Vol.73 SUPER DARTS 2015
ポール・リム 優勝

2015年5月

SUPER DARTS 2015が3月26日、お台場のZepp ダイバーシティ東京で開催された。「Who’s the Greatest?」というサブタイトルの通り、ソフトダーツで世界のトップを決めようという、世界最大級のソフトダーツの祭典だ。賞金額も、1回のソフトの大会としては破格で、優勝者にはなんと1000万円が贈られる。
多くのプレイヤーが、「夢はSUPER DART出場!」と話しているのをよく聞くが、この大会の出場枠はたったの16名と狭き門だ。しかも世界で名だたる選手が顔をそろえている。

出場資格は昨年度THE WORLDのベスト8にプラスして、JAPANのベスト4(今回は村松治樹がTHE WORLDと重複しているので5位までが繰り上げで入った)、そして前日行われた大会で決められたワイルドカードが2名と、インビテーションの2名。これでもわかるように、この大会に出場するというだけでも大変なことなのだ。
今年も世界各国から参戦するその面子にワクワクしてしまう。日本からは先述の村松治樹に加え、江口祐司や知野真澄、鈴木猛大といった名選手と、昨年度JAPANで活躍した野毛駿平、粕谷晋、勝見 翔が参戦。更にワイルドカードとして松本篤も名前を連ねている。
アメリカからはダリン・ヤング、レイ・カーバー、スコット・カーシュナー、そしてその他の地域からは、昨年THE WORLDで優勝したボリス・カリチュマーをはじめポール・リム、エイドリアン・グレイ、ショーン・ナレイン、ローレンス・イラガンといったスター選手たちが勢ぞろいした。

試合形式は、準決勝まではベストオブ5レッグで、決勝のみベストオブ7レッグになっている。ノックアウトのトーナメント制なので、チャンスは1度きりしかない。
期待された村松、知野、江口という日本勢や、ダリン・ヤング、レイ・カーバーといった選手達が1回戦で敗退する過酷な戦いの中、準決勝まで残った4名は野毛駿平、ポール・リム、エイドリアン・グレイ、ボリス・カリチュマー。日本人の野毛が奮闘していたのは嬉しい限りだ。そんな野毛も準決勝でリムと対戦し、残念ながら3ー2で敗退。野毛は試合後、「とても勉強になった試合だった。」と語っていた。

試合結果

このファーストラウンド8ゲーム、どれも見応えのある内容の濃い試合だった。大会が始まる前はファン投票などもあり優勝候補などを予想して大いに盛り上がったが、やはりダーツはやってみないと分からないという結果となった。特別な大舞台なだけに、さすがに緊張したプレイヤーもいたことだろう。ソフトダーツの醍醐味が味わえて観客は大騒ぎ、会場に赴いて本当に良かったと思った人も多かったことだろう。

そして決勝に残ったのがポール・リムとボリス・カリチュマーの2人。カリチュマーは言わずと知れた昨年度THE WORLDで1位のプレイヤーだけに、ここでも有利に試合を進めると思われた。
決勝では、後半までお互いのゲームをキープした両選手だったが、最後となった第6レッグのクリケットでリムが9マーク連発でまさかのブレイク。勝負強さを見せて優勝した。
色々な人が、このすごいメンバーの中で誰が優勝するのかと、持論を展開していたに違いない。そしてそんな中で、世界のソフトダーツを過去10年以上にわたって牽引してきたポール・リムが優勝するとは、なんと劇的な結末だろう。
彼は日本のソフトダーツの歴史においても重要な役割を務めて来たプレイヤーだ。多くの強い若手が台頭してくる中、彼等と互角、いやそれ以上の力でベテランの手強さを、身をもって証明してくれたポール・リム。ソフトダーツの世界トッププレイヤーとして改めて賞賛したい。本当におめでとう!

この優勝には格別な感銘を覚える。ポール・リムとは10年以上の親交があるが、彼のダーツに対しての姿勢にはいつも驚かされて来た。そしてこの舞台でこの素晴らしいダーツ!いつも努力、練習と語っていたが、それを証明した。試合が終了して各ダーツ関係者にお会いしたが、誰もが正直にそのダーツ人生を認めていた。

KTM.小田川 克己 Interview (緊急Interview / 今回の大会でスタッフとして加わった)
burn.をプロデュースしていた時代に、後発でSUPER DARTSが2007年に生まれたわけですが、その時の印象はどう でしたか?
周りは対抗馬的なトーナメントが出来たねと、スキャンダラスな意見を期待して質問されることが多かったんですけど(笑)。
そもそもコンセプトが違っていたので、ライバル的な見方は全くしていなかったというのが本音ですね。
むしろ、チケットをもらったので観に行く予定でしたから。僕が考えたburn.のコンセプトと類似している部分がなかったので、「お、向こうにも頑張ってもらわないと」という感じだったかな。
あの頃から、最終的にはSUPER DARTSは今のような何かしらの結果に基づく「インビテーショナル制(招待制)」になるんだろうなと思っていたんですよ。burn.は最初の2回で完全インビテーショナル制を廃止していましたし、その2回の目的はあくまでも全国的 に認知してもらうために。既に最初の構想から2005年から導入した全国のダーツバーからの勝ち上がり制を考えていたので、異なるタイプのトーナメントが出来るということは、どちらにとってもプラスだろうという印象で。
そしてどちらかというと無骨だったburn.よりも、あの時からエンターテイメントとして成立させようという気持ちが前面に出てい た経緯が、国内最高峰と認知の高い大会に成長していったんではないでしょうかね。

