Vol.99 森窪 龍己
メジャースポーツにしたい

2019年9月号

グリップ
初めてダーツを持った時の印象や感触はいかがでしたか?
思ったよりも軽いなと思いました。野球やテニスをやっていてダーツよりも重たい物を使っていたので、最初は右手で投げられなくて左手で投げてました。

利き手はどちらなのですか?
右寄りの両効きです。

最初は左手だったんですか?
そうなんです。ダーツは野球やテニスに比べて軽すぎて、投げる瞬間に肩が抜けそうだったんです(笑)。それで左手で投げてました(笑)。

いつ頃から右手に変えたのですか?
投げ始めて半年から一年くらいですね。それまでは右も左も両方で投げてました。

その方が身体にはいいですよね。
本当にそうですね。両方で投げられたら、こんなにありがたい事はないですよね。
右に変えた理由はすごく安易なんですけど、利き目が右だからです。距離の問題で楽ですから。

ダーツ歴は何年でしょうか?
13年です。

その間グリップを変えてきましたか?
意図的に変えた時期もありました。でも今はたまたまいつもと違うグリップになったまま投げ続けて、「こういうのもありなんだ」と発見したりするといった感じです。

他人のグリップを参考にしますか?
します。「どうやって持ってる?」って聞いて見せてもらったり、逆に見せることもあります。気になったグリップを見せてもらったら、その選手が実際に投げてるところを見て「そうやったらそう飛ぶんだ」と確認します。それから自分でも投げてみて、イメージが良かったら取り入れてみたりします。

そうやってプレイヤー同士で共有したりもするんですね。
僕は気になったら結構聞いちゃいますね。

試合中や普段の練習でもグリップを変えることもありますか?
あります。僕は結構試合中にもグリップチェンジをしますね。収まりや当たりのイメージが良くないまま投げていたくないですから。
グリップはいつも同じところを持っているつもりでも、実際には同じではないと思うんです。毎回、「このカットのここの部分に指のここが当たってます」というのが絶対同じではないですよね。
僕は感覚を大事にするので、感度の鋭い時は似た様な感触が残り続けますが、良くない時は同じ様に持ってるつもりでも収まりが悪く感じます。イメージが悪かったり、投げた瞬間に思っているのと全然違う感触が出た時は、そうならないようなグリップにチェンジしますね。

他人から見てもほとんどわからないくらいですね。
そうですね。僕が今までで一番グリップチェンジした日は2年前の優勝した日です。意図して変えたのではなくて、当たりが良くないから必然的に変わった感じだったんですけど、あの日は1ゲーム中に3回グリップチェンジしましたね。
とにかく結果としてそこに投げられることが大事なので、そこまでのプロセスはあえて作ってないんです。

グリップの中で一番大事にしているポイントは何ですか?
当たりの良さだと思ってます。野球をやっていたせいかもしれないですが、持った時にそこに投げられるイメージが作れるかどうかが最も重要なんです。ピッチャーがボールを持ってストレートを投げる時に、持った感触で縫い目の位置を若干変えるというのはその時の収まりだと思うんです。それと同じで、ダーツを持った時にターゲットに当たるイメージが作れなければグリップチェンジしなくてはならないですね。

その日の感覚が一番大事だということですね。
そうです。身体が自分の思う様にちゃんと動かせてる状態で、ダーツを持った時のイメージですね。
投げ込んでいる中で、スローラインに立った時にだいたいどの辺りに飛んで行くかというイメージができてくるんです。これは経験値が大きいと思いますが、なんか引っかかるなと思ったら引っかかるし、すっぽ抜けるなと思ったらすっぽ抜けるんです。とにかく良いイメージが出来てる状態のグリップというのが、自分にとっての良いグリップになるんです。

