Vol.102 灰田 裕一郎
スティールダーツ入門 No.1

あなたも今日からスティールダーツプレイヤー
ダーツは細かく分けると2種類のダーツが存在します。ソフトダーツとスティールダーツ(ハードダーツ)です。日本国内の普及率でいえばソフトダーツが7割、スティールダーツが3割ぐらいでしょうか。
5年くらい前は9:1ぐらいの割合だったのではないかと思います。ここ数年でスティールダーツの人気がジワジワと上がってきています。
これも日本人のトッププレイヤーたちが日本を飛び出し、スティールダーツの本場イギリスで活躍し素晴らしい成績を残している影響でしょう。近年ではPDCでトッププレイヤーと互角に戦う浅田斉吾プロ、BDO世界選手権2連覇の鈴木未来プロの活躍はみなさんもご存知のとおりです。そんな流れもあり、いまスティールダーツに興味を持つ人が着実に増えているのです。
それでもスティールダーツの印象は?というとお堅い、厳しい、難しい、計算が大変、プレイできる場所があまりないなどの声が多い。初心者がはじめてみたいと思っても少しばかり敷居が高くなってしまっているスティールダーツ。
そういうわけで今回NEW DARTS LIFEでは「スティールダーツ入門 完全ガイド」と称し、スティールダーツというものがどのようなものなのか、ソフトダーツと何が違うのか、ゲームの流れなどをできるだけわかりやすく解説いたします。
誰でも初めてのことに挑戦するのは不安で怖いです、でもある程度のことをあらかじめ予習しておけば、とっつきやすくなり敷居もぐっと下がるのではないかと思います。
これからはじめてみたいという人はもちろん、すでにスティールダーツをやっている人は今後だれかに教える時のために。
スティールダーツの世界へいざ出発!

はじめに
これを書いている私のことに少し触れておきます。
こんにちは。ダーツ歴は16年くらい。現在は東京都内でスティールダーツ専門のカフェをやっています。おかげさまで6年目です。以前はソフトダーツのバーをやっていたこともあります。ソフトダーツのプロだったこともありましたね。たしか(笑)。今は自分のカフェでスティールダーツな毎日を過ごしています。このNDL誌にもスティールダーツ専門のライターとして、たまに記事を寄稿していています。今回はこの特集の話をいただき、必死に記事を書いているところです。よろしくお願いします。
さて、私のやっている店にはスティールダーツ初めてというソフトダーツプレイヤーから、ダーツそのものが初めてという初心者まで様々な方がご来店されます。
今回の特集記事では普段私が店舗で初心者の方やスティールダーツデビューする方たちに説明していることを、できるだけそのままに写真を多めにわかりやすい文章で解説していこうと思います。
ここから先の説明や解説は入門書やマニュアルのような堅苦しい感じにはしないつもりです。
この特集を読んでスティールダーツの輪郭を知ってもらい、スティールダーツの店に足を運びやすくなるような、スティールダーツを始めてみたくなるような、新たな挑戦に背中をそっと押す。そんなコンセプトです。
どんなことでも、まずやってみること、慣れることが大切ですからね。
それとこれも最初に言っておきたいこと。「スティールダーツ」だったり「ハードダーツ」だったり、呼び方がいくつかありますね。
正直どちらでもいいと思います。ただハードダーツという呼び方はソフトダーツが主流の日本ならではの呼び方です。世界的にハードダーツと呼ぶ国はほぼありません。なので今回の特集では「スティールダーツ」で統一して書いていきます。別に「ハードダーツ」でも全然いいんですよ、はい。

スティールダーツとソフトダーツの違い
まずはザッと項目をあげて両者の違いについて話していきましょう。
ダーツの世界チャンピオンに16回もなった神様フィル・テイラーにインタビューした際「スティールダーツとソフトダーツは違いますか?」の質問に彼は「野球とサッカーぐらい違う」と真顔で答えました。神様に言わせるとそれぐらい違うらしいのですが、初心者向けの入門特集で最初に書くことではないですね。忘れてください。
私の店に来られた初心者の方には「基本的にはソフトダーツと同じです。最初は違いを気にせず楽しみましょう」と伝えます。本当のところは神様が言うように沢山の違いがあります。同じだなんて実は嘘っぱちです(笑)。でもぜんぜん違うと言ってしまうと身構えてしまうだろうし不安になるだけ。
ソフトもスティールも同じダーツだから違いを考えずにスティールダーツを楽しんでください。そういう意味で初めての方たちには「ソフトダーツと同じ」と説明しています。
ある程度やっていくと分かってくることなのですが、道具面、技術面だけでなく、ゲーム性や狙い方など細かいところにもスティールダーツ特有のものがあります。ソフトダーツとスティールダーツで道具や技術を変える人もいれば、あまり気にせず、どちらもなるべく同じようにプレイする人もいます。
これに正解はなくその人の立場(プロやアマ)や環境(ソフトを投げることのほうが多いなど)によって2つのダーツを両立する仕方は違うと思います。スティールとソフトの違いは苦労する部分でもあり、楽しさになる部分でもあります。

