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No.6 「身体の使い方や姿勢即ち筋肉の使い方」

2013年7月

イップスの原因はメンタルではない
コラムを書き始め早一年が経ちお陰様で全国各地よりレクチャーの希望を沢山頂き反響の大きさを実感し益々責任の重さを痛感しております。
私がコラムを通して一番言いたいことはイップス症状の最大の原因はメンタルでは無くあくまでも「身体の使い方や姿勢即ち筋肉の使い方」だという事です!どうして自分の身体が自分の意志に反し勝手に動いたり止まったりするのかは身体構造や身体機能に理由があり、全ては解剖学や生理学に則って説明できるものです。しかし狙うと投げられない、本番になると上手くいかない、カウントアップなら大丈夫だけど対人対戦になるとダメ、空投げは平気だけど…等々いかにもメンタルが原因だと言わんばかりの理由が羅列していますが、重要なのはその時の心情ではなく「身体の使い方が異なる」事なのです。

イップスの原因は全て「同じ」
イップスは軽度のものから重度のものまで様々あります。この一年間でありとあらゆるイップス症状をお見せ頂き、その都度専門書と睨めっこの日々が続きました。今では全ての事象に対し自信を持ってお答え出来、そして根本原因がどの事象でも「同じ」だという見解に達しているのです。間違いなくイップス症状を発症するスポーツ・運動の中でダーツが一番イップス症状になり、しかも断トツで多いと思います。

狙うと何故投げられないのか?
あらゆるイップス症状、即ち身体不整合など自分自身の身体が言う事をきかなくなる症状のあるスポーツや運動もしくは動きの全てのイップス症状の理由や原因は「同じ」であり、身体構造と身体機能を根本としそこに間違った技術論が不整合を助長するのです!
テニスや卓球にもイップスがあり特徴としてはフォアハンド側に発症しバックハンド側では発症しない事、そして大凡「下半身の固定」されている状態でその症状が出やすい等特定の姿勢が浮き彫りになります。私のレクチャーを受講された方で様々な事象の方がおられましたが全員出来るのが「歩き投げ」です。何故歩きながらであれば投げられるのでしょうか?

「伸ばす」という行為が不整合を促進する
自転車やバイクや車・スキーやスノーボードなど曲がりたい方向に首や目線を切るだけでスムーズな動きになると思います。これは首を向けた方向側の足や腕は伸びようとし、逆方向の足や腕は屈もうとする「頚反射(けいはんしゃ)」という身体システムです。首がねじれ頭部と首の位置関係にズレが生じた時反射的に伸展屈曲が起き是正するもので、視線も同じような原理になっているのです。故に「狙う」が先行した状態でセットアップしてしまうと「非常」が起こるのです。これは狙うなと言っているわけではありません。狙いながらセットアップする事と狙わないでセットアップする事は見た目が同じでも使用筋肉が違い、狙いながらセットアップすると「伸筋促進」となり腕は勝手に伸びようとしテイクバックを拒み肘屈曲が浅くなる事で余計な「押し」が強くなりリリースは遅れ力が伝わらず指が緩むもしくは緩む事を拒絶するかのようにギュッと握ったり、もしくは無理やりテイクバックすることで肘屈曲時に固まってしまうもしくは制御が利かず勝手に腕が出ていってしまう状態になるのです。要するに「狙うのが早くなる」と不整合が起こるのです。

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※写真①頭が右回転すると左側の首の筋肉が収縮して頭の向きを元に戻そうとする。
※写真②首を左右上下に向けると(ねじると)首の筋肉が収縮してその側の腕・脚が伸展し反対側の腕・脚は屈曲する。写真は運動による頚反射のパターン。

間違った技術論が蔓延している
終始本コラムでも説明しています「伸筋促進」所謂伸ばす運動の促進がダーツの姿勢にはあり、更に「真っ直ぐ」を意識する事で肩をボードに対し垂直に構えるとこの伸筋促進が助長されます。ダーツでもゴルフでも「動かない」「固まった」様な状態もしくはテイクバックできない状態は伸びようとしている腕に対しテイクバックしようと「抵抗」し、アクセルを踏みながらブレーキを踏んでいる状態になるのです。この状態になる理由が身体構造にあり、それらを助長する姿勢を促す間違った技術論が蔓延しているのです。

