Vol.86 英国旅 PDC観戦記
灰田 裕一郎 中西永吉

2017年7月

ダーツマニアの本場観戦記
こんにちは灰田裕一郎と申します。職業は都内でダーツカフェを営んでおります。ダーツの世界最高峰であるPDCに魅了されているダーツファンのひとりです。今回、長年の願いが叶い本場イギリスでPDCを観戦する機会に恵まれました。ひとりでも多くの人にPDCの魅力や世界トップの選手達の素晴らしさを知っていただければと今回この記事を書かせていただきました。
マニアゆえのかなり偏った目線からみた本場PDCの観戦記ですが、気軽にお読みいただいて何かしらの刺激にしていただければ幸いです。

【念願だったイギリスPDC観戦】
世界最高峰のプロダーツ団体 PDC(Professional Darts Corporation)。
2015年、2016年と日本でもPDCのワールドシリーズが開催され、選抜されたPDCトップの選手が8名来日しました。日本にいながらにしてPDCを堪能できたことはとても日本のファンにとってこれとない素晴らしい機会でした。いまだにあのときの興奮は心に焼き付いています。そして観戦した多くの人が国内ダーツと世界トップとの差を思い知ったのもこの時だったと思います。
そして私自身も彼らのプレイを実際に観たことで、それまでのダーツに対するさまざまな考えが一変。いままで見てきたダーツ、感じてきたダーツとはまるで違う彼らの世界。そんな世界を目の当たりにして、その違いが何なのかをいろいろな角度から模索するようになりました。中継をみたり、動画をみたりしながら世界トップの技術をなんとか解明しようと努めてきました。

しかしながら、いくら映像をみて考えたところでそれでは想像に頼る部分が多くなってしまいます。やはり実際に現場に行って、目の前で見て、肌で感じないと本当のことはわからない。今回のイギリスの旅はそんな自分にとって答え合わせの旅でした。
今回のイギリスは、実は自分にとっては初めての海外旅行。パスポートすら持っていなかったのですが、思い立ったときには後先考えずに航空券を購入していました。
今思えばずいぶん思い切ったことをしたなと思いますが、勢いだけで渡英を決めることができたのには理由がありました。ひとつは本誌コラムでもおなじみ昨年9月からイギリスでダーツ留学しているエイキチこと中西永吉の存在。彼とは留学中にイギリスへ会いに行くことを以前から約束していましたし、帰国まであとわずかということで早く行かなくてはと思っていました。もうひとつは宿泊先の心配がなかったこと。
ロンドンには古くからのダーツフレンドであるマタローこと門間太郎氏が住んでいます。彼は1年半前に仕事でイギリスへ赴任、以来ロンドンに住まいを持っています。ロンドンに来たらいつでも泊まりにきていいよという彼の言葉は、渡英に際し大きな後押しとなりました。
そして旅のメインであるPDC観戦に関しては、本誌NDLのサポートをいただきました。今回観戦したPDCプレイヤーズチャンピオンシップは一般公開されていない非公開トーナメント。会場に入ることができるのは参加する選手とそのゲスト(1~2名)だけです。
そこでNDL編集長にお願いしてPDCにゲストパスを発行してもらえるよう依頼してもらいました。快諾していただいたのですが、お察しのとおりみなさんが今読んでいるこの記事を書くという約束をさせられました(笑)。

しばらくしてNDL誌なら歓迎しますとの返信メールがPDCから来ました。しかも嬉しいことに条件付きでカメラ撮影まで許可してもらえました。通常プレイヤーズチャンピオンシップという試合は撮影は一切禁止、会場内のスマホ使用も禁止されているほど外部への情報公開が規制されている試合です。異例の撮影許可が出た以上、きちんとした写真を撮らないといけないということでカメラを新調しました。
こんな感じで突然の思いつきでしたがいろいろな要因がうまく重なって、本場でPDC観戦という夢が叶うことになりました。

