2015年1月
2015年を迎え心機一転ダーツに対する新たな試みを皆様されているのではないでしょうか?ダーツ運動は非常に難しく自分自身の身体でさえ言う事を聞いてくれません。そんな皆様の悩みを解決すべく2015年も深く掘り下げて参りたいと思っております。
ダーツは積み重ねではなくコツを掴むこと
ダーツ運動は積み重ねの練習で上手くなる人は極僅かだと思います。やり始めて半年でレーティングAAクラスのレベルになる事は珍しい事ではなく、逆にSAクラスのトップ選手が脆くも見る影も無くなるなんてことも珍しくありません。当然練習は必要だと思いますが、積み重ねていく練習ではなく「気付く」ための練習が必要なのだと思います。
私は昨今ダーツ界のレベル、特に男子は今現在低迷期に来ていると感じています。トップ選手はソフトプロ団体に所属し1年間約20戦の過酷なツアーに参加しています。その中で結果を常に残していくのは並大抵の事ではないと思います。しかも年間で何勝もしなければ賞金も生活を支えるに留まる金額で、人生を変えるほどの威力は無いと感じます。この過酷な状況の中でどうすれば楽になれるのか?それは絶対的な技術の構築を図る事です。しかしこの絶対的な技術向上の為にどうするべきなのかが噛み合っていないように思えます。
ダーツ運動は反射との戦い
本コラムでも再三言っていますがダーツ運動の姿勢はイップス症状を発症させやすく、この人間の身体構造上得意ではない姿勢を強いられるダーツ運動は「反射」との戦いになります。反射とは特定の刺激に対する反応として意識される事なく起こるものを指し、意思や思考とは無関係に起こるもので、イップス症状はもちろんそうですしハットトリックを出したとしても首を傾げてしまう「何か」も反射なのです。反射は本来身体機能であり身体を守る防衛機能です。ダーツの場合に起こる反射は何から身を守っているのかと言えば「過度な伸ばす運動」で、過剰な張力(強すぎる筋の収縮力)によって筋や腱が破断するのを防ぎ、筋や腱が破断する前に筋を弛緩させる反射機能が働くことで身体を守っているのです。
フォロースルーで勝手に腕がなにがしかの反応をする事がよくあると思いますが、あれはリリースポイントが遅く手首が返りながらリリースする事で力が伝わらず力んでしまう事で起こる反射なのです。
人間には転ばない機能がある
この反射という機能で日常自然と享受しているのが「立っていられる機能」である「姿勢反射」です。そうです、人が立っている、もしくは座っていられるのは機能だったのです。私たち人間は二足で立ち歩いたり走ったり重い荷物を持ち運ぶ事もできます。重力のあるこの地球上において転ばずこれらの作業を行う為には身体の動きに応じて頭部や四肢(腕や足)の位置を調整し身体の重心を安定に保つ必要があり、人間にはその機能が施されています。赤ちゃんから徐々に子供になり段々転ばなくなってくるのは機能によるものなのです。更に高度な運動においても反射が連続して起こり、これら反射を利用した姿勢になって行くのが本来運動の自然な姿でもあり、あらゆる競技において反射をそもそも利用したフォームを構築していると言っても過言ではないのです。
しかしダーツ運動において反射は残念ながら敵でしかありません。その反射を敵に廻してしまっている一番の姿勢は投擲(とうてき)する側の腕の方に顔を向けている事です。それによって「勝手に(投擲する)腕が伸びようとしている」のです。その勝手に伸びようとしてしまう事が更なる反射を呼びイップス症状に繋がっていくのです。
眼と首の動きで身体は制御される
人間の機能である姿勢反射は転ばない事を目的としています。その転ぶという判断基準を「眼と首」で判断しています。そしてその目線と首の向きに合わせ筋肉は連動を起こし「全身を使って」転ばないようにしているのです。座っていても立っていても歩いていても階段を上り下りする時もどこを見てどの方向に首を向けているのかによって「勝手」に自分の意思や思惑とは別に身体は制御されているのです。
イップス症状になりボードを見ると投げられずボードを見ないと投げられる方がいます。これを精神論的にとらえる方が多いと思いますが、これも見ると反射が起こり見ないと反射が起こらないという解剖学的な観点によるものなのです。眼の使い方一つで身体の使い方は変わります。どちらかと言えば凝視し瞬きしない事はあまり良いとは言えないかもしれません…弓道の世界で仏様のような半眼で狙うのが良いとされているそうです。これはイップス論的にも半眼は準備である屈筋を促進させる効果があると考えます。
力が伝わればイップスにはならない
イップス論の基本は前号であるNDL70号に掲載しました運動力学解剖考察の表にて「曲げる運動=屈筋=準備」「伸ばす運動=伸筋=出力」に分けられる事です。ジャンプをするにはまず膝を屈めなければなりません(曲げる運動=屈筋=準備)。しかし今回の姿勢反射の話はダーツ運動にとって準備をさせてくれない状況に身体はもっていかれてしまうというものです。
イップス症状で腕が出なくなる方は腕を出そう出そうと考えると思います。しかしそれは「過度な伸ばす運動」となり反射を生み逆に腕は出なくなってしまうのです。イップス症状では腕が出なくなる前段階で「勝手」に腕は伸びようとしています。その準備が足りない状況で力がダーツの矢に伝わらなくなり更なる力みを呼んでしまった事で、予期もせぬ事態であるイップス症状は起こるのです。
コントロール性=力のコントロール
道具に効率の良い力が伝わればイップスにはなりません。筋力を必要とせずとも力の源である体重を体幹から肩そして手首へと伝え最終的にダーツの矢へ力を伝播できれば無駄な力みを抑えコントロール性にも繋がっていくのです。コントロール性を考え、的|ダーツ|眼と一直線に合わせようとする方が多いかもしれませんがコントロールする上であまり意味が無い上に身体にとって優しくない手法です。気休めではなくコントロールする事よりも効率の良い力の伝え方を考える事が技術的に重要なのだと思います。
身体は不思議です。自分自身ではどうする事も出来ない事が沢山あります。肘が下がるという癖ですら「下げない」という意思だけでは自在に操る事はできません。どうしても下がってしまう肘の原因は解剖学的にあり、それを助長しているのは間違った技術論の可能性が高く、自ら望んだ結果でもあるのです。
先日東京港区高輪学園ダーツ部の中高生にレクチャーして参りました。皆さん真剣な眼差しで聞いて頂き、話をするこちらとしては非常にやり易かったです。一つの事に打ち込み好奇心を募らせ「何故?」を生み「何故なら」を答えられるような大人になって欲しいと思っています。お呼び頂いた顧問の渡邊先生、かけがえのない経験をさせて頂き本当にありがとうございました!この経験を活かし還元出来るよう更に努力していきます!