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No.17 第42回 ワールドマスターズ

2015年11月

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昨年は浅田斉吾が日本人初ワールドマスターズのステージでベスト16まで進んで日本を沸かせましたが、今年のマスターズは日本レディースチームが歴史を作ってくれました。
ネット中継を見た方も多いと思いますが日本人女性が初めてステージで戦うことができたのです。しかも大内麻由美、大城明香利と二人の選手が同時に世界のトップ8人の中に入りました。これがとっても凄いことなんだというのを今回お伝えできればと思います!
女子スティールダーツの世界はとてもシンプルです。男子はWDFとPDCの2団体あったり、ソフトのトーナメントも各企業ごとに世界大会をやっているのでどの大会のチャンピオンが本当に強いか悩みます、しかし女子スティールダーツの世界は、ここに各国のトッププレイヤー全てが集まりますので誰が最強かこの大会でわかります。ですので、今回その勝ち上がってきた8人の中に2人も日本人が入った事はまさに快挙なのです。

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残りの6人は現在世界ランキングの上から順番にみんな入っていた感じでした。デター・ヘッドマン、アナスタシア、リサそしてジャパンオープンで優勝した現在世界ランキング3位のファロン。みんな世界チャンピオン経験者です。このスーパープレイヤー達に混ざって日本人2人が投げている姿は、イギリスの人には不思議な光景だったと思います。
とは言うものの、実は大内麻由美さんは過去2度トップ8に残ったことがあります。しかし去年まではトップ4からがステージだったのでステージで中継は今年が初めてとなります。年々女子のレベルも上がり、人気も出てきたことから、今年よりトップ8からステージで投げられるようになったのでしょう。

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マスターズって何?という方のために簡単に大会の説明をしますが知っている方は飛ばして読んでください。今回は第42回、つまり42年の歴史を持つこの大会はWDF、BDOが主催する世界大会のひとつです。PDCがプロ団体でWDFがアマチュアという噂もありますが、実際オープン戦の最高峰というだけでアマチュアという概念はありません。もちろん賞金もあります。

PDCの人気で下がりはしたものの優勝すれば男子で約400万円もの賞金が得られ、正月に行われるレイクサイドでは優勝賞金約1800万円とかなり高額です。歴史上でもフィル・テイラーやジョン・ロー等もこのトーナメントの優勝経験者で、最近ではステファン・バンティングもここでチャンピオンになりPDCですぐに活躍するようになりました。つまりここでチャンピオンになるような人はPDCでも通用するレベルだということです。
私はステファン・バンティングがマスターズで優勝するところを2年連続で見ました。初年度はあまり人気がなくアウェイな感じでしたが、2年目は人気も上がりすごい強さで勝ち上がり優勝を手にしたのを覚えています。この大会の勝者はみんなが認める英雄となり歴史に名を残せます。マスターズとはこんな感じの大会です。
こんな凄い大会ですので、参加選手は年に一度のチャンスをものにしようと気合いが入りすぎて調整を失敗しがちで、初参加から実力を出しきれる選手はなかなかいません。
シングルイルミネーションのため一度負けたら終了という遠路はるばる来た選手には重いプレッシャーがのしかかるのです。ですので、私は麻由美・明香利の両選手がステージに進めるトップ8を決めるゲームをする前、これに勝ったらステージに行けると知っていたのですが、彼女らにはプレッシャーがかからないように伝えませんでした。だからステージ決定の最後のダブルを入れたときは選手よりも喜んでいたのです。本人たちに伝えるのがどんなに楽しかったか。
歴史的快挙の裏には歴史があると題しましたが、ここまでの道のりは簡単ではありませんでした。やはり英語圏での戦いはなかなか選手がコミュニケーションをとれません。しかもなれないチョーカーに戸惑ったり臆病になりがちです。ここらへんは過去の経験から、初めての選手にも色々とアドバイスができるようになり心の準備ができるようになってきたのだと思います。
去年の浅田斉吾のステージの経験もすごく心強かったと思います。もちろん各選手が頑張ったことが一番の要因ではありますが、このように日本チームとして戦えたことが大きかったと思います。日本で中継を見て応援してくれた皆さんの声もFacebookなどで届きました。