【いざ、イギリスへ】
今回のイギリスの旅は2017年7月4日~7月11日までの8日間という日程でした。
メインのPDC観戦はそのうちの2日間。7月8日、9日にバーンズリーという田舎町に泊まってプレイヤーズチャンピオンシップ第15戦、第16戦を観戦というプラン。それ以外はロンドンに滞在、とくに予定もいれず基本ノープランでした。
イギリスへはブリティッシュエアウェイズの直行便でロンドンのヒースロー空港まで12時間でした。初めての海外旅行でしたので何もわからずで不安でしたが入国審査も無事パスしてなんとか無事イギリスに到着。
その後は空港までエイキチが迎えに来てくれたので何も困ることなくスムーズにイギリス滞在がスタートできました。
PDC観戦までは4日間ありましたので、それまでは毎日ロンドン観光とダーツの日々。帰国まであと1ヶ月となったエイキチはすでに学校も終わっていて、滞在期間中はずっと一緒に行動してくれました。エイキチはこの1年でダーツの上達はもちろんなんですが、びっくりするほど英語が話せるようになっていました。もちろんロンドンでの生活のこともすべてマスターしているので、どこで何をするにも困ることはなし。ロンドンの複雑な地下鉄、観光スポット、美味しい食事などなど何でもござれでなにも不便に感じることなく過ごすことができました。ロンドン観光のことも少し書きたいところですが、本誌はダーツ専門誌ですのでそこは割愛。
ここらでこの記事のメインであるPDC観戦の話に入っていこうと思います。

【田舎町バーンズリーへ移動】
イギリスについて5日目、いよいよPDC観戦の日。長年の夢がかなう時がやってきました。興奮して前夜はぜんぜん眠れませんでした、と書きたいところですが4日間ロンドンを観光しまくった疲れで爆睡できました。

会場であるバーンズリーはロンドンから特急を2回乗り継いで3時間半もかかる田舎町です。朝6時に家を出発してエイキチと一緒にPDCプレイヤーズチャンピオンシップの会場へと向かいました。複雑な電車乗換えもエイキチのおかげでスムーズに乗り継いで無事バーンズリーに到着。
ひとりだったら絶対たどりつけなかったと思うほど、駅も電車もチンプンカンプン。もし日本からPDCに挑戦するとなったら、会場に行くだけでもひと苦労であることを痛感。
日本人選手としてPDCに挑戦している村松治樹選手の苦労がよくわかりました。エイキチはPDCやBDOの試合にも選手として参戦しているため、試合が開催される会場はある程度把握できています。
会場の場所がわかっているだけでも異国の地ではとても心強いです。「こっちでーす」と前をあるく彼に連れられ、駅から10分ほど歩いて会場であるメトロドームへ到着。

【いよいよ会場入り】
会場につくと受付とセキュリティーチェックです。一般公開していない試合ですので、チケットなどはありません。受付で名前を言ってパスをもらうだけですが、ここでもエイキチが本領発揮。PDC関係者に事情を説明(英語ペラペラ)すぐに理解してもらえたようで入場を許可してもらえました。ゲストとしての証明である腕輪(日本でもよくある紙製のテープです)をつけてもらって、荷物チェックを受けたらいよいよ会場入りです。

会場に入るなりトーナメント責任者のスコットから、会場での注意事項の説明を受けました。撮影に関しては規制が非常に厳しく注意点がたくさんありました。タバコ、アルコールは絶対に映してはいけない。控えエリアは一切撮影してはいけない。ボードに向かって投げているところだけ撮るように。テーブルの上のドリンクは入らないように撮る。フラッシュは使用禁止。スマホでの撮影禁止、すべてカメラで撮影すること。撮影できるのは試合開始1時間前まで。こんな感じです。喫煙所は会場外なので、とにかくアルコールに注意を払っていれば大丈夫そうです。
念のため書きますが、PDCはタバコとアルコールを禁止しているわけではありません。プロ団体としてクリーンなイメージを守るため、スポンサー等への配慮を含めてルールを徹底しているというだけです。もちろんタバコを吸う選手も多いですし、お酒もみなさんガンガン飲んでます。ただ試合スペースでは水だけというルールを守ってます(試合開始1時間前までは試合エリアでもお酒OKです)。

