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No.7 記憶と練習 3

2005年3月

Science_column_No.7-1

今この原稿を書いていますのは大荒れに荒れた2004年ももう暮れようとしている年末です。記録的な猛暑、そして、毎週襲ってくる秋台風、そしてさらに追い討ちをかけるような大地震、さらには、つい昨日東南アジアを襲った巨大津波。まずは、これらの甚大な災害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。
しかしながら、自然災害のもとには人間はひとたまりもないことをみせつけられました。地球という環境を蝕もうとしている人間へのしっぺ返しなんでしょうか?
一方、同時にまだそんなに時間が経っていない巨大津波被害において、既に緊急援助の動きがでてきていることを知り、人間ができることを一生懸命していることも、また、中越地震においても既に多くの方々がボランティア活動や募金などが行われていることも、人の優しさがまだまだ感じられ、少しほっとしています。
さて、今回は、前回、前々回の運動と記憶の練習法についての3回目になります。前回までは、記憶のされ方、体と脳での運動の記憶とその練習法について書いてみました。今回は、ではどういったメニューでダーツの練習をするとより効率があがるのか、を考えてみたいと思います。前回、運動の中には、ふたつのパターンのものがあると書きました。連続運動と不連続運動です。つまり、連続運動は、運動の始まりと終わりがはっきりしておらず、いつ始まったのか、又いつ終わったのかわからない運動、たとえば自転車をこぐ運動なんかを指します。これと逆に、不連続運動というのは、運動の始まりと終わりがはっきりしていている運動、たとえばバットで球を打つ練習やゴルフスウィングなどがこれにあたります。自転車をこぐ運動なんかを指します。
ダーツを投げる、狙った所に当てるという運動はきわめて短時間のうちに終わってしまいますので不連続運動と考えられます。こういった早い時間で終わってしまう運動は、なかなかすぐにこうしろああしろと事前に教えられても、また、途中でいろいろな指示を受けてもすぐには修正できませんね。ましてや投げるフォームに関して、いろいろ注意を受けていたらここでこうして、そこでああして、などの事が頭をよぎって大たいフォームはぎこちなくなってしまいますね。それじゃあ元も子もないです。そのため、こういった早い動きの運動では、自分のフォームを見てもらい、うまい人にこうしたら、ああしたらと指示を受けるトレーニングではなく、自分でうまい人のフォームをよく見て、又はビデオなどで自分のフォームを確認する、あるいは頭の中でイメージトレーニングを事前によく行って、いざ、投げてみるとよいでしょう。野球やゴルフのスウィング、ダーツのフォームなどはこのようなフィードフォワードという練習の方がより良いといえましょう。ちなみに、投げた後にいろいろ指示を受けて、修正する練習の仕方をフィードバックと言います。
ではこのような非常に早い時間に終了してしまう運動についてのフィードフォワードという練習法はどうやれば良いのでしょうか?このような練習法は、医学的にいう、”固有感覚情報”というものが必要になってきます。かみくだいていうなら、この”固有感覚情報”は例えば、目を閉じていて、他の人に手や指の小さな関節を曲げてもらった時、手の平側に曲がったか、それとも手の甲側に曲がったか、がわかる感覚の情報のことです。なかなか意識しづらいものです。こういった関節の周囲の靭帯や小さな筋の伸び具合、縮み具合を感知するのが”固有感覚情報”なんです。練習ではまずこの固有感覚を鍛えます。次に運動の正確さを高めるために視覚情報が必要となってきます。
この”固有感覚情報”はどうしたらよく鍛えられるでしょうか?痴呆(最近は認知症というようですが)患者さんがいる老人施設で行われているところもあるようですが、折り紙が良いといわれています。指を動かすことつまり、手の細かい筋肉や靭帯を正確に動かすという運動が脳に対する刺激となり、痴呆症状の改善になりうると考えられています。皆さんは別に痴呆患者さんではないですが、小さな千代紙で鶴を折ってみてください。また、順番も分かり、鶴を折るのが容易にできるなら、今度は眼を閉じて折ってみて下さい。案外難しいですよ。眼を閉じて上手く千代紙で鶴を折れるようになったら、まさにこの固有感覚が鍛えられたわけです。ぜひやってみて下さい。
それでは、練習時間について最後に述べてみます。
皆さん、過去学生時代に課外活動やクラブ活動をされた方は多いと思います。この時、休みなく連続して運動していた場合と、一回の練習を短くして頻繁に休止を入れて練習をしていた場合があったかと思います。前者を集中練習、後者を分散練習といいます。
スポーツの種目にもよりますが、一般的には前者は疲労、倦怠、飽きが生じやすいため、後者の方がよいと考えられています。そして、初めにもちょっと書きましたが、頭の中でのイメージトレーニングを行うことが良いんです。練習と練習の間にとくに技能に注意しながらこのイメージトレーニングを行うとトレーニング効果がより良くえられると考えられています。実際の”ダーツを投げる”という動作を考え、それを今やっているかのように想像すること、これが、脳の中に運動を細かく制御する回路を作ることを促進します。これを”心理的練習”とか、認知的リハーサルといいます。こういった練習は実際の練習の直前、直後に行うのが良いとされています。ぜひお試し下さい。ダーツというスポーツはとっても高等な運動なんですよ。
ダーツの科学的な観点からのアプローチで、7回にわたって書いてきました。皆さんのお役にたちましたでしょうか。私もこの機会にダーツを始めようと思います。どこかの大会で対戦しましょう。Have a nice DART life with good condition and concentration!