Vol.91 荏隈 秀一
ダーツの魅力は仲間が増えること

2018年5月号

「グリップ」 ぴったりハマる感覚の日はほとんど無い
ダーツを始めて何年くらい経ちましたか?
今年11年目に入りました。

ではまずグリップについてですが、ダーツを初めて持った時のイメージは覚えていますか?
ほとんど覚えてないんですけど、元々野球をやっていたせいで何か物を投げる時は中指と人差し指だったんです。最初は人差し指に引っ掛けて、右回転だったのは覚えてるんですが、それ以外は覚えてないです(笑)。

それからグリップは変えていますか?
少しずつ変わってきたと思います。

自然にですか?
そうですね、自然に徐々に変わってきました。一気に変えたりはしてないです。

他人のグリップは参考にしますか?
初めの頃は参考にしてました。

他人のグリップはよく見るほうなんですね。
見ますね。お客さんの投げ方もいろいろ参考にします。レーティングが高い低いとかに関係なく、飛ばし方や立ち方がきれいとか、みなさん特徴がありますよね。そういう気になる部分をちょっともらって、自分で試してみたりします。

季節によって湿気の状態など環境が変わりますが、何か対処方法はありますか?
結構手汗をかくタイプなので、試合の時は一年中タオルで手を拭いてますね。でも普段はあまり気にしたことがないです。

何かケアはされていますか?
寝る前にクリームを塗ったりします。でも冬だからといって、特に乾燥して投げにくいということはないです。

毎日ダーツを投げる感触は違うと思いますが、しっくりこない日というのはありますか?
ほとんどですね。ほとんどしっくりこないです。試合をやっていて「これかな!?」という程度はありますが、ぴったりハマる感覚のようなものはほとんど無いですね。

探りながら投げているということですね。
そうなんです。毎回探りながら試合をしています(笑)。

今グリップで気にしていることはありますか?
僕の場合は親指と人差し指ではさんで投げるので、親指と人差し指のバランスと、ダーツを持つ位置は常に意識しています。指先も触って持つグリップなので、どうしても指先に意識がいきがちで、指先で押してしまうことがあるんです。
それを避けるために指全体を意識して、しっかりダーツを飛ばすことを大事にしています。

「立ち方」 ボードに向かって左
立ち方についてですが、スローラインのどのあたりに立ちますか?
ボードに向かって左側に立ちます。

それはなぜですか?
元々かかと重心なので、右足のかかとをセンターに合わせて立つようになりました。左に外れやすいので、左から右に向かって投げる様なイメージで立っています。

ボードに向かってかかとを真ん中にすると、自然と身体は左側にいくというわけですね。
そうですね。

右足と左足の体重配分は?
右6で左4くらいでしょうか。体重を左足に残さないと前に突っ込んでいってしまうので、あえて残す様にしました。

トッププレイヤーでは右足に8〜9割というパターンが多いですが、意外に左足にも乗せているのですね。
試合中状態が悪くなると前に行きがちになるので、そこを注意しながらなんとか6対4にしている感じですね。

右足と左足の距離などは研究しますか?
良い時と悪い時の差は研究しています。悪い時はどんどんスタンスが狭くなって前に前に行ってしまうんです。右足だけで立ってる様な、つんのめってる様な感じになっちゃうんですよね。
逆に良い時は左足にもちゃんと体重が残ってて、スタンスも広めにとれてます。いい感じで左足で身体が引っ張られてる様なイメージになるんです。

そうすると荏隈選手にとっては左足が重要だということですね。
左足と左肩、左部分が重要ですね。

右足に乗り切れない時もあると思いますが、左右のバランスの調整はどうされていますか?
まず投げてみて、今日は自分がどういう動きをしているかを把握します。今日は前に行ってるなと思えば左を意識しますし、左に残ってるなと思えば少し前重心にシフトしたりして調整します。

「肘について」 柔らかい動き
荏隈選手の肘や肩の位置はオーソドックスな高さだと思いますが、いかがでしょうか?
元々腕を振ってしまう癖があるんです。なので下から上へダーツを投げ上げるイメージで、自分の身長からすると低く構えてるつもりです。
テイクバックする時に肘や肩が上がっちゃうとダメなので、今はそこを注意しています。特に動かない様にするつもりはなくて、どちらかというと上がらない様に意識していますね。逆に下がる分には別に大丈夫かなという感じです。

