Ayano_column_No.17-Top

No.17 2014年9月消費者の選択

2014年9月

風俗営業とは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風適法)第2条で定義されている「客に飲食や接待等を行い、且つ一定の設備で遊興させる営業」の事を指す。そして8号営業とは、射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができると判断した遊技設備(スロットマシンやテレビゲーム)を用いた営業が行われる飲食店の事である。
※以上「地域条例・外食産業に関する規制」より抜粋。

 

読者の皆様の中でも相当数の方々が勘違いをされていると思われる風営法についての記述を冒頭でご紹介させていただきました。
一般的に「風営法」が用いられるのは、飲食店で酒類の提供をしているお店または異性同性による接客をされるお店と思われがちですが、アルコール類を置いていなくても一切の接客が無いお店であっても、風営法に該当する飲食店は多種あります。ダーツバーもその中に含まれているとお気づきでしょうか?
私たちはダーツに携わる中で日々当たり前のように目にしていますが、ソフトダーツの機械には自動計算機能も備わり映像で勝敗を表示し、高得点時等に音やアニメーション動画でアピールされるサービス…これは即ち国家公安委員会が「射幸心をそそるおそれのある遊技」と定めるものであり、その遊技設備を用いた営業が行われる店舗=ダーツバー・ダーツショップは、例えアルコールを提供していなくても、接客等のサービスが無くても、営業時間が日中であっても、一律「風俗営業8号店」と定義されているのです。中には例外もあり、例えば日中から営業しているダーツショップでは飲食の提供は一切行っておらず、代わりに飲物の自動販売機を設置している店舗、これは8号店ではなく7号店=ゲームセンターと同等に該当します。7号店は18歳未満の就労及び利用は夕方の規定時間まで可能とされる一方で、深夜営業は殆どの地域で深夜0時までと定められています。

現日本国内では十数年前にダーツがブームになって以来、今でもダーツバー・ダーツショップの新規店舗が増え続ける中で、老舗と言われたダーツバーが次々に店仕舞をしているという、所謂システムや営業法での世代交代が余儀なくされているのも、受け入れるべき現状と言えるでしょう。
十数年前は都心でも数少なかったダーツバーという遊技場にはどんなに遠く不便であっても「ダーツが設置されている」というだけで無条件に人が集まっていましたが、現在では2キロ圏内でダーツバーを十店舗以上見つけられる「ダーツバー戦国時代」へと移り変わりました。
では、飲食業界でダーツバーという店舗が、狭き門を潜り抜けて生き残っていく未来とは?店舗を増やし続け未来へと羽ばたく経営と、生き残れずに終焉を迎える経営の違いは?

その答えは、常に身近に目の前に在るもの…利用客である消費者たちにこそあるのではないでしょうか。「お客様は神様」や「消費者のニーズに応える」等、月並みな用語は知っていても実際に経営の礎と考えている人は少ないものです。
消費者から「やって欲しい」と思われる事よりも経営者が「自分がやりたい」と思う事をカタチにしている店舗。恐らくは数年前までならそれでもダーツバー・飲食店として成り立っていたのでしょうが、今は消費者に数多くの「選択肢」が生まれ、経営者の自己満足的な営業や時代の流れに逆らう古典的なシステムでは、客足が遠のき閑古鳥が鳴く空虚を痛感させられるようになってしまいました。そしてその経営者たちの殆どが、やり直しや立て直しが効かない手遅れの状態になって初めて気づき実感するのです。「終わりの時」を…。

ここ一年の間だけでも、都内で数店舗のダーツバーが新規オープンしています。最近では流行の傾向があるのか、どの店舗も経営者は誰もが知る「ダーツ業界の著名選手」であり、スタッフにもダーツで名を知られた人を起用しているなど、「名は違えどやる事は皆同じ」と思えてしまうのは私だけなのでしょうかね。
ダーツバーという小さく狭いカテゴリーの中だけで見れば、それぞれの店舗が多種多様とも言えるのでしょうが、飲食業界という視野で一般社会から見る人たちからは、ダーツバーとは「有名選手になったらダーツバーの経営者かスタッフになる」というのがセオリーの終着点の様に思われてしまっています。
そして提供される飲食物は一見すると看板メニューのように見えますが、ダーツバー以外でも外食をする人たちにとって「から揚げ」「オムライス」「カレー」等、幾らでも比較対象が存在する中で、敢てそこで選択されるメニューとなり得るのでしょうか?
材料費・人件費・地域の物価からの概算で出した料金設定は、消費者にとって目先の利益だけしか考えぬ傲慢さを感じさせてしまいます。
今年になっての増税による支出減少、その中で真っ先に削られるのが外食や趣味に使う「交遊費」です。この事態は、外食業界・飲食業界に関わる人ならいち早く予測して対応策を捻り出すのが上策。狭き門が更に縮まる中で「選択される店」になれるかは、いかに消費者に耳を傾け目を向けるかで大きく変わっていくでしょう。
十年前のダーツバーは、カウントアップ等のプラクティスゲーム以外はダーツ料金が200円で設定されており、試合形式で対戦となると1ゲーム400円~600円、ダーツ台に支払う代金だけで一晩に3000円~5000円程。飲食ではチャージ料金が500円前後で設定されていて、ビールや安酒の割り物類は600円~700円、乾き物やスナック類などの軽食が500円、インスタント食品や冷凍の揚げ物のメニューで700円前後でした。今では到底…余程の大義がない限り足を運びたいとは思えないシステムでしたが、当時ではダーツバーという場所自体が少なく、そこで注文する飲食類は「補給」程度に思い、店内の半分をダーツスペースとして利用している以上、客席数を確保できない上での料金設定なのだと偏った理解をしていました。それでも平日に客足が途絶える事は無く、週末には閉店時間になっても溢れる程の満員でした。十年前ではそれが当たり前で経営が成り立っていたのですから。

業界の著名人が在籍しているお店、有名選手が経営しているお店、それがセオリーと言われているという事はつまり「それが当たり前」になってきてしまっているのです。
「カフェ」や「ダイニング」としてのメニューを提供するダーツバーも増え、今では「ダーツバーで食事が美味しい」というのもまたセオリーになりつつあります。

ダーツバーの中から店を選択する時、またはダーツバーという場所自体を選択する時、その選択肢の最上位に挙げられる理由はなんですか?逆に消去法で却下された理由はなんですか?

店舗に限った話ではないかもしれませんね。全国各地で開催されているダーツのトーナメント会場にはフード・ドリンクブースが設けられていますが、私が数年前に目の当たりにしてしまったのは、フードブースが設置し辛い会場だったとは言え、飲食物の持ち込み等は一切禁止されていた場内で販売されていたフードメニューは、2000人を超える参加者と来場者に対して1000人分にも及ばない数量でした。
朝9時の開場から夜9時を超える閉会式までの間、試合に勝ち進み場内に残った参加者の半数には何一つ食べ物が行き渡らなかったのです。
場内では昼頃から怒りの声を上げる人たちが十人数十人、夕方にはその声も嘆きに変わっていく参加者たちを見つめ、その時は流石に私も「ダーツの業界ももう終わりだな」と悲観してしまいましたね。

ダーツという業種の店舗は風俗店であり飲食店でもあるということ。消費者たちはダーツの中だけでは生きていない…選択肢を持った社会人であるということ。そのお財布の中から支払われる金銭は、汗水涙を流しながら日々の理不尽さや苦悩と戦って得た収入の一部であるということ。
忘れないでください。
儚く小さく消えてしまいそうになるのは、決して「誰か」のせいではないということを…。