その流れから、今年のSUPERDARTS2015はどういう印象でしたか?
細かい設定は変わったとしても、2007年から続けてきた「厚み」というものがものすごく表面化されてきたというかね。威厳という言葉が正確なのかな?大会としての重厚感が凄かったですよね。とにかく会場の空気感のドシっとしたものは会場にいらした方々には伝わって いるんじゃないかな?
出場選手のラインナップも豪華でしたよねぇ。開催前に配られた新聞を観た時に、仕事として依頼されていたにも拘らず、単純に「観てみたいよなぁ、この対戦」という試合が多かった。なので、本当はじっくり席で見たかったですけどね(笑)。
僕はバックヤードでずっとインタビューしていたんですけど、むしろ特別特典映像で裏方さんの働き具合を撮影して流してもらいたかったぐらいに、まぁすごい多くのスタッフが配置されていて、その夫々が一つの目標に向かってちゃんと動いていたというか。「あぁ、いい大会はこういう雰囲気になるんだよなぁ」と昔を思い出しましたねぇ。

海外選手と日本人選手の戦いという観点から見たら、日本人選手は世界的にどの位置まで上り詰めたと思いますか?
それこそ僕がこの業界に入った頃には「あの海外のモンスター達にどうやって勝てばいいんだろうか?」と選手と悩んだりした事が実際にあったくらいに、あの当時の海外選手の持つスキルというのは驚異的でした。これは相当な年月が経たないと無理なんじゃないかと思っていたんですけど、あれから10年でむしろ海外選手からマークされる選手が出てきている。
勿論、ハードダーツの世界ではまだまだかなりの差がありますけど、ソフトダーツにおいては圧倒的な頂点に立つのはまだだとしても、 確実に頂上はあとちょっとで到達してもおかしくないレベルまで来ていますよね。
ただ、まぁ今回はポールの経験値と勝負師としての本来持つパワーに一蹴されてしまったというんでしょうか(笑)。

そのポール選手をあと一歩まで追い詰めたのがJAPAN年間王者の野毛駿平選手でしたね。
そういう意味では、日本のダーツ界としてはかなり良いトピックですよね。若手の駿平がアジアでは随一のレジェンドを追い詰めたわけ ですから。
駿平はこれからの選手ですから、世界にもどんどん挑戦していくでしょうし、そういう意味ではこれからが非常に楽しみな試合でした。

海外選手で感じたことはなんでしょうか?
今まで日本は、海外に比べれば本当に大きな規模として成立したのはまだ10年足らず。そういう状況からやはり世界に習えと色々な方式を海外から学んできたり追随してきたと。それが、日本お得意の「ガラパゴス化」していき「JAPANスタイルのトーナメント」というものを作り出したのがSUPER DARTSだと思うんです。
国内で考えたら、伝統がしっかりしたトーナメントは他にもありますけど、海外選手を大体的に招聘したのはSUPER DARTSだけですからね。
本来ならば、日本の選手限定にしたりと閉鎖的な方式を取ることも出来たものを、そして実際に初回から数回までは日本人限定で 行ってきたものを一気に拡大するというのはある意味ギャンブルなんですよね。日本のダーツファンに受け入れられるかどうかを考えると、日本限定で十分に収益を上げていたのだから、誰でも冒険するのは怖い。
それを開国したという経緯から、海外選手の間でも相当評判が高いのは当然の結果ですし、「小さい島国の稼げるトーナメント」という卑下した感じは全くない。
実際THE WORLDという大会での彼らの戦いを見ればわかりますよね?海外選手からは、この大会へのリスペクトしている気持ちを感じましたし今世界的に鑑みても、SUPER DARTSとTHE WORLDが確実に全世界から注目されているのは明らかです。

SUPER DARTSは日本が誇れるトーナメントであるということですか?
今まで散々色々なトーナメントを企画してきた僕からしたら、本心でそう思っています。
大会規模とそれを取り巻くバックボーン、そのSUPER DARTSに関連するトーナメントの立ち位置というか、配置から考えて、例えれば物凄い強固な艦隊を作り上げたという感じですかね。
希望としては、これをどんどん海外にプロモーションして欲しいですよね。「ソフトダーツの大会は日本がナンバーワンだ」と胸を張っても良い。
海外でのトーナメントや実際に香港で大会企画をさせてもらった経験上、今SUPER DARTSと同等レベルで対抗出来る大会は見当たらないですし、もし後発でこれに追随しようとしているものがあるとするならば、相当緻密な計算とプロットが明確に出来ていないと 難しいでしょうねぇ。
まぁ天邪鬼なので、「そういう大会企画してみたいな」という気持ちもなくはないですけど(笑)。
でも、今の仕事を全部一旦お休みして集中してやるくらいでないと、またそうやったとしても同じ位置に立てるかどうかも未知数ですよね。それは2007年からしてきたという 「伝統」はどうしても覆すことが出来ない歴史ですからねぇ。
そういうことを全て鑑みて、SUPER DARTSはもっと世界進出をしてほしいかなと。