IGA_column_No.22-Top

No.22 投げない事を前提にセットアップする

2016年3月

イップスの原因をメンタルとする業界背景
イップス症状の原因はどうしてもメンタルが原因だと言われます。当然私はイップス症状の原因はメンタルではなく、身体構造や身体機能が原因だという立場であり、それは客観的学問である解剖学で説明できるものです。本当に簡単な解剖学観点で誰にでも、どうしてイップス症状になってしまうのかご理解頂けると思います。
どうしてイップス症状が精神論で片づけられてしまうのかには業界背景があると思います。様々な立場があるのでここでは書かない事にしますが、生きていくためのビジネスとして見て見ぬふりをしている現状があるのだと思います…。

よく練習では上手くいき、本番で上手くいかない傾向に対し「後はメンタル」と、ここでもまた精神論を持ち出す選手が多くいます。そして自己啓発系の書物を読み100%納得している近況をSNSで披露してくれますが、その後どうなりましたか?
メンタルは強くなり成果は上がりましたか?後は脳科学という解明されていない分野を持ち出し、不思議の世界に迷い込み、出来ない事の言い訳に使ってはいないでしょうか?

ダーツはイップス症状の宝庫
私もお陰様で500を超える症例を見させて頂きました。その中で様々な体験談も教えて頂き参考にさせて頂いております。ちなみにイップス症状の方で脳波を取りながらダーツを投げた結果、何の変化も無かったそうです。後は催眠療法やセミナー等を受講しようが薬を飲もうが直らないという例も沢山聞いています。そりゃそうですイップス症状の原因はメンタルにありませんから…。断言出来ませんがイップス症状を、メンタルセミナーや催眠療法で直そうとする主宰者は、多分イップス症状になった事が無い方だと思います。

イップスに対する間違った認識が横行
ダーツは間違いなくイップス症状の宝庫です。ゴルフや野球その他競技に比べて断トツにイップス症状の方が多くいます。そしてイップス症状の原因がメンタルでは無く、身体の動かし方だと結論付けられたのもダーツをやっていたお蔭で、イップス症状の症例を見た経験数は私に敵う方はそうそういないと思います。
最近野球関係のトレーナーさんとも情報交換をし、実際私のレクチャーを見学して頂きましたが、ダーツのイップス症状の顕著さに大変驚かれていました。そして私も経験していますが野球やソフトボール・テニスのイップス症状は頻度にもよりますが、傍から見てイップス症状だと気付きません。
先日も少年野球のキャッチャーの子がピッチャー(コーチ)への返球でイップス症状が出ている事に気付き、すぐ監督さんに告げ対応するようお願いしました。しかしこの時残念な事にうまく返球できない事に対し、ピッチャーを務めていたコーチは胸元に来た球以外は拾わず叱責を繰り返すばかりでした…。

イップスの原因は身体構造
このイップス症状の最大の問題は一般的な理解の無さです。そして精神論だと位置づけられる事が何より選手を傷つけ、不理解の方達が容赦なく暴言を吐くのです。
ダーツ競技は辞めていく方が後を絶ちません。イップス症状撲滅と理解なくしてダーツに関わる商売は成り立たないと思います。お客様も多い人気店のオーナーさんや店長さんは非常に親身で、プレイヤーさんの痛みをよく理解してくださっています。どうしてもイップス症状を改善する為にはお店や仲間の温かい協力が必要なのです。

トップを作る事が最重要
私のイップス論の原点は「曲げる運動」と「伸ばす運動」、曲げる運動を行う「屈筋」伸ばす運動を行う「伸筋」という構造を理解する事から始まります。そして何よりも「トップ」を作る事が非常に重要になるのです。この「トップ」とは曲げる運動と伸ばす運動の切り返し点で、屈筋を使う準備運動から伸筋を使う出力運動へと転換される位置、もしくは姿勢の事です。この辺は是非先月発売になりました、ダーツDVD『セイゴロイド』を御覧頂きますと詳しく説明しておりますので、まだ見られていない方は是非ご購入の上御覧頂きたいと思っております(笑)。
私はダーツだけでなく野球やソフトボール・テニス・卓球・バドミントンとレクチャーしていますが、当然経験のないスポーツもあります。しかしどうやってそのスポーツを分析しているかと言うと、この「トップ」の姿勢がどのようになっているのかを考える事から始まり、一流選手のトップがどのようになっているのか?その一点に技術論は絞られるのです!