今回結果的にはベスト8で終わってしまいましたが、日本のダーツを世界に知らしめるには十分なゲーム内容だったと思います。特攻隊長をつとめたのは大内麻由美さん。マスターズ初参加で初ステージという偉業を成し遂げた大城明香利も、さすがに緊張して麻由美さんのゲームを客席から応援していましたが、マスターズの大先輩の戦いぶりに凄く勇気付けられたようです。先に3つとられ、完全に流れを持っていかれ追い詰められた麻由美さん、中継のアナウンサーも「このゲームは4-0のストレートで決まりそうだ」的な発言をしていました。ところがここからの追い上げは素晴らしく、ブレイクも見事に決まりました。結果4-2ではありましたが、このステージ上で流れを引き戻せるのは世界で戦える実力がついた証だと思います。

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アナウンサーも途中で発言を訂正して麻由美を褒め称えていたのには感動です。こんな後ですので次に登場した明香利さんは最初からアナウンサーも味方して絶賛!しかも彼女は8人の中で最高のスタッツを叩き出し世界ランカーであるファロンを脅かしました。
相手を終始リードしたゲーム運び、4-3フルレッグのゲームは本当に惜しかったです。これはダブルが弱かったわけでも何でもありません。後一回まわってきていたら多分きっちり上がっていたでしょう、それはファロンも会場の人も感じていたと思います。つまりどちらが勝っていてもおかしくないゲーム内容でした。
結局ジャパンオープンに引き続き明香利に勝利したファロンでしたが、この激戦の後、「準決勝頑張って!」と声をかけに行った時の第一声が、「あの子凄い!信じられないダーツで勝ったのは本当にラッキーだったわ!」と興奮して言っていた事が忘れられません。 世界の壁はなくなったなーと感じた瞬間でした。しかしファロンもあそこを上がり切るあたりはさすが世界トップランカーですね。本当にどちらも見ごたえのある素晴らしいゲームでした。
マスターズは一度体感しないと凄さは伝わらないですが、帰国後に浅田斉吾もパーフェクト静岡で優勝してくれたりと、各選手よい刺激を受けて素晴らしい活躍をしてくれています。ここに来た選手は日本でいくら優勝してもなお全然練習しなければ世界で戦えないというのも知っていますので、練習する幅がまだまだある事を知っています。この辺がマスターズやPDCを経験した選手の強みではないでしょうか?
例えば小野恵太のPDJ、彼のスティールダーツの能力は昨年も今年もここに来ている選手は斉吾を含め知っています。去年も結果ベスト64とかではありますが、負けた時のゲームなどは本当に動画で残したいくらいの凄いゲーム、でした。昨年ベスト16で壇上に上った斉吾さんよりも打っていたんじゃないかという内容。お互い各レッグ15ダーツも行かないくらいのスーパーダーツ連発でした。最後は13ダーツトライをしようとした恵太が投げることすらできなかったのですが、これもどちらが勝っていてもおかしくなかったと思います。
それを見ていた私たちは恵太のこの集中モードを恵太チャンスと呼ぶようになりました。今回PDJでも最後は完全に恵太チャンスに入っていました。あれは彼のチャンス中のモードでは普通クラスです。これからちゃんと調整してPDCでもスーパー恵太チャンスを見せてもらいたいです。今年は男子が良い成績を残せなかったですが、これも勉強。悔しさをバネにかっこいいところを世界相手に見せてくれるはずですので、是非楽しみにしていてください。
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ということで一人で6ページの記事を書くのは大変なので、ズルしてマスターズのステージ経験者3人にこの大会の感想を聞いてみました。
まずは今回初出場初ステージの偉業を成し遂げた大城明香利選手からです!

