Vol.44 PHOENIX SUMMER
FESTIVAL 2010

2010年7月号

やばい!確実に日本に追いつくぞ。
「韓国ダーツシーンが盛り上がっている」、という情報を得て初めて彼の地へ飛んだのが一昨年のことだった。
少し落ち着きを見せて来た韓流ブームとは裏腹に、韓国ダーツシーンは益々熱く、今や一大ムーブメントへと成長してきている。
今回本誌が韓国を訪れるのは3回目。
韓国随一の大会となった日韓対抗戦や、韓国ダーツバー事情、そしてベールに包まれたPhoenix Starsの素顔など、総力取材で臨んだ。
日本に追いつけ追い越せという気概を感じさせる韓国ダーツの生の空気感を、日本の読者の方々にもぜひ味わってもらいたい。

左:GAME ON 中上:挨拶を韓国語でするために特訓 中下:朝礼を兼ねてゲキを飛ばすキャプテン 右上:朝の受付風景 右下:通訳は3人もいたので本当に助かった

韓国最大級の大会開催!
韓国では、この韓日対抗戦を冠する本トーナメントが国内最大の大会といえるだろう。
早くから韓国ダーツシーンに注目してきた本誌では、前回、前々回もこの大会を取材してきた。
韓国ダーツが熱くなってきている今年、一体どんなドラマが生まれるのだろう。

昨年までは、大会の始めにコンサートが催されたり、華やかながらもダーツそのものへの関心はまだ成熟しきっていないという印象があったこのトーナメント。しかしながら、今回の大会からはそういった余興的な物もすっかり影をひそめ、ダーツをとことん楽しもうという雰囲気が強く流れていたことに、まず驚かされた。1000人を優に超える人々が集い、以前にも使われた会場が今回は歩くのも困難なほどごった返していたことからも、韓国でのダーツ人口の増加がうかがえる。
ゲーム内容も随分様変わりしていた。シングルスのゲームが主流であった昨年までとは違い、日本と同じダブルスでのゲームがメインとなった。さらに質的に言っても、短い間に全体のレベルが底上げされたかのような上達振りがあちらこちらで見られた。正直これは、日本のプレイヤーにとっても大きな脅威となってくることは間違いないだろう。
全体的に見て、ダーツへの情熱がどんどん膨らんできている、勢いのようなものが感じられる。負けて悔し涙を流す女子プレイヤー。ガッツポーズに大きな歓声が沸き、ここは日本ではないかという、錯覚すらおきる。昨年までは、日本のスタープレイヤーの試合を「見る」ことで、あのスターが来たというお祭り的な感覚をエンジョイしているような雰囲気もあったが、今回の大会では、プレイに集中している選手が驚くほど多い。日本人プレイヤーに対しても、憧れの選手という存在から、いつかは戦ってみたい相手という目線に変化してきているのかもしれない。
ここまで急速に韓国ダーツが成長した裏には、日本やその他の国々からのDVDや動画、雑誌やハウツー本などといった情報が大きな役割を果たしているのは間違いないだろう。技術的な面やグッズへの関心などに留まらず、ダーツの楽しみ方そのものを、韓国のプレイヤー達が自分のものにしているなという感想を持った。

トーナメントスタート!
フェニックストーナメントは実にすべてがきちんとしている。写真からも分かるようにこの大会、日本の大会と比較してもほとんど同じレベルといえるのでは?

会場は熱気に溢れていた

7PMには終了 あっという間の一日だった

プロモーションを終えた二人にInterview

檜山 亜紗子 Asako Hiyama
韓国でバーを廻りましたが印象はいかがでしたか?
最初に伺った501というダーツバーは韓国で一番大きいダーツバーでした。広々としていて、活気に溢れていました。その他も廻りましたが、そちらも盛り上がっていて毎回来るたびにどんどんダーツ人口が増えているなぁという感想でした。

プレイヤーの印象は?
以前は女性のプレイヤーが本当に少ないというか、いないなと思いましたが、今回韓国に伺って女性のプレイヤーがとても増えていてレベルも格段に上がっていました。また男性プレイヤーのレベルも確実に上がっているなという印象を受けました。

フェニックススターズについては?
すごくかっこいいなって思いました。フェニックススターズに憧れて、ダーツ頑張ろうという方も多いでしょうし、選手も気合が入るというかモチベーションがすごく高くて試合の前など円陣を組んでいたり、ミーティングをしていたりして真剣さが伝わってきました。

トーナメントについては?
最初のトーナメントよりも2回目、そして今回とどんどん参加人数がふえて盛り上がっていましたね。私はチャレンジマッチを行っていたので試合には参加していませんが、強いプレイヤーもいて、何回か負けてしまいました…。