ダーツは反射との戦い
しかしこの「トップ」、ダーツ運動では簡単には作れません。それは『腕が勝手に伸びる』もしくは『腕が勝手に動く』という不可解な現象がダーツ運動には多くあるからです!自分でやろうとしていない癖のように感じる動きは、違う癖をもって制御する事は非常に難しいと思ってください。その癖の正体は反射と呼ばれる身体機能によるもので「勝手」に発動します。肘が下がる、肘が内側に入る、肘が開く、真っ直ぐ引けない、握り込む等の悪癖と呼ばれるような「勝手」な動きを制するには「そうならないようにする」という意識だけではどうにも出来ないのです!そしてその癖自体を直す必要があるのか?という観点も重要だと思います。

「前の意識」と「後ろの意識」
トップを作る事が難しくなる原因に「前の意識」が強くなる事が挙げられます。これは所謂「狙う事」で、イップス症状が強くなる方を指します。
この狙うという作業もメンタル的に言われますが、これも解剖学で説明できます。狙うという目を使う事、もしくは首の使い方は外部情報を脳に伝えます(頸反射)。ようは見た方向や首を向けた方向に対し姿勢が制御される身体機能の事で、自転車やバイク・車の運転、スキーやスノーボードなどでも目線や首の動きで動作技術に差が出るようになっています。
スキー等の初心者講習でボーゲンから左右に曲がる為に、首を曲がりたい方(進路方向)に向ける事でそれが容易に行え、首を向けなくても目線だけでもそれが出来る事が分かると思います。バイク教習でも容易に曲がるために首の使い方が非常に重要で、これは首・目線の使い方で身体の使い方が変化する事を指しています。

腕が勝手に投げようとする現象
「前の意識」が強くなると「腕は勝手に投げようとします」。トップ「まで」の準備が足りないままダーツを投げて「しまう」という不可解な現象が実はあるのです。ダーツ運動では、この勝手に投げようとする腕に(意識的に)「乗っかれて」いると絶好調に感じます。
しかしリズムが速くなり腕の制御が利かなくなり「トップが浅くなる」と様々なイップス症状が現れ、特に指が利かなくなり、グリップイップスになる傾向があると思います。

一流選手は後ろの意識が強い?
この「前の意識」を無くす為に必要なのが「後ろの意識」です。「後ろの意識」の一つはテイクバック、それに対しフォロースルーは「前の意識」となります。根本的な事を言えば、「前の意識=伸筋(出力)」「後ろの意識=屈筋(準備)です。
技術的な話は置いといて賛否あるとは思いますが、一流選手があまり集中せず観客席の方に意識がいき、会話まで聞こえる話を聞いた事があります。客席から自分がどのように見えているのか、どう試合展開したら格好よく見えるか、はたまた奥様や彼女の目線や声援を感じながら試合している方もおられると思います。それくらい余裕をもって「後ろの意識」になっているのです(果たしてどうでしょう?)。

投げない事を前提にセットアップする
どうしても「前の意識」が強い方は、投げない事を前提にセットアップする事をお勧めします。投げるか投げないかはテイクバックして「トップ」の姿勢になってから決めるというものです。
野球の投手はランナーがいる場合、捕手に向かって投げる事を前提にセットアップしていません。それはランナーの動きやサイン次第で牽制球を入れるからです(調子の悪い投手はテンポが速く、「前の意識」になりがちです)。
そして打者の場合も打つことを前提にトップを作っていません。それは的球ではないかもしれないし、ボール球かもしれないので打つか打たないかは状況次第となります(調子の悪い打者も「前の意識」が強くなりボール球でも振ってしまいます)。参考にならないかもですが、ダーツでもいつも後ろの対戦相手を野球のランナーだと思い、「投げない」事を前提にセットアップもしくはトップを作ってみてください!重要なのはトップ「まで」とトップ「から」の分断なのです!そこがクシャクシャになる事で、自分の腕が「自分の中の自分」に乗っ取られてしまうのです!