IGA_column_No.3-Top

No.3 ダーツ競技ではコントロールよりも…

2013年1月

イップス論とは解剖学により説明できるものです
新年を迎えフォーム再構築にトライしているプレイヤーさんが多くいらっしゃると思います。しかしこのフォーム再構築がイップスを発症する最大のターニングポイントとなってしまうのです。
今コラムで再三言わせて頂いているのがイップスは精神論ではなく技術論だということ、それは単純に「身体の動かし方」によるものなのです。故にどんなに緊張しても「その」方法論さえ取らなければイップスは起こらず、逆にどんなにリラックスしていても「その」方法論を取ってしまってはイップスを発症してしまうのです。

お陰様でブログや本誌コラムでのご反響を頂き様々な経験をさせて頂きました。私が提唱します「イップス論」はあくまでも身体の動かし方であり、全ては客観的な学問である「解剖学」により筋肉や神経、骨格で説明できるものです。
運動(関節の動き)は主に「屈曲・伸展」「内転・外転」「内旋・外旋」「回内・回外」で運動の種類により「対(つい)」となり、筋肉も作動筋と拮抗筋(目的の逆を行う。肘を屈曲するときは上腕二頭筋が収縮し上腕三頭筋が弛緩している)の相互作用を生み、内向き(曲げる)と外向き(伸ばす)の運動に大きく区分されるのです。

「脱力」キーワードも伸筋促進に繋がりイップスを助長する
ずばりイップスを発症するのは「外向き」の運動即ち「伸ばす」という運動が強く促された時に起こります!
ダーツフォームで言えばセットアップまで、セットからトップまでのテイクバック時、更にはフォロースルーに至る時までに「伸ばす」という運動が強く促されますと、伸ばすための筋肉である「伸筋」が力んでしまうのです。この伸筋の過度な促進がどのような時に起こるのか?実はここに「あらゆる」スポーツ力学の「間違った技術論」が大きく関与し伸ばす筋肉である「伸筋」を促進してしまうのです。

ダーツの運動はイップスを発症しやすい
特にダーツの運動はこの伸筋がどうしても促されやすくなっています。写真①のように手のひらを上にした場合と下にした場合で肘を曲げる運動をした場合どちらが楽でどちらがきつく感じますか?
殆どの方が手のひらを上にした方が楽だったと思います。これは手のひらが上を向いている場合は問題ないのですが、下に向けた場合前腕が回内姿勢(ダーツのセットアップ時の姿勢)となり上腕二頭筋の筋力が著しく低下します(説明省略)。
その結果肘を屈曲させるための上腕筋力が低下し「伸ばす神経支配」の橈骨神経(とうこつしんけい)「唯一の屈筋」である「腕橈骨筋(わんとうこつきん)」に頼ることとなり伸筋が促進され「屈曲」させるための神経が弱まり屈曲運動能力(指屈曲など)を低下させるのです。
腕や指に起こる運動は全て「屈曲」(曲げる運動)か「伸展」(伸ばす運動)に分類されます。曲げるときには同じ支配神経の屈筋群が連動(伸ばすときには伸筋群が連動)するので、その連動する筋肉だけを使って処理できた方がスムーズな動きになり、できる限りセットアップからテイクバックまでは「曲げる」という連動だけで処理できた方が不整合は起こり辛いと考えます。

精神論だと思われているイップスは誰にも相談できない…
ダーツプレイヤーは初級中級上級に関わらず絶えず悩んでいます。
アベレージ的には変わらずとも「違和感」が残り「過去の自分自身」を超えることができず技術的に気持ち悪さや不安が残り、本番で実力が発揮できない様相は経験とともに反比例しているように思います。
「以前のように気持ちよく投げられない…」とこぼすプレイヤーさんの声を沢山聞いてきました…実力・経験の揃ったトッププレイヤーでさえ技術論が同道を巡り革新的なものになっていません。
間違った理論に基づき練習を積み重ねた結果イップスは起こり、反復練習により癖づけられ起きる不整合を取り除くのは至難なのです…

コントロール性を重視した思考により外力が失われる
その中で問題だと思う技術論が「動いてはいけない」「ブレてはいけない」ターゲットに対して「真っ直ぐを作る」「真っ直ぐ引く」「真っ直ぐ出す」そして「セットアップ時のグリップをテイクバックとともに動かさない」「フォロースルーで腕を伸ばす」などから波及する身体(指や腕)や体軸の「固定」キーワードです。
この固定キーワードの方法論は外力(並進エネルギー・位置エネルギー)エネルギーを促進せず内力である筋力を(運動に対し)必要としてしまいます。
この内力である筋力を使うことが伸筋促進へと繋がり力みとなりイップス症状を加速させていくのです。

