No.49 イップスについて

2019年5月

イップスといえば本誌で以前コラムを書いていた五十嵐さんが有名ですが、専門家の立場ではなく15年近くイップスとつきあってきたプレイヤーの立場で私の経験を書いてみたいと思います。

ダーツを始めてすぐくらいから上手くなる為の方法を色々と考えました。私がダーツを始めた17年前当時はインターネットの情報もありませんし、ましてや動画サイトなんかもありません。東京や横浜の有名なプレイヤーを働いている店まで見に行きました。CSでPDCの試合もたくさん見ましたね。
そしていいなあと思う選手の投げ方を色々と真似したんですよ。ここまでしても
ダーツなんて直ぐに上達する訳がありません。
少しするとテイクバックをした後に、腕が前に出にくくなったんですよね。既にイップスって言葉は知っていましたが、当時は自分がイップスだなんて思ってもいませんでした。上体を前に突っ込むと投げられるので「タメが長いんだよなあ」と自分なりの解釈をしていましたね。
そんなのん気な状況も長くは続かず、自分がイップスじゃないかと悩み始める事になります。その頃から「ダーツもそのうちプロ化するのでは」なんて噂がありましたから、ソフトダーツにプロが出来たら自分も直ぐにプロになろうと考えていました。
しかしそんな状況ですからプロになる以前にイップスをなんとかしなくてはな
りません。その頃は今と違い「イップスはメンタルが原因」とだけしか言われていませんでしたから、全く出口が見えませんでした。ダーツを辞めようかとも考えました。

そんな一番悩んでいる最中、メダリストのラスベガス大会に参加する事に。友達に成田空港で「この旅で何も見つからなかったら、ダーツ辞めるかもしれません」と突然勝手なメールをして…。
背水の陣のつもりでラスベガスに行ってもやっぱりダーツは入りませんし、投げるのも大変でした。それでもラスベガスではポール・リムと話が出来ましたし、本誌の編集長との出会いもありました。
そしてそれ以上に嬉しかったのは、言葉が通じない外国人と真剣に、そして楽しくダーツが出来たんですよね。
ラスベガスで、そして帰りの飛行機の中で今後どうするか色々と考えました。結論は「プレイヤーとしてはあきらめよう。でも、こんなに楽しいダーツをもっと多くの人に広める仕事をしよう」。その為にダーツショップをやろうと決めたんですよね。
成田に着き友達に「ダーツショップをやろうと決めました」とメールをしたんですよね。
しかし、計算してみると周辺の町を加えても人口40万人くらいの所でダーツショップだけでは成り立ちません。ダーツバーも併設する事にしました。それがIMAーGINEです。

今思えば、イップスにならなかったらIMAーGINEもダーツ屋どっとこむも無かったでしょうね。
イップスにならなければプロの資格は取っていたでしょうが、全く勝てなかったでしょう。未だにプロとしてしがみついているか、既にダーツを辞めているか、その辺は全く分かりませんが。

店を始めてから、それまで以上に練習をしました。プロはあきらめたとはいえ、ダーツは好きですから、やっぱり上手くなりたい。イップスを治すために、セットをしないで投げる練習をしたり、セットしてから目を閉じて投げる練習もしました。目を閉じると投げられるし、身体が覚えているのか意外と入るんですよね。一時期は大会の時、目を閉じて投げたりしていました。
今から13年くらい前になるとダーツの動画サイトも盛んになり、有名プレイヤーの投げ方がスローで見られるようになるんです。思ったよりも皆身体の近くでダーツを飛ばしているんですよね。

「出来るだけダーツを遠くで放す」と言っている選手も、やっていると思っている事と実際に身体がやっている事が一緒ではないと分かるわけです。その頃にはどうして、自分が投げられなくなるイップス状態になるのかが、なんとなく分かってきました。
身体をその状態にしなければイップスは出ないわけです。「イップスって精神的な事だけではなく、やっては駄目な事があるんじゃないか?」と思い始めました。そんな事もあり、IMAーGINEでは他人にダーツの投げ方を教えるのは禁止にしました。他人がその人に出来ない事をさせようとするからイップスになるんじゃないかと、自分なりに思ったわけです。

