Vol.105 PDJ 2020
灰田 裕一郎

2020年11月号

これまで10年以上にわたってPDCに代表を送り続けてきているPDJの意地と責任感、そして国内ダーツプレイヤーたちへの
チャンスを平等にという公平さを感じる力強い言葉だった。

2020年新型コロナウィルスがパンデミックを起こし世界中に蔓延した。その影響は当初の想像を超え、あらゆるものに変化を与え人々はそれに応じた変化を強いられることになった。もちろんダーツ界も例外ではなく、国内で行われるダーツトーナメント、年間サーキット、リーグ戦の多くが中止になった。

そんな状況の中、ダーツの本場イギリスでは世界最高峰のダーツ団体PDCが自宅でのオンラインツアーから試合を再開。その後無観客でのプロツアーをTV中継のみという形で開催。参加選手、関係者全員がウィルス検査を行うという徹底管理された環境での試合開催を続けている。

PDCがワールドダーツチャンピオンシップを予定通り開催すると発表

2020年11月現在ヨーロッパでは第二波といえる感染拡大が起こっており、二度目のロックダウン状態となっている都市も多い。そんな中にあってもPDCは年末に予定されていたPDCワールドダーツチャンピオンシップ(以下 WDC)を予定通り開催すると発表した。
WDCは毎年年末にイギリスで開催されるダーツ界における最高峰の世界選手権で優勝者には8000万円近い賞金と世界チャンピオンの称号が与えられる年末の祭典である。毎年日本人選手も参加しているが昨年は史上初となる日本人3名が出場という快挙を果たした。PDJ代表として3年連続の浅田斉吾、アジアンツアー枠から山田勇樹、そしてPDC開催の女子予選を見事通過した鈴木未来の3名が出場し大活躍をみせてくれた。
今年も同様にたくさんの日本人が参加できればよかったのだが、このコロナ禍ではそうはいかないのは言わずもがな。まずPDCアジアンツアーが開催されていないためツアー上位4名のアジア枠がない。
そのため日本からWDCに参加するにはPDCと連携のある国内ダーツ団体PDJが開催するPDJジャパンチャンピオンシップに優勝して日本代表選手になるしか方法がなかった。

PDCがWDCを開催する以上は日本代表をどうしても送らなければならないという事が一番だった

PDJはWDCに日本代表選手を1名送り出す権利を持っており、これまで10年以上にわたってPDJジャパンチャンピオンシップを開催し優勝選手をWDCに選手を送り出している。今年もWDCを開催するという決定をPDCが発表して一番あわてたのがPDJであろう。当然のことながらWDCが開催されるとなるとPDJはそこに送り出す選手を選出しなければいけない。コロナ禍という状況を考えるとこれは非常に悩ましい問題だ。予想される多くのリスクを考えればトーナメントは開催せずPDCアジアンツアーで日本人ランク1位である浅田斉吾を推薦という形で選出しても異論は出なかったであろう。それでも大方の予想に反しPDJが出した答えはPDJジャパン・チャンピオンシップ2020の開催だった。
この決断に関してPDJの野村佳史氏は「PDCがWDCを開催する以上は日本代表をどうしても送らなければならないという事が一番だった」と言っている。これまで10年以上にわたってPDCに代表を送り続けてきているPDJの意地と責任感、そして国内ダーツプレイヤーたちへのチャンスを平等にという公平さを感じる力強い言葉だった。