縦横の二次元ではなく「奥行」の三次元で考える
イップスを発症させてしまう一番の原因は①「真っ直ぐ×」の意識です。よく「真っ直ぐ引いて真っ直ぐ出す×」「矢先をターゲットに向ける×」等ラインを意識し二次元的な感覚でフォームを作ろうとする方が沢山いら
っしゃいます。上手くなろう、もっと上手くなろうと思い、何某かの「制限」を自分自身に持ち込む事で調子を落としてしまうのです。
肘が下がる・肘が開くなど様々な自らが意図しない動きがありますが、その動き「のみ」を是正しようとしてもはっきり言って「無理」です。身体は足の先から手の先まで連動します。その一連の動きの中で連動し起こっている事象はどうする事も出来ません。もっと言えば歩く事もボールを投げる事も全てのスポーツ・運動において身体構造や身体機能を効率よく使った「自然連動」なのです。故にこの自然連動が促されやすい「歩く」という行為では不整合は起こり辛いのです。この自然連動を妨げる技術論が②「下半身固定×」です。頭を動かさないとか下半身がブレるのを抑えたいとよく聞きますが大きな間違いです。上半身が突っ込み下半身がブレるような状態はあくまでも「リリース遅れが原因」であって下半身の弱体化ではありません。前述している反射運動の一つでリリースが遅れ作用する位置が身体から離れると重心は後ろに残そうと不随意になります(ハンマー投げなど遠心力が働き身体から離れた所で作用すると重心は自然と後ろ側で取ろうとします)。

気になる部位「だけ」を直す事はできない
リリース遅れを助長する技術論で③「腕を振る×」「腕を伸ばす×」「押し出す×」等腕を「意図的に伸ばそうとする行為は全てNG」です。リリースした後の勝手な振る舞いとしては問題ありませんが、フォロースルーの形を意識しフォロースルー「のみ」を言及しても何も改善しません。但しこのフォロースルーが気になる方の特徴は、そもそも伸筋促進が癖付き意図しない反射運動がフォロースルーに現れ、それを改善する為に腕を振ったり出したり伸ばしたりする傾向にあると思います。

自分自身に任せれば自然な身体の使い方になる
この伸筋促進を抑える唯一の手段である「指」の屈筋を使わせない④「グリップの握り込みをやめる×」「握ってはいけない×」は腕を固める要因であり筋肉の連動を妨げるものです。たかが指ですがされど指です。肘から下の部位である「前腕」は指だと言っても過言ではなく、指を動かしているのは指そのものではなく前腕部にある筋肉なのです。この前腕部「最大容量」の指を曲げる筋肉を使わないもしくは(指を)伸ばす筋肉を使用すると、テイクバックするための筋力は「ゼロ」に等しい状態になり最大限伸筋促進します。こうなってしまうと筋肉の故障や神経障害を引き起こし力んだ状態になってしまい⑤「力を抜く×」「脱力×」と言われても何の役にも立たない状態となるのです…所謂「脱力」とは筋出力を下げる事だと思いますが、伸筋が促進されている状態ではその出力を下げる事は出来ず更に力んだ状態を助長します。力みを取りスムーズなリラックス運動を促すには「曲げる」もしくは屈筋を使い、屈筋を支配している神経を促進させる事なのです。
PDCやトップランカー達の飛びは真っ直ぐですか?真っ直ぐ構えていますか?発射角で矢先はライン上平行にありますか?身体は固定されていますか?答えは否です!グリップは殆どの選手が握り込む傾向にあります!
ここでは専門的過ぎるので書きませんが先天的もしくは職業柄や疲労により「指が利いていない」方が沢山おられ、これらに対しても間違った技術論が不整合に拍車をかけているのです。

イップスは必ず改善します
イップス症状は本当に苦しくダーツやそのスポーツが嫌いになると思います。私は気休めや、今までと180度違う事をやってくれとは言いません。イップスはある日突然やってきます。自分には絶対関係ないと思っても間違った技術を体現しようとすれば誰にでも襲い掛かります。身体は不思議かつ複雑にできています。そして驚くような機能が備わっており、「自分自身に任せれば自ずと自然に力を発揮する」のです!出来る事出来ない事を整理し、いかに無駄な事をやっていたのかをご理解頂き具体的な施策をもって本来のメンタリティーを培うのが「イップス論」なのです!

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※写真③肘が下がる・上がる・腕が出ない・腕が勝手に動く・下半身が安定しない等様々な悩みの理由は身体構造や機能に理由があり原因は「同じ」です。更には脱力のメカニズムや神経障害等説明致します。【写真はレクチャー会風景】

今号でイップス論としてのテーマは一度〆させて頂きますが違った形でもっと分かりやすく体系化させる予定となっていますので、また今後もご期待頂ければと思っております。そして次号よりイップス論や改善策その他業界事情など幅広いテーマで執筆させて頂く事が決まっておりますので改めて宜しくお願い致します。

また疑問点などございましたらASUKADARTSウェブサイトお問合せなどで承っておりますのでお気軽にご質問ください。