Vol.82 PDJ 2016
試合総括

2016年11月号

再び、アノ舞台へ挑戦…
8回目の大会で挑戦者となったのは…

ついにこの人の番がやってきた。多くの観客がそう思ったことだろう。この大会はこれまで全ての舞台を弊誌は取材に赴いてきた。彼の試合後の苦渋の姿を数多く見てきただけに、特別な気持ちを持って優勝インタビューに臨んだ。実はインタビューは明日以降にしますか?と尋ねたのだが、「いや、今お願いします」。胸がいっぱいだったのだろう、短い言葉だったがその感激はとても伝わってきた。
今までに多くのプレイヤーに記事で登場していただいているが彼はその中でもトップ級で紙面が多い。
それだけ期待していたプレイヤーだからだ。年末の舞台が待ちきれない。みんなで応援しよう。


ついにPDCの舞台に挑戦できる
知野 真澄 Masumi Chino 優勝Interview
優勝おめでとうございます。
ありがとうございます!

念願の優勝ですね。
はい。5回目のトライでようやく手に入れました。

今日の調子はいかがでしたか?
1試合目が始まるまでの待ち時間が長かったので他の選手のプレイを見ていたんですが、正直僕よりも素晴らしいダーツをしている選手の方が多かったと思います。今の自分では引け目を感じるプレイヤーが多い中で勝つことができたのは本当にラッキーでした。
やっと勝ち取った今日の切符なので、少ない残り時間の中で自分自身を最大限向上させようと思っています。本番に向けてもっともっと上げていける自信はあるので、今からしっかり頑張っていきます。

いよいよワールドチャンピオンシップの舞台に立つわけですが、お気持ちはいかがですか?
ダーツを始めてからずっと憧れていた夢の舞台なので、いったいどのようなシチュエーションが待っているのかドキドキワクワクといった感じです。まずは今の自分以上の状態を作ることが大前提です。それをぶつけられるように暴れて来たいと思っています。

初戦を突破するとその次にはいよいよトップ選手と対戦することになりますね。
どんな選手と当たっても自分の100パーセント以上の力を出せる準備をして挑みたいと思います。
たくさんの人が期待していると思うので頑張ってください。
NDLさんにお世話になってから10年以上が経ちましたが、あの頃の若造がやっと夢の舞台に足を掛けることができました。全力で挑戦してきますので、みなさんに応援していただけたら幸いです。

PDJ FINALで感じた事
今年の挑戦者が決まった
Darts Cafe Bar DOLLiS 灰田 裕一郎 Yuichiro Haida
「8年目のPDJ FINAL」
11月6日、今年もPDCワールドチャンピオンシップへ代表1名を送り出すための最終選考である
PDC CHALLENGE TOURNAMENT THE FINAL(以下 PDJファイナル)が両国KFCホールで行われた。
東西の各予選通過選手8名とスティールダーツ4団体からの推薦選手が集結し、世界への切符をかけて12名が頂点を目指す。
今やPDJファイナルは、日本で一番強いスティールプレイヤーを決める試合と言えるトーナメントになった。
そんな試合を日頃からスティールダーツの環境に身を置く筆者が、独自の目線でPDJファイナルを振り返る。

「王者不在」
今年のPDJファイナルが例年と大きく違った点をあげると、村松治樹選手の不在が挙げられる。これまでのPDJファイナル全てに出場してきた村松選手。過去4回のファイナル優勝という輝かしい実績だけでなく、本場イギリスでの活躍はもちろん、日本人初のPDCツアーカード取得など、世界に誇る日本のトップスティーラーだ。しかしその村松選手も今年は残念ながらPDJ東西の予選を通過できず、ファイナルへの連続出場が途切れた。今でも、そしてこれからもスティール界を牽引する選手だけにPDJファイナルで彼の姿を見られないのは残念であった。
そしてもうひとつの注目は、本場イギリスのBDOのワールドマスターズやレイクサイド世界選手権に出場、ソフトダーツだけにとどまらず国内外のスティールシーンでも立派な戦績を残している浅田斉吾選手の初ファイナル出場である。浅田選手のPDJファイナル出場を待ちわびたファンは多いのではないだろうか、少なからず筆者もそのひとりである。
予選もハイアベレージな数字で抜けており、本戦でどんなダーツをしてくれるのか注目のひとつであった。
他にも初出場の選手をはじめ、PDJファイナル常連組の選手もみな個性的な選手が揃った今大会。実力も拮抗しており誰が勝ってもおかしくない顔ぶれだけに、今回のファイナルも注目が集まった。