最後に一言
韓国には数回、招待して頂いていますが毎回手厚い歓迎をして頂いて行くのがとても楽しみです。
行くたびに盛り上がりが増して、レベルもどんどん高くなっています。次行く時が、今から楽しみです。

江口 祐司 Yuji Eguchi
今回プロモーションで韓国のダーツバーを廻りましたが印象はいかがでしたか?
もうすごかったですね、盛り上がり方が。お店はバーとしても盛り上がってるし、ダーツを投げてる人は真剣にバンバン投げてるし……。行く店行く店全部こうなんだから驚きましたね。韓国にダーツが浸透して盛り上がってるんだということを肌で感じました。

行く先々のお店でかなり歓待を受けてましたが、相当飲んだわりにはダーツも入ってましたね。
そうですね、楽しんで投げさせてもらいました。入る入らないにかかわらず楽しんで投げることが一番ですね。

プレイヤーの印象は?
今年の2月の終わりから3月の頭にかけて一回来たんですが、その時からまだ半年も経っていないのに、レベルが上がってるのを感じましたね。それも底上げしてるというか、下のレベルからグッと全体的に持ち上がってきてるような印象を強く受けましたね。

『フェニックススターズ』とも交流を持たれたようですが、彼らについての印象はいかがですか?
「本当に上手くなりたい」という気持ちがひしひしと伝わってきました。こういうチームは日本にはないじゃないですか。みんな上達も早いので、すぐ追いつかれ、そして追い越されということになってしまうかもしれないですね。彼らは僕たちにとってもいい刺激になルと思うので、相乗効果でお互い伸びていきたいですね。

トーナメントについては?
会場の雰囲気や試合の状況も、日本と変わらないくらい盛り上がってますね。前回は日本から来たプレイヤーを見てみようというギャラリー的な感覚の人達も多かったように感じましたが、今回は自分のダーツに一生懸命で、トーナメント自体に集中してるプレイヤーが多かったように思いました。今回僕は日韓対抗戦には出場していないので、日本人選手の戦いを客観的に見れたのが面白かったです。でもやっぱり見るよりは出たいと思いましたね。次回はぜひ出たいです。

最後に一言
日本同様、韓国もこれからどんどんダーツが盛り上がってくれるといいですね。そうして日本と韓国が世界の中心になって、アメリカやヨーロッパからも「アジアのダーツはすごいな」と注目されるようなものを、ぜひ一緒に作り上げていきたいと思います。

トーナメントの目玉、韓日対抗戦は6ー0で日本の圧勝!
韓国で開催される韓日対抗戦ということで、日本チームにとってはアウェーでの戦いとなったわけだが、結果は日本の圧勝というかたちで終わった。
始めの1~2試合では、日本人プレイヤー達に多少の固さと緊張が見られた。勿論、国を背負ってやってきたというプレッシャーもあっただろうし、普段はあまり行なわれない4対4という試合方式を考えても、これは仕方の無いことだろう。これは韓国側にとっては絶好のチャンスであったわけだ。実際、「取られるかな」という瞬間が何回かあったが、日本チームはこれをねじ伏せて切り抜けた。韓国チームも、国の代表として緊張していることには変わりなかったのだろう、このチャンスを生かしきれずに後半へとなだれ込んでしまった。
序盤での攻防を制した日本チームはそのまま勢いに乗り、3試合目以降はその強さを見せ付けるような戦いぶりを発揮。結局日本チームの圧勝という結果に終わった。

Phoenix Starsから選抜された韓国代表4人のプレイヤー達は、試合後悔しさを隠しきれず、涙を流す姿も見られた。韓国ダーツは急激にブームを迎えている。当然韓国チームのプレイヤー達も実力はかなりのものだといえるだろう。だが、両方ともに強い緊張感の中で戦うこういった試合では、経験が大きなものを言う。
確かに今年の日本チームは万全の布陣で臨んできたし、実力的にもまだ差があるのは事実だろう。しかしこのまま行けば、韓国のプレイヤーが日本の強力なライバルになるのは、そう遠い日のことではない。
日本と韓国、両国のプレイヤーにとって、未来を見据える上でも重要な試合だったといえるのではないだろうか。

