2017年7月
今から10年以上前は国内で販売されていた商品は海外メーカーのものが主流でした。プレイヤーモデルといえばUNICORN社のワールドチャンピオンシリーズなどが有名でした。選手の経歴や詳しい情報などは後から調べることが多く、商品名(選手名)を知らなくてもワールドチャンピオンという響きだけでインパクトがありましたので、当時の自分がワールドチャンピオンを「商品の特徴」として販売していたことは今でも覚えています。
ワールドチャンピオンシリーズの各プレイヤーモデルは金額にして1万円前後だったと記憶していますが、UNICORN社の通常モデルは5千円~7千円台の商品が多かったと思います。金額にして数千円ですが、プレイヤーモデルと通常モデルでは差があることが気になっていました。その後、品質にこだわった国産メーカーのバレルが発売され始め、人気が出ましたが、価格も1万5千円前後がほとんどで、入手も困難な状態でした。
当時は、日本のソフトダーツの人気も出始めた頃で、ダーツが投げられる場所もダーツバーがほとんどでした。ダーツをやっている人は同じサイトを見て同じブログを読んでいたと思います。その上ダーツに関するサイトやブログ、動画などの情報が少なかったので、限られた情報が浸透するのは早かったと思います。有名プレイヤーの名前も、当時のダーツバーに行かれていたほとんどの方は知っているような状態だったように記憶しています。
国内のプレイヤーの人気や価値が少し高くなりはじめたのは、日本のTOPプレイヤーと呼ばれていた選手たちが集められ開催されたburnというトーナメントの影響が大きかったと思います。DVDにもなり、当時のハイレベルなダーツに当時誰もが魅了され、あこがれたものでした。
その後、DMC社、ASTRA DARTS、888(トリプレイト)などの国内メーカーが、burnで活躍していた選手や知名度の高い選手のシグネイチャーモデルを発売しました。この頃の商品は大変な人気で、ショップへの問い合わせも多く、店舗に入荷する頻度も少ない商品でした。
この頃が第一次プレイヤーモデルのピークだったと思います。店頭に置きたい商品はプレイヤーモデルで、店舗に在庫があることに価値があると思っていました。
僕は店員になって間もない時期でしたから知識がまだ浅く、バレルの細かな特徴やデザインの意図を汲み取るのに苦労しました。バレルメーカーもほとんどといっていいほど、バレルのスペック以外の情報を説明していませんでしたので、プレイヤー本人の口からバレルについての細かな意図を聞くために、実際に会いに行ったりしたものでした。
当時はダーツ人口が今よりも少なく、バレルの種類やトーナメント等の開催数も今より少なかった分、国内のダーツ事情がある程度お客様と情報共有しやすい時期でした。商品の知名度=商品の価値として考えられていたので、プレイヤーの詳細や、商品の特徴などの説明が少なくても「売れてしまう」状態が存在しました。その点は、今思えばプレイヤーモデルに助けられていたかもしれません。
その後、ダーツのプロ化も進み、国内外でもダーツファンの視線を集めるハイレベルなトーナメントが年に数十回ほど開催されるようになりました。日本のプロダーツプレイヤーの活躍を簡単に見ることができる環境にもなりました。このような環境の変化もあり、近年はプレイヤーモデルを前面に出した商品が多く並ぶようになりました。
まさに第二次プレイヤーモデルのピークといえるのではないでしょうか。ポスターのデザインや商品パッケージに選手がデザインされているものも増えました。
ダーツを投げる環境が整い、様々な場所でダーツを始める人が増えてきたことに伴い、お客さんの中にはプレイヤーの名前や、ダーツの大会情報などを知らない人が増えてきていると感じることがあります。ダーツ人口が増えたことも要因ではありますが、昔のようにプレイヤーモデルが、ネームバリューだけで売れてしまう時代ではなくなってきていると思います。
これはダーツに限ったことではない当たり前の話ですが、商品のスペックやコンセプトなど、売る側が商品の価値をきちんと説明できないと手にとって頂けない時代になりました。バレル(商品)そのものにメーカーとしてのコンセプトがあり、説明もしっかりできる商品が、ショップでは扱いやすい商品になってきていると思います。
この感覚はどこのショップも同じだと思います。ダーツとしての本質を追求し、商品開発に注力したメーカーが多くなったおかげで、お客様も道具に対する考え方が進んでいったのではと思っています。
今では、SNSなどのツールで選手の情報が手に入りやすくなったことも要因のひとつだと思います。選手自身からの発信も手軽にできるようになり、選手発信の情報がお客様まで伝わりやすい環境になっているからかもしれません。選手自身が道具に対する意識が高くなったことに加え、それを発信する手段も増えたからでしょうか。バレルのインプレッションなどをSNSなどで発信することもプレイヤー自身がどんどん行って欲しいと思います。
過去の第一次プレイヤーモデルピーク時と決定的に違うと感じることは、『モデルとなったプレイヤーがダーツの本質の部分でこだわりを説明し、バレルのコンセプトをプレイヤー自身がきちんと説明している』ことで、お客様に商品の意図がきちんと伝わるようになっていることです。
昔は、海外メーカーのプレイヤーモデルの場合、重さ・長さ・直径の計測ができるもの以外は正確に説明することができませんでした。バレルのデザインを見て、グリップや飛ばし方を自分の憶測で判断し、投げてみて「僕はこう思いますよ」くらいの説明しかできなかったように思います。
僕がダーツバレルのスペック以外をこだわるようになったきっかけがあります。
2008年にアルティマダーツのH2-REVIVE(畠中選手)が発売された時のエピソードを紹介します。ほぼ見た目はストレート形状のバレルでした。前後のシャークカットが一番特徴的なバレルでしたので、お店で販売する時にはストレート形状のシャークカットとして販売していました。
数ヵ月後、畠中選手に会った際、H2-REVIVEはストレート形状のバレルと発言した時に、はっきりと『ストレート形状ではありません』と否定されました。お店に戻ってから計測してみると前後の径の差は0.6 mm。このダーツに対するこだわりをプレイヤーが持ってバレルを作っていることを、今まで買ってくれたお客様に説明できなかったことを恥ずかしく感じたことがこだわりのきっかけとなっています。
プロダーツプレイヤーであればダーツを投げることがの本来の仕事ではありますが、自分のモデルのバレルを発売する機会に恵まれたのであれば、その商品に対するこだわりをきちんと形にできることが大切になってくると思います。
メーカーと一緒になって製品開発に関わることで、プレイヤーモデルができます。選手にしかわからない道具論がそのバレルに盛り込まれるのであるならば、そのこだわりを全て購入者に伝えることがダーツにとって大きなメリットになると思います。
多くのプレイヤーのバレルに対する考え方や捉え方が、ダーツの上達のきっかけとなるように販売していけたらなと思います。