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No.5 記憶と練習 1

2004年11月

猛暑の夏と熱く盛り上がったアテネオリンピックが終わり、やっと秋らしい季節になりましたね。皆さんはこの秋の夜長、ダーツを楽しんでいらっしゃることと存じます。あ、アテネオリンピックを御覧になって、どうしてダーツがオリンピック種目にないんだろうなんて思ってらっしゃる方もおいででないですか?私も、または、俺も出れるかも、と思ってらっしゃいません?金メダルとったら、『チョ—気持ち良い』なんていってる自分を想像して!?

さて今回は、記憶と練習というちょっとかための話からはじめて、2ないし3回連続でダーツというスポーツの練習の仕方について少しお話してみたいと思います。記憶と練習っていうのを英語でかくと、memory and exercise(ex.)、なんかパソコンの用語みたいになっちゃいますが、読者の皆さんのmemory and exercise、つまり脳と脳が指令した命令の実行、は現在最も早いコンシューマ向けコンピュータ、アッ○ル社のiM○cG?なんか足下にも及ばないくらいの断然高性能なんですよ、本当は。

また趣味のパソコンの話になってしまいましたが、本題に戻しましょう。
どうでしょう、皆さんは、自転車に初めて乗れた時のことを思い出せますか?そして、男性でしたら一度はやったことがあるでしょう、手放し運転。そして、乗れるまでの苦労、倒れて手、足、顔なんかにあざや怪我をして、やっとのことで乗れるようになったこと。他には水泳なんかどうでしょう?学校で、水泳がある時はなかなか泳ぎがうまくならない時は憂鬱になったりしませんでしたか?サーフィン、スキー、スケート、こんな趣味がある方はどうでしたか、初めての時はなかなかうまく波に乗ったり滑ったりできなかったですよね?こういった、いわゆる体で覚えたことというのはなかなか忘れないというのが特徴なんです。このような体で覚えた記憶を医学的には手続き記憶とか、非宣言記憶とか、潜在的記憶といいます。ここではこむずかしいので”体で覚えたこと”ということにしましょう。あ、勿論、この雑誌が取り上げている「Darts」、も当然、皆さん誰もが初めての時があったはずです。その時、どうやったら的にちゃんと当たるのだろうとか、いろいろ考えながら、またはうまい人のアドバイスを聞きながら、模索されたんでないですか?そのようにして、皆さんが行っている今現在のフォームに辿り着いたのですよね。ですから、ダーツも、いわゆる体で覚えた記憶になるのです。

さて、一方、(学校時代、勉強が嫌いだった人、とくにそうですよね。私もそうです。)学校で覚えた色々な知識、例えばどうでしょう、いいくに(1192)つくろう、鎌倉幕府、なあんて、今でも覚えていますか?他には因数分解のやり方、球の体積を求める公式、まだ覚えていますか?今、小学校、中学校、高等学校の教員の方や塾の講師の方などはまだまだこういったことに触れる機会は往々にしてあるとしても、一般の方は使わない知識は徐々に忘れていってしまいますよね。こういった、いわゆる、知識、というものは、医学的にはエピソード記憶、または宣言型記憶とか明示的記憶といいます。これもまたなかなかおかたい言い方ですよね。ですから、ここでは『勉強で得た知識』、としましょう。

皆さんが自転車に初めて乗れた時、まだまだその当時は体全身に力が入ってしまってけっこうかちんかちんになって運転していたと思います。私が小学校の時には、学校での検定で初級、中級、上級なんていうランク付けが与えられて、初級の人は学区のどこどこまで、中級の人は、どこそこまで、上級の人は隣接する学区のどこそこまで乗ってよいなどという免許証が配られました。ほら、右に曲がる時には右腕を水平に出すとか、左に曲がる時には右腕を肘で直角に曲げるとかやりませんでしたか?ですから、乗り始めの時はいちいちここでこうして、とか、こんな時はこうして、とか、かなり頭の中で考えながら、つまり意識しながら自転車に乗っていたことでしょう。しかし、次第次第にそういった乗り方は意識しなくてもできるようになり、運転自体は自動的、反射的になっていったことでしょう。こういったことは、当然、皆さんもダーツをやりはじめた時に良く経験されることでしょうし、また、やりはじめてうまくなっていく途中で、例えば壁にぶつかったとき、なかなか上達しなくなったと自覚した時、フォームを変えて投げはじめた際などにも見られることなんですね。この『運動の自動化』(これをプログラム化といいます)というのは、実は大脳と小脳の間に形成されている神経相互のネットワークのおかげで成り立っているんです。大脳からあれこれをしろ、例えば、ダーツが十分うまくなったプレイヤーの脳が、ダーツを投げろ、という命令が下したとします。そうすると小脳にも、ダーツを投げろ、という情報が入り、そこから脳幹といわれる生命中枢が存在するところで、情報を一回ぐるっと中継させた後、再び大脳の運動中枢にフィードバックをかけるように、ダーツを投げるという運動神経の活動に微妙な制御を与えます。ここで、ぐるっと、一回小脳と脳幹で情報を中継させることで、実は既に組み込まれた、つまり、練習によって自動化(プログラム化)された情報を呼び起こしていて、それをこれからやる、ダーツを投げる、という動作に適応させているわけなんです。つまり、うまくダーツを投げていた時の情報を既にプログラム化されて持っている方は、ダーツを投げる最中に、特に意識せずそのプログラム化された情報を呼び起こして、スムースかつ上手にダーツを投げることができる訳なんですね。あ、間違えないで下さいね、既にプログラム化されて持っている方は、という限定付きですから。誰でもすぐにってわけではないんですよ。

では、次回は、ある運動(ダーツ)を、こういったプログラム化された情報にしていくための練習方法について述べてみたいと思います。あるんですよ、うまくなるコツ。どうやって練習したら効率が良いか、っていうのが。ダーツというスポーツの特徴を元に、心理学的、運動学的、そして、今はやりの認知科学のホットな情報に基づいたダーツの練習方法をちょっとお知らせしたいと思います。