その後竹山大輔にダーツを教えてもらう事になり「その人なりの身体の使い方やイメージに合わない動きをしようとした時に起こる」と言われ、その後に五十嵐さんに「人間の骨格的に出来ない動きをしようとして起こる事」と教えていただき、イップスのスタートは身体の使い方の間違いで、投げられなかった経験や恐怖心が身体にブレーキをかけるんだと知りました。
その頃は店で投げられる投げ方で毎日ダーツをしていますからイップスもほとんど出ません。
時々それっぽい時があると「あ、これ入らない」と感じたり「腕の動きが違う」と思った時に身体がブレーキをかけているのも分かりますから、何を間違えたか自分で検証をすれば直ぐに修正が効きます。

そして2年半前に店をやめて実家に戻り親と生活をする事に。毎日投げていたダーツも、リーグ戦含めて週に2回くらいしか投げられません。それで下手になるのは想定していましたが、時々イップスが出るようになるんですよね。
頭では理解しているから練習の時には修正が効くんですが、リーグ戦や大会になるとその修正が段々と出来なくなってくるんです。
そして酷かったのが今年2月の岡山大会。1度止まったら頭の中が真っ白になって、それまでは何とか修正していたのに修正の方法も考えも浮かばない程に。初めて試合途中でギブアップしようかと思いました。でも、ここでギブアップしたら自分が許せなくてダーツ辞めちゃうと思い、自分を励ましながら何とか最後まで続けました。

本当は駄目ですが対戦相手に「早く決めて」と思いながら見ていると、相手がダブルが入らずワンチャンスが回ってくるんですよね。そんな時に限りダブルが1本で入ってしまう。
結局フルレッグで負けるんですが、私が1試合する間に隣の台は2試合終わるくらい長い試合でした。
試合後は当然へこみますが、どう対処するかも考えました。身体の使い方が間違っているんですから、大幅にフォームを変更することにしました。ちょっとの修正だとまた悪い癖が出ますからね。

私の場合肩より少し高い位置で構え、テイクバックを大きめにとっていたのですが、引き過ぎると肘が上にあがり肘がボードの方を向いているので、それ以上に腕が前に出るはずがありません。冷静になると頭では分かっているんですが、もう微調整が出来るほど練習もしていません。
ダーツを目より上の高さの遠くで構え、テイクバックを少しにして投げる事にしました。当然投げられますが2ヶ月位練習
しましたが、全く入るようになりません。リーグ戦でも45ダーツ連発です。
並行して左手の練習もしましたが、投げられるんだけど思ったように入らない。1ヶ月くらい前から再びフォームを変更。自分の場合身体に近い所に感覚があるんですよね。

ダーツのセットする位置を肩の下の身体に凄く近いところにして、テイクバックが少ししか出来ないようにしました。やっぱりこの方が入るんですよね。だからといって、遠くで投げる練習をした2ヶ月は無駄では無かったと思っています。
最初から今のようにしようとしても、少しの修正だから直ぐに元の状態に戻ってしまったと思いますし、投げられない時の怖いイメージが抜けなかったと思います。
今はようやく30ダーツ前後でまとめられるくらいにはなったかな。もちろん良い数字ではありませんが、投げられなかった時の事を思えば天国です。

これを読んでくれている人の中にもイップスで悩んでいる人がいると思います。イップスの出方は人それぞれだと思いますが、一度頭の中をリフレッシュして下さい。「こうグリップしたい」「ここで構えて」「こういう風にテイクバックして」「こういう風に飛ばして」こういった身体に出来ない事を無理にしようとする事をやめてみて下さい。
持ち方も、構える位置も、投げ方も大きく変えてみて下さい。同じような事をしようとするから、身体が覚えている間違った動作をしようとするんです。イップスが治らない人は外から見ていると、同じ事をしようと真面目にしているんですよね。それが一番ダメなんですよ。
どんな風に投げたってダーツは投げられます。逆の手でだって投げられます。投げられれば天国です。後は練習あるのみ。
少しでも苦しんでいる人の参考になればと思います。