レーティングがないスティールダーツ
ソフトダーツでは当たり前に存在する各プレイヤーのダーツレベルを示すレーティング。これがスティールダーツにはありません。
これはスティールダーツの良いところだと思っています。その人のダーツ技術や強さを数値化することがないので、プレイヤーをレベルで区分けしないし、上手いとか下手だとかあまり関係なくプレイできるということです。
スティールダーツの大会をみるとそれがよくわかります。スティールトーナメントではソフトダーツのようなレベル分けがありません。
男子、女子で別れてるぐらいです。トーナメントによってはユース部門があったりシニア部門、障がい者部門などもありますが、ダーツの技術レベルで区分けすることはまずありません。ダブルスに至っては男女もユースも関係なくごっちゃ混ぜのガチンコ勝負です。

上級者も初心者も同じ
スティールダーツは得点の計算も自分でしなくてはいけないので、始めたばかりだと計算に時間がかかりプレイが遅くなりがちです。
多くの初心者はそのことをとても気にされますが、そこは心配しなくて大丈夫です。計算が遅いのではなく慣れていないだけです、やっていくうちに早くなります。
スティールダーツをプレイする人たちはそのことをきちんと理解しています。なので計算が遅くても文句をいう人はいません。
それでも気にされる人は対戦前に「始めたばかりで計算遅いです」とでも伝えておけばよいでしょう。「ダーツ下手なんで」などレベルのことは伝える必要ありません。
下手だと主張しておいて、もし相手に圧勝してしまったら、それこそなんとも言えない空気がふたりを包むことになるでしょう。

狙ったところに入らないのは当たり前
スティールダーツは501というゲームを主に対戦を行います。
得点を取って相手よりも早く自分の数字を0にするゲームです。対戦といえど501というゲームは結局は自分との戦いです。ゲームをプレイすることに相手のレベルは本来あまり影響しません。もちろん勝敗には関係しますけど(笑)。ダーツ技術に関係なく、誰でも一緒にプレイすることができるのがスティールダーツの良いところです。
対戦してみたいけど初心者だから声かけたら迷惑かもしれないというのは間違いです。スティールプレイヤーは誰しもひとりで練習するより誰かと対戦したいものです。
ちなみにスティールダーツではレベル差を埋めるためにハンデをつけることは基本ありません。技術の差はそれほど気にしなくていいのです。スティールダーツはソフトダーツに比べるとボードサイズも小さいですし、エリアも狭いです。正直その点でいえばソフトダーツより難しいです。
でもそれは上級者も同じ。スティールダーツは狙った的に簡単入れられるわけではないのです。だからスティールダーツをする時の心構えは「外れて当たり前、入れたら凄い」で良いのです。入らないことが普通なんです。入らないのが普通だからこその工夫。その工夫がスティールダーツの楽しさであると私は思っています。初心者には初心者なりの工夫、初心者には初心者なりの楽しさです。的に入れることだけが全てではない、それ以外の部分を工夫することで楽しさは無限に広がります。それがスティールダーツは奥深いと言われる所以だと思います。
私はスティールダーツは初心者に優しいダーツだと思います。

スティールダーツ特有の道具と環境
ここからは道具や環境の話になります。
ソフトダーツがデジタルならスティールダーツはアナログです。デジタルにはない良さや楽しさがアナログには潜んでいます。デジタルに比べたら面倒なところや難しいこともありますが、それがアナログの良さでもあります。
さてスティールダーツはソフトのようにマシン筐体はなく、ダーツボードを壁にかけるだけでプレイできます。
ソフトダーツに比べて設置が容易で費用も低くおさえられるので、自宅ではスティール・ダーツボードを掛けている人も少なくないと思います。スティールダーツは言ってしまえば電気もいらないアンプラグド。最近ではセンサーでスティールダーツの点数計算をしてくれるマシンも出てきました(FIDOダーツなど)。ソフトダーツとスティールダーツの中間のような存在ですね。
この新たなダーツの誕生でスティールダーツの敷居はグッと下がるかもしれません。
計算が面倒ということで敬遠していた人たちもスティールダーツを気軽に始められると思います。
個人的には計算することもスティールダーツの楽しみなのに、それを機械にやらせちゃうなんてもったいないって思っているんですけど、それはここだけの話にしておきましょう。