「期待以上だった新コーラー」
PDJファイナルのコーラーといえば第1回から第6回までファイナルの全試合をコールしていたPDC看板コーラーのラス・ブレイであろう。
昨年そのラス・ブレイが来日できないということで代わりにコーラーを務めたのが日本のダーツシーンに多大な貢献をしてきたビル・ロングであった。
これまで東西予選の最終決定戦でコーラーを務め、PDJでの実績もあったビル・ロング。
昨年のファイナルでは見事なMCで会場を沸かせ、ラス・ブレイの代役以上の活躍だった事は記憶に新しい。もちろん今年も引き続きビル・ロングがコーラーを務めることになっていたはずだが、残念なことにそれが叶うことはなかった。
ビルは今年5月PDJ西日本予選の会場で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。PDJはもとよりダーツ界にとって何よりも残念な訃報であった。
今回、PDJファイナル会場では彼のメモリアルフラッグが飾られ、開会式ではビルへ黙祷が捧げられた。ビル亡きPDJファイナルとなった今大会、後任となるコーラーは大会二週間前に突然発表された。
2016年PDJファイナルコーラー MCジョン・ファウラー。多分日本で彼の名を知る人はごくごく少数であったと思う。もちろん筆者も初耳であった。聞いたことのない名前だけに、半信半疑なところがあったが、試合当日に会場入口で彼を見てその不安はなくなった。
「ハロー!」と声をかけると笑顔で答える彼、この人なら大丈夫と直感した。迅速正確なコールはもちろん、ゲームコントロールやコールタイミング、英語の発音も日本人にとてもわかりやすく、やはりとても素晴らしいコーラーであった。人柄もよく、とてもフレンドリーで休憩中には頻繁に会場に現れ、サインをしたり、一緒に写真を撮ったりしていた。
彼のコールは観戦している側も見やすく、選手数名に聞いても投げやすかったという声が圧倒的であった。
今後もPDJのメインコーラーとして活躍してもらいたい、素直にそう思えるコーラーであった。

「今年のゲーム内容をみて」
PDJファイナルは年々選手のレベルは上がっているように見える、アベレージは回を重ねるごとに上昇傾向だ。しかし、実際のところ世界のレベルには程遠く、スティールダーツにおける技術・知識・経験というものに関しては、実はあまり変化していない。
アベレージが上昇しているのは単にシュート力が上がったからにすぎない、そしてそれも限界にきている。
ここから少しでも世界に追いつくために必要なことは、何もダブルの決定力を上げるとか、もっと140点を出すなどといったダーツ技術ではない。
それ以前に、アレンジの知識と工夫だけで、もう1ラウンド早く上がるチャンスを作ることは可能だ。
このことについては、7月に来日したPDCコーラーのラス・ブレイ氏も同様のコメントをしている。数字を頭で計算するだけでなく、パターンとして覚えてリズムよく投げられる。そんな経験と慣れが不足しているということである。
それだけではない。出場する選手の点取りレベルが上がった今、残り点数が300〜400点からアレンジをしていかないと平均15ダーツという世界は見えてこない。しかしながら多くの選手は残り点数が300〜400点あたりでもアレンジを気にしていない選手が見受けられた。
入ればいいという時代はもう卒業しなければいけない。PDJファイナルが単に日本一強いスティールプレイヤーを決めるトーナメントならそれでいいであろう。しかしPDJは世界最高峰の舞台へ送り出す日本代表選手を選出するトーナメントである。
PDCプレイヤーが当たり前にできていることを、同じようにできなければ、勝てる確率は上がらない。少数ではあるが、早いラウンドでのアレンジを意識している選手ももちろんいないわけではない。早い段階から数字の整理を意識できている選手は、残り点が100点前後でのアレンジに備えて、数ラウンド前から数字を整えている。
またアレンジを頭でなく肌でわかっているという差は、ダブル決定率に直結する。残り点を頭で計算しながらアレンジする選手はやはりリズムが悪い。それでもそれをシュート力でカバーできている点に関しては、それはそれですごい技術力だと感心させられてしまう。
せっかくのシュート力をもっと有効に使うためにも、今後アレンジを研究して技術強化することが、世界に通用するプレイヤーの近道なのではないかと思う。

