Vol.92 鈴木 未来
毎大会、毎スローごとに真っ白になる

2018年7月

「グリップ」 長い間2本で持っていた
まずグリップですが、最初はどのような形でしたか?
ダーツを初めた頃は2本グリップでした。2本だけで持ってたんです。

すごいですね。
2本グリップでレーティングが10くらいまではいきました。それが途中で気付いたら中指が当たってて3本になり、だんだんと今の形に定着してきました。
グリップは変化してきましたが、基本的には2本で持ってるイメージに変わりはないです。3本になったので、2本で持ってた時よりもバレルの後方を持つようになったと思います。

他人のグリップを見たり真似したりしますか?
はい、します。全然投げられませんけれど(笑)。

グリップは微妙なのでちょっとしたことでダーツが変わってしまいますよね。
そうですね。ですからそこまで変えたことはないです。
2016年は勝てましたが、その年はグリップに違和感がメチャメチャあったんです。それでも変えると良くないと思って違和感があるまま、ずっと投げてました。そうしたら今は落ち着きましたね。

いつもしっくりくるわけではないんですね。
毎日違いますね。その日に投げてみて、自分のイメージ通りに投げられるグリップであれば多少は変化してもいいと思います。でも大きくは変わってなくて、周りからは分らないくらいの微妙な変化です。

二本の指の微妙な位置や力の入れ加減でしょうか?
そうですね。指の位置も毎日変わってます。何通りか投げ方があって、それに合わせて投げてる部分もあると思います。でもそれも自分の引き出しなので、どういう投げ方でも入ればいいかなと思ってます。

「立ち方」 右側に立つ
ダーツに向かって真中に立ちますか?
私はけっこう右側に立ちます。

それはどうしてですか?
利き目が左目なので、構える時に左目の前辺りに重心が来るんです。自分で真ん中だと感じる位置が自然と右側になってしまうんですね。だから右からの方が違和感なく投げられます。

左側と右側では少し距離が違うということですね。
基本的には両目で見てるんですけど、利き目があるせいで右側に立ってるんだと思います。

それは以前からずっと変わらないですか?
ずっと右からですね。いろいろ試してはみたんですけど、右側からの方が感覚的に真っ直ぐ見えるんです。

「加重配分」 90%以上前足
足の加重配分や形はいかがですか?
2012年頃までは後ろ足に体重が残っていたんですけど、今はほぼ前足に全体重が乗ってます。90パーセント以上右足にかかっていて、投げた瞬間左足が離れることも多いです。今の形になってダーツが上達したと思います。

それは何かからヒントを得たり研究したりしたのでしょうか?
投げているうちに見つけたというか、手を振っても身体がぶれない位置がそこだったんです。昔は、手を振るとどうしても後に引っ張られる感覚があったんです。それが前に重心をかけて、うまく手離れしてくれるところを見つけられました。それが今の加重の割合なんだと思います。

右足に全体中をかけるとなると、長い試合では辛くなることがないですか?
一日投げると足がパンパンになって、次の日辛いこともありますが、真っ直ぐにした足の上に身体を安定させて乗せてる状態なので、ものすごく疲れるというほどでもないです。

「肘について」 怪我したこともある
肘についてはいかがでしょうか?
肘は元々高い方なんです。それを低く投げようとすると違和感が出てしまうので、あまり意識してないです。

肘を痛めるプレイヤーも多いですが、何か特別なケアはしていますか?
私も一度肘を壊したことがあって、痛くて投げられなくなったことがあるんです。その時はテニス肘とか野球肘とかをケアするサポーターを見つけたので、それを付けて一年間かけて治しました。
どういう投げ方をすると肘を痛めるか分かってるので、その投げ方が出ない様に気を付けてます。力みが入って無理矢理手を伸ばすことによって痛めてしまうので、今は基本的に力まない投げ方になりました。

「テイクバック」 手首を入れたらテイクバック
テイクバックについてはいかがでしょうか?
構えからテイクバックまではまったく意識してなくて、テイクバックした最終地点で狙う感じです。

最終地点が決まるまでに試行錯誤はありましたか?
今の位置になるまではバラバラでしたね。今は顔に当たるか当たらないかという位置で、当たってる時もけっこうあります。

毎回必ず同じ場所ですか?
違いますね。だいたい右目の下辺りに当たるんですけど、それが内寄りの時もあれば外寄りの時もあってけっこう幅があります。日によって違うんですけど、どれでも大丈夫です。
その日によって入る投げ方が変わるので、必ずここに引いてこようとかはまったく意識してないです。

フライトが当たると気になりませんか?
あまり気にならないですね。

今日は少し長く引き過ぎかな、とか思うことはないですか?
ダーツがぶれるくらい引き過ぎてる時はシャフトを短くしちゃえばいいんで(笑)。

ではテイクバックが始まる時は意識しますか?
手首を入れたらテイクバック、という感じですね。テイクバックの距離も毎日違うんです。狙ってテイクバックしないので、バラバラになっちゃうんだと思うんですけど、その日のリズムによって変わります。長く引いた方が狙いやすい日もあれば、まったく引かなくても狙える日もあって、本当にバラバラなんです(笑)。
構えてテイクバックまでは自然に動く動作に任せてます。基本的にスタンスに入るときからのルーティーンは全部同じなので、勝手に身体が動く状態です。

「フォロースルー」 押して伸ばすイメージ
フォロースルーに付いて気を付けていることはありますか?
振らない様に気を付けてます。手を振るんじゃなくて伸ばすんです。振ると持ち過ぎたり斜め上に抜けちゃう時があるので、手を前に押すだけですね。

