2005年12月号
※初めてお会いした後、時々記事を寄稿していただきました。
以下の記事もそうですが、この時代に世界チャンピオンがこのようなことを書いていただいたのはとても興味深いですね。
現在の現実はスティール、ソフト共に異なったダーツの環境をつくり進歩しながら、確実にプレイヤーを増やしています。
従来のスティールダーツはソフトチップ・ダーツの先駆けだったのでしょうか?簡単な質問です。
世界のほとんどの国でダーツをしてきた私ですが、その時間の98パーセントはブリストル・ダーツボードとスティールダーツを使ってプレイしてきました。私はそれを思う存分に楽しんできたと同時に、非常に高水準の20のトリプルやダブルをヒットするのに必要なレベルの技術を保ち続けてこなければなりませんでした。
1980年代にエレクトリック・ダーツに気づきました。ソフトチップ・ダーツがアメリカやヨーロッパ各地で開催される見本市に出品され、新しいゲーム機として注目されだし、ビリヤードと共にプロモーション・ブースを飾り始めていたのです。このふたつのゲーム機に共通するのは、プレイするためにお金を払わなければいけないという点でした。
ドイツの見本市でユニコーン社から従来のダーツボードと共にエレクトリックボードでのプレイを頼まれたのが、私のソフトチップ初体験でした。このとき私は、それが私が長年に渡って親しみ、そしてプロとしてやってきた競技のライバルになるとは思ってもいませんでした。世界中のゲーム・センターに置かれるのに適した、現代的に改良された製品だとは認めましたが、あくまでもスティールダーツに行く前段階での練習用品だと見なしていました。
私は長年ソフトチップには関わりませんでしたし、何百万人ものスティールダーツプレイヤーはこれをただ一時的なものだとか、ソフトチップの登場までは無料で楽しめたスポーツに、金儲けの可能性を見出した人によって考えられた新しいアイデアだととらえていたと思います。スティールダーツ・メーカーを含め、大多数の人々の予測は、「そのうちに消える」というものでした。
それから約20年後の現在、ソフトチップ、エレクトリック・ダーツはメジャーな競技となり、急激に広まっています。
最近聞いたところによると、現在、アメリカでプレイされるダーツの70パーセント以上がエレクトリック・ダーツボードでプレイされているとのこと。この数字は、スペインやヨーロッパの他の国々でさらに高くなります。日本のダーツ業界ではダントツであることを私がわざわざ言う必要はないでしょう。そしてその情報は極東アジアの大部分に瞬く間に広がっているのです。
さて、最初の質問に戻りましょう。従来のスティールダーツはソフトチップ・ゲームの先駆けだったのでしょうか?私はそうは思いません。
ソフトチップ・ダーツはアメリカのような国では助けになったかもしれません。しかし、私はソフトチップは新しい時代を受けて始まったと感じています。まず、他の何よりも電気工学の進歩の恩恵を受けてきました。さらに新しい世代の人々は自分たちのために作られたさまざまなものを享受しています。彼らはもはや計算機の性能を疑いませんし、計算は正確におこなわれると認めています。同様に、ダーツがエレクトリックマシーンに投げられるとき、プレイヤーは自分に代わって求められる合計からスコアが引かれることを納得しています。スティールダーツはソフトチップダーツの先駆けにはなり得ません。類似点は、ダーツボードのサイズとボードに書かれた数の配置と枠の大きさのみです。
21世紀を前に、ソフトチップはこの競技にいいチャンスを提供してくれました。ソフトチップが登場するまでは不可能だった、他のコンピューター化されたゲームとダーツが競合する道を開いたのです。また、スコアリング・エリアの拡大により、スティールダーツよりもずっと早く初心者に広まりました。ソフトチップでプレイするのに必要な技術のレベルはスティールダーツほど高くありません。努力の甲斐はともかく、楽しさのレベルは互角だと言えます。