【PDCプレイヤーズチャンピオンシップ 夢のワンダーランド】
とりあえずPDCからの説明もおわり、控えエリアのテーブルへ。荷物をおろし、ひと息つく。控えエリアを取り囲むように試合ボードが16面、練習ボードが8面、合計24面のボードが設置されています。試合ボードはすべて仕切りがあってブースになっています。
ひと段落したところで、投げている選手たちに目をやると、ものすごい光景であることに気づく!普段ネット中継でしかみられない、あの選手やあの選手がすぐそこでダーツを投げている。取材を兼ねての観戦ですが、もう取材どころじゃない(笑)。日本からきたPDCファンとしてはまるで夢の国。目の前の席ではトップ選手たちが談笑してたり、後ろを振り返れば元世界チャンピオンが椅子に座りビールを飲んでいるではないですか。
「エクキューズミー」と言われて顔を上げるとドリンクを抱えたマイケル・スミス!ダーツマニアがこの状況に興奮しないわけがない。予想以上の光景になかなか興奮状態が覚めず、慣れるまでにかなりの時間を要してしまいました(笑)。

【なかなか大変だったカメラ撮影】
さて撮影ができるのは試合開始1時間前までです。そんなに時間も残っていたなかったので早速カメラを準備して撮影開始することに。ところがカメラを持って会場内を歩いていると、選手達やゲストの人たちから痛い視線が飛んでくるではありませんか。通常は撮影許可がおりることがないプレイヤーズチャンピオンシップ。カメラを持っているのは私だけです。

もちろんPDCから許可をもらっているのですが、選手たちには知らされていません。案の定「お前なんでカメラなんて持ってるんだ、そんなことしてたら怒られるぞ」とベテラン選手ロニー・バクスターに指摘されました。「I have a Media Pass」と言っても、信じてもらえずロニーはコントロール席にいる責任者のところへ言って、なにやらこっちを見て文句を言ってる。他の選手にもいろいろ言われ、なかなかスムーズに撮影ができない。
しかしこれも想定内のこと。異例の撮影許可と聞いていたので、こういうことになるんじゃないかと想像はしていました。こんなときのためにと日本からお手製のメディアパスを持ってきてました(準備がいいぞ!おれ!)。
「PRESS」と大きく書かれ自分の名前と本誌の名前が書かれたIDカードです。
本来ならPDC側で用意して欲しいところですけどね(笑)。そのお手製パスをよく見えるところにつけて会場を歩いてみると効果は歴然。選手たちから不思議な目でみられますが、呼び止められたり注意されることはなくなりました。かなり時間はロスしましたが、これでようやく撮影開始です。

【オーラを放つPDC選手たちのダーツ】
会場を囲むようにして設置されたダーツボード、至る所で世界のトッププレイヤーたちがダーツを投げています。それは自分にとっては夢のような光景でした。
とにかくこの貴重なチャンスを活かさねばと必死に撮影。レンズ越しに見ていても伝わってくるスローイングの質の高さ。あきらかに今まで見てきたダーツとは異質のものでした。いままで画面越しに見ていたのでは伝わってくることのなかった生の迫力とでもいいましょうか。自分が知ってるダーツとは別のもの、そんな風に自分の目に映りました。

