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No.5 道具の可能性を考える(シャフト編)

2016年5月

最近発売されたターゲット社の『POWER 9 FIVE フィルテイラーモデル』には金属製のシャフトが標準で付いています。
一般的な同サイズの樹脂製シャフトが約0・9㌘に対し、付属のシャフトは約2・0㌘。PDCを14回も優勝し、世界王者に君臨する「フィル・テイラー」も愛用する金属製シャフトにはどんな意味があるのでしょうか。

今回はダーツ用品の『シャフト』について考えてみました。最近のシャフト需要は樹脂製のものが多く、デザイン性だけでなく、長さや形状、機能も豊富になってきました。

樹脂製シャフトという括りの中でも、かなり選択肢が多くいろいろと選べる環境になっており、当ショップでも樹脂製のシャフトの方が人気があるようです。

そこで疑問に思ったのですが、いつ頃からこの樹脂製シャフトが主流になったのでしょうか。
僕がショップで働き始めたころの記憶をたどると、当時もシャフトは金属製と樹脂製のものがありました。ダーツブランドも海外が9割を占めており、付属でついてくるシャフトは金属製のシャフトが多かったと思います。

当時の僕が初めて買ったダーツもユニコーンのCC555シリーズのもので、金属製のシャフトが付いてました。フライトもキラキラのフィルムが貼ってある薄いタイプの物でしたが、組み上げた時の感動は10年以上経った今でも印象に残っており、見た目もかっこよく感じたものでした。

これは当時流行っていたデザイン性というものだけではないと思っています。「ダーツとはこういうもの」だという感覚の中で選んだ、僕なりのかっこいいダーツでした。

バレルとシャフトとフライトの組み合わせで自分の好きなダーツにカスタム出来るということで、各パーツには、デザインの違いや、長さの違いがあることを知り、いろいろ試しに使ってみようと思ったものでした。

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その印象からすると、当時樹脂製のシャフトと言えば、デザインも単色で味気ないうえに折れやすい反面、価格が安いというイメージでした。ダーツはかっこいいという部分に惹かれてマイダーツがほしいと思って買った僕には「こういうのはデザインとかよりもダーツの本質を極めるためにたくさん練習する玄人さん向けだな」と思ったほどでした。

また、自分が樹脂製シャフトがどうしても使いにくかった理由の一つに、金属製のシャフトと比べると、フライトが抜けやすいというのがありました。シャフトリングも当時はフライトに穴をあけるという機能を知らなかったので、リングとフライトが一体にはなっておらず、リングもすぐになくしてしまうという、「ちょっとめんどくさい」という認識で樹脂製シャフトを見ていました。

その後、樹脂製のシャフトはグラデーションデザインの登場で一気に人気が出て、さらにフライトに穴をあけ、フライトが抜けにくくすることができるようになり、金属製のものに勝るとも劣らない耐久性のナイロンシャフトが発売されるようになり、少しずつ金属シャフトが影をひそめていった経緯ではないかと思います。

何が言いたいかと言えば、金属製シャフトをダーツ本質の部分で追求しきれていないのではということです。
樹脂製シャフトの人気の着火点は、デザイン性・利便性・コストパフォーマンスなどではと考えています。もちろんそういった部分は重要で、その重要度は個人差があって当然なのですが、金属シャフトにももっと利用価値があるかもしれないと考えてみました。

突然ですが『部屋の明かり』は電気とろうそくどちらが良いだろうかと考えるとします。
電気が良いという人の中で、部屋にろうそくを灯したことがある人がどれくらいるでしょうか。
電気の部屋でしか生活したことのない人が、部屋でろうそくを灯してみた時、もしかしたらろうそくの方が良いと思う人がいるかもしれません。
現にろうそくがなくならないのは、実際に使ってろうそくの方がいいと思う人がいるからであって、逆に全員が電気が良いと言えば、ろうそくの存在はきっと消えてるはず。

樹脂製シャフトと金属シャフトは全く違うもので、電気とろうそくのようなものかもしれません。電気の方が使いやすいが、ろうそくにも雰囲気が良いとか香りが良いとか、良さを認める人がいると思うんですよね。

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電気がろうそくの持っている良さをカバーできる性能をすべて含んでいれば、ろうそくは消えていくと思います。もし樹脂製シャフトが、金属製シャフトの持っている性能全てをダーツの本質として上回るものならば、金属製シャフトは消えてゆくでしょう。

樹脂と金属は全く違うもので、樹脂製シャフトの方がダーツを投げるうえで絶対に有利である理由を答えられる人はいるでしょうか。その人が樹脂製シャフトを使っている理由は答えられたとしても、ダーツとして有利である理由にはならないと思います。

最近は、国内で販売されているダーツに標準セットされているシャフトはほぼ樹脂シャフトです。多くの方が生まれた時から電気の生活をしているのが普通であるのと同じように、ダーツを始めた時から樹脂製シャフトを使用するのが当たり前となっている可能性もあると思うんです。

樹脂製シャフトを使っていて良いと感じる人の中には、金属製シャフトを使ったことがなくて、樹脂製が良いと思い込んでいる人もいると思います。周りの人がみんな樹脂製を使っていればそうなりますよね。(笑)
樹脂製シャフトを使っている人が金属製のシャフトを使ってみた時、あらためて金属製シャフトがダメだと思ったときは、より樹脂製シャフトの良さがわかるという事もあると思います。

これはダメだと思っていても一度は使って検証してみる。もしかしたら無駄かもしれませんが、やらずして答えを出してしまっているものが沢山あるかもしれません。

一見回り道のように思えるこういった思考や行動が、案外ダーツが上手くなるための近道だったりするかもしれませんね。