Psychology_column_Top all

No.1 ダーツ心理学スタート

2012年3月

誰もがダーツにおいてのメンタル面の重要性を認識してはいるものの、技術に対してのアプローチに比べ、心理面への働きかけを考えた指南書などはまだまだ多くない。そこで…

ダーツはメンタルスポーツだという声をよく聞く。本誌でも以前にスランプと心理的要因の関係について特集を組み、大きな反響を得た。確かに上手い選手なのに、ここぞという所で弱かったり、試合になると実力を発揮出来ないということはよくあるし、それが技術の問題というよりは、心の問題なのだろうと推測はできる。では、他のスポーツと比べてダーツのどこが「メンタルがより重要」と呼ばれる所以なのであろうか?
最近では、スポーツ心理学の研究が進んで、楽しみでやるゴルフからリトルリーグや高校野球、オリンピック競技に至るまで、何らかの心理的理論を取り入れているものだ。だが、そんな中でもダーツはスポーツとしての技術追及に加え、チェスや将棋のような「駆け引き」の要素が大きく加わった競技なのだ。
さらに、その駆け引きには数字や計算も必要で、身体の動きに脳や心の動きが合致して初めて成立する。またダーツのもうひとつの特徴として、対戦相手と戦いながらも「一番の敵は自分自身」であり、その戦いに勝てなければ相手に対しても勝つのは難しい、というところがあると思う。当然他のスポーツより、心理面への理解や強化がそのプレイヤーのパフォーマンスに直接影響を与えやすいということになるだろう。
誰もがダーツにおいてのメンタル面の重要性を認識してはいるものの、技術に対してのアプローチに比べ、心理面への働きかけを考えた指南書などはまだまだ多くない。そこで今回より、老舗ダーツ雑誌としての本誌が、読者の方々にわかりやすく具体的に実行できるメンタル強化法やちょっとしたコツなどを、連載という形で紹介していきたいと思う。
プロを目指すような本気のプレイヤーから、上達してダーツバーで皆を驚かせたいなんていう、ダーツを楽しむことを重視する人たちまで、ちょっとした心理学の知恵を知って、ダーツだけでなく普段の生活のさまざまな場面で役立てて貰えたら嬉しい。

自分を知ることから始めよう!

連載第一回は、まずそれぞれのプレイヤーに自分を知ってもらうことから始めたいと思う。巷には色々なメンタルトレーニング法が溢れているが、その中から自分に合ったものを選択するためには、自分自身の特徴を知ってからそれを始めたほうが効率が良い。

だが、一言で自分を知るといっても漠然としているし、自分のことは案外わからないものだ。普通に生活していたら、「自分はどんな人間なのだろう」という疑問を、頻繁に問いかけたりはしないかもしれない。
「自己分析」という堅苦しい表現に囚われず、あまり深刻に考えないで、クイズ形式の「心理テスト」などの自己分析本を気軽に楽しみ、自分がどんなタイプの人間なのかを探してみるのもいいかもしれない。より本格的に自己分析したい人には、スポーツ心理テストというものもある。これは、かなりの分量の質問に答える形式になっていて、アスリートとしての自分像を明確に教えてくれるものなので、プロを目指すようなプレイヤーには有用かも知れない。

