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No.10 軌跡の先へ

2013年7月

Ayano_column_No.10-1

現役時代、私がまだダーツの前線で戦っていた頃…そう、このコラムに目を向けてくださる今の皆様と同じく我武者羅に強さを求め続けていた時代が私にもありました。

その頃の私には目標と言えるものは存在せずに、ダーツに挑み続ける理由は漠然としていて、ただ無性に「負けたくない」とか「今はまだ負けるわけにはいかない」と思い続けていただけでした。

結果的に表彰台や賛美を受ける事が続き、いつの間にかその足元は固まり、時と人脈を経て、ダーツメーカーからの契約プレイヤーとしての話が持ちかけられ、ダーツという競技の世界にビジネスとして関わる人生を歩み始めました。

しかし契約プレイヤーという「飼い猫」になる事で私自身の信念は螺旋曲がり、僅か一年程で自らの肩書を捨ててアマチュアの位置に戻り、自分自身を含め、客観的にダーツという世界観とそこに関わる人たちを冷静に見据えました。そして私なりの結論に至ったのです。

私じゃなくていい。私はもう第一線では戦えない。私が魂を注ぐべき時は今じゃない。
私を必要とする、今の私にでもできる事があるはず。
私にしかできない事が必ずあるはず。

私の現役時代、私を選手の一人として取材対象にしてくれたNDLの編集長と、気まぐれに足を運んだだけのダーツトーナメントの会場で数年ぶりに再会したのも、偏に運命の巡り逢わせだと思い、今一度ダーツ業界に携わる者としての居場所を見出しました。日本一の老舗ダーツ専門誌NDLのコラムニストとして…。

過去に培った技術や強さなど何一つ残さない私にも、それでも耳を傾け心を開き、信じようとする人たちがいます。

そんな「ダーツという競技のこの先を担ってゆく選手たち」に私は自分の居場所を教えてもらいました。

今の私ができる事、やりたかった事、やるべき事、それが「軌跡を未来の人たちへ託す」という事。

皆様が目指す頂点、それは嘗て私も望んだ道。そこに次々と伸し掛かる脅威と乗り越えるべき壁を知っているからこそ、投げかけられる言葉があり残してあげられる術があるという選択が、私の最期にダーツに捧げられる余生なんだと…。

ダーツバーや専門ショップに顔を出せば、ダーツという企業や競技について答えを求めてくる人もいれば、技術やメンタルについて助言を求めるプレイヤーたちもいて、時には恋愛やSEXについて相談してくる女性もいます。

どんな言葉も真摯に受け止め、痛みを感じ、私にできる事を考えるようにしています。時にそれが対象者にとって厳しく辛い対応だったとしても、それが、それこそが「私にしかできない事」なんだと信じて。

肩書を捨て、プロライセンスも捨てた私を、それでも慕ってくれている人がいるのなら、そんな私が応えられる誠意は「本気」と「全力」である事、それだけだと思っています。

軌跡を残すには、たった一度でも良いのならば、チャンスとタイミングを見逃さず運を味方につけられれば、そう難しい事ではありません。

大切なのは軌跡の先に何を成し遂げるのかという事では無いでしょうか?
応援してくれた仲間たち、支えてくれた身内に胸を張る事も大切でしょう。ですが、いつまでも賛美を受け続けるだけではそこから前に成長できません。

周囲に「YES」と肯定してくれる人ばかりを集め、自画自賛を続けていてはその場から一歩も動き出せずに、ただ足枷を増やすばかりです。更なる期待に応えようと思うのか、次の道を歩むのか、それとも別の道を選ぶのか…。成功者だけに課せられる最初の難題と言えるでしょうね。

私は自分の周りでダーツという競技に挑み続ける選手たちに囲まれて、私にしかできない何かで未来を繋いであげたい!と考えるようになりました。

「軌跡の先」そこに私が見たものは、前線で築き上げる自分の姿ではなく、努力と気力と時間をダーツに捧げている皆様の礎となる未来。

共に悩みを打ち明け答えを導く仲間として、痛みを知り癒す家族として、皆様の支えになり続けたいというのが今の私自身の生きる道そのものですから。

文末となりましたが、読者の皆様へ私事ではありますがご報告させていただきます。

今春、職場の健康診断で私自身に病が巣くっていることが発覚いたしました。精密検査の結果、病名は「子宮頸がん」でした。

現在は体重の減少はあるものの、日常は変わりなく過ごしています。仕事を続けながら通院も繰り返しています。

どんな運命であれ、それを受け入れて、私は成すべきことを限りある人生の中でやり遂げていこうと思っています。このNDLでのコラムもその一つです。

小さな事であっても、それが大きな未来へ紡いでくれるはずですから。

経済用語ではありますが、私から皆様へ贈らせていただきたい言葉があります。

「着眼大局、着手小局。」
今の自分にだからこそできる事がきっとあるはず…。