左上:Mitsumasa Hoshino 左下:Yuki Yamada 右上:Takehiro Suzuki 右下:Norichika Oho

日本代表 Interview
Mitsumasa Hoshino
韓国には2年前と今年の初めにも来ましたが、来るたびにすごくレベルアップしてるんですよね。前回はコジュン選手が飛びぬけて上手くて、他のプレイヤーとの差がある気がしましたが、今は全体的なレベルが上がって、その差が埋まってきてると感じました。同じトーナメント会場でも前回より人の数も多いし、活気も全然違いますからね。ゲームも結構楽しめました。国が違っても言葉が通じなくても、僕たちをいつも暖かく迎えてくれて、ホントにありがたいなと、毎回思ってます。

Yuki Yamada
韓国に来たのは3回目ですが、どんどんレベルが上がってますね。外してたのはここ一番という時だけで、削りや締めは普通にできてますからね。有名プレイヤーだけではなく、初めて見たプレイヤーもかなり打てるようになってるので、これは僕らもしっかり練習しないとならないと思いました。今日のゲームでも決めるところはしっかり決めてたと思います。向こうがちょっとミスが多かっただけで、勢いもありましたし、6-0といってもそんなに余裕があって圧勝した感じがありませんね。前回のトーナメントではどちらかというとイベントに興味がある人達も多かったようですが、今回はどの人もゲーム自体に真剣に取り組んでる気がしました。今回は日本代表になれて良かったです。普段組めない選手ともダブルスが組めたし、いろんな組み合わせのダブルスや、めずらしいショットを見ることができました。有意義な大会でした。

Takehiro Suzuki
フェニックストーナメントには初めて来ました。やっぱり試合経験の多い日本人の方が決めるところは決めたなという感じですね。でも日本で投げても上位レベルにいくだろうと思うくらいは打たれました。強いです。ちょうど一年くらい前の日本という感じですね。一年前の自分を見てるような気がしましたが、きっと来年再来年とどんどん進化するんじゃないでしょうか。驚いたのは開場すると全員観客席で待機してて、ゲームオンまでは絶対にダーツを投げないことです。これが日本だとバラバラで、投げてる人もいればゆっくりお酒を飲んでる人などもいるじゃないですか。でも韓国は全然違って、ゲームオンになるといっせいに真剣に投げ始めるんです。すごく規律が取れてて、これは日本とは全然違うと思いましたね。韓国のダーツに対する真剣さを感じた瞬間でしたね。

Norichika Oho
初めて韓国のプレイヤーを見たんですが、かなり上手かったんでとても緊張しましたね。今回の日本代表は僕以外の三人がめちゃくちゃ上手い人だったんで、足を引っ張らないように頑張りました。ワンレグ目だけ頭が真っ白だったんですが、他の三人が引っ張ってくれたので、試合自体は楽しめました。ここで外したら負けるなという場面も何回かありましたが、みんなきっちり決めてたので、僕も外せないとかなり集中しました。韓国のプレイヤーも日本人同様ダーツが好きなんだということがよくわかりましたね。僕も負けないようにこれからも一生懸命練習しようと改めて思いました。

左上:J.KHO 左下:J.W.LEE 右上:G.K.NAM 右下:G.H.YEO

韓国代表 Interview
J.KHO
いろんなことを学んだ大会でした。日本の選手の強さを改めて感じましたね。韓国でダーツが始まった3年前と今では、ダーツの状況はまったく違います。3年前は始まりでしたが、今は活性化していて、その役割を『フェニックススターズ』の選手たちが担っています。そして1~2年後は目を見張るくらい成長すると思っています。韓国チームは実力は優れているのですが、まだ経験が足りないですね。今後世界的なプレイヤーたちとの経験を積めば、優れたプレイヤーがたくさん出てくると思います。韓国チームの練習時間は一日5~6時間ですが、この時間を選手たちはとても楽しんでいるので、日々実力をつけていくことでしょう。今日は体調も優れず結果を出すことはできませんでしたが、次回はまた日本の選手たちと良い試合がしたいと思っています。次の大会では自分ももっと成長していることを約束します。

J.W.LEE
すごく練習もしましたし、楽しみにしてました。前回星野選手と対戦して負けたので、今回もう一度戦って勝ちたかったです。でも対戦できなかったので残念です。日本の選手のみなさん、とても頑張っていただいてありがとうございました。

G.K.NAM
日韓対抗戦は毎回出場していますが、今回の日本選手のみなさんは本当に強くて大変でした。みんな素晴らしかったです。

G.H.YEO
日本の選手はとても上手なので、少し萎縮してしまいました。そのため自分の実力が出せなくて残念です。もっとたくさん練習が必要だと思いました。次の機会ではもっと強い姿を見せたいです。