季節によって湿気や乾燥などがありますが、気にされますか?
メチャメチャ気にします(笑)。

どういう対処をしていますか?
滑り止めを使います。これも野球をやっていたからかもしれないですけど、手のコンディションはいつも同じにしていたいんです。僕はピッチャー出身なので、ロージンバックを結構使いましたね。
乾燥しているのであれば潤してあげればいいわけですけど、べたつくのが一番やっかいです。手がベタベタしていると、ダーツが放れるタイミングが毎回バラバラになってしまうんですよね。
大会では海辺の会場が多いんですけど、そうすると潮風の影響が出てきてしつこいんです(笑)。カットが相当無くなってて、普段だったら滑っちゃう様な状態のダーツでもひっつくんです。カットが強くて掛かるというのとはまるっきり別の感触が出て来て、僕はそれがあまり好きではないんです。あの「べたつきが嫌だ」というイメージを持ってしまってるんで、べたつきがある時はどうやってそのイメージをリセットして、普段の良いコンディションに持っていくかがポイントなんです。

立ち方
立ち方はいかがでしょうか?
僕は右側に立ちます。

それはどうしてですか?
楽だからです。始めた頃はめいっぱい左寄りに立ってたんですよ。まだ大会にも出た事がなかった頃に投げてたお店が、台数が少なくて台間もすごく広いお店だったんです。右側に壁があったというのもあって左に寄って投げるくせがついてたんですね。それがいざ大会に出てみたら台間が狭くて、自分の立ち位置だと隣に当たって邪魔してしまうことに気付きました。それで枠の中に収まらなければダメだと、真ん中に寄る練習をしたんです。
でも真ん中からだと正面過ぎて遠近感が取れなくて投げられなかったんです。正面の壁って距離がわからないんですよね。それでそのまま真ん中を通り過ぎていつしか右寄りになったんです。

それからはずっと右寄りなんですか?
そうですね。これでも正面寄りには立ってるつもりなんですけど、よっぽどのことがないと真正面には立たないです。

両足の力の配分はいかがですか?
その時によって若干の誤差はありますが、10−0にはしないですね。7−3から9ー1かな、良い時ほど偏りが少ない感じですね。状態の悪い時は6ー4くらいまでいっちゃうかもしれないです。右6の左4という感じになってしまう時がありますね。


肘の位置はいかがでしょうか?
僕は低いです。高い位置では構えないですね。

最初からずっと低めですか?
一度高い位置から投げてる選手達を見て変えてみようとしたんですけど、僕には合わなかったです。身体がしんどくて肩の高さまでは上げないです。

いろいろと研究されてきたんですか?
ちょこちょこ変えましたね。極端に上げたり下げたり、開いたり閉じたりもやってみました。それで試行錯誤して落ち着いたのが今の低めの位置なんです。僕の表現で「余らせる」と言ってるんですけど、ぐっと張りつめるのではなくて、遊びを作ってる状態です。ある程度自由度が高い状態を作って、あとはちょっと開き気味です。

少し開かないときついですよね。
その方が収まりがいいという人もいるので、それはそれでありだと思います。でも自分で投げてみたら、僕には窮屈で身体の負担が大きく感じられて辛かったです。

肘は絶対固定しているというわけではなんですね。
肘は逆に動かなくてはダメだと思ってます。旋回運動が入ってくるので、自由に動く様にしなくては無理があると思います。ダーツは距離が短いので、例えば手首だけで投げようと思えば投げられますが、僕はストロークを取る様にしています。

スナップは結構使いますか?
意識的には使ってないですが結構ぐにゃっとなってるので、手首が柔らかいのかもしれないですね。

肘のケアはしていますか?
肘よりは他のケアをしています。肘を痛める原因は8割以上が力みだと思うんです。キャパを超える状態の力がかかった時に、その負担をどこに逃がすかということが重要ですが、その力を逃がし切れなかった時に痛みが出てしまうと思います。
ただ振る動作だけだったら、力がちゃんと分散されて衝撃を和らげてくれるので痛みが出ることはないですよね。でもぎゅっと力一杯持ってめいっぱい投げた時に、その伸びた衝撃を肘が固まってることによって逃し切れなくて、結果として肘を痛めてしまうのではないでしょうか。

肘を壊している人は肘に力が入り過ぎているのかもしれないですね。
肘に負荷が掛かり過ぎたり逃がし切れなかったり、あとは力が伝わるタイミングが合ってないのかもしれないです。

