでしたが、「これを着てこうして…」というのをちゃんと考えていました(笑)。

それはまた来年のお楽しみにしましょう。
佐藤 そうですね(笑)。来年また頑張ります。

この一年間の流れはどのような感じでしたか?
藤野 マイペースにダーツしようとしか思ってなかったです。前半でかすみちゃんが優勝した時は「わたしも!」と思って、次の大会で気合を入れて準優勝したりしたんですけど、そこからはあまりあせってもしかたないなと思い直して、マイペースで投げるようにしました。
佐藤 序盤で優勝出来て一年を通して調子は悪くなかったんですけど、夏頃から精神的なスランプになってしまったようです。思い通りに投げられなくなって、この一年は辛かったです。
ランキングはあまり意識していませんでしたが、優勝を続ければ上位に入れると分かった名古屋大会からは必死で頑張りましたね。

現在女子のプロプレイヤーが大注目されています。弊誌ウェブでも検索数は男子よりも女子プレイヤーの方が多くて、先月号で特集を組んだ大城明香利選手の検索数は、フィル・テイラーを抜く程でした。
藤野・佐藤 すごーい!あかりちゃんすごーい!!

それだけ注目される女子プロであるお二人ですが、普段から気を付けていることはありますか?
藤野 特に何か気にしているわけではないですが、とりあえずバカなことはしないようにと日々心がけています(笑)。
佐藤 ダーツを持っている時は、いつでも見られてると思って行動しています。働いてるお店でも投げに行ってる店舗さんでも、会場に着いてからは『見られてる』ということを常に意識する様になりました。
私は態度が良い方ではないと思うのですが、そうやって意識することによって少しずつ変わってきたかもしれないです。

ファンに対してはどのような態度で接していますか?
藤野 話しかけられれば普通に話しますし、コメントを求められれば応えます。特に意識してはいないですね。
佐藤 私も同じですが、試合の前などで話しかけてほしくない時は『話しかけないでオーラ』をちょっと出してるかもしれないです。なので、そういう時はファンの方達も察してくれて、話しかけてこないですね。今まで嫌な思いをしたこともないし、基本的にファンの方達とはフレンドリーに接したいと思っています。

お二人ともD.craftに所属していて働くお店も一緒ですが、お互いをどのように意識していますか?
藤野 今はかすみちゃんが最大のライバルだと思っています。負けたくない存在であるのと同時に尊敬もしてますし、お互いに支え合ってる部分もあるので、すごく良い関係だと思ってます。
佐藤 私も同じです。お互いに無い部分を持っているので、そういうところをシェアしていければもっと良くなるんじゃないかと思います。もちろん最大のライバルです。絶対負けたくないし、負けて欲しくもないんです。

この記事の企画が出た時に周囲のプレイヤーにお二人のことをリサーチしてみました。そうすると『あの二人は実はすごく仲が良いわけじゃないんだ』というコメントも出てきたのですが(笑)、それは真実なのでしょうか?
藤野 え〜、別にケンカもしないし……
佐藤 たまにはするかな(笑)。
藤野 たまにするかもしれないけど、仲が悪い訳ではないし……。私たち仲悪い?
佐藤 いやぁ、悪くないと思う。他の女子とは違って女の子らしくないと言うか、お互いサバサバしてるんですよ。
藤野 やっぱり人間なんでお互いにムカつくこともあるかもしれないけど、それでも仲良くできる部分が多いし……。普通に仲いいと思ってるんですけど。仲が悪いと思われるのは、試合の時の私たちを見てるからじゃないでしょうか。
佐藤 そうですね。意識し過ぎてる部分があるので、そういうところを見られると、仲が悪い様に映るんじゃないでしょうか。でも二人で買い物にも行くしね。

 

それぞれ相手の良いところと良くないところはどんなことでしょうか?
藤野 かすみちゃんのダーツの技術はトップクラスだと思います。そこは無条件に素晴らしいところです。良くないのはメンタルがちょっと弱いかな。見た目とは違って、オンナのコを出しちゃうのがいまいちかなと思いますね(笑)。
佐藤 ゆかたんのすごいところはメンタルがものすごく強いことです。気持ちで投げるんで、その強さは半端じゃないですね。良くないのはそこに対してちょっといい加減になっちゃうところですね(笑)。「もういいや!」ってなって、なぁなぁにしちゃうのは良くないかな。それを直したらもっと強くなると思います。
藤野 確かに(笑)。

お二人のダーツのタイプの違いはどういうところだと思いますか?
藤野 飛びが断然違うと思います。かすみちゃんはすごくきれいにダーツを飛ばすことができるので、それは真似できないところです。それからブルを4分割にして考えたり、そういう細かさも私とは違うと思います。
佐藤 ゆかたんはターゲットに向かってダーツの合わせ方が上手いですね。私はラインで見てターゲットに合わせるんですけど、ゆかたんは手の振り方などで合わせるのがすごいなと思います。

お互いをリスペクトしているお二人ですが、自分にもこの部分が欲しいというのはありますか?
藤野 技術ですね。かすみちゃんのダーツを見ていて、あの技術があれば楽だろうなと思うことがよくあります。
佐藤 全体的に嫉妬はしますね。可愛さとか(笑)。

見た目の嫉妬ですか(笑)?
佐藤 それは冗談ですけど……(笑)。メンタルが強いのは羨ましいです。いくら技術があってもダーツはメンタルスポーツとも言われるので、技術だけではダメなんです。ゆかたんを見ていて、そこでそう考えられれば楽だろうな、と思います。だから足して2で割ればちょうどいいんですよね(笑)。
藤野 ホントに割りたい(笑)。
佐藤 技術を教えることはできるけど、気持ちは個々の考え方ですからね。そこが一番欲しいです。藤野裕加里になりたいです(笑)。
藤野 私は佐藤かす美になりたい。お互い抜け出て、足してから割って元に戻ればいいんだ(笑)。
佐藤 そうだ。抜け出よう(笑)!

では、来年の抱負と読者にひとことお願いします。
藤野 来年もマイペースに楽しくダーツして一年過ごせたら幸せです。頑張りますので、応援よろしくお願いいたします!
佐藤 来年こそは笑って終わりたいですね。笑って終われる様に頑張って戦っていきたいと思います。そして年間争いでは『佐藤かす美は要注意!』と言われるような存在になりたいです。来年は泣かない様に頑張りますので、佐藤かす美の応援よろしくお願いいたします!