Yuki Yamada-Technique-Top

Vol.90 山田 勇樹
ダーツの飛びは気にしていない

 

・グリップについて 「14年前に変えてからずっとその握り方」

まずグリップについて教えてください。
最初にダーツを持った時には特に何も考えず、ただ自然に持ってましたね。遊びから入っていたのでハウスダーツからでしたし、しばらくは人のダーツを借りたりしていて、自分のダーツは持たなかったんです。グリップどうこうよりも、どのダーツが良いかとダーツ選びの方に一生懸命でした。

その後グリップは変わりましたか?
15年間で一度だけ変わりました。

どのように変わったのですか?
最初は4本でしたが3本に変えました。

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グリップを変えた理由はどうしてですか?
「緊張したら全然入らないんですよね」と言ったら「グリップを深くした方がいいよ」という無責任なアドバイスを受けてしまって(笑)、それを基に工夫して変えたんです。それでもグリップ自体を変えたというよりは、意識する場所を変えたといった感じですね。そうしたらダーツが下手になりました。

それはどのくらい前の話ですか?
ダーツ歴一年の時なので、今から約14年前です。そんな時に上手な人に相談してしまって、合っているのかどうかもわからないアドバイスを受けて、その通りに変えてみたんです。そうしたらメチャクチャ下手になったんで、もうそれからは絶対変えていません。

変えて下手になったのでまた元に戻したんですか?
いえ、下手のまま頑張って練習して上達させました。

他人のグリップは参考にしますか?例えば誰のですか?
します。星野選手が強い頃はそれを参考にして指を立ててみたりしました。でも自分の感覚を大事にしていたので、3本を基本にしていましたね。

他人のグリップはある程度参考にして、それをどう発展させるとより効果的かなどを考えるんですね。
考えますね。投げ方もそうですし、自分で自発的に考えて実戦することはOKだと思ってるんです。人に言われて変えるのはどうかと思いますね。今でも他の選手の投げ方を取り入れたりします。すごく入るイメージがある斉吾さんとかフィル・テイラーとかの投げ方を参考にします。

少しでも違和感があると持つ位置などをどんどん変える選手もいますが、山田選手はいかがですか?
変えます、すぐ変えます。今まで何回変えたかと言われたら、そういう意味ではほぼ毎日変えてます。ダーツをケースから出して持った瞬間から、今日はどこがいいのかを探してる状態です。自分が気持ち良く投げられるゾーンを知ってるので、それを探しながらアップをして、見つけられたらそのまま投げるんです。こう構えてこう投げるとここに入るというのを見つけられたら、例えばそれが前日のグリップとは違うとしても、気持ち良さの方を優先させてそのまま投げます。

僕はダーツというのは手から離れる瞬間が大事だと思っているので、それが常に一定であることが理想なんです。そうなるように調整できるかどうかが重要なんです。その感覚を失ってる人というのはいつまでたっても上達しないと思うので、とにかく自分の感覚に正直になることだと思います。

夏と冬では湿気なども違いますが、そういうことも考えますか?
特に意識はせず、やっぱり気持ちよく投げられる感覚を最優先にしています。

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・立ち方 「右足にほとんど加重」

では立つ位置についてはいかがですか?
入る気がするところに立ちますね。

毎日違うということですか?
そうですね。例えばブルの次に18を狙って投げるという時でも、基本的に僕は動きたくないので、そのままの位置で投げますね。ブルを投げたまま18とか、20トリプルを投げたまま16とか。
あからさまに入らないターゲットだったら立ち直します。僕は利き目が左なので、真っ直ぐ立ってる様な感覚でも少しズレるんです。18や15の時は左から右を狙う様な感覚で投げると外れるので、右からラインを描くような感覚で投げるために、かなり右の方に立つ様にします。入るイメージが湧きやすい立ち位置を探しますね。

狙うターゲットによって右と左に立った時では距離が違いますからね。
そうですね。僕はラインがイメージできるかどうかを優先します。

では毎試合で立つ場所が違うということですか?
違います。毎日毎試合毎レッグ、狙うターゲットによって立ち位置は違いますね。

足の角度や方向は変わりますか?
全体の感覚で意識しています。浅くしたり深くしたりというのもターゲットを狙う時の感覚が分ってるので、それに違和感があればオープン気味にしたりクローズ気味にしたり、立ち位置を左右にズラしたりして調整します。そうやっていつも通り入る気がする状態まで持っていきます。

