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No.13 男は朝に勃ち、女は夜に濡れる

2014年1月

Ayano_column_No.13-1

1976年のモントリオールオリンピックで、体操選手としては世界で初めて10点満点を記録し3個の金メダルを獲得したルーマニアの白い妖精ナディア・コマネチは、後世の為に素晴らしい名言を残しました。
「自分が何をしたいかは自分で決める。自分の思っていることをはっきりと言う。それが自由だと思った。私はそれが欲しかった。」
厳しい国の情勢と理不尽な境遇の中で、それでもひたすら前を向き上を目指し、歩み続けた彼女に対して多くの国々から賞賛の声が響き渡る中、自国では政府や民衆から辛い対応を受ける事もありました。彼女の発した言葉も、当時は「生意気」と非難する人々がいました。
それはナディア・コマネチが、オリンピックの金メダリストや世界的アスリートである以前に「女」だったからです。
そして今となってはこの名言を知る人は皆無、コメディアンの残した下品なギャグ「コマネチ!」という言語と動作のみが日本で知れ渡る事となってしまいました。

ダーツという競技が多くのプロ選手を生み出す中で、頂点で活躍する正に「トッププロ」と呼ばれる選手数十人にスポットを当ててみると、この数年でのダーツ業界の大躍進を感じ取れる事があります。知名度の高い男子選手たちの多くが家庭を持ち始めたという現状。
これはダーツという競技とそれを取り巻く環境や企業各社が共に発展し、選手たちに生きる道と稼ぐ術が増えたこと、それに加えて結婚をして家族を養う余裕も出てきたのだと言えます。十数年間のダーツ業界を見てきた上で、趣味や特技の一種と言われてきたダーツがその枠を飛び越えて、競技としてようやくここまで辿り着いたのだと思える嬉しい限りの変化ですね。
ですが稀にそのトッププロの中に、ストイックな精神力と謙虚で紳士的な社交性を持っているにも拘らず、結婚や恋愛・女性の影すら見聞きしない男子選手が存在します。
現代のダーツとセックスの進化論についてこのコラムを書かせていただいている私にとっては、どうしても不思議に思えてしまい、居ても立ってもいられずに取材してみたいという衝動に駆られ、ダーツに携わる人なら誰にでも言わずと知れた超有名なプロ選手に会いに足を運び、失礼を承知で他の人では聞けない質問を次々にぶつけてみました。取材対象になって頂いた某プロ選手は、私からのどんな質問にも真剣に考えて誠実さに溢れる言葉で答えてくださいました。

まず私が最初に聞きたかったことは「なぜ恋愛をしないのですか?」というストレート過ぎる疑問でした。
今のダーツという競技には世界レベルで換算すると、プロもアマチュアも含めて既に数千万人を超える選手が存在すると言われています。これだけ数多くの選手たちがいれば、例え日本国内で有名なこのプロ選手の恋愛対象が女性では無いと言われても、誰も驚きはしないだろうと思いました。
残念ながらそんなセンセーショナルな返答ではなく、至って生真面目で「恋愛はしたいとは思っています。でもそんな余裕がないです。仕事もダーツで週末はプロツアーやイベントなどで全国を周っていて、恋愛の為に使える時間が無いです。」と。※誤解の無いように念のため捕捉させていただきますが、この某プロ選手の恋愛対象は女性でした。
恋愛とは時間がある人がするものでしょうか?私の中で細やかな疑問が芽生えました。しかし誠実さの塊ともいえるこの某プロ選手が、自信を取り繕う為に言葉を濁しているようには思えず、更に他のライター様たちでは聞かない質問を投げかけてみました。
「ではこれから恋愛をする上で相手の女性に望む事はなんですか?」
私の知る限り、数年は恋愛やセックスから遠退いてきたと思われるこの男性にとっての、異性に対する最初の要求とは何かを聞いてみたくなりました。
少しの沈黙と苦悩の表情から出てきたその答えは「理解…ですかね。やはり僕の今の人生は、ダーツと仕事で埋まっていますから。」凡そ日本の頂点で活躍するアスリートとしては、非の打ちどころのない無難な言い訳に聞こえてしまいました。
この返答で私は確信してしまいました。恋愛に対して人一倍臆病になっているだけなのだと。
私よりも遥か以前からダーツに関わってきたこの男性にとっては、日本でダーツのプロ資格や何千人規模のトーナメントが開催されたり、事業としてダーツが国内で躍進する等とは誰も予想できなかった当時、所謂ひとつの「趣味」のレベルだった頃にダーツを追いかけていた自責の念が残ってるのではないかと感じました。
確かにダーツという競技を知らない女性にとっては、趣味や特技の為だけに寝る間を惜しんで時間を費やし、稼ぎの殆どのお金を投じてしまい、休日の度にイベントや試合で全国を駆け巡
っている男性には付き合いきれないと思われても不思議ではありません。
スポーツ選手やアスリートと呼ばれる人は、プロという資格以前に、その競技で稼いでいる人を指すと言っても過言ではないですからね。

現に異性からだけではなく、世間一般的に「ダーツのプロ選手」という存在は、その業界から一歩外に出てしまえば、日本国内ではあまり受け入れられていないものだと気づかされます。私自身がそうである様に、だからこそ恋愛対象は自分と同じくダーツに携わる人でないと成立しないであろうとか長続きできないと思えてしまいます。
それに加えて、知名度が高くなり有名になればなる程、本物のプロ意識の中で「下手な事が出来ない」という自粛性も出てくるものです。それは競技においてではなく、生活や発言・言動面での事。企業との契約選手やスポンサードを受けている選手には、この自粛性があって当然です。自分の発言ひとつで企業の名前に傷をつけてしまったり、看板を汚す事になり得るのですから。

誠実すぎるが故…私が出した答えは、謙虚で美しすぎる日本男児としてのアスリート精神が、某プロ選手の自責の念と自粛性を強めてしまい、恋愛に対して今一歩踏み出せない臆病さを生み出してしまったのだという悲壮。

身も心も擲ってダーツ業界の礎となっている、トッププロの鑑とも言えますね。
自分への理解を求めるのはプロ選手だけではありませんし、ましてやダーツに限った話ではありません。

男性の皆さまへ言っておくべきことがあります。恋愛条件や女性の好みに「価値観」を含めても意味がありません。なぜなら女性は受け入れ変化していく遺伝子を持って生まれています。価値観や考え方、言葉や身体つきまでもが、男性によって変わっていくものです。
性格と価値観は違います。総体的な性格は生まれや育ちで変わりようが無いものですが、価値観は変わります。変えられます。
それでも「変わってくれない」と思っているのならば、それは「変えてあげられるだけの努力をしていない」貴方自身の問題です。
男性社会へ肩を並べる女性が増えた昨今、力で抑えつけられるだけの女性はもういませんよ。わかり易く説くならば「やれ」と言われても現代の女性は動きません。「やってくれてありがとう」という言葉で心から動かしてあげましょう。

最後に助言です。
脳科学的な話ではありますが、相談事や愛の告白などは休日の朝にするべきです。平日の夜は疲労がたまりストレスも抱えたままの状態では、悲観的な考えになりがちで良い結論には達し辛くなります。とくにこれは男性に対して当てはまる話です。
逆に女性はストレスや秘め事を抱えたまま夜を明かす事を嫌います。意中の女性が聞いて欲しいことがあるようでしたら、寝る前に吐き出させてあげると親密な関係になり易いでしょう。

大切な人が試合で良い結果を出せなかった時は、それが男性ならば翌日の朝に、女性ならばその日の眠りにつく前に「お疲れ様」と囁いてみてください。