Vol.80 高輪中学高等学校
渡邉 高志
PDC TOKYO DARTS MASTERS

2016年7月

我々にとってのPDCワールドシリーズは年に一度のお祭りのようなものではないでしょうか。世界のトップ8がまとめて来日し、目の前で試合が見られるというのはダーツファンにとっては垂涎ものでしょう。PDCの演出がそのまま日本の会場に持ち込まれ、日本にもこんな大会があったらいいなと思いながら否が応でも盛り上がる、そういう会場に今年も足を運べたのは幸せでした。


【1日目】日本選手は全敗でしたが…
1日目の日本選手対海外選手の試合は、結果から言うと日本選手の全敗に終わりました。いつも通りのダーツができなかった選手もいました。特に、4日後に村松選手と浅田選手の直接対決がJAPAN OPENであったのですが、この試合でお互いに90を越えるアベレージで打ち合っていたことを考えると、今回の調子は本調子でなかった、言い換えるとそれだけ大きな舞台であったことがうかがえます。特に相手は世界のトップ8であり、簡単に勝たせてもらえない相手ですから、ただ負けただけで追いついていないとは言えません。むしろゲーム内容から、確実に日本が世界に近づいているのは間違いないでしょう。

海外と日本の差は単純に得点力
PDC.tvに出ているアベレージを見てみると、海外選手は軒並み90点台、対する日本選手は70点台後半から80点台後半でした。海外選手のフィニッシュは3本持っている状況では大概決めていましたから、この差は得点力の差と言っていいでしょう。
スタッツで15点差は、15ダーツ近辺で換算すれば75点差になります。トリプル1本で40点差と考えれば、各レグで海外選手は2本ほど多くトリプルに入れていることになります。そうなると、100点を取るかでは足りず、いかに140や137を取っていくか、すなわち3本中2本をトリプルに刺す方法をもっと研究していく必要がありそうです。

海外の選手がうまい切り替えの57
このレベルでの得点力というのはトリプルを捉える力であり、トリプルであれば60だけでなく、57や54も有効なトリプルになります。アレンジの必要性がない限りは60から打つわけですが、海外選手はどんどん切り替えて点を取っていました。理由は60の周りのダーツが邪魔であるのか、ターゲットを切り替えて狙い直すのか、いろいろあると思いますが、特に海外選手はどの選手もこのときの精度が高かったように思えます。刺さっているダーツの状況、自分が狙えているかどうかなどを瞬時に感じて大胆に切り替えながら点を取る方法は、もっと日本選手も真似してよいと思います。

アレンジ力は低くない
日本選手のアレンジ力を疑う声が少しありましたが、私はそうは思いません。むしろ、数字を作るダーツととにかく点を取るダーツの思惑がはっきりしていればそこまでアレンジで相手に遅れることはありません。確かに海外選手はブルの使い方がうまかったですが、それをしなかった日本選手が悪いダーツをした場面はほとんどありません。アレンジはそれぞれのプレイスタイルです。その人なりのプレイスタイルを主張するものとして、いい悪いという観点で見るのではなく、そのときの思考を理解してあげるとよいでしょう。点も取れて数字もまとまるダーツが理想ですが、それが共有できないときにどんな選択をするのかを見るのも醍醐味かと思います。

もっと日本人は自分の飛びに自信を持っていい
海外選手と日本選手のダーツの飛び方の違いは見るたびに勉強になります。海外選手は一度矢が上を向いた状態から飛び始めるのに対し、日本人選手はきれいな放物線を描く選手が多かったのが印象的でした。海外選手も、日本選手も、うまくいったときにはその飛びなりのスタッキングをしていました。特にきれいに同じ放物線を描いたダーツはどちらの飛びでもきれいにスタッキングしていたように見えました。
今はいろいろスタッキングさせるための飛びを研究する方が増えてきて、それにも私は興味があるのですが、今の日本選手のきれいな放物線であればきちんとトリプルを捉えるのは、日本選手の180からわかると思います。
スタッキングの形から飛びを作る方法もあれば、自分の飛びから自分なりのスタッキングの形を追う方法もあると思います。日本選手のきれいな飛び自体は大いに自信を持ってもいいと思っています。

【2日目】打ち返さなければやられる世界
2日目の試合は最初からヒートアップしました。ベスト8からすべての選手が90代後半以上のアベレージで会場を沸かせます。2日目であることもあり、選手の感覚も慣れてきたのでしょう。ギャリーアンダーソンがファーストレグから180を出すと会場も大盛り上がり。
相手に打たれたらその分打ち返さないとやられてしまうという意地が垣間見えるゲームの連発でした。フィニッシュのチャンスを逸すればほぼ確実に返されてしまう、緊張感のあるゲームでもありました。このレベルになると相手のミスを待つなんてことは言っていられません。常に打てるだけ打ち込まないと負けてしまいます。

日本で人気のある2名がベスト8で敗退
日本で人気のあるピーターライトとフィルテイラー。この2名がベスト8で姿を消します。ピーターライトはエイドリアンルイスに1ブレーク差を詰められず敗退。フィルテイラーとジェームスウェイドは互いに100超えのアベレージでフルレッグにもつれました。ファイナルレッグはフィルテイラーが得点力で上回り、D20に3本投げられる状態まで作ったのですが、これをまさかのノースコア。その裏でジェームスウェイドD4を決め逆転。アベレージで上回ってもしっかり決めないと負けてしまう世界をここでも見せてくれました。

お互いに譲らなかった決勝戦で、最後に観客を魅了したのはダーツの質そのものでした。お互い100超えのアベレージで打ち合った決勝戦は、ほとんどのレグがキープで終わる、しかも112オフ、161オフ等をしないとできないキープをきちんとしてくる好ゲームでした。高いレベルでキープを続けているということはペースが全く落ちていないということでもあり、会場の盛り上がりも最高潮。このゲームでブレークしたのは第11レグの一つだけ。この1ブレーク差を最後は108オフで守り切ったギャリーアンダーソンが優勝を飾りました。

来年も見たい
大会が終わって、来年も見たいと思った方は多いと思います。昨年から始まったワールドシリーズでまた日本に来てもらうには、まずは会場での盛り上がり方をもっと知ることではないでしょうか。2日目の前座でジョンマクドナルドが「投げている間でもいいからどんどん盛り上がってほしい」と言っていたのを覚えていますでしょうか。とにかく盛り上がって見てほしい、そういう思惑がPDCにはあります。静かになっていると、子供の声も響きます。頑張って盛り上げようとしている人が浮いてしまう皮肉な形にもなりかねません。日本でももっと盛り上がり方を共有し、せめてワールドシリーズだけでも騒ぎながら見られる環境を作っていきましょう。
そして一番見たいのは日本選手が海外選手に勝つ瞬間。その日は思っているよりそう遠くないでしょう。私はすべての選手を応援し続けたいです。そこに向かう切磋琢磨の連続が明るい日本のダーツの未来への道程になるはずです。