明香利:「会場に入ると目の悪い私でも分かるでっかいスクリーンに時計。時間にすごくシビアで、試合開始時刻の20分前にはコントロールに行かないといけない。10分前までに居ないとデフォルト。と、沖縄でゆるりくるり育ってきた私には衝撃でした(笑)。
なので、ずっと甚太さんに「お願いだから時間だけは守って!1分でも遅れたデフォルトだから!」って怒られっぱなし、お陰様でベスト8まで無事に駒を進める事ができました。会場では自分の試合でもないのに、初めてのイギリスで見た試合に感動と興奮で少しだけ涙が出ました。最初は正直、自分があの舞台で投げるイメージは出来ませんでしたが、気がつけばベスト8進出!まさか自分がって気持ちもありましたが、凄く嬉しかったです。「やったろ!」って思いました。
私の試合の前に麻由美さんが戦っているのを皆と一緒に応援してましたが、本当にカッコよすぎて鳥肌が立ちました。今でも思い出すとウルウルしてしまいます。この試合の4試合後には自分もあの舞台で投げるんだ、と少しずつ実感が湧いてきましたが、自分の番になって入場してからはダーツの内容など記憶がほとんどありませんでした。記憶にあるのは日本から参加したチームLスタイルのみんなの声援と、私が投げたダーツの一投一投に一喜一憂している会場の声。すっごく気持ち良かったです!
最後は17Dを決めきれなくて負けてしまいましたが、自分の今出来ることをすべて出し切ったのは本音です。ですので、悔しくて涙が出てくる事はありません。むしろ来年も絶対また来たい!そればかり考えてました。
2016年シーズンももちろんパーフェクトで参戦しますが、来年はハードの試合にもっと積極的に参加して、代表を獲りに行こうと思ってます!世界一が少しだけ近く感じたイギリスの旅でした」

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この文章にも感動しました。感情をあまり表に出さないので緊張しているのか楽しんでいるのかもわかりませんでしたが、こんなこと考えていたのかと思うとこちらこそうるうるしてしまいます。明香利選手の天然行動については2ページくらい書けそうなのですが今回は我慢します。続いては一番マスターズに食らいついてきて今回その夢の一段階目を叶えた大内麻由美選手です!

麻由美:「マスターズについて語るのは、思うところがありすぎて難しいですね。私は8度目か9度目かわからない位参加してます!ですので、誰よりもこの大会にかける情熱は強いです。今回はその夢のステージにやっと立つことができたのですごくすごく嬉しいです。
この大会は年に一度しかチャンスがないし、出場するまでに日本で色々な条件を満たさなければなりません!やっと出られても長い時間をかけてたどり着いたイギリスで長期滞在のなか、シングルイルミなので数ゲームしかできないこともあります!
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各国を代表する世界のトッププレイヤーが参加するので、最初のうちは本当に一回戦負けなどよくありました。初めてマスターズに出場した時は、3~4人の選手で今より乏しい英語でサポートもなくイギリスへ行き、マスターズの前日に行われるレイクサイド(毎年1月に行われるBDOのビッグトーナメント。上位2名が本戦)予選も含め2ゲームしかできなかったのを覚えています。
残り数日はステージ上での光輝くプレイヤーを羨望の眼差しで見るしかない訳です。しかしこれに刺激を受け毎年、勝つ回数を増やし成長することができました。嬉しかったのは3年前で初のベスト8入賞、嬉しかったですねー!昨年もベスト8に入り今年も8。もう優勝が狙える実力、位置にも来ているとは思います、まあここからの一つ一つの壁は厚いですが、毎年1勝ずつ増やしてきた様に今度はlレッグずつでも前進してチャンピオンに近づきたいです。
実は今回ベスト8からステージだということは言われるまで知りませんでした。初戦からほぼ毎試合、4-3、4-3、4-3…と苦しく勝ち上がり、さあ後もう1試合が正念場だと思っていた私には、「ステージだよ!」の一言がビックリもしましたが本当に本当に嬉しかったです。
ステージでは緊張に押しつぶされて、自分のダーツが出来ないのだけは嫌でしたが、自分なりには満足するダーツが出来たつもりです。ただステージの試合中に出くわしたチョーカーのミスは衝撃的でした。これも去年の斉吾プロの停電事件ではないですが、終わった事なのでしかたありません。
自分のチェックミスを悔いるしかないのです。ただこのクラスの試合のチョーカーが間違うとは思ってなかったですね。中継では120と表示されていたようですが、現場のモニターには139残りと表示されていました。自分の身は自分で守る。海外の厳しさを勉強させられる出来事でした。ただ一度の実際のミスで、この子計算できないのではと思われているのはいやですね。
私の目標は世界に認められるプレイヤーになる事です。アジアでは日本のプレイヤーは目標にされたりしていますが、強い選手の多いヨーロッパではまだまだです。なので今回やっと、「ねぇ!一緒に写真撮って!ヨーロッパで麻由美は有名人だから。」と言ってもらえたのは凄く嬉しかったです。
私はトップクラスの中のトップも倒して1番上になりたい!チャンピオンになるまでもっとがんばらねば!と目標が大きく生まれ変わったマスターズでした。皆様の応援心から感謝しています。まだ諦めるつもりなくがんばりますので、どうぞひき続きの応援よろしくお願い致します。」