韓日対抗戦に先駆けた前夜祭
ダーツバー501にて開かれた前夜祭では、100人もの人達が集まり、日本人プレイヤーを熱烈歓迎してくれた。ファンのみならず、Phoenix Starsの選手達とも顔を合わせるチャンスを得て、明日の大会へのやる気が充満しているような会場内。
それにしても、韓国の人たちは自分を表現するのが上手い。お気に入りのプレイヤーへのアプローチも積極的だ。そのプレイヤーのダーツが好きなんだと言うことが、ストレートに伝わってくる。
そんなもてなしを受けた日本人プレヤー達も終始笑顔。特に日本語で「可愛い」を連発されていた大穂選手は、この夜の韓日交流の立役者と言えるだろう。日本からも韓国からも応援されるなんて、プレイヤーとしてはこんなに名誉なことは無い。そんな日本人プレイヤーへの期待と温かい応援に、ちょっと嬉しくなるような夜だった。

ダーツバーでの集合写真

韓国ダーツバー事情
日本では、ダーツバーの元気が無いという話題をよく聞く昨今。お隣韓国はどうだろうか?ダーツが熱いのは、ダーツバーが熱いから。
ダーツがその国を席捲していく時の、あの嵐のようなムーブメントが、今韓国ダーツバーを中心に盛り上がり始めている。
韓国ダーツバーの特色として挙げられるのが、時代が動いていることを肌で感じることの出来る、2種類の店が混在しているということだ。1つは最新の設備で、最初からダーツを投げる事を主な目的としてデザインされた店舗。もう一つは、以前からバーとして存在していたお店が、ダーツマシーンを後から入れて置いているというところ。後者の店では、ダーツを投げている前を人が平気で横切ったりと、ちょっとはらはらさせられることもあり、逆に新鮮に感じる。一方501のように100坪以上の広いフロアを持ち、おしゃれにダーツを楽しめる最新流行の店舗では、日本のダーツバーの良い部分を取り入れた気の利いたサービスと雰囲気が人気だ。
今回取材で5軒のダーツバーを取材させていただいたが、一番の感想は、「韓国の人はめちゃめちゃパワフル!」ということだろうか。日本では草食系などという言葉がもてはやされているが、韓国のダーツバーに集う人達は、まさに肉食ならぬ焼肉系とでもいうほど、好奇心旺盛で貪欲に楽しんでダーツを投げている。どこに行ってもテキーラマッチを挑まれた江口選手は、まさにテキーラ王子。そしてそのマッチに勝った人たちもテキーラを飲み干す始末。うきうきするように楽しいダーツバーめぐりは、ソウルの夜にこだまするダーツマシーンの音と、心底楽しんでいるお客さんたちの歓声に埋め尽くされていた。

真剣にダーツ討論

韓国ダーツの精鋭軍団
日本ではまだ知名度は低いが、韓国ダーツシーンではちょっとした噂になっているPhoenix Stars。
何者?という疑問に答えるべく、彼らの知られざる素顔に直撃した。
Phoenix Starsとは、韓国のダーツシーンが景況になってきた今、ダーツを生業にしていこうとしているプレイヤーを応援するため作られたプレイヤーのグループだ。現在男女合わせて20数名のプレイヤーが在籍している。メンバーは固定ではなく、入れ替わりもあるようだ。今年6月発足したばかりのまだ新しいグループだが、実力派の選手が揃っており、日本に来日経験のあるプレイヤーもいる。
HIが直ロケーションとしてオープンした501というダーツバーが彼らの本拠地で、午後2時~6時まではここでひたすら練習する。その後様々なダーツのプロモーション活動を行い、プレイヤーとしての腕を磨くだけでなく、ダーツを韓国全土に広める役割も担っている。
日本ではあまり聞かない形態のプレイヤー集団だが、既にダーツが盛んな他の国から学んだノウハウを持っているだけあって、効率よい方法でダーツそのもののプロモーションと、「プロ」プレイヤー育成の融合が行なわれているのだろう。実際、Phoenix Starsのプレイヤー達はアルバイトなども禁止されているようで、ダーツ一本で生活しているということだ。スポンサーの他に賞金を獲得することで成立している、日本やイギリスなどのプロプレイヤーとは少し違ったシステムだが、専業ダーツプレイヤーという意味では大きくは変わらないだろう。したがって、ダーツに割く時間は当然長くなるのだから、実力がアップするのは間違いない。今後Phoenix Starsの中から、スーパースターが生まれてくることも十分あり得る。日本のプレイヤーにとっても、脅威の存在になりかねない。国内でレベルを上げた後に狙うのは、日本やヨーロッパへの進出。そして、最終目標は世界の頂点だ。

Phoenix Stars