的に向かって押すだけなんですね。
押して伸ばすイメージです。

狙う場所によってフォロースルーは変えますか?
変わってないと思います。

上と下を狙うときでも変えませんか?
意識して変えることはないです。投げ込んだから今の形があるんだと思うんですけど、何も意識しないで自然にできあがりました。
『見た所に手を伸ばす』というのを繰り返してる状態なので、ここに入れるならここに手を伸ばすというのが分かってるんです。

リリースポイントは意識していますか?
これもまったく考えてないです。構えて倒して出す時は、手首から上は無意識にして、『伸ばしたら勝手に動く』という状態にしているんです。逆に「ここで離そう」とか意識することができないです(笑)。

ダーツの飛びは気にしますか?
もともとそんなに良い方じゃないので、きれいに飛ばそうとかは思わないです。イメージ通りの所に飛んで行ってくれたらいいんですけど、さすがに刺さらないことが多いと「ちょっと腰痛いな」とは思いますね(笑)。

「リズム」 目で狙って身体を合わせる
ではリズムについてはいかがでしょうか?
リズムは一番大事にしていることです。リズムをつけると力まないので本当に気にしてるんですけど、リズムも毎日変わりますね。

何か必ず決めていることはないですか?
盤面を見ながらスタンスに入ることです。構えと狙うを一緒にするんじゃなくて、必ずちゃんと見てから右足に加重しています。

まず目で狙ってから合わせるということですね。
そうです。ですから目が一番重要かなと思いますね。そこに投げるという意識を持つことによって投げる身体ができるという感じですね。
例えばすごくズレ始めた時は、最下点でちょっと止まったりします。それで「今からそこに手を出しますよ」ということを脳で理解してから出すようにするんです。それが早いリズムだと、脳に理解させないままなんとなくの動きになってしまうので、ちゃんと理解させるためにあえてゆっくりのリズムを取ったりします。

「好きなゲーム」 クリケットは楽しい
ゲームについてですが、ゼロワンとクリケットではどちらが好きですか?
クリケットです。

それはどうしてですか?
いろんな所を狙うのが好きなので、狙う場所が変わるクリケットの方が楽しいんです(笑)。もともとベットを狙うより馬の方が楽だなと思うくらい、いろいろな所を狙うのが好きなんです。
それから、ゼロワンは外しちゃダメというイメージがあるのに対して、クリケットは盛り返せるイメージが強いのも好きな理由のひとつですね(笑)。

「練習方法」 投げ込む時期を考える
練習方法について教えてください。
私はとにかくリズムで投げてるので、練習の最初では全然入らないんですよ。なので、初めは感覚を重視して、合ってくるまで手を振り続けるんです。どこの感覚かというと指先だけの感覚で投げる感じですね。親指と人差し指に残る感触を3本揃えると、だんだん同じ所に行く様になるんです。
例えば右側にズレてたらグリップの中指を変えてみたり、その時の状態によって調整します。そうやって感覚が揃ったらアップが終了するという感じです。

やはり毎日投げてますか?
移動日も多かったりするので、そんなに毎日は投げられないです。その分イベントでたくさん投げる時などは、常に感覚を揃える様にして練習も兼ねて投げてますね。

毎日時間を取って決まった練習をするということはないのですか?
今はそこまで出来ていないんです。試合に不安が残らないくらいは練習するようにしてますけど、ここからワンステップ上に行くためにはまだまだ投げ込みが足りないですね。
ダーツを投げている過程で、何回か投げ込む時期があると思うんです。それにはタイミングも重要で、タイミングが悪い時に投げ込むと壊す結果になってしまいます。良い感覚の時にいっぱい投げ込んで、スキルアップしていける様な練習方法を心がけています。

「強さの秘密」 毎大会、毎スローごとに真っ白になる
スピリットについてはいかがでしょうか?
私は「勝ちたい」と思うと力んでしまうタイプなので、とにかく無になるために、何も考えないようにしています。毎スロー終わるごとに忘れるんで、失敗してもすぐ忘れるんです。例えばクリケットでナインカウント出したとしても「次も入れよう」と思ったら力むので、それも忘れます。

毎スローごとに真っ白になりたいということですか?
そうです、そうです。相手が投げるのを待ってる時に狙う所を考えて、スローラインに立った瞬間には考えることをやめて、全部真っ白になるようにしています。それで身体が自動的に動くくらい何も考えないんです。

鈴木選手がここまで強い秘訣は何だと思いますか?
連勝が続いてるのは、この忘れる能力が上がったおかげかなと思います。自分の中で引きずらないように、上手くコントロールできているのかもしれないです。例えば相手がすごく良いプレイをしていて、最終ラウンドで「これを入れないと負けます」というシチュエーションになった時、どれだけ真っ白になれるかだと思うんです。
私の中では「勝ちたい」という欲は必要ないんです。それが出ちゃうとどうしても入れたくなって、入れたくなると力むので全部忘れる様に真っ白にしたいんです。それが上手くできていることが、今の成績に影響していると思います。

取材時現在13連勝中ですが、ここまで連勝しているとやはりこの先も意識しませんか?
普段はする時もありますけど、試合になると忘れて、「負けてもいいかな」と思いながら投げてる自分もいますね。「勝ちたい」「負けたくない」と思うと力むし、「負けたらどうしよう」と思うと緊張するじゃないですか。だから「どっちでもいいや」と、力を出し切って楽しかったら、自分が満足できればそれでいいと思ってるんです。
勝負ごとなんで勝ち負けはあるし、120パーセント打って負けることもあると思います。自分がちゃんと打てて負けるのであれば、それは仕方ないことです。そのへんの割り切りが今の成績につながっているのかもしれませんね。
とにかく毎試合ごとに完結してるので、私にとって続いてるものではないんです。それがたまたま13回重なっただけです。

では強さの秘けつは、毎大会毎スローごとに真っ白になることですね。
そうです。できない時もありますけどね(笑)。