テイクバック
テイクバックでは、初動の時にポイントにしていることはありますか?
ここから引こうとかここが始動だとかは考えて投げてないです。

自然にタイミングが取れるということでしょうか?
僕は身体任せですね。動きたいタイミングで動いてます。
一定のリズム化をして投げているので、そのリズムの中で出来る動作と出来ない動作が出てくるんです。出来る動作だけを把握してスローラインに立ってセットアップすると、動作に入った時に身体が動きやすいところで勝手にイメージができてくるんです。
これがセットアップはここだと決めてしまうと、必ずそこからが始動になりますよね。そうするともしそこに構えられなかった時に始動できなくなってしまう。それはリズムを作れない要因のひとつになってしまうんです。
僕の場合は、グリップを作ってテイクバックするための引きしろを作ったタイミングで、身体が勝手に始動し始めた場所がテイクバックの最初になります。ですから距離は毎回微妙に変わります。

身体が憶えているということでしょうね。
それもそうですし、筋肉の収縮問題とかもあって、自分の身体がそこで無理なく動かせてる場所が重要なんです。
でも大会になってくると、どうしても硬くなりがちなことがありますね。ポーンと出て行けば投げられるのに、それが出来なくてリズムが乱れてしまうことがあります。それが僕の課題の一つでもありますね。

ではテイクバックの最終点の位置は決めていますか?
始点と同じで決めてないです。テイクバックをして腕を引く動作をした時に、後の力を前に変換することで物が投げられるわけですよね。車のギアと同じで、前に切り替わるギアがハマった瞬間にポンと出るんです。それを「ここまで引かなくてはダメ」と決めてしまうことで、よけいな力がかかったり、本来のパワーポイントを通り過ぎてロスしてしまうこともあると思うんです。
引き過ぎ引かな過ぎという基準も自分の身体なので、ノーテイクの人とがっつり引いて来る人ではどちらも正解であると同時にどちらも不正解になりうるんです。いろいろなタイプのプレイヤーがいるので、どれが正しいとかは決められないですよね。

流れが大事だということですね。
自然の動作の中で何をするかということですね。引けないという現象はまた別として、自分の動作の中でやっているのであれば、ある程度の幅を決めてあげることも大事だと思ってます。ここからここまでの間だったらOK、これを超えちゃうとダメではないけど、ちょっと厳しいなといった感じです。
その幅の中で自分の身体の状態がぴったり合えばベスト。もしベストまではいかなかったとしても、ベターの幅を作ってあげることが大事なのかなと思いますね。

スロー
スローにつてはいかがでしょうか?
物を投げるという考え方でダーツをやってるので、ベースにあるのはキャッチボールですかね。右足を前にしてキャッチボールしてるという感じです。

ボールを投げる感覚と同じ感覚でダーツを投げているわけですね。
ボールと全く同じにしてしまうと、ボールは人差し指と中指が絶対的に先攻して投げるので全く同じではないですが、僕の場合ダーツはキャッチボールの派生です。ダーツという棒状の物を、ボールと同じ様にターゲットに向かって投げるための形を作っています。

リリースポイント
リリースポイントについてはどうでしょうか?以前は出来るだけ長く持っていたいという意見に対して、最近は早く放す傾向が多いですが。
ソフトダーツに関して言えば、リリースは早くなくてもいいという考え方です。スティールに関してはそんなに大それたことは言えませんが、ほぼ同じです。
リリースされるポイントは80度から110度くらいと思っていますが、これは離れる瞬間です。でもその手前から意図していなくても、物を離しに行く動作は始まってるんです。そのスタートポイントが手前に来れば来た分だけ早く放れる。その準備が出来ている人達は必然的に早いタイミングで放れて行くんですよね。それを無理に手前側から放そうとしてしまうと、手に接地していないバレルに力を伝えることはできないです。接地して力を使える行為を手前で終わらせられるかどうかだと思うんです。
それはストロークや手首や指の使い方で変わってはくるんですが、的にバレルを届かせる力がかかる瞬間というのは人によって様々です。手を押し返す様に出した瞬間に一番力が乗っかる場所が力が伝わり切るポイントだという考え方です。そういう意味で言うと、僕の場合は結構奥まで持ってるイメージがありますね。実際はそうでもないんでしょうけど、90度から110度までの間で離れ切るイメージです。始動は90度より手前ですね。