トッププレイヤーの中にはとても肘が柔らかい選手がいて、比較的楽に投げている様に感じます。肘の柔軟性についてはいかがでしょうか?
自分ではなんとも言えないですね。周りからは「柔らかい、柔らかい」と言われるんですけど、自分ではそんなに楽に投げられてなくて、肘を上手く使えてないという感触なんです。

構えた時の肘と肩の位置は重要だと思いますが、どのように意識されていますか?
肘と肩の位置というよりは、スタンスをとって構えた時の全体的なバランスですね。それによって肘と肩の位置が決まってくると思います。

いくつかのポイントを抑えて構えた時に、自然に肘と肩が収まる感じですか。
そうですね。肘と肩が内に入り過ぎたり外に開き過ぎたりということもあるんですが、それも少なからずスタンスの影響があると思うんです。まずはスタンス、そこからの肩と肘の位置という感覚です。

肘を痛めるプレイヤーも多いですが、ケアは何かしていますか?
トッププレイヤーの選手達は何か特別なケアをしているんですか?

肘が痛いという話はよく聞きますよ。
そうなんですか。僕は全然ないですね。楽に投げられているので痛くならないのかなと思います。

無理な動きをしていないということですね。
肩が痛い時はありますが大体一日で治まるので、ずっと長引いてダーツを投げられないくらいどこかが痛いというのはないです。

「テイクバック」 最終点は目ではなく肩
では次にテイクバックについてですが、まずテイクバックが始まる時のポイントは何でしょうか?
僕の場合は、ダーツを持ってから構えてテイクバックが始まるまで止まることがないんです。選手によってはパタッと止まってから引く人もいるじゃないですか。そうじゃなくて前に一回ポンと出してから、タイミングでテイクバックを始める感じです。

テイクバックの最下点はどこでしょうか?
目ではなくて肩ですね。まずスタンスを取った時に肩でブルを見るようなイメージで構えるので、肩からのラインを意識しています。肩に合わせてしっかり引いてから真っ直ぐ目標に向かって投げます。

肩に合わせるという構えを見つけるまでに時間はかかりましたか?
野球をやっていたせいかもしれないですけど、元々肩に向かって引いてました。野球は目の前からボールを投げないので、矢を追って投げるということは最初からなかったです。肩から出すだけというのが自然でしたね。

利き目は右ですか?
はい、右です。

「スロー」 リリースポイントは早く
スローの最終で手の位置はどこまで伸ばしますか?
肩までしっかり伸ばしきります。

ダーツを離すタイミングは早いですか?それともじっくり持って投げますか?
早く離します。始めた頃からずっと早かったと思います。

それはどうしてでしょうか?
僕の場合は、長く持つと指の力を使ってしまうので、ダーツに変な回転がかかったり引っかかりが多くなったりするからです。早く離した方がダーツに余計なストレスを与えずに、素直に飛んで行ってくれると思うんです。
楽に投げていれば自然とリリースは早くなるように感じますね。どうしても手首から先で投げてしまうことがあって、そうするとリリースも遅くなり引っかかりが多くなって安定しないですね。
早く離すには、ダーツに力を与えるポイントを早くしなければならないので、そういう練習も必要だと思います。

「練習」 ブルが基本
練習ではブルを狙って投げますか?
そうですね。セパレートの試合前でも、基本的にはブルしか投げないです。全体のフォームの確認のためにブルを狙うというイメージですね。下から上へ投げるのをまずブルでやって、それからクリケットナンバーを狙うという投げ方です。ダーツの基本がブルなのでブルに投げている感じですね。

狙うナンバーによって投げ方は変わりますか?
狙うナンバーによって、こう投げると外れやすいというのがあるんです。上だったら下に落ちやすかったり、ここだともっと運んであげないとダメだなとか。外れる投げ方がある程度分っているので、そうならないように普段から練習しています。

今までの経験によって身体に身に付いているということですね。
そうですね。あと大事にしているのは、各ナンバーに向かって構えた時の真っ直ぐ感です。構えに入った時に気持ち悪いと入る確立が下がってしまうので、気持ちよく構えることを意識しています。