これまでもPDCトップ選手たちのスローは来日した時に何度か見ています。彼らのダーツに対してある程度の耐性はあると思っていました。ところが実際に間近でみた本場PDCのダーツは異次元のものでした。選手それぞれに個性はあるものの、ほとんどの選手から共通のなにか特別なものを感じました。
ダーツの飛び、スローイング技術、そういう表面的な違いはもちろんなのですが、大きな違いとして感じるものはもっと深いところからくる圧倒的なものでした。なにか危険な場面に遭遇したとき、「あ、これはまずい」ってことを直感的に肌で感じることがあると思いますが、そんな感覚に似たものです。
スローイングに関しては動画でも撮影しましたが、やはり肌で伝わってくる凄さは映像には収められません。自分の文章能力がもっと高ければわかりやすく文字にできるんですが、ほぼ素人同然の自分にはそのような能力は備わっておりません。残念なことに「今までに見たことのないようなダーツ」と表現するのが精一杯です(読者のみなさんすみません)。
一体この違いはなんなのか? それをひたすら考えながら、シャッターを押し続けましたが答えは見つらかぬまま、ただただ彼らのダーツに魅了されていました。

【プレイヤーズチャンピオンシップってどんな試合なのか】
プレイヤーズチャンプオンシップはみなさんが普段みているPDCのメジャートーナメントとはちょっと違うトーナメントです。華やかさはなく、会場もこじんまり、観客たちもいません。試合ボードがずらりと並んでいて、どちらかというと競技会という感じです。日本で例えるならPDJ予選といった感じの雰囲気でしょうか。メディア規制された試合ではありますが、ストリーム放送による生中継は行われます。
中継用試合は会場の隅に作られた別ブースで行われます。そこへは対戦選手以外入ることができませんので、観戦は会場内に用意された大型モニタ越しで試合を見ることになります。プレイヤーズチャンピオンシップは128名の選手によって行われトップランカーからランキング下位の選手までその顔ぶれは様々です。

定員割れした場合にはツアーカードを取得していない選手でもQスクールに参加していればポイント上位者から順にリザーバーとして参加が可能。優勝賞金は10、000ポンド、日本円で約150万円です。ベスト64から賞金が出ます。
このプレイヤーズチャンピオンシップは年間22戦のツアーイベントです。PDCのメインランキン
グ(オーダーオブメリット)にも大きく影響する試合でもあります。ランキング上位者は年末に開催されるPDCメジャート|ナメントのひとつであるプレイヤーズチャンピオンシップファイナルの出場権利を得ることがきます。
プレイヤーズチャンピオンシップはほとんどの場合、週末に連戦でスケジュールされており、今回も土曜日に第15戦、日曜日に第16戦が行われました。
試合は形式はシングルイリミネーション、負けたら終わりのトーナメントです。
1回戦から決勝戦まですべてBest of 11(6レグ先取)で行われます。先攻は練習スローが終わったのちにミドルを投げてきめます。ちなみに試合前の練習スローですが、日本では2スローが普通ですがPDCでは基本的に何スローまでというのは決まってないそうです。両選手が準備OKとなったところでミドルが始まります。

試合スペースは各ボードごとに青い壁で仕切られたブースになっていて、隣のボードなど気にならないようになっています。壁の色が青いのは人間が集中するのに一番適した色だからだそうです。
各ボードには担当のチョーカーがひとりついています。チョーカーはPDC専属のボランティアの方たちがおこなっていて選手がチョーカーをやることはありません。試合中はチョーカーも選手も点数をコールしたりすることはなく、選手が投げた点数をチョーカーが計算してスコアボードに書いていくだけです。最後にダブルに入れてレグが終了しても、チョーカーは何も言わず黙ってスコアを消して勝ったプレイヤーの勝ちレグ数に1つ数字を足すだけ。
見ている側はチョーカーがスコアを消すのをみて「あ、ダブル決まったんだ」って分かる感じ(笑)。なので会場の中は比較的静かです。聞こえてくるのはダーツがボードに刺さる音とカシャカシャというダーツとダーツが当たる音だけ。選手もテレビ中継のようにガッツポーズや吠えたりすることはありません。ひたすらダーツを投げて持ち点を減らしてダブルに入れる、これを淡々と繰り返すだけ。
実にシンプル、なのでとにかく試合進行が早い。ゲームにはダーツ数のリミット制限もなければ何ダーツで上がったという記録もしない。ハイオフ、180、ショートなどの記録もしないし、試合後にスコア表に確認のサインしたりということもありません。ゲームショットが決まると対戦相手、チョーカーと握手してボードから去る。