早く離そうという行動は始まるけど90度〜110度の間で離れてる感覚ということですね。
そうですね。90度より先じゃないと力が乗らないです。80度や70度のラインで力が乗るとは思えないんです。

ダーツの飛び
飛びについては気にしていますか?
バタついている時は気にします。

毎日違うものですか?
指の当たり方や身体の暖まり方で変わってくることはありますが、基本的に僕は矢速が人より速めなのでブレ幅も少ない方だと思います。練習の時にはわざと動かして投げてみたりもしますが、試合中は飛びを気にするよりも収まってくれる方が優先ですね。

飛びはきれいな方ですね。
たぶん(笑)。あくまでもたぶんです。なんとも言えないです(笑)。

そんなにバタバタ飛んで行かないなら、それほど気にする事はないですね。
矢がバタついてる時というのは、矢が出る角度が良くないというイメージがあるので、力が上手く伝わってないというのもあるでしょうね。

リズム
次にリズムについてお聞きします。試合中ではいろいろなリズムがありますが、何を一番気にしていますか?
試合の時にはひたすら的に向かって投げるのみなので、リズムはあまり気にしていません。練習の時には小気味良くというか、ちょっと速いかなくらいでもいいかなと思っています。やっぱり緊張したり何かが気になった瞬間に遅くなりますからね。

相手のリズムは気になりますか?
昔は遅い人が嫌いでしたね。イライラしました(笑)。試合中は高ぶっているのもあって、同じ10秒でも普段の10秒とは全く違う感覚なんです。普段の10秒なんて何でも無いのに、試合中の10秒は1〜2分に感じたりしましたから。
でも最近では遅くてもまったく気にならなくなりました。相手が投げてる時間は自分が考えられる時間ですからね。
ノータイムで投げられる試合なんかは楽しくなっちゃったりして、それを抑える方が大変です(笑)。気持ちいいリズムでポンポンと投げてくるプレイヤーと対戦してると、すごく気持ちよくて楽しくなっちゃうんですよね(笑)。

速いプレイヤーの方が楽しいですね。
見ている人達もそうでしょうね。PDCが見られるのはそれもあると思うんです。

めっちゃ速いですからね。
振り向いた時にはもう投げてますからね(笑)。あのテンポの試合だから18レッグとか見てても飽きないんですよ。速過ぎる必要はないと思いますけど、小気味良いテンポの試合というのは大事ですよね。そういう楽しい試合は、お客さんももっと見たいと思ってくれるのではないでしょか。

ゲーム
ゼロワンとクリケットではどちらが好きですか?
いろいろな駆け引きがあるので、好きなのはクリケットです。もちろんゼロワンはゼロワンの面白さがありますが、クリケットは外から見てると分りにくいけど、プレイヤー同士では分りやすい駆け引きがあるんですよね。相手によってはメチャメチャ考えて駆け引きし合いますね。お互いよけいな事をやっちゃったりするんですけど、それがまた楽しいです(笑)。
パーフェクトではチョイスのクリケットが多いじゃないですか。あれは何回かチャンスがあるという考え方も出来ますが、ゼロワンは本当に短期決戦です。集中力と瞬発力が勝負になりますが、その瞬発力勝負も嫌いではないですね。どっちも面白いんですけど、自分がチョイスする立場になった時は「行けるな」と思ったらゼロワンで、「瞬発力ではなく粘りで」という時はクリケットを選びます。
お店や練習で普段投げる時はクリケットが多いです。やっぱりそれだけ好きなんでしょうね。