それは大変な作業ですね。
入る状態というのが自分でよく分ってるんで、その状態にならない違和感が少しでもあれば、いろいろと変えてみて何がおかしいのかをすぐ見つけるようにしているんです。こだわりもないし、毎回バラバラでもないと思います。
こういう作業が必要なので、事前に投げる時間がないとダメですね。見つけるまでの時間をもらわないで、いきなり投げろと言われたら結構下手です(笑)。でも見つけたらほぼ入るようになります。

左右の足の力の配分はいかがでしょうか?
僕は右足に96〜97%くらいで、ほぼ右足で立ってます。

そうすると揺れませんか?
つま先に体重をかけると揺れますけど、かかとに体重をかけるようにすると揺れないのでそこで調整します。基本的には動かない方がいいと思うので、かかとに体重をかけながら投げれば安定します。でもたまに少し揺らした方が矢が飛ぶ時があるんです。ちょっと届かないなと思う時には、若干つま先というか足の真ん中あたりに体重をかけると、多少前後してきっちり届くことがあります。

細かく調整するんですね。
投げた後に前に突っ込む動きがあることによって、矢が狙ったところにしっかり届くということがあるんですよ。すべては自分の中にある感覚を再現できるかどうかにかかってますね。

完璧な自分のイメージがあって、当日それに合わせていくということですね。
そうです。作り上げて見つかったらその通りに投げる、見失ったらまた探す作業をする、その繰り返しです。

ダーツはほとんど片足に加重しているので結構きつくないですか?
きついですねぇ。本当に左右のバランスがちぐはぐです。整骨院とかマッサージにも行きますが、そこの先生達も左右同じにするということをもう諦めてます。最初は投げる時にずっとガムを噛んでたんで、耳やあごの位置もズレてるんです。

試合中にガムを噛んでいたんですか?
昔は噛んでました(笑)。あごや目や肩や腰の位置もズレてるし、足の長さも違います。本当は治した方がいいと言われているんですがもう治らないですよね。

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・肘について 「マッサージでケア」

構えた時の肘の位置はいかがですか?
肘も全体のイメージの中の一つとして捉えているので、変化することはよくあります。今日は高めに構えようとか肘を意識して投げてみようとかは考えますが、基本的に肘の位置にこだわりはありません。どうしても左右にズレるとか引く位置がおかしい時などに少し意識する程度です。

肘が柔らかい人と硬い人がいると思うのですが、硬い人に比べて柔らかい人は動きがスムーズに感じますが。
そういう人はたぶん肘を意識していないんだと思います。

それは本能的なものだと思いますか?
いえ、意識を取り除けるところまで到達しているので硬くならないのだと思いますけどね。肘が動くけど入る人というのは、肘の動きを意識していないんじゃないかと思います。逆に肘がまったく動かない人というのは、意識しているように感じます。僕はあまり意識する機会が少ないです

一月に数回、本当に入らないときだけですね。

肘を壊すプレイヤーが多いですが、何かケアはされていますか?
普段からマッサージしたり、投げる前には必ずストレッチをします。特に投げ始めに痛めることが多いので、筋肉を伸ばした状態を作り上げてから投げるようにしています。みんな経験があると思いますが、急に伸ばすとパキッと音がして痛くなることがありますから、それは予防するようにしています。

今までに痛めたことはありますか?
ありますね。野球肘になりかけてると言われたこともあります。野球肘というのは、ただ立ってる時でも既に肘が曲がった状態になってしまうんです。そうすると伸ばした時の負担が大きいので痛めやすいんですね。さる腕の人の方が肘は痛めにくいようなので、普段から曲がってる人は危険です。なので、少しでも改善するようにマッサージなどでケアしています。

・テイクバック「最終点を決めている」

テイクバックでは何に気を付けていますか?
最終点です。

最終点を決めているのですか?
最終点での手の形を決めています。イップスになったことがあるので、納得のいく手の形にならない時は投げないようにしています。
その日初めてダーツを投げる時は、まず狙わずに最終点の手の形を確認することから始めます。この形でここまで持って来てから投げるんだ、ということを身体に教えるんです。

その場所を見つけるまでに時間はかかりましたか?
かかりましたね。イップスにもなりました。どこに構えればいいのかということを意識したら壊れたんです。もともとは違う投げ方をしていたんですが、当時の上手いプレイヤー達がみんな目の前で構えてるのを真似したら、ボードに届かなくなってイップスになりました。それが、一度あごに当ててから投げるようにしたら治ったんです。