試合の責任者であるチョーカーが何対何のスコアでどっちが勝ったかということだけを近くにいる進行管理者に報告するだけ。試合結果として必要な情報はそれだけなんです。その報告を受けた管理者が手元のタブレットに結果を入力することで本部のシステムにデータが送られ、大型モニターのトーナメント表に結果がリアルタイムで反映されるという仕組み。とにかく無駄なく試合が進行していきます。
128名を16組に分け、16面のボードに1組8名を割り当て、ひたすら試合を行いとりあえずベスト16を出す。3回戦まではずっと同じボードで試合をすることになるので、運営側で対戦カードと対戦ボードをアナウンスする必要もない。自分たちでボードの試合進行を確認してればOKなのです。1つのボードでラウンドロビンを進行させるのと同じです。
このやり方がベストというわけではないでしょうけど、日本で大会を運営する人たちにはこのやり方もぜひ参考にしてもらいたいなと思いました。PDCのビッグメジャートーナメントは参考にならないでしょうけど、プレイヤーズチャンピオンシップのような規模の平場で行う試合なら参考になることは多いんじゃないかなと思いました。
それにしても、128人のトッププレイヤーが16面の試合ボードで淡々と試合をしている様子は壮観でした。
試合ボード以外にも練習ボードが8面あって皆そこで次の試合に向けて調整をしていたり、テーブルに座って談笑しながらリラックスしていたりと。プレイヤーズチャンピオンシップはPDCの華やかな面とは違った、選手同士が凌ぎを削りあう戦いの場という別の一面をみた気がしました。そういう試合だからこそ、メディアは一切入れず選手たちが試合に集中できる環境を作っているのかもしれませんね。

【試合内容はやっぱり世界トップクラス】
メジャートーナメントでなくても、トップランカーの試合でなくても、PDCの試合はやはり世界トップクラスの内容。点取りは100点か140点がほとんど、4ラウンド投げた時点で残り点が2桁というのが普通です。
そして当然のごとくダブルの決定率が圧倒的に高いです。どの試合も平均15ダーツ以内でフィニッシュというのが当たり前の世界でした。そして驚くのはトップランカーでない無名の選手達のレベル。日本では名前も聞かない、映像でも見たことのない選手たちも多く参戦しているのですが、そんな彼らもトップ選手と比べても遜色ないダーツレベルなんです。
トップ選手が無名選手たちに次々敗れていくのを目の当たりにしてPDCの層の厚さを感じましたし、選手の年齢層に関しても20代前半のルーキーから50歳以上のベテラン選手までと幅広かったです。

選手の国籍もヨーロッパが主としていろいろな国の選手が集まってます。一緒に練習したり、同じテーブルに座ったりするのも基本同じ国の選手同士ということが多いように見受けられました。どの選手もみな英語でコミュニケーションしています。言葉が喋れなくてもダーツはできますがPDCでやっていくならやはり英語はダーツスキルと同じぐらい必須だと感じました。
やっぱりコミュニケーションが取れないと何もはじまりませんし、それ以上に手間や面倒なことが増えて負担が大きくなります。自分はイギリスに選手として挑戦することはありませんけど、それでも英語は勉強しなきゃなとあらためて思いました。