殆どのプレイヤーがイップス予備軍
私から見て殆どのプレイヤーさんがイップス予備軍です!少しでも固定キーワードを取り入れ「真っ直ぐ」など意識しコントロール性を重視した「間違った技術論」を取り入れた瞬間にイップスは発症します。故に直る時はコントロールを無視した技術論がイップスを解消するのです。
私は固定によるコントロール性を無視することは精神的に楽になることが目的ではなく「真に意味がない」ことだと思っているからです!固定や真っ直ぐはコントロール性には繋がらないのです!そしてテイクバックがそもそも困難でトップが浅くなってしまうという解剖学見地を基礎に技術論が講じられなくてはならないと考えています。(=回内時の屈曲は困難)

「コントロール=無駄の無い運動」は間違い!
ダーツという競技は三本の矢を所定の位置より狙ったところへ「コントロール」する競技です。
すなわち「コントロール」することが技術論に不可欠なキーワードとなります。そして「コントロール=無駄の無い運動」もしくは「コントロール=小さいフォーム」「パワー=大きいフォーム」という図式が一般的な解釈となり、あらゆるスポーツに弊害をもたらせていると私は考えています。

既存の技術論は本当に正しいのか?
さて本当に「コントロール=無駄の無い運動」「コントロール=小さいフォーム」で正しいのでしょうか?
プロ野球史上もっとも多くホームランを打っている王貞治さんの一本足打法は有名と思います。野球ファンならば一度は真似たことがあるのではないでしょうか?もしくは日本人として生涯最多安打(記録継続中)メジャーでは10年連続200本安打以上の偉業を成し遂げたイチローにしても同様だと思います。
イチローは1992年高卒ルーキーで当時球団に入団し二軍で好成績を納めながらも一軍首脳陣に打法(振り子打法)を否定され二年間二軍生活を余技なくされています。三年目に監督が代わり、打法への理解(結果が伴っているならそれでよし)もありレギュラーに定着すると当時プロ野球記録の年間最多安打(210本)を記録するなど大打者へのスタートを切ったのです。
入団当初の首脳陣はどのような技術論だったのでしょうか?多分ですが「細身」で足の速いイチロー選手に対しホームランよりも「確実性」を求め小さい打法を身につけさせようとし、そして「コントロール=小さいフォーム」だと考えられていたのではないでしょうか?
逆に長距離打者の王さんの一本足打法=パワーだったのでしょうか?王さんの生涯打率は.301と高打率を残しており、首位打者5回シーズン最高打率.355と堅実性も兼ね備えていたと思われます。

間違った技術論とは間違った力学の検証から始まる
私はあくまでもフォームは「個体差」いわゆる体重や身長に依存されるものだと思います。少年野球など身体ができあがっていない子供が王さんやイチローの真似をして本番に臨めば怒られる(笑)かもしれませんが、身体が小さいからといって小さいフォームにしたのではピッチャーのボールを打ち返し強い打球を打つことはできないと思います。
ようするに野球はバットにボールを当てる競技ではないということ、バットにボールを当てる力学とバットに力を伝えボールを跳ね返す力学は違うということです!この「コントロールすることと、力を伝えることの混同」が「間違った技術論」のスタートなのだと思います。
ダーツ競技は野球などと違い極々コントロールだけが重要で力は必要ありません。この極々コントロールだけが必要な時に省いてしまう傾向の「もの」が実は技術論で最も重要なファクトとなるのです!
トッププレイヤーが基礎技術論から逸脱しているケースは山ほどあり、外国人プレイヤーなどは特にそうです。無駄だと思っていた事、実は一番大事だったりするのです…

コントロールよりも力を伝える事が大事
ダーツ競技ではコントロールよりも「矢に力を伝える」事を重要視した方がいいと思います。実はそれがコントロール性への近道なのです!
最大トルク(体重)を発揮(移動)し力が伝われば最小限の出力(筋力)で効力を得ること=コントロール性になるのではないでしょうか?(王さんやイチローはそれを体現しているのだと思います。)そして「矢に力を伝える」事がイップス解消に繋がっていくのです!
イップスレクチャーに来られる方の殆どが「下半身を止める」など(固定)意識を「強く」お持ちです。まず下半身を止める意識を捨て体重移動することがイップス改善の第一歩になるのです!次回はこの体重移動を取り入れたフォーム構築について詳しく説明致します。

また疑問点などございましたらASUKADARTSウェブサイトお問合せなどで承っておりますのでお気軽にご質問ください。