今でもたまに出るんです。特に海外で試合が続いた3日目の朝とかにイップスが出る時があるんです。そういう時は構えた時の手の形ではなくて、引き切った最終点での手の形を身体にしっかり覚えさせて投げるようにしています。僕の場合は、テイクバックというよりも手の形が重要なんです。その形から矢が飛んで行くというイメージを大事にしています。
構えた時の位置は僕にとってはあまり意味がなくて、あくまでも最終点に持っていくまでのワンクッションでしかないです。ガーウィンみたいに構えずに引くとズレることがあるのでワンクッション置きますが、もしズレないのであれば構える必要はあまりないのかなという考えです。

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・リリースポイント「ダーツ環境に左右される」

ダーツを放す位置ですが、最近は外国人プレイヤーに倣って早く放したいという傾向があります。それについてはどう思われますか?
これは身に付いたものを受け入れるしかないと思うんですけどね。早い遅いというのも、本当にちょっとの差だと思います。
ソフトダーツは遅く放す方が有利な気がします。遅く放した方が矢の飛びが安定すると思うので、だから日本人の飛びはきれいなんです。逆に外国人プレイヤーのように早く離すと、決して飛びはきれいじゃないですが、持つ時間が少ないのでここだという時の狂いが少ないですよね。
日本人は遅く放すソフトダーツに慣れてしまっているので、ハードではそこも極めないとならないかもしれないですね。これはダーツ環境の差だと思うし、その中で自分が身につけたものなので、無理に変えることはしない方がいいように感じます。短くするのも長くするのも難しいので、放す位置をズラすというのはかなりの努力が必要だと思います。
ですから海外のハードの選手にはまた違った角度から追いついていかなければならないと思います。メジャーリーグに行った日本人選手が現地の選手と同じ投げ方をしているわけじゃないですよね。それと同じです。結果勝てばいいんですから。
言い方が悪いですが、飛びが汚い方が3本が集まりやすい気もします。盤面に対して面積が少ないと集まりにくくて、少しでもズレることによって当たる面積が増えるんです。日本人選手がスタッキングしようとしたら、まず飛びを汚くしなくてはならないですね(笑)。でもダブルの決定率はきれいに飛ばす日本人の方が有利だと思います。
どちらにも利点と不利な点があるので、その中で利点をいかに伸ばしていくかということが重要だと思います。

・スロー「振るイメージ」

次にスローですが、腕が伸びている人と伸びていない人がいますが、山田選手はどちらでしょうか?
僕は腕が伸びていない人の方が可能性があると思ってます。どうにかラインに乗せようとするから手が伸びないわけで、それはラインが見えている証拠だと思うんです。
腕が伸びていても問題なく入るトッププロは別ですが、全然入らないCフライトの人で伸びてる場合は、かなり危ないと思います。こう飛ばしたらそこに入るということを全く考えないでただ手を伸ばそうとしているだけなので、それなら手が伸びなくてもある程度ブルに入る人の方がラインが見えてると思うんです。

腕はピンと伸ばすよりも多少振って投げる方が安定するので、腕の形を追い求めることよりも軌道が大事だと思います。こうやって投げたらここに入るというラインを分っている人の方が、例えレーティングが低くてもダーツが楽しいと思える人だろうし、いざ上がって来た時に自分のダーツを見失わないと思います。
いろいろな位置ばかり気にしてラインを見ようとしないプレイヤーは、永遠にAにはなれないと思いますね。

・ゼロワンとクリケット「上がることが大事」

ゲームについてですが、ゼロワンとクリケットでは違いがありますか?
どちらにしても上がるという行動を最後までやってほしいですね。強い人と戦うのが正解という人がいますが、それは一度も勝ててない=一度も上がってないということなんです。そうするとアレンジも覚えないし、最後の部分での技術も身に付かないんです。ゼロワンやクリケットのゲームをたくさんやった方がいいというのはもちろんですが、半分くらいは勝つ経験をしないと上達につながらないと思います。

レーティングが高い人は勝率も高いですが、低い人でも勝率5割くらいまでになるように、例えばオートハンデをもらうとか何かしら提案した方がいいと思います。自分よりレーティングが低い人に言いにくいというのが日本のダーツですが、そうじゃなくてレーティングが低い人を見つけたらチャンスだと思ってほしいんです。自分が最後まで上がれる、クリケットでブルを締めるところまでできるチャンスだと思わないとならないんです。レーティングを上げることだけを意識してるからそういうことになってしまうんですよね。ゲームはたくさんやってほしいですが、レーティングが低い頃から勝つという経験もたくさんしてほしいと思います。そうしないと伸びないです。