【中西永吉という若きチャレンジャー】
今回イギリスでの8日間をつきっきりでサポートしてくれた中西永吉について書いておきましょう。1年前になんの保証もなく手探り状態で単身イギリスへ乗り込んだダーツプレイヤー中西永吉。本誌コラムや彼のブログでその挑戦をご存知の方も多いと思います。今回イギリスに来てみて彼がこの1年で積み上げてきたものがどれだけ大きいものか痛感しました。そして1週間という短い間ではありましたが、その恩恵をたくさん受けさせてもらいました。
まぁ一番驚いたのは英語です。ペラペラでした。わずか10ヶ月程度でこんなにも喋れるようになるものかと感心するレベル。
そして街のダーツバーに行ってもダーツ仲間やリーグ関係者と信頼関係を築き上げていましたし、ダーツの上達レベルに関しては言わずもがなです。すべてにおいて日本にいたころのダーツと違い、完全にブリティッシュスタイルになっていました。もちろんそのレベルになるだけのことを彼はしていました。
地域リーグはもちろん、BDOの試合やPDCのチャレンジツアーにも参戦。エイキチはすでにれっきとしたPDCプレイヤーです。PDCの選手達やスタッフとも普通に挨拶したり会話したりしています。もちろんPDCのシステムに関しても誰よりも熟知しています。大事なのはそれらを人から聞いたり、ネットで調べて知ったのではなく、経験として知ったというところです。
今回のPDC観戦、終始興奮状態だった自分とは裏腹にエイキチは試合会場でずっとイスに座って遠目に試合を見ているだけでした。全然楽しそうじゃない、なぜか不機嫌。しばらくして気付きました、今回のプレイヤーズチャンピオンシップはランキング上位選手が海外遠征中だったため、代わりに補欠選手が多く出場していました。その補欠選手の中には普段はエイキチと同じリーグで投げていたり、チャレンジツアーで一緒だったライバル選手が多く参加していました。

その選手達が会場でエイキチをみかけて声をかけてるんです「ハイ!キチ! 今日は試合出てないの?」って。
「今日は日本からの取材のサポート」って答えてるエイキチを見て、なんか申し訳なく思ったんですが、それと同時にそんなエイキチが頼もしく思えました。エイキチには「自分はPDCの選手」という意識がもう普通にあるんだなと、だから今回試合に出られずに会場にいることがとても悔しかったんだとわかりました。帰り際に試合責任者だったスコットに挨拶したときもエイキチは「一度日本に帰るけど、また必ずここに戻ってくるからよろしく!」って言ってました。
わずか10ヶ月で本場PDCと日本スティールダーツ界をつなぐ貴重な存在になったんだなと感じました。そんな彼も来月には日本に帰国します。帰国後の活躍がいまから楽しみです。

【終わりに】
ずいぶんと長編になってしまった今回の本場PDC観戦記。最後まで読んでいただきありがとうございました。伝えたいことがたくさんあるのに、うまく言葉にできずフワフワした内容になってしまいましたがお楽しみいただけましたでしょうか。
これまでPDCに関しては映像をみて個人的にいろいろ研究してきましたが、結局は「案ずるより産むが易し」でした。生で見たことで、頭じゃなくて肌で感じて納得することができました。
まだ漠然としていてうまく整理できていませんが、少しずつ消化していければいいかなと思っています。今回の旅に際し、協力いただいた関係各位にこの場を借りて心からのスペシャルサンクスを。PDCは本当に素晴らしい場所でした。ありがとうございました。

中西 永吉
タイミングというのは奇遇なもので、まさか僕がイギリスにいる間にDOLLYさんが来るなど予想もしていませんでした。しかも今回はプレイヤーズチャンピオンシップの観戦記ということで二人での共同記事になります。
僕はプレイヤー視点で見てしまうのでやはり出場できないことに悔しさがついてきてしまいますが、できるだけみなさんにPDCのメジャー以外の試合というものを今回の記事で伝えていきます。
まずPDCというのはなにもTVでやっている試合をこなしているわけではありません、日本のプロツアーと同じくツアーの試合もこなしておりその合間に海外で試合をしたり、TVのメジャー試合をこなしているのです。

