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No.13 遠征費が出ている選手は「氷山の一角」

2013年11月

一概にプロと言っても、今のプロには同じ資格者の中で2種類あります。まずは、皆さんが普段ご覧になっている試合の生放送によく出てくるトップ選手を筆頭とした「ツアープロ」と、地元及びその近隣のみに出場してくる「ローカルプロ」。

どちらが偉いとかそういうものはありません。選手各々の諸事情で、回る回数と場所が決まっているわけでプロとしての優越があるわけでもない。
ただ明らかに大変なのはツアープロ。僕も昔は、大会と言われればほぼ毎週遠征していたので苦労が痛いほどわかります。
よく言われるんですよ「いいなぁ、毎週旅行に行けて」と(笑)。僕も最初は、毎週色々な土地に行けて正直楽しかったですよ。
ダーツに関わっていなければ、こんなに色々な土地に行くことはなかったなぁと今でも思いますし、そこで出会った仲間や友人が今でも繋がっているのは本当にありがたいこと。
しかし!遠征には先立つ物が必要なわけですね。そうです、「遠征費」というものです。僕の場合には、当時大会会場でレッスンを行ったりしていた関係上、大会の主催者が出してくれていたり会社が出してくれていたので、まだ金銭的な負担は少なかったんですが、それでも所々自腹遠征がありましたからねぇ。
この遠征費、年間で相当嵩むんですよ。年間で全大会を網羅するツアープロならば余計に重くのし掛かります。
近隣ならば、交通費がたいしてかからないですが、勿論近隣ばかりで行われるわけではないので、新幹線・飛行機と宿泊費等。
プロ同士で車に乗り合い、遠征費を最小限に抑えていたり、深夜バスで当日の明け方に到着し、マン喫などで仮眠、そして大会出場してその日の深夜バスでトンボ帰り…なんて言うのは当たり前。
今有名なトップ選手の場合をみてみましょう。彼らの多くはスポンサーサイドから「遠征費支給」されている場合と、されていなくともそもそも様々なスポンサーがついているので明確に決まっておらず、形上は「自費」的な扱いの選手といます。
「遠征費支給」の場合には、これまた数種類の形があり、「遠征費は全額支給する。そのかわり入賞した際の賞金は折半」というもの、「遠征費は一定額支給、入賞した際の賞金から一定額の割合で天引きされる」というものがあります。他にはグッズメーカー等が遠征費を支給している場合には、グッズ売上における、選手へのロイヤリティーを放棄させて遠征費に充てるという例もありますね。
話は若干逸れますが、「僕ならばこうする」という案は、「リクープ方式」というのもありかなと。
年間の賞金額の総合計から、掛かった遠征費を引いて残金は選手へ。ここでマイナスである場合にはスポンサーサイドがその金額負担分を「実際の遠征費支給」という方が「優勝しても賞金折半だしなぁ」と思われるよりは良いでしょう(笑)。更には、選手も頑張ると思うんですけどね。
勿論、グッズメーカーだと売上が立つのでこういう考え方をしなくても良いのが一番なんですけどね。
さて話を戻しましょう。この「遠征費支給」の契約期間ですが、多くの場合には1年契約で自動更新という形なので、あまりにも結果が出ない場合には切られる場合も勿論あります。ですが、ダーツ界のスポンサードはまだ他のスポーツに比べれば優しいので、1年でハイ終了という形はあまり見受けられませんね。