ソフトダーツとスティールダーツ
ソフトダーツとスティールダーツの違いは何でしょうか?
一番感じるのは、スティールは刺さる角度が毎回違うので、アプローチの仕方が毎回変わるということです。ソフトはビットが広いので、チップが曲がったとかすごい刺さり方をしたとか、よっぽどのことが無い限りはどの角度で飛んで行っても、刺さったダーツは真っ直ぐになりますよね。でもスティールは刺さった角度のままというのが圧倒的に多い。当たりが弱くて寝ちゃうということもあるかもしれないですけど、ほとんど刺さったままの角度なので、同じアプローチでは投げないです。
あとはダーツの質量が違うと思います。同じ18グラムや20グラムのダーツだったとしても、バランスはスティールの方が前です。ポイントの長さの分だけ質量が絶対的に前なんです。海外のスティール選手達のリリースが早いというのは、質量が前にある分だけ早く前に出て行けるんだと思います。
ソフトはどこまでいっても先端はプラスチックなので、どんなに中身を詰めて重心を前に乗せたとしてもスティールにはならないんです。これも僕が感じる大きな違いですね。
スティールプレイヤーを見てリリースを早くしたいと思ったとしたら、スティールでやればいいと思います。ソフトを主体で投げていてスティールのリリースをしたいとしたら、ちょっとパワーが足りないんじゃないかなと思いますね。チャレンジするのはいいけどしっかり届くのかな、という気がします。
ですから僕の場合は、ソフトとスティールではフォームもスタンスもグリップもあえて変えます。ダーツの重さもセッティングも変えてます。飛びに関しても、ソフトは真っ直ぐ飛ばしますけど、スティールはうねって泳ぎます(笑)。
それからスティールは重さがあるので力がいらないですね。力を入れて投げると変な飛び方をしてしまいますが、ソフトは逆に力を伝えてあげないといけないと思います。

練習
普段の練習で決めているルーティーンなどはありますか?
特に無いですね。強いて言えば必ずやるのはカウントアップくらいです。

ダブルやトリプルの練習をしたりもしないですか?
以前はやってましたけど、最近はあんまりやらないですね。その時々で練習の仕方が違うんです。例えば大会の時に起きた事があったら、それを意識したりはします。でもプラクティスメニューはあえて作らない様にしてるんです。そうやって決めてしまうと、それをこなせなかった時はなんか気分悪いじゃないですか(笑)。
間が空いたからこれやろうとか、その時に応じてメニューは違いますね。とりあえず毎日やるのはカウントアップですが、でもブルばかり狙うとかじゃなくて、いろんなナンバー投げてアレンジしたりしてます。

身体のケア
身体については肘よりも気を付けている部分があるということでしたが、具体的にはどこをケアしてるのでしょうか?
僕は基本的にセルフケアでメンテナンス出来る様にしているんです。でも背中は自分ではケア出来ないので、今スポンサードしていただいている整骨院でメンテナンスしてもらってます。固まりやすい場所は腕よりも肩や背中や足なので、マッサージなどでそれらの張りを取ってもらいます。全身で投げているので、僕のメンテナンスは腕以外ですね。

スピリット
スピリットについてはいかがでしょうか?
すごく難しくて未だに課題ですね。思ってる事が一緒でも良い時もあれば良くない時もありますから。自分の思いだけを貫いてやれればそれが一番いいのかもしれないですけど、僕自身まだそれを見つけられてないです。
常に勝ちたい気持ちはあります。負けてもいいと思う試合などはひとつもないですからね。ただ勝ちに走りすぎると力が入るし、少しでも気が緩むとそれも出てしまうんです。すごくいいダーツをバンバン飛ばして乗ってる時と、収まりが良くなくて少しずつズレながらも粘ってる時も感情のコントロールは難しいと思います。
平常心という言葉をよく耳にしますが、その平常心というベースがどこにあるのかがすごく難しいんです。もう哲学的な話になっちゃいますよね。

それを探っている最中という事ですね。
そうですね。普段は楽しく投げられることを一番にしながら、その中でプラスα勝つために、負けないために、を考えています。本当に難しいですね。

