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No.21 金子憲太プロ 石田博生プロ

2015年5月

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5月に花開く月桂樹。地中海沿岸部に自生する常緑樹であり、英名でのローレルは調味料として日本でも幅広く知られています。
この月桂樹が意味するのは「勝利と栄光」。古代ギリシャではその葉で月桂冠と言われる栄冠を作り、勝利や栄光の証として勝者や優秀な者の頭に被せた事から由来されています。
ですがこれは樹木自体を表す言葉であり、月桂樹の葉と花にはそれぞれ異なる花言葉が存在するのです。
その葉は「誓い」を、その花は「裏切り」を…。

私がまだNDLコラムニストとして歩み始めたばかりの頃、関東で開催されるトーナメントには可能な限り足を運ぶように心がけ、各地から集まる選手や企業の方々と面識を持つよう努めていた時、知人に紹介され見目麗しく美しい青年と挨拶を交わしました。

その青年の名前は「金子憲太」。当時ダーツの選手としては未成年プレイヤーであり、透き通るような白い肌と健康的に艶めいた黒髪、長い手足と屈託の無い笑顔。幼き頃に夢見た…童話の中に登場する「王子様」の姿態そのもの。その素肌に纏った色鮮やかな藍色のユニフォームがよく似合っていた。
金子プロの好印象はその美しい容姿だけに留まらず、礼儀正しく控えめな謙虚さが更に拍車を駆けてくれた。それを実感したのは、数か月後に金子プロに再会した時でした。
180cmを超える長身に白い肌、数十メートル離れた場所からでも一目で「金子プロ」と認識できた私と目が合うやいなや、足早に駆け寄って来てあの屈託の無い笑顔を魅せてくれた。
「お久しぶりです。先日はどうも。」
衝撃と感激…しかしこの善行を目の当たりにしたのは私だけではなかったのです。
顔を見合わせ挨拶を交わした事のある相手には、選手でなくとも著名人でなくとも、トーナメント会場で見かけると自ら駆け寄り声をかけるのです。
「お久しぶりです。先日はどうも。」
その事を知ったのは、首都圏のダーツショップで居合わせた男性客の噂話からでした。男性客は「自分のような一般人に」と、身に余るほどの喜びを誇らしげに語り、続けて「若い選手ながらこういう姿を魅せてくれると応援したくなる」と、目を輝かせていました。
次世代のエースとして名高く、その花開く時を今か今かと期待されている最年少トッププレイヤー、金子プロ。戦の場であってもその謙虚さを失わずにいる姿勢を金子プロ自身は、「どこに行っても自分が年下ですから、自分から挨拶をするのは当然です。知り合いが増えれば会場にいる時間が楽しくなるでしょう。」と。
近年ハングリー精神の強い選手が蔓延る中、秀でる選手たちを差し置き次世代として金子プロの名が上げられるのは、技術や結果だけではなく、この「若手の鑑」とも言える言動からでしょう。

ダーツ業界に参入している企業と言えば、ショップやバー等ダーツ機器を設置している飲食店やそのディーラー社、バレルやアパレル・グッズのメーカー社。日本国内で今も尚増え続け数えきれない程に躍進する中、最近では一見するとダーツとは無縁とも思える飲食業や一般企業が個々の選手にスポンサーとして名乗りを上げるようになり、また選手各位にもビジネス思考が強まってきたように思えます。
これは「ダーツを職業として食べて行けるようになりたい」という考えが、狭き門の夢物語ではなく視野の広がった現実性を持ってきたからでしょう。
私の古くからの知人に、選手として飛躍する一方で昔からダーツに対して人一倍のビジネス思考を持ち続ける男がいます。首都圏では「popo」という愛称でも知られた、石田博生プロ。その性質は一言で表すと「ドライ」に尽きます。感情を表に出すような性格ではなく、そうかと言って無愛想な訳でもない。人当りは良く礼儀正しく社交性も高く、とくに話術には長けている、石田プロ。親しく話しているかのように思えて時折目に見えぬ線引きのようなモノを感じさせられるのは、石田プロにとってダーツとは競技でありビジネスであるという建前からなのでしょうか。
石田プロは以前、ダーツバーに勤務し、通常の飲食店スタッフと同じく、夕刻から深夜まで勤務していました。ですが結婚を機に転職、現在はダーツとは無関係の職に就き、朝から晩まで「サラリーマン」として働いています。これは、長年ダーツという業界に携わってきた私の目から見ても異例の事。一般企業に勤めていた者がダーツを本職にと望み、ダーツバーのスタッフやその企業の社員として転職するというのは珍しくない話です。ですが石田プロはその真逆の道を選択したのです。その事について問うと石田プロは平然と眉ひとつ動かさず「家族を養っていくためと、嫁の家族のために。」と答えてくれた。
新たな家族の誕生を目前に控えた石田プロにとって、その家族のために安定した職に就くこと、家族との共有できる時間を守ること、そして娘を嫁がせてくれた義父母を安心させたいというその愛情と正義から、スポンサードを受ける企業各社に敬意を払いつつ「サラリーマン」への転職を果たしたのです。
選手としてそして社会人として、悲観することも楽観することもなく、自分自身の夢と家族への責任を背負って、石田プロは「覚悟の人」として生きているのです。

金子プロは兄のように石田プロを慕い、石田プロは金子プロの飛躍を敬う仲間同士。二人にそれぞれ互いの似顔絵を描いて欲しいと頼むと、意外にも絵心に溢れた才能を発揮してくれました。
金子プロの描く石田プロは、目の前にいる本人と見紛う程の不敵な無表情。その横に書いた特徴にはドライ・ビジネス思考等の表面と、お酒好きだというプライベートを良く知り合う仲だからこその見聞。逆に石田プロの描く金子プロは、女子顔負けのイラスト力で特徴にも皮肉がたっぷりと含まれている。今は別々の土俵で戦う者同士であっても本当に信頼し合った仲なのだと推察される。

未来を担う次世代の筆頭に立つ金子プロから、幼きプレイヤー達へ。「試合には強気で良いと思います。争いの場ですから、僕も殺意を持って戦っています。でも、会場内で生意気になってはいけないと思います。強気と生意気は違います。生意気であり続けると信頼と人脈を失ってしまうでしょう。」
プロ選手として大黒柱として覚悟を背負って生きる石田プロからは、大勢のプレイヤーを代表してトーナメント運営サイドに懇願したい事が。「既定のタンブラーに保温性が欲しいですね。暖かい日にせっかく冷たい飲み物を買っても、数分で氷が溶けて常温になってしまうので。できればステンレス製のタンブラーが規定になれば…と、多くの選手が望んでいます。」

有志たちの声よ、響き渡れ。