「20の私」という手法

ここで、自分で手軽にできる自己分析方法を一つご紹介しよう。これは、心理学の世界では有名な「20の私」という手法で、「私は…」で始まる短い文章を20個書いてみるだけの簡単なテストだ。もちろん正しい答えというものはないので、思いついたまま何でもいいから書いてみて欲しい。ダーツに特化して、自分がどんなプレイヤーか知りたいなら、「私は…なプレイヤーです」というものに変えてもいい。
筆者が以前このテストを初めて受けたとき、「私は日本人です」というような事実に基く答えを多く書いた記憶がある。この答えの傾向によって自分の内面の一端がうかがえるのだ。例えば、「私は日本人です」とか、「私は~歳です」という客観的で表面的な答えが多い人は、比較的左脳的思考が強く、感情面を出しにくいタイプといえる。逆に、「私は~が好きです」とか、「私は~へ旅行に行きたいです」というように、感情面を重視した答えが多い人は、理性派というよりは感情派ということになるだろう。さらに、「私は宇宙人です。」とか、「私は空を飛ぶ夢ばかり見ます。」などという、不思議ちゃん的答えが多い人もいる。
しかし、このテストによって自分の大体の傾向は掴めるにしても、具体的に何割くらいが理性的で、何割くらいが感情的な部分なのか、といった分析は難しい。だが、実はこのテストの面白いところは他にあるのだ。質問が20もあると、最初はスラスラ答えられても、後半になってくると答えに詰まって、自分でも思わぬことを書いてしまうことがある。苦し紛れに書いた自分像は、案外自分の深層心理からの呼びかけかもしれない。答えの傾向を分析しつつ、それぞれの内容をよく検討してみて欲しい。
それから、その自分に対する自分のコメントを親しい友人に見てもらい、意見を聞くのも面白いだろう。自分が見る自分像と、他人から見た自分像のギャップを知ると、そこから新しい何かが見えてくるかもしれない。
このように、ここで紹介した手法は大まかな自分像を知る手がかりにはなるだろう。しかしこの他にも、ダーツプレイヤーとしての自己分析のため、実践出来たことはたくさんある。

ゲームでのミスを分析

まず、ゲームでの自分のミスを分析することが重要だ。うっかりやってしまうミスの原因には、案外心理的なものが潜んでいる場合がある。もちろん疲れていたとか、身体が痛いとか、身体的な要因からくるミスも多い。しかし、調子が良くて身体的には万全なときでも、うっかりミスをすることがあるものだ。
そういったミスを分析してみて欲しい。どうして他の場面や場所ではなく、そこでミスをしてしまったのかを考えることが大切なのだ。なぜならそこには、自分がミスをしやすいメンタル要因が隠れているかも知れないからだ。そのミスは単独で起きたのか?似たような場面で似たようなミスを繰り返すことがあるか?どんな状況で起きたミスなのか?などといった点を検討することで、自分が無意識のうちに苦手としているゲームでの場面や、ボードの場所などがわかってくる。

無意識に自分を他人に投影

次に、他のプレイヤーのダーツを見ることで、自分のダーツに対する心理的な面が見えてくることもある。人間は、他人を見たり評価したりするとき、無意識に自分を他人に投影していることがある。だから、他人のダーツのどこに注目して、どんな風に感じるかは、自分のダーツで気になっている部分や改善したいと思っている部分を示してくれていることがあるのだ。憧れの選手や自分が目標とするプレイヤーの、どこに惹かれるのかを考えてみることで、逆説的に今の自分の弱点を見つけることも可能かもしれない。
自分を知るというと、自分の短所ばかりに目を向ける人がいるが、それでは正しい自己イメージに到達するのは難しい。短所があり、そして長所があってこそ一人の人間なのだ。だから、自分が何を出来るのかという、自分の具体的なスキルのイメージを正しく持つことも重要になってくる。よく、「自分には長所なんて無いし、能力も無い」と言う人がいる。しかしそれは、その人が間違った自己認識を持っているということに他ならない。なぜなら、長所や能力がまったく無い人間などこの世に一人たりともいないからだ。自分の長所を探せないというなら、人に聞いて見るといいだろう。自分では気づかない自分の良い所を、意外なほど見ていてくれるものだ。