ダーツレッスン
森窪選手が指導した佐藤かす美選手が年間優勝されました。他の選手を教えることにおいても定評がありますが、教え方にも何かポリシーがありますか?
野球ではコーチや助監督をしていたこともあったので、その延長戦でプレイヤーを見ているのかもしれないですね。
佐藤選手が年間優勝したのは僕の力ではなくて、彼女が自分の力で勝ち獲ったものです。投げ始めてから5年目になるんですが、まずは違和感から消していくようにしました。でも僕が指導しなくても自然とそうなっていただろうし、たまたま一緒にいてちょっと助言してあげた子が優勝しただけだと僕は思ってます。もしそのきっかけになったのであれば、それは素直に嬉しいです。
レッスンやレクチャーのイベントでも「教えてください」とプレイヤーが来てくれた時には、まずはその人のストレスを削って楽しく投げられる様にします。楽しくなってくればもっと投げられるし、たくさん投げれば悩みも出て来るかもしれない。そういう時は「悩むのではなくて疑問点を探す、そして試す」「試すのは怖いことじゃないんだよ」と伝える様にしています。そうすると自分の身体に合ったもの、自分にとって都合のいいものがどんどん構築されていくんです。彼女はそれが上手くできたんだと思います。
テニスやゴルフなどのメジャースポーツでも、お手本になるのは女子プレイヤーの方が多くないですか。男子というのは力技が効くので、すごいトップスピンやバックスピンなどでは男子プレイヤーがフューチャーされるんです。対してスイングの軌道や動き方などでフューチャーされるのは女子プレイヤーです。女子は力が無い分、全身をしっかり効率よく使ってあげないとパワーを生み出すことができないからです。
テニスやゴルフやダーツでも絶対人口は男子の数が多いので、女子の中には男子を見て練習するプレイヤーもたくさんいます。そうすると力技でねじ伏せられるので、女子は身体を痛めてしまうことが多々あるんです。ですから佐藤選手には「絶対に俺の真似をするな」と言っていたんです。筋力も違うし作ってきた身体も全然違いますからね。そこを考えながら彼女の中でバランスが取れて効率的に力が発揮できる身体を作ってあげたら、彼女自身で勝手に安定してくれたんです(笑)。それを自信に変えて、性格に合わせた攻め方を考えただけです。
僕の教え方は大元をいじったりはしないです。そんなことをしたらその人じゃなくなっちゃいますからね。

ダーツの魅力
では改めて、ダーツの魅力はなんでしょうか?
もしダーツをやってなかったら接点すらなかっただろう人達と出会えたことは大きな魅力です。それをきっかけにいろいろな世界が広がりました。
プロになってツアーを周り出してからは、行ったことのない場所に行き、会ったことのない人に会い、知る事もなかったことを知る様になりました。PDCアジアが始まってからは、海外の人達ともつながるようになりましたが、これらはすべてダーツ3本だけの力なんです。自分が競技者になった時に応援してもらえるようになって、いるかどうかわからないですがファンの人達が見てくれる、こんな経験はダーツやってるからこそですよね。他では味わえない醍醐味がダーツにあるのが、僕にとっては一番です。

プレイヤーとファンや観客との距離が近いですからね。
距離が近いからこそマナーや人間性などいろいろな問題も出てくるかもしれないですけどね。
とにかく大人達が全力で遊んでるんです。それだけ全力で遊べるものがあるということを知らない人も多いです。全力で遊べる場所があり仲間がいて、心から楽しいと感じられるというのはすごいことだと思います。

夢や目標
今後の夢や目標を教えてください。
前回僕を特集していただいた時と変わってないですね。優勝はもちろんPDCの世界にも行きたいです。近くにいる人達に「すごいよね、夢があるよね」って思ってもらいたいです。
自分自身ここまでやり続けるとは正直思ってなかったです。でもこうやって続けることができて取材もしてもらえて、映像で見ていたプレイヤーと対戦していること自体夢物語というか……。今では自分が見られる立場になっているというのも不思議な感覚ですね。
もっと結果も出したいし大きくなりたいですね。人気者になりたいわけじゃないですけど、自分の名前が出てくるようになった以上、それによってダーツが悪く思われるようなことがあってはならない。ダーツをもっと流行らせたいし、野球やテニスの様なメジャースポーツにしたいです。試合はまた別なのでもちろん頑張りますが、それ以外に何かできることをしたいと思います。