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No.17 イップスが精神論で語られる理由

2015年5月

イップスは身体の使い方により起こるものです
五十嵐信一「イップス克服講座」が特典映像で収録されていますDVD「やんま~メソッド」が5/1に発売になりました!今回DVDのお仕事を引き受ける上で懸念材料がありました。それは所謂How to DVDでトッププロの目線で語られる技術論と私の理論が真逆になるケースがあるからです。ダーツ技術論にボリュームを持たせることは至難の業で思ってもいない事や行ってもいない事を語る傾向にある気がします。そして「コントロール性」に特化してしまう事が何よりも混乱の道を辿っていく一歩なのです。
そんな懸念もよそに山田勇樹プロの正直な言葉で語られたDVDとなっており、更にイップスの原因や克服のヒントが収録されていますので、是非ご覧いただきたいと思います。

神経を繋ぐ無駄な動きが必要
コントロールとは感覚です!標的に命中させるという技術は単なる感覚だと本当に考えて欲しいです。むしろ「標的|道具|眼」といったように直線的な考え方が横行していますが、それでコントロール性は向上するでしょうか?その前に腕が言う事をきかず「やりたい事が出来ない」徴候が起こってしまうのではないでしょうか?
もっと上手くなりたいと思った時に陥るのがフォームの「無駄を省く」という考え方です。一見腑に落ちるこの言葉は本当に危険です。他人から見たその無駄は自分にとって非常に重要な動きの可能性が高いのです。私はレクチャーで無駄を薦めます。それは「神経の繋がる時間稼ぎ」、もしくは「神経を繋げる動き」が必要だからです。

腕は勝手に伸びようとしている
実感の無い方が殆どかもしれませんが、ダーツ運動において「腕は勝手に伸びよう」としています。この勝手に伸びようとする腕に対し、力学的に力を伝える姿勢を作る為には無駄ともいえるフォームが有効だったりするのです。そして不随意(無意識・無意図)で起こって「しまう」動きは止める事が出来ません。以前からお話ししていますが「なってしまう」動作を「ならないようにする」事でイップス症状が強く起こってしまうのです。なってしまう動作をならないようにする事は0ではなく±0、即ち動きを動きで制している状態なのです。

あれ!?と思ったらそれはイップスです
イップス症状は指で道具を扱う運動や動作に出ます。スポーツに限らず日常で経験や年齢・性別問わず誰にでも起こります。イップスは上級者に起こり易いと言われていますが関係ありません。ちなみに私の定義するイップス症状は「自覚のない運動・動作」全てを指します。自身で「あれ?」と思う動作は全てイップスなのです。
イップスを研究し勉強してきて、様々なイップス症状を見てきました。最近ではどんな症状を見せられても驚く事はありませんが、以前はこんな事が起こるのかと驚きを隠せませんでした。

ダーツイップスの種類
一番ダーツ運動のイップスでオーソドックスなのが①「腕が出ない・固まるイップス」だと思います。テイクバックした所で腕が硬直し、そこから腕が全く動かず逆足(右利きなら左足)が勝手に前へ出たり、軸足が伸びあがって(背伸びするような動き)やっと投げられるといった状態です。他にはリリースの瞬間にグッと②「ダーツを握ってしまいダーツを離せなくなるイップス」、グリップがままならず投げる前にポロポロダーツを落としてしまう③「グリップイップス」、などがあります。一番重度なイップスがセットアップの位置にすら腕を持ってこられず道具を持っていなくても④「腕が勝手に動いていう事を聞いてくれないイップス」の方もいます。そして一般的にはイップスと認定され辛い⑤「テイクバックできないイップス」が上記示した全てのイップス症状の基礎的な扱いになり、不随して矢がボードまで届かない、叩きつけてしまうような症状が出ます。これらは前述しました「腕が勝手に伸びる」という解剖学的な原因によるものなのです。

イップスの正体は機能である反射
イップス症状とは反射です。反射とは身体に備えられた機能です。様々な反射があり不随意(無意識)に身体は反応します。(ダーツのイップスの場合)何故反射が起こるのかと言うと、自分自身の身体にとって筋肉に負荷のかかる動きをしているから反射が起こりイップス症状となるのです。負荷のかかる動きとは簡単に言えば「強く・速い動き」です。
人間の身体には筋肉を使用する上で「ルール」があります。身体には「伸展受容器」といった器官があり、車の交通ルールで言えば速度規制を取り締まるオービス(自動速度違反取締装置)のような器官です。要は筋肉が過度な強さで動作を行う、もしくは危険だと判断されてしまえば、強制的(不随意)に動きを制御されてしまうというシステムが身体には備わっているのです。しかもこのルールは厄介な事に状況や状態によって制限速度が変わります。交通ルールの制限速度80km規制であれば常に80km以下で走行すれば良いのに対し、身体のルールでは今日は70km規制、明日は60km規制、はたまた今から50km規制といったようにいつも80kmで走行していれば大丈夫といった事ではないのです。

緊張すると身体の制限速度が変わる
これは「緊張すると何故いつもと同じパフォーマンスが出来ないのか?」という質問にお答え出来る話だと思います。緊張すれば当然筋肉の状態に変化が起きます。そしていつもより受容器の反応が高まりパフォーマンスにも変化が表れてしまうのです。緊張しないようにメンタルを鍛える事も必要かもしれません。しかしメンタルはそうそう鍛えられるものではありません。それよりもいつも筋肉の速度を80kmで動かすのではなく、出来るだけ筋出力を抑え50kmで動かすように練習する事が大事なのです!速度制限ギリギリで最高パフォーマンスを出すのは危険です。必ず近い将来技術の破綻が待っているのです。
私は常々絶好調の先に地獄が待っていると言います。これは絶好調と感じる「腕が勝手に伸びる」自分自身で制御していない「オート(自動)」の状況で、制限速度が低くなった途端にわけが分からなくなってしまうのです。とは言え単に出力を抑えれば良いというわけでは無いので難しいと思います。
①腕が出ないイップス②ダーツを握って離せないイップス③グリップイップス④腕が勝手に動くイップス⑤テイクバック出来ないイップス、もしくはその他スポーツのイップスも原因は全て「伸筋(伸ばす運動を行う筋肉)」の速度規制オーバー即ち筋肉の過度使用によるものなのです。

イップスは不思議ではなく誰にでも起こる
イップスの原因は身体的な問題です。それらは解剖学で説明できます。そしてどうやって改善するかは如何に筋力に頼らず「力」を道具に伝えるかが重要になるのです。人間は単なる構造物です。構造物の骨格である骨を動かす為に筋肉は存在し、その筋肉は神経を介し脳で制御されているのです。その経路は解明され学問として確立されている事であって、何の不思議でもなく解剖学の教科書に載っている事なのです。

数字が上がらなければ本物の理論ではない
イップスが精神論で語られる理由として指導者の怠慢があると思います。運動理論はこれからも一流アスリートの「主観」により構築されていくでしょう。しかしそれは間違いが横行し曲がって伝わってしまうと思います。「自分はこう思う」では駄目なのです。私はレクチャーによる効果、即ち結果が大事だと思っています。重要なのはイップスが直る事だけではなく、イップスが改善した上にパフォーマンスが上がらなくてはならないと思っています。それは解剖学的にも力学的にも最適化された状態が最高パフォーマンスになるからです。レーティングが上がった、試合に勝てるようになった等の結果を求める為に、私はあくまでも客観的な学問を通し「あるのか?」「ないのか?」をはっきりさせ、解剖学や物理学など運動理論にとって必要不可欠な学問をこれからも勉強して参ります。