普段から決めている練習方法はありますか?
特にないです。お客さんとメドレーをして、その中で今課題としている部分を意識しながら投げる様にしています。一人で黙々と練習することはほとんど無いです。

「ダーツの飛び」 力が乗っているか
ダーツの飛びは気にしますか?
飛びというよりは、ダーツに力が乗っているか乗っていないかを気にしますね。ちゃんと力が乗っていれば、飛びが悪くてもそんなに気にはしないです。
普段はそんなに意識してないですが、試合などで飛びが見えてしまう時があって、そういう時はどうしても気になっちゃいますね。

投げた後はダーツの飛びを最後まで見ている方ですか?
あんまり見てないです。でもあまりにも飛びが悪いと、嫌でも見えちゃう時はありますね。刺さった後のダーツの揺れなどで「あれ、今日は飛びが悪いのかな」と気にすることがあります。
普段の練習では全てを100パーセントにしたくて、手の位置や力の入り具合など最上級の要求をしているので、もちろん飛びも気にします。試合ではそれほどでもないかなと思います。

「リズム」 慌てないように
リズムについては何かテーマを持っていますか?
全部の行動に対して急がないようにしています。コールされた時にコントロールから少し遠い場所にいたとしても、申し訳ないんですけど走らないです(笑)。一度「ヤバい、ヤバい」と慌てて走って、そのまま試合に出たことがあるんですよ。その時は気持ちが焦ったままで上手くリズムが取れなくて、結局試合に負けちゃったんです。
それからは気を付けて、絶対に走らないこともないですが、とにかく慌てない様にしています。そして試合に入ってからは、全ての動きをゆっくりするように意識しています。

投げるリズムは人それぞれですが、例えばすごく遅く投げる選手に当たった時などはいかがですか?
遅いリズムの人はそんなに気にならないです。遅い人だとそれだけ待ち時間を多くもらえるわけじゃないですか。例えば5秒で投げて帰って来ちゃう人だと次のスローまでが短いですよね。だからルール内であれば、長い時間をかけて投げる人はあまり気にならないです。相手の投げる時間が気になり出して「長いな」と感じたら、集中力が乱れている証拠なので、自分の中では「負けかな」と思います。
以前ある選手に、遅く投げる対戦相手の対策を相談したことがあるんです。そうしたら「相手の投げ方を見ればいいんだよ」と言われました。それからは「どうやって投げてるんだろう」と相手の投げ方を研究する様にしたら、あまり遅く感じない様になりました。ちょっとでも「遅いな」と感じると、同じ一秒でも長く感じますからね。
どちらかというと自分がゆっくり投げるタイプなので、早いプレイヤーの方が苦手です。早く投げられないわけじゃないんですけど、集中して投げようとするとどうしてもゆっくりになるんです。だから早いプレイヤーと対戦すると、自分が投げて手を拭いてるうちにもう帰ってくるという感じなので(笑)、できればあまり早くないプレイヤーの方がいいですね。

「好きなゲーム」 ゼロワンの方が楽に感じる
ゲームについてですが、ゼロワンとクリケットではどちらがお好きですか?
どうだろうなぁ……。ゼロワンの方が考えなくていいので楽ですね(笑)。

クリケットでいうと、あまり苦手なナンバーはないということでしょうか?
苦手な場所はありますが、こうやって投げれば入るというのが分っているので、試合中はそうします。練習中はわざと入りにくい様にするというか、立ち位置を変えれば入るとしてもあえて変えずに投げたり、ちょっと気持ち悪いなと思ってもそのまま投げたりします。
でも試合中に関しては入れることが最優先なので、自分で気持ちいいなと思う通りに投げます。だから試合では苦手なナンバーはないかもしれないですね。ちなみにゼロワンでは後攻の方が好きですね。