はい、ものすごい熱意が伝わって来ますね。私もここ数年は麻由美さんのマスターズを近くで見ていますが、その進化に驚かされます。香港オープンではランキング1位だったデター・ヘッドマンを決勝で破り優勝しているので、来年の進化が凄く楽しみです。麻由美選手の方向音痴に関しては1ページくらい書けそうですが我慢します。

そして最後に昨年のステージプレイヤーである浅田斉吾選手にレイクサイド1800万円トライの抱負も含め話を聞きました。

斉吾:「僕は今回のマスターズメンバーの中で清水プロ、大内プロを筆頭に経験の豊富な方で昨年のステージ経験もある事から、今回初参加の一宮プロ、竹田プロ、大城プロ、井上プロ、ユースの熊代君を引っ張っていく存在でもあるという気持ちで、日本を背負いチャレンジしました。
海外でのトーナメントは日本と違うところが沢山あります。世界各国から選手が来るので、文化の違い、また地域性の違いなどで苦戦します。僕も初めて来た時は、チョーカーすらうまくできませんでした。書き方でTと書かれたものがトンなのか、トップ残りなのかで悩んだり180の代わりにmaxと書かれて迷ったり、とにかく分からないことだらけでした。今年は4度目にしてやっと慣れてきたので、昨年に続きステージでプレイしてさらに上を目指したい気持ちでいっぱいでした。
そしてなにより、1月のお正月にはBDO最高峰のトーナメント、LAKESIDEチャンピオンシップへの、アジア代表としての意地を見せたい気持ちが強かったです。しかし今回のマスターズはそんな強い気持ちとは裏腹に、2回戦でイギリスの選手に負けてしまいました。ファイナルセットのファイナルレッグで先にダブルトップを打って、外しての負けでした。決して満足のいく試合ではありませんでしたが、調子も感触も良かったので凄く悔しかったです。
昨年と比べればあっけなく終わってしまったマスターズではありましたが、年明けよりLAKESIDEが控えています。この大会で経験したダブルの大事さ、またしっかりと調整し絶対に折れない強いメンタルで勝負するという課題を与えられたという意味で、良い経験にもなったと思います。女子2人の快挙でさらに良い刺激を受け、スティールの次戦である、2016年一発目のLAKESIDEチャンピオンシップへ向け沢山練習して、アジア代表の誇りをもって望みたいと思います。」

斉吾選手とは沢山の国に一緒に行き、共に悔しがったり喜んだりしてきました。技術の進化や男としての成長も見てきました。まあ斉吾選手とのギャンブル放浪記は10ページくらい書けますが我慢します。とにかく私も行きますが、本当にレイクサイド頑張ってもらいたいです。
こんな感じで今回のユースも含めた10人の日本選手団は一丸となって世界に挑みました!本当は他にも素晴らしいプレイをした選手の事を一人一人紹介したいです。口でも文章でも表せないような感動的なドラマがありました。初めて参加した人もそうではない人も、各自が全力で望んでいたのは間違いありません!今回私はこんな素敵な10名の選手と行動を共に出来て、少しでも役に立ったことを誇りに思います。

近いうちスティールの歴史に、男子か女子か分かりませんが日本人チャンピオンの名前が残せると思っています。これからも応援よろしくお願い致します。

L-style よろしくお願いいたします