故にトッププレイヤーは多忙極まりない日々を送っています。最近では、フィルやバーニーらがプレイヤーズチャンピオンシップのエントリーを控えていますが年齢とともにそのハードな日程をこなすのが難しくなってきているのでしょう。どちらかと言えば、若手の登竜門的なツアーなイメージがあるこの大会で成績を残すことがTOP10への始まりであり、逆にツアーカードを保持するために大切になってくるのです。
それでは、今回の二日間にわたる中西永吉視点での感想記にいきましょう。会場はチャレンジツアーでもおなじみのバーンズリーというロンドンから三時間ほど北に行ったところ。会場の中はほとんどチャレンジツアーと同じでした。
PDCはプレイヤーのことを一番に考えているので、どの会場にも同じ床材を張りボードや練習環境などもどこの会場に行っても変わりません。
変わるのは季節ごとの気温や湿度なだけで、ここまで各会場を同じにしてくれるのはプレイヤーにとってはありがたい限りですね。
さて興奮を抑えきれないDOLLYさんを横目に僕はやはり試合をしたい気持ちが抑えきれませんでした。ただせっかくの機会なので試合を見て回りましたがこの「見て回る」ということは意外と難しい。ただ見て感じ取ることがどんなことにおいても大切だなと感じていますが、たいていはそこに私情が入ってしまって過剰なイメージを抱いてしまったり、いろいろ考えてしまって結局はその人本来のダーツスタイルというものから離れていってしまうのです。
僕はダーツにもスタイルがあると思っています。熱いタイプ、冷静なタイプなど細かくしていけばたくさんスタイルの形はでてきます。たとえば僕はマイケル・スミスのリズムなどは好きですがスタイルは好きではありません。試合中にいいダーツができない自分を蔑むような振る舞いをするからです。しかし往年のプレイヤーは最後まであきらめずに若者に負けるかといった気迫を感じさせてくれるイメージがあり、僕はそんなスタイルが好き。やっぱり心揺さぶるプレイがいいじゃないですか。

そして驚くかもしれませんが、あの会場にいる選手のレベルはほとんどかわりません。たしかにランキングというものがある以上は上の選手が強いのですが先に6レッグというこちらでは短いフォーマットでは何が起きるかがわかりません。
同じリーグの選手が初戦でクラッセンに勝ったり、全然知らないプレイヤーがベニートに勝ったりとトップ予備軍はいくらでもいるのです。その中から自分を出していくにはただ技術があるだけでは足りないのではないでしょうか。何か人を魅了する人間の内的な何かをダーツに乗せてプレイすることによって各々が唯一無二の存在になっていくと感じました。
とはいっても僕たちが追いつくにはまずは技術やフォーマットに慣れた戦い方を習得しなければいけません。上海マスターズでバーニーが言っていたように練習しかないのです。この憧れをどのようにして行動に移し、短期ではなく長期で自分の成長を見ていくかが大切になってくると感じました。石の上にも三年と言いますが、そんな期間で結果が出るような差ではありません。
自分が影響を受けるのは周りの5人からという記事を以前書きましたが、この128人の中で試合を回れば自然と高いレベルのほうへ自分を導いていけるのではないかとも思いました。なんせ128人のダーツモンスターたちの中で試合をしたり、練習をしたりできるのだから。
確かに僕は一年という短い期間のイギリス滞在でしたがそれでも変わってるとDOLLYさんに言われました。ただ僕自身は変えてるつもりはないのでこちらの空気を肌で感じ自然と変わってしまったのでしょう。
そんなことを思っていると無性にダーツが投げたくなってしまいます。試合をただ見るだけは僕にとっては苦痛そのもの。ですがこの悔しさを強さに変えられるように日本に帰っても自分を磨いていくだけです。