・ダーツの飛び「気にしていない」

飛びについては気にしていますか?
気にしてないですね。何度も繰り返しになってしまいますが、矢が手から放れる感覚だけを最優先にしているので、それが気持ち良ければ多少暴れてても問題ないんです。これが真っ直ぐ飛んでたとしても、気持ち良くない時は悩んで見つけようとしますね。回転していてもしてなくても、感覚が気持ち悪かったらいつまでも探します。

・リズム「その日に合ったもの」

リズムについてはいかがでしょうか?
リズムはちゃんとあった方がいいと思います。それがない人というのはまだまだだと思います。

特に気をつけていることはありますか?
ないですね。気持ち良ささえあれば、例えば一月前とは違うリズムでも気にしないです。結果としてリズムが生まれるという考え方なので、数秒ズレたとしてもこれが今自分にあったリズムだと思って投げます。でもリズムというのは大事だし、上手いプレイヤーは絶対リズムを持っていると思いますね。

細かいリズムを決めたとしても、もしそれが気持ち悪いとしたらすぐに何かを変えるべきです。僕は何年も気持ち悪いダーツは投げていないです。常に入る気がして、気もち良いダーツしかやってないんです。
そのためにグリップだったりテイクバック、立つ位置などを見つけています。それを見つけられないでお門違いのところを調整して、壊れてしまう人がいるんじゃないかと思うんですけどね。

・練習方法「イギリスで教わった練習法」

では練習方法を教えてください。
上がり目の練習をしますね。ハードで121から170まで3ラウンドで上がれるようにしています。これはイギリスで教わった練習方法で、上がれないと5つ戻るんです。121から124まで行っても上がれなかったら121 まで戻る。で、125まで行って、126から129まで行って上がれなかったら125まで戻るというルールが正式なんです。でも僕は戻らずに(笑)、121から170まで3ラウンドで上がるというのをやってます。

これはかなり良い練習になるんですよ。上手くいけば3本で上がれるんですけどそんなのはホントに稀で、2ラウンドで上がれることも少ないです。そうすると毎回80代70代60
代30代といろんな数字を投げないとならないので、ハードではやった方がいい練習だと思いますね。とにかく3ラウンドで上がらないとならないというのがミソなんです。

日本人は3本で上がる練習をしますが、121を3本なんてパターンが限られてるじゃないですか。それを3ラウンドにすることでいろいろな数字を投げることになるので、理にかなってる練習方法だなと思いましたね。
それから20トリプルばかりを狙う練習はやめろと言われました。そういう練習をしてる選手はトップにはいないと。トンパチを出したからなんだと言われましたね。

・スピリット「モチベーション」

次にスピリットについてです。トッププレイヤーのレベルはほぼ同じなので、最後は精神力だという意見もありますが、いかがでしょうか?
モチベーションだと思いますね。よく言われるのはハングリー精神ですが、ハングリーじゃない人でもハングリーに追い込めるモチベーションが大事だと思います。
斉吾さんにはそれがあると思います。まだまだ足りないと思えるからあんなに勝つんだろうし、まだ上手くなる努力をしてるんじゃないでしょうか。もし自分だったらその意識を失うと思うんです。4連勝した時点でそういう気持ちが無くなると思います。斉吾さんは勝ってもどんどんモチベーションやハングリー精神が上がっていくタイプのプレイヤーで、僕は勝つことによってモチベーションが下がっていくタイプのプレイヤーなんです。達成感を味わってしまうタイプなので、すぐ次に新しい目標を立てないとモチベーションが保てなくなりますね。

結婚したり子どもができたりと、人によって目的は違うかもしれませんが、とにかく勝ちたいというモチベーションを持つことに尽きると思いますね。

・ダーツの魅力「ドキドキの緊張」

改めてダーツの魅力は何でしょうか?
痺れることです。緊張です。緊張から逃げたらダメです。
イベントでよく「試合で緊張した時にはどうしたら入りますか」と質問されるんですけど、日頃から緊張しないからそんなことが起こるんですよね。だから普段のダーツから緊張するようにすればいいんです。その緊張の中で決めた経験のある人だけが、本当にダーツにハマっていくんだと思います。上手くいかなくてどうしたら入るかとドキドキしながら投げて、それが入った時に本当にハマるんです。だからみんなにもっとドキドキしてほしいですね。ダーツが面白くないと思う人はそういう経験がないんだと思います。

レーティングなんて関係ないです。自分の身体じゃないくらい緊張してドキドキした中でダーツを決めたら最高です。ドキドキするのがダーツの魅力ですね。