開催に至るまでの道のりはけっして平坦ではなかった

PDJはこの状況下でのジャパンチャンピオンシップ開催を決定したが開催に至るまでの道のりはけっして平坦ではなかった。想像以上に様々な問題が起こり解決のために時間と労力そして経費が必要となった。
なかでも今回のPDJ開催において一番の課題となったのがエントリーに関しての問題であろう。PDJはコロナ禍ということでエントリー人数を30人ぐらいと予想していた。感染リスクを最小限にすることもあり今大会はエントリーを80名限定としてエントリー募集をかけた。
これが大きな計算違いであったことをエントリー受付開始から時間も経たずしてPDJは気づかされることになった。いくらなんでも予想人数が少なすぎたのではないかと思う。というのもコロナ禍で国内のダーツトーナメントはすべて中止されている状況下であった。そうなるとPDC出場を目指す選手だけでなく、試合そのものをしたい、この機会だから出てみたいというプレイヤーたちが増えるのは当然のこと。案の定エントリー開始から4、5時間で定員に達しエントリー終了。
多くの参加希望者がエントリーできずに終わるという事態になった。しかもエントリー開始に予告が一切なく試合概要が発表されると同時にエントリーも開始された。これも多くの選手たちに混乱と不満を起こさせる要因になった。
SNS上でもそのことを問題視する声が多くあがり結局PDJはエントリー枠を増やす対応を余儀なくされた。その後エントリー枠を増やし追加受付を行い抽選で選ばれた選手を含め最終的に126名でエントリーが確定した。ドタバタはあったがこの状況下で最後まで開催に苦難し大きなリスクを覚悟し開催決定したPDJのことを考えれば少なからず同情してしまう面も多かった。
問題点ばかりフォーカスされた今回のPDJエントリーだったが、改善された点もあったことに気づいた人はいるだろうか。これまでエントリー方法はエントリーシートをFAXで送信という時代遅れのエントリー方法だったが今回からWEBエントリーに変更されたのだ。当たり前のことすぎて気づかなかった人が多いかもしれないが、ようやく採用されたWEBエントリーを筆者は大きく評価したい。紆余曲折あった告知とエントリーであったがコロナ禍という状況下でPDJは全力で動きPDJチャンピオンシップ開催に向けての準備を進めていた。

いよいよ舞台が始まった

2020年10月11日神戸ポートターミナルホール。例年とは少し違う空気感の中で「PDJジャパン・チャンピオンシップ 2020」は開催された。
会場入口での検温、いたるところに用意されたアルコール消毒、試合ボードと試合ボードのあいだに設置されたパーテーション、休憩席のテーブルには飛散防止のための透明フィルム、ボトルのみ販売のドリンクブース、試合会場のあらゆる点において出来るかぎりのウィルス対策がなされていた。
当然選手たちも試合や飲食時以外でのマスク常時着用など協力体制が求められた。PDJ野村氏によると今回使用した会場からは特別なコロナ対策に関する指示はなかったものの、万が一クラスターなどが発生した場合にかかる費用、そしてダーツ界全体に及ぼされる風評被害などを考えると万全にさらなる万全を期した会場設営をする必要があり、考えられる対策はすべて取ったということであった。
それにともなう経費は予想以上のもので、赤字覚悟でも開催した主催者側の苦労が伺えた。

2時間のフリー練習が終わったあとに開会式が行われPDJ森本代表の挨拶、PDJ野村氏によるルール説明、そして大会開催に至るまでの経緯などの話もあり「苦渋の決断でした」という言葉がとても印象に残った。開会式後すぐに予選がスタート。21台のボードに6人ずつ振り分けられたラウンドロビン方式での予選ラウンド。試合フォーマットは501ベストオブ5レグ。ロビンは6人山で構成されているが、そのうち1人とは当たらないので基本1選手につき4試合をおこないその結果で各ロビン上位2名が通過となる。ラウンドロビンの組み分けはすべて当日抽選にて振り分けされた。運営からすると事前にPC抽選で振り分けた方が楽なのにもかかわらず、公平性を優先するPDJの姿勢が素晴らしいと感じた。

日本が世界に誇るダーツスコアリングアプリ「n01」を使ったデジタルスコアシステムの採用

今大会では特筆すべき新システムの採用があった。日本が世界に誇るダーツスコアリングアプリ「n01」を使ったデジタルスコアシステムの採用である。使用されたのは「n01トーナメント」というアプリ。
各試合のスコア管理だけでなく、スコアのリアルタイム配信、そして予選ラウンドロビン、決勝トーナメントを一元管理できるオンラインWEBシステムだ。今回のPDJチャンピオンシップでは開発者の大野智秋氏の協力もあり国内ビッグトーナメントで初となるn01採用となった。これにより各試合のスコアをリアルタイムで観られるだけでなく、大会の集計データを誰でもいつでも閲覧することを可能にした。

無償で世界中に提供

驚くべきはこれだけの機能を開発者の大野氏は無償で世界中に提供していることだ。「n01トーナメント」は誰でも無償で自由に利用できる素晴らしいトーナメント管理システムなのである。
今回このシステムの採用によりスコア用紙やペンなどの筆記用具が一切使われなかった。試合中のスコアはすべてボード脇に設置された電子Padで行われ、マーカーと呼ばれるスコア入力者がボード脇に立ってスコアをPadに入力することでゲームが進行する。初めて使用する選手が多かったにも関わらず、アプリの使いやすさもあって大きなトラブルもなく試合は行われた。
これまでのスティールトーナメントではプレイヤーが自分の取ったスコアを後ろにいるスコアラーに大きな声でコールする必要があったが、今回のようにボード脇にマーカーがいればプレイヤーも得点コールをする必要がなく、すべてPadで管理されるため紙や筆記用具を使用することも一切ない。その点ではn01の採用は感染リスクを最小限にすることにも大きく貢献したといえるのではないだろうか。良いことづくめのn01トーナメントが今後国内スティールトーナメントで幅広く採用されていくことであろう。

