2013年5月
選手の引退時期とその後の保証。
プロ化されて、今迄よりも国内は勿論の事、世界に向けて挑戦し続けるという華々しい部分が目立ってきているわけですが、光ある所には必ず「影」があるわけですよね。
今回は、その「影」の部分に焦点を当ててみましょう。
プロ選手。
プロを目指しているプレイヤーさん達からすると、非常に甘美に聞こえる言葉かもしれません。
しかし、それを生業にする為には相当な技術的努力が必要ですし、更にはスポンサーを付ける為の「営業努力」や「セルフプロモーション」が大事であると以前話しましたよね。
そして、いつか来る「引退の時期」も頭に入れておかなければなりません。
これを見誤ると、ダーツ人生よりも長いかもしれないその後に続く「人生」に大きく拘ってきますからね。
まずは「引退の時期」について。
これは他のスポーツ同様、その個人の判断に任される訳ですが、ダーツの場合には幸運な事に選手寿命はかなり長いと思います。
老化から来る「ココロ」の衰えが、他のスポーツよりも比較的軽いというのが原因でしょうね。
そして実際のプレイ時間も、何時間も行われるわけではないので誤摩化しやすいといえるでしょう。
しかしながら、勝負の世界ですから「結果に現れて」くるわけです。今迄僕が観てきた、志半ばで「ほぼ引退に近い状態」になっている選手の多くは、身体的な問題よりも「ココロ」の要因の方が圧倒的ですね。
単純に試合に出るのが怖くなっていく。実際にはそんなに技術は落ちていないはずなのに、ここ一本でミスして負ける。
この「たった一本」から破壌していき、試合前になると極度の緊張や恐れ、逃げ出したい衝動にまで発展してしまうケースもあったくらいです。
まぁ息の長いプロ選手ならば、一度はこういう「ココロ」のトラブルに遭遇したことがあると思います。
ここからが、その人の「ココロの強さ」が大きく左右されるわけですね。人によっては理由を見つけてダーツを投げなくなり、精神的な部分から来る過敏反応で身体的な違和感を理由にトップ戦線から去っていくものもいる。
でも、これはその人のジャッジなので良いも悪いもない。そもそも、ずっと続けたからと言ってその後の保証はないわけですから、不安も増大するのは当たり前ですからね。
独り身ならば別、将来を誓い合っている彼女がいたり、既に家庭を持っている選手であれば、自分だけでの問題ではなくなってきます。
「たった一本のミス」を見つけた「恐怖」という魔物は、様々な形でその選手に色々な角度から総攻撃を仕掛けてくる訳です。
例えば優勝して、日本代表になったとか7桁の賞金を貰った。最近では8桁の賞金なんてのもあるわけですから、光が強いほどその影は深く漆黒の闇が、待ち構えている訳です。
その闇に引き込まれない様に、技術だったりメンタルだったりを毎日コントロールしている訳ですから、段々「ココロ」が疲れてくるのは当然。
確かに、遊びで始めたものなので「良いよなぁ、好きな事やってお金貰って」と思われがちなんですけど、日々立たされている場所は結構綱渡り的な場所に立たされているのが選手なんですよねぇ。
もう一つ、「やり切って」引退というのもありますよね。
朧げながらも目標があるうちには、人は楽しく続けていく。それがある程度達成された場合、満足感で満たされて急激に冷静になっていくことによって、「もうそろそろ潮時か」と考え始める。
生活が掛かっている場合には、この「個人的な達成感」だけでは済まされないのも事実。
次の生きる術を見つけなければ、なかなか引退出来るものではない。仕方がなく、自分を奮い立たせながら次の道が開けるまで選手を続けていく訳ですね。
勿論、クレバーな選手はこの選手で頑張っているうちにあれこれと「次の一手」を打っている場合が多く、こういうタイプは「ダーツ界の二毛作」(笑)的な位置を築ける事によって、試合にも強気に望めるケースもありますよね。
まぁでも、そう簡単に誰もがこの方法で成功するわけではありませんから、いつの時代も多くの現役選手は「引退後の自分」を想像しながら戦っていかなければならないわけです。
ダーツ業界としても、かなり狭い世界なので引退した多くの選手を全て何かしらの業種に迎え入れる事は難しく、選手全員に対して希望のサラリーだったり労働条件だったりで迎え入れる事は不可能。
更には、「試合」ではなく「ビジネス」なので、同じ業界でもその人間に必要なスキルは全く違う。特に独特な風潮がありますから、一般企業の方がこの業界に入ってくるだけでもなかなか成功例が少ないのも良い例ですよね。
従って、引退後のある程度の「保証制度」があればかなり選手達の「ココロ」の安定度も変わる事でしょう。
海外の巨額の金額が動くスポーツに限られてしまうと思いますが、選手毎に「年金制度」があるというのはご周知の通り。
例えば、選手会を設立して賞金の何%かを積み立てする事により、少額だとしても引退後に年金として補助される等の処置が出来ても良いですよね。
その積み立ての金額に比例して、各選手年金が変わるのは平等な立場からですし、選手時代に優勝は少なくとも確実に賞金圏内に入っている選手達の評価がこういう場所で生きてきたりとすれば良いのかなぁと思います。
今、各ボードメーカーが必死に日々世界的な規模でオセロゲームをやっていますが、実はこういう「選手に対しての安心感」の整備をすれば、ユーザーはそちらに流れる仕組みになると思います。
そういう少額でもいいから「平等に還元されるシステム」を確立したときに、本当の統一が出来るのではないでしょうかねぇ。
もし仮に、このダーツ業界を「一時のビジネス」と捉えていないメーカーが一社でもあればの話ですけどね(笑)。
ディーラーで纏まって足場を固めるのも良し、でもその先のいつも投げてもらっている選手達の先を考えてあげられるようになったら、この業界は大きく変わるでしょう。
もし、今後選手会が設立される様になり、それをメーカーの人間が立ち入る様なことがあれば選手会本来の機能も失われる可能性が高い。
なので、誰にも平等で守られる団体が出来ること、後はそこに所属している選手達がどの団体に行くかというジャッジは、賞金や派手なものよりも確実で地道な上に立ち上がっている小さくても雨風に負けない家なのかもしれませんよね。
僕の年代はソフトダーツの世代では「第一世代」と呼ばれる事が多いんです。
そういう年代から周りを見渡せば、そろそろそういう何かしらの制度が出来てもいいのかなと思います。
僕は賞金が出ていない時代なので、恩恵にはあずかれないですし、そもそもそんなに良い成績を残せていませんが(笑)。