短所だと思っているところに逆に自分の長所が隠れている

それから、自分の短所をもう一度よく考えてみるのも必要だ。短所だと思っているところに、逆に自分の長所が隠れているということはよくある。なぜなら、短所も自分のひとつの特徴であり、悪い面に出れば短所だと思われても、それが良いほうに働く場合もあり得るからだ。例えば、すぐかっとなりやすいところを自分の短所だと思っている人がいたとしよう。しかし、ダーツの試合場面でこの性格を上手くコントロールできれば、それがいつでも臨戦態勢で熱くなれるという、長所に変わることもあるのだ。
このように、自分を知るという作業をしようと思ったとき、自分を取り巻く「他者」達から得る情報は、大きな助けとなってくれるものだ。これは人間が社会的な生き物であり、「自分」という概念が形成される過程で、他者が必要不可欠なことに所以している。ある高名な心理学者が提唱した「自己概念」の考え方によると、他人との係わりの数と同じだけ様々な「自分」が存在しているというのだ。つまり、本当の自分というのは一つの決まった姿ではなく、誰とどのように係わるかで常に流動的なものだということである。確かに、親や兄弟といった家族の前にいる時の自分と、友達や恋人の前にいる自分では、言動や考え方に違いがあるのは事実だろう。それを考えると、自己分析をすることの意味も揺らいでしまう。

求められている役割を無意識のうちに察知

人は、自分が求められている役割を無意識のうちに察知して、それに合った自分でいようとする傾向があるのも事実だ。例えばグループ戦でダーツをプレイするとき、皆の中でプレイヤーAは一番上手くて試合をリードし、プレイヤーBはムードメーカー的な役割が得意だというように、それぞれの役目のようなものが暗黙の了解で出来上がっていることがある。ダーツプレイヤーとして、自分の技術的なレベルだけでなく、この自分の役割を良くわきまえているのは、そのプレイヤーの強みになり得る。

自己分析から得た結果を自分なりに分析して、今後のゲームや練習での行動に反映させることだ。

しかし「自分」とは、そんな風にぼんやりとしていたり、周りから押し付けられた役割のみで出来ているものではないはずだ。確かに、「これが自分です」と、完璧に答えられる人は多くはないかもしれない。また、係わる他人が誰であれ、いつでも絶対同じ「自分」でいられるという人も、あまりたくさんはいないに違いない。
だが、そんな中にも、核になる「自分」は確実に存在している。時間の流れや状況で段々変化していくことはあるにしても、23人のビリーミリガンのように、あまりに違う「自分」が多数存在していることは普通ほとんどないし、そんな状況では生活していくのさえ困難になってしまう。

自己分析から取得できる

それぞれのプレイヤーに知ってほしい「自分」とは、100パーセント揺らがないものではないし、時には意外な行動をとったりもする。でも、ここで例として挙げた方法や、その他の自己分析手法を活用すれば、その「自分」の大まかな傾向を知ることは可能だろう。更に、ダーツをプレイする「自分」として特化して考えれば、自分がどんなプレイヤーなのか、どんな良い点と弱点を持っているのかなどといった、ダーツ上達へつながるメンタル面の情報は、自己分析から十分に取得できる。
では、自分を知った後はどうなるのだろうか。ただ闇雲に心理テストをやっても、そのまま放置しては意味がない。「自分ってこんなところがあったんだな」で終わっては何のために自己分析するかわからない。皆さんにやってもらいたいのは、自己分析から得た結果を自分なりに分析して、今後のゲームや練習での行動に反映させることだ。
例えば分析の結果、自分が結構面倒くさがりの一面があると、気がついたとしよう。そんなときは、練習を面倒と思わないような工夫をするのもいいだろう。また、上がり症な性格だと考えたなら、試合などでリラックスする作戦を考える必要がある。そういった具体的なメンタルトレーニング法などは、今後この連載で紹介していきたいと考えている。

自分がどんなプレイヤーであるかを知ることは、必要不可欠な第一歩

ダーツの心理面からのアプローチを考えるとき、自分がどんなプレイヤーであるかを知ることは、必要不可欠な第一歩となる。だから、とりあえずここで紹介した自己分析に取り組んで、「自分」の骨格を探してみて欲しい。ダーツに限らず、普遍的なテーマでもあるから、就職や人間関係などでもきっと役に立つはずだ。