この「遠征費支給」というレベルは相当知名度・入賞の安定感等がなければまず難しい。
よくプロになりたての選手が「早く遠征費出してもらえる様に練習しないと」と言いますが、これが大きな間違いで(笑)、遠征費をゲットする為には数年間は「自腹を切って全国を回る」くらいの気持ちがないと、そもそもスポンサーの方々の目に留まりません。
ただ普段レーティングが高いからといって結果を出せるとはスポンサーも思っていないので、相当シビアにみてきます。本人が言われなくてもツアーを回っている状態でないとまず声は掛からないと思います。
「顔・スタイル・実力・キャラクター」の4拍子が整っている選手ならば別ですけどね(笑)。こういうスポンサーサイドから見たら「ダイヤの原石」的な存在は、1回大会出ただけであっという間に10社以上のスポンサーが付く事もありますからね。まぁ勿論、いきなり入賞してくる実力がある訳ですから、早いか遅いかだけの違い。
女子選手とかにこういうケースは非常に多い。でも、元グッズメーカーをやっていた僕からすると、よほどの大手でない限り女子にはなかなか手を出せないんです。
理由は、「ビジネス的に旨味がない」という現実。女性モデルというのはあまり数字が伸びないので、スポンサーサイドからしても取りにくい。そして、女性の場合にはある日「妊娠しました」と言われたら、当分は選手として活動出来ませんからね。勿論、出産の方が大事なんですけど、スポンサーをするということも「ビジネス」なので非常に困ります。
女性に嫌われるかもしれませんが(笑)、これが現実なんです。そして、女性の場合にはどうしても審査が甘くなったりするので、ユニフォームにベタベタと沢山ついちゃうんですよ、スポンサーワッペンが(笑)。こうなると、本人達もその気になってしまうので「遠征費が…」という話になってくる。でも、正直遠征費が出て当然と思うほどの実力のある選手は、僕が知っている限りでは10人程度だと思いますねぇ…。
逆にその10人がその他のプレイヤーと一緒にされるのは迷惑だろうなぁと思ってしまいます。それくらい女性選手の中で「男子に混ざれば良いのに」という選手がいますからね。

男子においても、遠征費が出ている選手というのは本当に少ないので「氷山の一角」と言ってしまってもいいのかもしれません。
ただ、今のトップ選手のほとんどは一度は「苦行」を味わってきたんではないのかなと思いますねぇ。あ、中には苦労した事ない人もいますけどね。ちょうど時代とともに上手く流れに乗った選手達はそんなに苦労していないはず。
ただ、この部分では苦労していないにしても「ツアープロ」というのはなにかしらの苦行を強いられている職業である事は確かですからね。
有名になればアンチに叩かれ、必要以上に品位ある素行を求められ、プライベートは中途半端になくなる(笑)。結構大変なんです。

では、この実際の「遠征費」というのはどれくらい掛かるのか?というお話。
まず平均して交通費とホテル代金で4〜5万円と計算しているそうです。これはほとんどの選手が言っていますね。これにエントリーフィーが15、000円、遠征地での飲食代で約10、000〜15、000円。どんなに切り詰めたとしても通常6~7万円は掛かると。乗り合いで車移動、又は深夜バスだと大幅に圧縮出来ますがそれでも4~5万円は年間で考えると掛かる計算になるそうです。
ということは、約15大会として、約75万円は最低でも掛かる。これに普段の練習代を考えると莫大な金額になりますよね。投げ子等の選手は相当優遇されていますね、こう考えると。
僕が今迄みてきた事を話すと、最初から優雅な生活をしていた選手はほとんどいない。最初はなんとかやりくりして、今そこそこの良い生活が出来ている選手の方が多いですねぇ。でも、その生活も選手生命が終われば終了ですから保証は一切ないわけで。
ツアープロって大変ですよね…。

今「いつかトップになってやる」と意気込んでいる選手は、今のトップ選手からどんどんその場を奪っていかないといけない訳です。
スポンサーには限りがありますし、業界自体も小さいので「みんな仲良く」は基本的にはありません。
ダーツは、いやプロは「しょせん一人」ですからね。誰も一生面倒観てくれる訳ではありません。なので、この「プロ」という中にも色々な形があるといいと思うのですが、「ツアープロ」と呼ばれるプロ達は次元がちょっと違いますねぇ。
いつ選手生命が終わるかどうか分からない、いつ仕事が、スポンサーがなくなってしまうか分からないという中で毎年毎年更新時期迄にどれだけアピール出来るかの戦いなんですね。
相当シビアな事を書きましたが、別の考えでは「利き手一本で、年間数千万円稼げる職業」でもあるわけで、自分の「本気度合い」で意外と簡単にそのドアが開くかもしれませんよ(笑)。

DARTS MANIAX