対戦者とプレイするか、あるいはマシーンとプレイするかという選択肢は、スティールにはないものです。もちろん、ブリストル・ボードを使って、ひとりで何時間も黙々と練習に励むことはできますが、それは本当に楽しいものでしょうか。その一方で、エレクトリックダーツマシーンなら、プレイヤーが選んだ技術レベルで、常にいいスコアを出し、いいプレイをしないと打ち負かせないのがわかっている見えない対戦者とプレイできます。
それだけでしょうか。いいえ、スコアをつけずに済むなどの多くのプラスの点に加えて、よいスコアを出す気にさせるスクリーンもあります。それはまた周囲にあなたがよいプレイをしているのを知らせてくれるのです。
では、ソフトチップにはマイナス点はないのでしょうか。いろいろと考えた結果、私の至った結論は、いくつかマイナス点があるものの、プラスの点がそれをはるかに上回っているというものでした。コンピューターや電気工学の発展と同様に、ソフトダーツの競技も進化しました。悲しいことに、スティールダーツについては同じことが言えません。過去四半世紀以上かけての進歩は、ダーツ制作に使われる素材と、ダーツボードのワイヤリングという点でのみ見られます。どちらのコンセプトも、ゴールデン・チタニウム・ダーツと、ブリストル・ダーツボードで世界を引っ張るジ・エクリプスのユニコーン社によって開発されました。
エレクトリック/ソフトチップダーツは今後を担うダーツ競技です。
現在プレイしている世代が次の世代を育み、その発展はグローバルなものになるでしょう。同時に2カ国、3カ国、あるいは4カ国間の国際試合がソフトチップダーツで、しかも離れた場所でプレイされる様子を想像するのは難しくありません。国外に遠征する必要はなくなり、回線で繋がれたスクリーン上にはプレイヤーの競技の場面が映し出されるのみならず、各国でスコアを共有する、というのは可能性ではなく純然たる事実なのです。
私のように、人生の30年以上をスティールダーツに捧げてきた者の立場はどうなるのでしょうか。
私はブリストル・ボードで1000以上ものタイトルを獲得し、僅かな財産を成してきた一方で、傍観したり、他の大勢のように自分の直感や信念を無視することはできません。スティールダーツが現状のまま行き詰まる理由をあげるのは難しいことではありません。他の国々に浸透していないだけでなく、まったく逆に、ソフトチップマシーンのますますの発展に対して衰退しているのです。
私はこの事態を心から歓迎しています。結局、この記事で私がこれまで書いてこなかったひとつのこととは、ひとつの共通する特徴、つまり投げ方とよいスコアをマークすることは同じだということです。テクニックも全く同じです。どちらにおいても上手くなるには、正しい練習を積むことです。
私のダーツのコツはこれです。
「集中力改善法」
数年前に一流のスポーツ心理学者から、集中力を高める方法を教わりました。彼によると、静かに立つか座るかし、1分間何も考えないようにします。翌日はその何も考えない時間を2分間に延ばしてみます。そして何も考えない時間が15分間になるまで続けます。時間を計るには、時間になったら鳴るキッチンタイマーなどを使いましょう。
それで効果はあるのでしょうか。これを教えてくれたのは、世界各地のゴルフ・コースで定期的にアーニー・エルズの傍らに立ち、彼がいかに集中しているかを目の当たりにしている人物です。ゴルフはおそらく他のどのスポーツよりも集中力を必要とするスポーツです。ときにはプレイヤーはボールを打つまで15分ほどティーで待たなければなりません。このとき、一緒に回っているプレイヤーとおしゃべりを始めてしまい、試合のことを忘れるのはいとも簡単なことです。そのために彼らはスポーツ心理学者を雇い、精神的な準備を整える手助けをしてもらうのです。ダーツも同じです。心や思考が100パーセントでないと、負けることはなくても、フィニッシュまでの時間がよりかかるものなのです。
前向きに考え、ダーツを楽しんで下さい。