さて話がそれましたがスティールダーツ特有の道具を簡単に説明していきましょう。

ダーツボード
一般的には「ハードボード」と呼ばれることが多いです。
ハードダーツをスティールダーツと呼ぶ人は増えましたが、ハードボードをスティールボードと呼ぶ人はあまりいません。なぜでしょうか?分かりません。
ダーツプロ試験などの筆記テストでこのボードの名前を答えるときは正式名称である「ブリッスルボード」と書きます。実際に「ブリッスルボート!」って言う人はまずいません、会ったことがありません。もし居たらお会いしたいです。
ブリッスルボード盤面の素材はサイザル麻です。そこまで大事なことではないので忘れても構いません。見たらわかりますがソフトダーツのボードと比べるとかなり面積が小さい(狭い)です。
スローラインからボードまでの距離はソフトダーツより近くなります。ブルからスローラインまでの対角線にして6cmほど近いです。スティールダーツはソフトダーツより6cmも距離が近くだから、狙ったところに入りやすいかといったらそんなことはなく、結局近くても遠くても狙ったところに入れるのは難しいということに変わりはありません。ほんと残念です。
スティールダーツの場合、スローする位置の目印にオッキが設置されています。オッキは木材で作られていたり、鉄製のL字アングルだったりでスローする位置よりも足が前に出ないように作られています。オッキがない場合はソフトダーツと同じようにスローラインが用意されているはずです。線からはみ出ないようにしましょう。
スティールダーツの特徴としてスティールバレル(矢)を投げるとボード表面に矢の先端(金属製のポイントと呼ばれる針)が刺さります。そしてこの刺さり方(角度や向き)というのが人によって違います。場合によっては同じ人が投げても毎回刺さり方や刺さる角度が違います。
これがとても重要です。スティールダーツの大きな特徴であり、ソフトダーツと大きく違う点です。ソフトダーツはボードの盤面にビットと呼ばれる穴があり、そこに矢の先端(プラスチック製のチップと呼ばれるもの)が刺さります。その穴に矢が刺さると矢は基本的に地面と水平の角度になります。誰が投げても刺されば矢の角度は同じになるのがソフトダーツです。
この違いがソフトダーツとスティールダーツの技術的な要素に大きな違いを生んでいるといえるでしょう。
ボードの基本デザインや構成はどのメーカーも同じですが、素材になっている麻の品質や埋め込んである金属ワイヤーの特徴、加工する際に使用している圧着糊などでボードの良し悪しというのは変わります。
良いボードは値段は高いですが耐久性が格段に良いです。そしてワイヤーも良いので矢が弾かれにくい、そして何より刺さったときの音がいいです。ボード購入の際は安物買いの銭失いにならないようにきちんとした知識のある人に相談してから買いましょう。

スティールバレル
さて次はダーツバレルに関しての話になります。バレルとは矢のことです。
踏み込んだことを書いてしまうと10ページぐらいかかってしまうので、今回は初心者向けにザックリとした説明を。マニアの方は「ちがうだろーが!」とツッコミを入れながら読み進めてください。
スティールダーツのバレルは先端が金属製の針になっています。危険だという人もいますがハサミや包丁と同じです。ちゃんと扱えば問題ありません。とはいっても鉄の針なので人を傷つけかねません。
だからスティールバレルは飛行機の機内持込みはできません(ソフトダーツは大丈夫です)。慣れていないとうっかりやらかしますので初心者の方はご注意ください。
さて、初めてスティールダーツをされる方の多くはスティールバレルを持っていないと思います。先端に金属針がついているダーツのことです。スティールダーツではその針のことを「ポイント」と呼びます。覚えておきましょう。
スティールバレルは持っていないけどソフトバレルは持っているという方は「コンバージョンポイント」を使うことでスティールでもソフトバレルを使うことができます。
ソフトダーツで普段使っているプラスチック製のチップはスティールでは使えません。ブリッスルボードで使ってしまうとボードを痛めてしまいます。
プラスチックのチップを金属製の針に変えることで、スティールダーツでも使えるようにするアタッチメントが「コンバージョン」です。ダーツショップ等で売っています。コンバージョンはトーナメントでも使用が許可されています。
今回は初心者向けの入門ガイドなのであえて書きますが、できれば初めてスティール投げるときは、バレルもスティール専用のバレルを使ってみてほしいです。
とくにソフトバレルしか投げたことがない人には、スティールならではの道具というものを味わってもらいたいと思います。
ソフトもスティールもバレル自体は同じでしょ?と思うかもしれません。
ちょっとだけ深いことを言わせてもらうと、ソフトとスティールのバレルでは目的や必要となる性能が違います。コンセプトが違うのです。ダーツそのものが初めてという人には分からないでしょうけど、普段ソフトバレルを投げている人ならきっと何か違う感覚を覚えると思います。どう違うかは別として、ぜひその違いを感じてもらえたらと思います。
先ほど金属製の針の話をしました。ポイントっていうやつです。スティールダーツの一番の特徴です。たかが針なんですが、形・材質・長さ・色・加工などにより様々な種類があります。
みなさんフライトやシャフトは自分に合ったものを選びますね、セッティングというやつです。実はスティールバレルにおいて一番影響が大きく、大事なセッティングがポイントです。
知らない人も多いのですがスティールバレルのポイントは交換できます(専用の工具が必要)。自分にあったポイント、長さを見つけることもスティールバレルのセッティングの楽しさです。ポイントを変えると飛びや刺さる角度が変化します。
購入時に装着されているポイントのままでももちろん問題ありませんが、一度ポイント交換をして変化を感じてみることもお勧めです。
スティールダーツの世界ではストレート形状のバレルを使うトッププレイヤーが多いのですが、そこに触れるともう止まらなくなるので、バレルの話はこの辺で終わりにしておきます。