それはどうしてですか?
相手に5ラウンドで上がられたら、もうしょうがないなという気持ちでいますから。逆に言えば5ラウンドで上がれば勝てる可能性も出てくるわけです。ゼロワンは後攻の方が不利だと言われますが、それは同じ本数を入れた場合だと思うんです。外さないでいけば、先攻の方がプレッシャーがかかるかなと思いますね。
ダーツプレイヤーとしては、先攻のゼロワンは獲らなくてはならないという気持ちがあると思うんです。それが後攻で、パーフェクトでいけてたらリズムも作りやすいし、相手にもプレッシャーがかかると思います。だからゼロワンは後攻の方が気持ち的には楽です。

「スピリット」 負けたくない
去年は一戦一戦をただ「優勝したい」という気持ちだけで戦いました。自分ではスピリットというものはあまり意識しているつもりはないのですが、優勝した時というのは精神的に一段上に行っている様に感じますね。
モチベーションを保つための努力も特にしていなくて、とにかくその試合に集中するだけです。人一倍「負けたくない」という気持ちが強いので、それを持ち続けるということでモチベーションを保っていると思います。

「ダーツの魅力」 仲間が増える
ダーツの魅力は何でしょうか?
投げ始めた頃にいいなと思ったのは、仲間が増えることです。ダーツは一人で投げるよりみんなで投げた方が楽しいです。仲間がいると意見交換も多くなってダーツも上手くなるし、そのうちチームができてどんどん輪が広がっていくというのが楽しかったです。
ある程度上達してからは、初心者にダーツの面白さや深さを教えて、相手がそれに気づいてくれた時に嬉しさを感じますね。
そして選手としては、ダーツは頂きが見えないスポーツなので、それを目指しながらずっと向上心を持ち続けていられることが魅力です。

「年間チャンピオン」 試合に馴れた
昨年は突然頭角を現して、あっという間に1位になってしまったような印象でしたが、何か特別な変化があったのでしょうか?
周りからのイメージは「いきなり出て来たな」という感じだと思いますが、自分では初年度からステップアップしてきたつもりなんです。去年はそのステップアップがちょっと大きかったですね(笑)。
1年目が36位か37位で、2年目が13位でアワードも初めて獲れて、3年目で1位になれました。やっぱり試合を重ねるごとに慣れてきて、試合の運び方や気持ちの持ち方などが整ってきたと思います。早い段階でワールドカップが決まったりといろいろな経験をさせてもらったので、モチベーションが上手く保てました。
優勝した後に準優勝が続いて悔しいと思うタイミングもありましたが、全体的に良い流れが続いた結果で1位になれたと思います。メンタルが安定したとか、技術が向上してあの選手より上手くなったとか、そういうことは感じてないです。
1位になれて、今までずっと映像で見ていた目標のプレイヤー達と、やっと自分も普通に話せる様になったなという感じですね。

「フィル・テイラーと対戦」 楽しかった
スーパーダーツではフィル・テイラーと戦いましたが、いかがでしたか?
楽しかったです。フィル・テイラーはもちろんですが、他選手との試合もすごく楽しかったです。自分のダーツというよりも、お客さんの雰囲気や演出のすごさが印象に残ってますね。JAPANもあんな感じに、もうちょっと盛り上がってくれるといいなと、単純に思いました(笑)。

良い経験ができましたね。
そうですね。どんな場所でやるのかどういう雰囲気なのか、今まではテレビでしか見たことがなかったので、実際に自分がその舞台に立てたのは刺激的でした。
大会の一週間くらい前から緊張していて、良くない想像なんかもしてたんです。でも実際はお客さんがすごく盛り上げてくれたので、そのおかげで自分の気持ちも盛り上がって、楽しく投げることができました。
やっぱりお客さんやスタッフさんの盛り上がりで、選手のモチベーションも変わってくるんだということを感じました。「この舞台で自分が投げられるんだ」という高揚感があって、あの環境を作ってくれた方達には感謝しかないですね。
自分のダーツは正直そんなに良くなかったんですけど、今までと違った雰囲気の中で投げられて、「もう一度出たい」と強く思える大会でした。こうやって来年のモチベーションにも繋がっていくので、本当に良い経験ができました。

Player’s Cafe Style
千葉県成田市にある「プレイヤーズカフェ・スタイル」という店をやっています。ダーツをたくさん投げるお客さんが多いので、練習には困らない場所だと思います。成田空港を使う際にはぜひ立ち寄っていただいて、一緒に楽しくダーツを投げましょう。