「ダークホースの活躍」
今大会の阿久津選手を賞賛する声は多い。想像していなかったから余計驚いたという人がほとんどではないだろうか。しかし、彼のスティール経験や技術を考えれば、あの活躍はおかしくない実力の持ち主だ。彼を知る出場選手たちは「阿久津 要注意」とマークしていたのも事実。とはいえ、今回の活躍は目を見張るものがあった。
あとで試合映像を見直したが、全選手の中で一番横ブレが少なかったように思う。スローイングもスティールならではの技術を使っていて、グルーピング力も群を抜いていた。
阿久津選手の活躍が今回のPDJファイナルを面白いものにしてくれたのは間違い。

「最後はこれまでの経験か」
優勝した知野選手、実はダーツの調子そのものはあまりよくなかったそうだ。それでも勝った知野選手はさすがとしか言いようがないのだが、やはりそこにはスティールダーツの経験差があったように思う。
スティールの501というゲームは、数字を減らしてダブルで上がるという大きな目標だけでなく、その中にいくつもの駆け引きがあり、そのひとつひとつの要素に技術が存在する。
序盤は数字を減らす技術、中盤は数字を整える技術(知識)に加えプレッシャーのかけあい、そして終盤に向けてのアレンジ力、最後はダブルを決めるための技術とリズム。
そして、これらすべてをコントロールする力とメンタルがあわさり、残った数字をいかに早く上がるかを攻略していくのがスティールにおける501というゲームだ。
ダーツコントロールがよくない場合は、他の側面を上手にこなすことで補えるのがスティールの面白さでもある。
今大会は接戦だったり、逆転劇だったり、どの試合も見応えのある試合が多かったように思う。結果、最後に勝つ選手を見ているとシュート力以外の要素を丁寧にこなして、有利にゲームを進めていくのが上手かったように思う。
決勝戦でも知野選手、阿久津選手が一進一退の攻防を繰り広げた。もちろん、両者とも巧みな技術とゲームコントロールをみせていたが、最後は知野選手の技術を超えた何か意地のようなものが垣間見えた。
あのステージで幾度も悔しい経験をしてきた知野選手だからこその底力が、阿久津選手のダーツを上回り、見事優勝を収めることができたように思えた。

「PDJ 9年目へ向けて」
今年でもう8回目のPDJ、毎年予選を開催し、日本代表をPDCへ送りだしているPDJという組織の努力を忘れてはいけない。しかしながら、スティールダーツの普及、選手の技術向上なども考慮し、見直しや改善をしなければいけない点もあるだろう。
来年のPDJスケジュールがすでに公式サイトで発表された。これからのPDJがさらに素晴らしいものになり、日本一のスティールイベントであり続けられるよう、願っている。

「4人目のチャレンジャー」
橋本守容、村松治樹、小野恵太に続きPDJ4人目の優勝者となった知野真澄選手。大会数日後に話を聞いてみた。
PDCの日本大会に2度出場していることもあり、フィル・テイラー、マイケル・ヴァン ガーウェンといったPDCスーパースターとはすでに対戦している。
そんな知野選手が次に対戦したい相手はギャリー・アンダーソンだそうだ。
今回出場することになったPDCワールドチャンピオンシップで、ここ2年間連続優勝している現世界チャンピオンである。大会まであと1ヶ月ちょっとだが「スティールの技術を大きく底上げして臨みたい」と意欲を燃やしている。
最後にNDL読者の皆様へPDCに挑む抱負を聞いてみた。
「本当に引き締まる思いでいっぱいです、落ちついた気持ちでイギリスに行ければと思っております」知野選手なら日本人初の一回戦突破も夢ではないだろう。

今回のPDJファイナル、勝つべき人が勝ち、今行かなくてはいけない人が選ばれたと思っている。12月終わりに行われるPDCワールドチャンピオンシップでは知野真澄というダーツ界の星をみんなで応援しよう。

大会が始まる前、今回の舞台についてぜひ記事をお願いします、と打診すると「喜んで書かせていただきます」すぐに快諾をいただいた。全国でも珍しいスティールダーツ専門店を経営し、ほとんどのPDCの試合を生放送で見ているというドリーさん。時々記事をお願いしているが、今回は4千文字を超える力作になった。観点も素晴らしいし、選手のことも分析している。世界へと日本ダーツがはばたくことを心から願っているのだろう。ダーツへの思いは誰にも負けない。12月の放映ではきっと熱い応援で顔が真っ赤になっている姿が目に浮かぶ。