2004年3月
読者の皆様、こんにちは。大分、春めいて暖かくなってきたかと思えば、花冷えの年度末でしたが、いかがお過ごしでしょうか?
前回の「手、指の小さな筋肉の鍛え方」いかがでしたか?多少でもお役に立てば幸いです。
さて、今回は、趣向を少し変えて、ふるえについて考えてみました。
手の震えにはいろいろな原因のものがある
ふるえという症状は、よく寒いときにがたがた震えるというように、日常生活でもよく見る症状ですね。それ以外にも、お化け屋敷で怖くて震える、入学試験や就職面接で緊張で震える、など、いろいろなシーンでみられますよね。その他の病的なものでは、たくさんお酒をのまれる方で、アルコールが切れかけてきたときにふるえがでるとよくいいますし、麻薬や覚せい剤の中毒の方でも薬が切れかけてきたときにふるえがでるといいますね。
こういった病的なふるえはともかくとして、どうですか、読者の皆さんもこのふるえに困られた方はいらっしゃいませんか?特に大きな大会などで、的に向かって、精神を集中し、一心にダーツを持つ手、指の先まで緊張をみなぎらせて、という方、そのとき、一瞬のふるえが災いしてうまく投げられなかったというような方もおいででないでしょうか?
手の震えは4種類に分類される
ふるえ?ふるえ?
私達、医師の間で、ふるえは専門用語で振戦(しんせん)といいます。この振戦にはまた細かい分類があり、4つに分けられます(表参照)。ひとつは安静時振戦、二つ目は姿勢振戦、三つ目は企図振戦、四つ目は動作時振戦といわれます。
安静時振戦
なにか運動をしているときにはめだたず、楽な安静時に特にふるえが目立つものです。最近お年の方でもよく見られるパーキンソン病などという病気もこの部類に入ります。
姿勢振戦
ある一定の姿勢をとったときに振戦が見られるものをいいます。通常この中に、いわゆる、普通の方にも見られるふるえが入ります。また、昭和50年代に週刊誌での広告などで、やせ薬として売られ、その後そういった販売が法律違反になるということで販売されなくなった甲状腺ホルモンの粉末薬などもこの部類のふるえを起こします。
企図振戦
ある目標に対して自分の指を定めておいたときに目標の方向とは違った方向に不規則にゆれてしまうものをいいます。
動作時振戦
何かしらの運動中に不規則なゆれが見られますが、運動を止めるとこの不規則なゆれが消失するものを言います。
ちょっと、話が専門的になりすぎましたね。それでは、こういった皆さんによく見られるふるえの原因を探ってみましょう。最もよく見られるものは、嗜好品によるものです。アルコール、カフェイン、煙草(ニコチン)などが挙げられますね。どうですか、これらを好まれる方、心当たりはありませんか?もちろん、重い荷物を持ったあとに見られるふるえも筋肉疲労時のふるえとして、また、大変緊張が強いときなどもこういったふるえは見られますね。ほとんどのふるえの方はこの中に当てはまるのではないでしょうか?えっ、あてはまらない?そういった場合は、なにか病院で薬をもらってませんか?
または怪しい薬を飲んでませんか?たとえばインターネットで購入したような怪しい薬?喘息の薬などは、その成分に、喘息の症状がなおるかわりに心臓がどきどきしたり、場合によってはふるえが出たりすることもあります。また、最近は昔ほど精神科や神経科にかかることに対して敷居が高くなくなってきたようですので、ちょっとうつ的かなと思われる方に、抗うつ薬が出されていることがあります。また、甲状腺の病気をされたことがある方などには甲状腺末の薬が出されていることがあります。これらの薬は薬物性のふるえをもたらすことがありますね。
ブラックジャクも悩んだ手の震えという症状
あのブラックジャックもふるえで悩んでいた?!通常、この振戦という厄介な症状は、緊張を強いられると余計にひどくなる傾向があります。皆さんもご存知でしょう、手塚治虫のブラックジャック。あ、ブラックジャックによろしくではないですから、お間違えないようにね。彼もメスを持ち、患者の前に立つと”ふるえ”に一時悩まされたというエピソードがあります。まあ、ブラックジャックはフィクションですが、昔からよく言われますね、ホテルに缶詰にされている作家の方たちが、どうしてもアイディアが出てこず、白紙の原稿用紙を見るとペンを持つ手がふるえてしまって何もかけない、という症状。これは、書痙(しょけい)といわれる症状です。ブラックジャックのメスを持ったときのふるえもこの一種と考えられます。
完全主義者は陥りやすい手の震えという現象
ブラックジャックの例で考えますと、彼は非常にすばらしい外科手術の腕を持ち、かつある意味では傲慢ともいえるほどの自信家、完全主義者でもありますね。
こういった性格をお持ちのかた、まあ、傲慢とはいいませんが、完全を求めがちな方、ですね、わずかな不調やこだわりにとらわれてしまうがために、ダーツを投げる動作が不自然になってしまったりしていませんでしょうか?
震えの症状を分析
どうやればよくなるのかな?まず、こういった症状を自覚したとき、先ほど述べました嗜好品に心当たりがないかどうかよく自分の生活を省みてください。案外嗜好品に原因を求められる場合も多いんですよ。気づかない間に一日コーヒーを5杯も6杯も飲んでいたとか。煙草も同様です。最近煙草は社会的にもうるさくなってきていますし、禁煙のためのプログラムやニコチンガム、ニコチンキャンディーなどを用いた禁煙対策も講じられてきています。
こういった原因が今ひとつはっきりしないでふるえが見られる場合には、内科、特に神経を見てくれる神経内科や心の病気を見てくれる心療内科におかかりになり、βブロッカーというお薬を服用されると改善する場合があります。もともとこのお薬は高血圧の薬なんですが、こういったふるえにもよく効くことが知られています。また、さらに、過度の緊張などでこういったふるえが出る方には精神安定薬を少量、短期間服用されると改善することもあります。
アルコールは震えに有効なリラックス方法
本来、こういった緊張の強い方には、その緊張を解く意味でも、少量のアルコールを飲むというのはリラクゼーションという意味でも、また、楽しくゲームするという意味でも必要ですよね。
また、このダーツの歴史から見ても、お酒とはなかなか切り離せないということも、皆さんのほうがよくご存知でしょう。最近は痴呆老人がいる施設などでも、ゲーム感覚でこういったダーツを行っているところもあるくらいなんですから。楽しくないと、ダーツでないですよね。
そして、何事も、過剰はよくないですね、お酒もほどほどに、楽しくやってくださいね。もし、どうしてもふるえでお困りの方がいらっしゃったら、どうぞお近くの神経を専門に見てくれる医師を訪ねるみてください。