試合の内容や様子

さてここまでPDJジャパンチャンピオンシップ2020の全体像を話してきたが、肝心の試合の内容や様子についてまだ書いていなかった。今回はコロナ禍でいかにPDJが開催されたかというところにスポットを当て文字数を費やした。残りわずかの文字数になるが大会の結果も伝えていこう。
今大会はファウルクス昌司エドワードが優勝しPDJ6人目の代表となった。エディことエドワードの優勝はたぶん誰もが予想していなかっただろう。完全にダークホースだった。彼のことを知らない人も多いと思う。エディーは2013年~2015年までPerfectに所属してプロツアーを回っていた選手。
そしてエディーは三線奏者でもある。2016年からは7歳からやっていた三線の実力を生かし三線奏者として活躍、そのため3年半ほどダーツ界とは距離を置くことになった。
昨年10月にJAPANプロ資格を取得してダーツ界に本格復帰。詳しくは今号に掲載されているインタビュー記事で紹介されているので参照していただきたい。
彼のダーツセンスと強さは昔から知る人たちには知られていたが、久々に表舞台に出てきてのPDJ優勝はさすがに予想していなかった。準決勝では優勝最有力候補である浅田斉吾を0ー3のビハインドから逆転勝利し、浅田斉吾の4年連続出場を食い止めた。決勝ではPerfectでも活躍している守田昭仁の圧倒的な得点力に対し、ペースを崩さず堅実なプレイで逆転し見事WDCの出場権を獲得した。
名前や顔立ちからも察しがつくと思うが、エディーはイギリス人の父親と日本人の母親をもつ沖縄生まれのダーツプレイヤー。これまでイギリスには行ったことがないエディーだが今回の優勝で第二の祖国であるイギリスにダーツ日本代表として初渡英というドラマチックなPDC初挑戦となる。英語が話せるためコミュニケーションでの不安が少ないことはこれまでの代表選手よりも大きなアドバンテージになると思われる。
エディー以外では今大会3位という結果を残した林雄太も筆者が注目していた若手選手。ユース時代からソフトダーツで活躍する選手だが今年2月のJDO京都大会で優勝するなどスティールでも若手ナンバーワンの実績と経験を持っている。今回のPDJでも高いシュート力とリズムのある打ちまわしは光るものがあった。世界に通用する若手スティール選手として今後の活躍に期待したい。
他にもスティールに力を入れ始めたソフトダーツプロが多く参戦し活躍する場面が見られた今年のPDJチャンピオンシップであった。

開催のために例年とは比較にならないほど尽力されたPDJ関係者に心から敬意を表したい

今大会はコロナ禍での開催であり正直これまでの大会とは環境も状況も違うものであった。例年と比較するのは難しいが国内のダーツトーナメントがソフト、スティールともに半年以上開催されておらず当然のことながら選手たちの試合離れ、実戦不足が全体のスコアアベレージにも表れていた。とはいえ久々の試合に多くの選手からトーナメントを楽しんでいる声が聞けたり、緊張感ある実戦に意気揚々としている姿が見られたのは嬉しいことであった。
また初めてスティールの大会に参戦したという選手も多く見受けられた。コロナ禍での唯一の試合だから挑戦してみたという理由が多いのだろうが、これをきっかけに今後も継続してスティールトーナメントに挑戦する選手が増えることに期待したい。
そして最後に開催のために例年とは比較にならないほど尽力されたPDJ関係者に心から敬意を表したい。とにかくこの状況下で開催に踏み切ったことはダーツ界にとっても大きなことであったし多大な影響を与えたと思う。それだけに水面下での苦労は計り知れないものがあったはずだ。大きなリスクを背負って大会を開催してくれたPDJには選手もファンも感謝していることだろう。
大会から2週間が過ぎた2020年10月25日。クラスター発生などの報告もないことを確認し、ようやくPDJジャパンチャンピオンシップ2020が閉幕した。残るは本番のPDCワールドダーツチャンピオンシップ2020ー2021が年末に開催されることを祈るばかりである。そして一日も早くダーツトーナメントがこれまで同様に開催できる日が来ることを世界中のダーツファンが願っている。