Ayano_column_No.12-Top

No.12 「消えたウサギの傷跡」

2013年11月

今から5年前、ダーツという競技の世界で一世を風靡したバレルメーカーがありました。そのバレルメーカーの名前は「USAGI」。

人々の賛美を受け頂点に立つのは男性である事が当然だったダーツの世界に、女性の契約プレイ

ヤーたちだけで形成されたそのメーカーは、強さのみを追い求めてきた男性主流の競技を強さと美しさで覆し、ダーツ界に「華」をもたらしました。
各地でのダーツトーナメントの開会式では、必ずと言って良い程 USAGIの女性プレイヤーが壇上で挨拶と「ゲーム・オン!」の合図でマイクを握り、ダーツバーでのイベントにゲストプレイヤーとして招待されたり、ダーツ雑誌や動画でもUSAGIのプレイヤーを見ない時が無かったほど全国的な知名度も高く、USAGIはダーツに関わる女性たちの憧れの姿でもありました。

しかしバレルメーカーとして旗を上げてから僅か3年後にUSAGIは表舞台から姿を消し、今現在は知る人すらも少ない都市伝説のような存在となってしまいました。
2006年秋、私がまだ宮城県仙台市でダーツバーの経営者だった頃、全国各地のダーツトーナメントでDJとアナウンスを担当していた人からの突発的な紹介で、東京都内の某ダーツバーで女性のみの試合とDVDの撮影に参加する事となりました。
都内に数店舗構えるその店のアニバーサリーを祝うイベントでもあり、また新たに「女性のみの強さと美しさをコンセプトにしたダーツバレルメーカー」を立ち上げるための宣伝も兼ねて、強さと知名度のある女性プレーヤーを全国から32名招待して、動画の配信もするという大掛かりなイベントでした。その配信された動画と、発売されたDVDの名前がUSAGIでした。

地方都市で暮らす私にも聞き覚えのある有名な女性プレイヤーが名を連ねる中、無数のカメラに囲まれた試合で私は何とか潜り抜けるように準決勝まで勝ち進み、後にUSAGIのプレイヤーとして最強の知名度を誇る事となる女性に負け、3位決定戦ではUSAGIの中で群を抜いた美しさと色気を持つ女性と当たり間一髪で拾い勝ち、その場では誰よりも無名だった私が表彰台へ上る運びとなりました。
そんな経緯もあり、1年後に私が出世の地である東京に戻った時には、USAGIの社長から真っ先に声を掛けられて、私はUSAGIの契約プレイヤーとなりました。

それから私は週に数回、USAGIの本社とUSAGIが経営するダーツバーが入った雑居ビルに足を運び、時には本社の事務処理や商品発送の手伝いをするようになり、改めてダーツという競技の業界の蓋を開けてビジネスとして関わるようになりました。
そこで初めて、USAGIが携わる商品の在庫や売買の流れと、各地に引っ張りだこになっている女性プレイヤーの管理体制を知り、そのあまりの杜撰さに言葉を失いました。
USAGIとして本社やその社員たちが、とくに営業をかけるわけでもなく、ましてやゲストプレイヤーとして呼ばれる女性たちのギャラからマージンを取る事もなく、招待されるのもプレイヤー個人に依頼が入り交渉も個々で行い、本社にはプレイヤー自らが「いつどこに招待されたので行ってきます。」と連絡をしてくるだけ。もちろん中には連絡すらしないプレイヤーもいました。
本社へ直接依頼が入るのはメディアや数人まとめての出演の時だけで、その時ですらギャラは全額プレイヤーに流れてしまうという有様。

USAGIはメーカーを立ち上げる際に、メインとなる女性を使った宣伝やメディアへの露出にお金をかけ、またバレル製作時には既存の有名ブランドや知名度の高い男性プレイヤーとのコラボレーションでも大金を使っていたのですが、その回収源はバレルやグッズの売上と経営するダーツバーの売上が殆ど。更には、トーナメントでシングルスの表彰台に上がり動画も配信された女性には、宣伝費としてのギャラも支払っていました。

素人目で見ても「こんな事が続くわけがない!」と感じてしまう私の不安を余所に、他のメーカーと足並みを揃える為か、次々に新しい商品を作り上げ、ユニフォームも新調してプレイヤーたちに配布する等、時代に取り残されまいとUSAGIは突っ走り続けるばかり…。
事実、女性たちのスケジュール調整と事務処理をしていた社員は既にお手上げ状態で、管理しきれないと日々嘆いていました。
ほんの一部を除いた女性たちの殆どが、一時的な強さを失い追われる立場となり、その知名度が音を失くしてしまうのもまた事実。

ここ数年で、ダーツの競技ではプロライセンスが主流となり、そのプロライセンスを持った選手たちは全国的なトーナメントツアーを自主的に回り、年間を通したポイントを稼ぐような体制に移り変わると、わざわざギャラや高い交通費を支払ってまで地方に有名なプレイヤーを呼び寄せるという習慣がなくなり、つまりはUSAGIに需要がなくなっていったのです。

勿論、プロフェッショナルの世界に飛び込んでも勝ち抜き、知名度を上げ続ける女性もいましたが、それはほんの数人だけの話で、数十人が在籍しているといわれていたUSAGIの殆どのプレイヤーたちが、プロとしての舞台で勝ち上がる事ができずに、行きつく場を失ってしまったのです。

自身に見切りをつけて立ち去る者もいれば、USAGIというブランドの誇りを信じる者、藁をも掴む思いですがりつく者もいる中、ついに社長自らがUSAGIというダーツ企業に幕を引き手放してしまいました。
一世を風靡して僅か3年、 USAGIという看板を背負っていた女性プレイヤーたちはそれぞれの道に散り、今でも日本のダーツ界の頂点で戦い続けているのは片手で数えられる程度しか残っていません。
現代では例え女性であっても、強さこそが知名度。女性の美しさや華やかさは別の土俵で競われています。

私はUSAGIというメーカーのコンセプトや立ち上げ方は間違っていなかったと思っています。むしろ今のダーツ業界でも通用する筈だったと思えます。
表の華やかさや知名度を上げる事だけに焦点を置かず、プレイヤーとの契約をランク分けする等としていれば、個々の頑張り方も変わり、ブランド力も自ずと上がってきた事でしょう。

今現在、誰もが知っているダーツに携わる企業は、プレイヤーとのスポンサー契約を結ぶ際に、契約内容やサポートのランク分けなどを明確にしています。例え契約をしたプレイヤーに企業から金銭的な収入が得られなくても、人一人の契約に対し物品の支給やユニフォームの配布など、その一人に対して僅かにでもお金は動いているのです。
契約をしたものの収入があるわけではないと、投げやりな思いで看板を背負っているプレイヤーを目にする事があります。そんな身勝手で幼稚な勘違いを今すぐ捨てて欲しいものです。

直接的にお金を貰っているかではなく、自分一人の為にお金が動いているのだと思いをはせてください。その動かしてもらっているお金に見合うだけの価値を、貴方自身が還せているのでしょうか?
饒舌な武勇伝を語る前に考えてみてください。謙虚さを欠いた人間ほど、その足元が崩れ落ちた時に行き場を失ってしまうものですから。
ダーツを愛する女性たちの憧れの存在でもあったUSAGIと、その爪痕を残し散って行った女神たちへ。
哀愁の意を込めて…。