2013年11月
期待を裏切らない、いやそれ以上の見ごたえある試合の連続だった。
2013年のPDJファイナルは11月3日文化の日、さわやかな秋晴れの中、国技館のお膝元である両国のKFCホールにて開催された。
まず会場に入ったとたん、観戦に来ていたお客さん達の興奮がさざなみのように広がっていることを身体で実感した。これから始まる熱い戦いに応えるべく準備万端というところだろう。実際、以前に比べて観客の方々が本当にダーツを「観る」という行為を、リラックスして楽しむようになってきたと思う。
工夫をこらしたコスプレの人達もいる。日本でもダーツはプレイするだけでなく、観戦して楽しむという土壌が育ちつつあるのも、このPDJの力が大きいのだろう。
そして、始まった今年の戦いの数々。期待を裏切らない、いやそれ以上の見ごたえある試合の連続だった。1回戦から決勝まで全10試合、どのプレイヤーが勝ってもおかしくない、すごいダーツを目の当たりにして本当に興奮・感激した。
FIRST ROUND
スロースターターには厳しい、第一回戦
1回戦は東日本・西日本予選で3位ー4位の選手に対して、各団体(TDO、JSFD、JDO)代表の選手がドローをして対戦カードが決められた。結果、記念すべき第1試合は鈴木健太郎選手と知野真澄選手の対戦となった。
鈴木選手は本誌コラムでもおなじみ。イギリスに実際渡ってPDCを目指し切磋琢磨してきたプレイヤーだ。裾野が広いイギリスで揉まれてきたその成長振りが楽しみだ。対する知野選手は日本のソフト界でもすでに一目置かれる、実力はお墨付きの存在だ。
1回戦の試合は全てベストオブ7レッグ。この試合、最初からお互いにブレイクで混戦模様を見せたが、試合のキーポイントとなる第4レッグに知野選手が自分の先攻を守り抜き3ー1とリード。そして迎えた第5レッグは、先攻の鈴木選手に先にチャンスが訪れたにもかかわらず、最後のダブルに苦しんでいるうちに知野選手が追いつき逆転。4ー1で知野選手が勝利した。両選手削りは悪くなかったが、鈴木選手は大切なところで決定力を発揮できなかったのが痛かった。
第2試合は、JSFD代表の饗場克也選手対西日本予選から勝ちあがった清水浩明選手。こちらの試合は一転、最初の2レッグはお互いにキープ。その後第3レッグあたりから清水選手のエンジンが掛かりだし、第4レッグでは13ダーツも出して、試合を引っ張った。
彼は結局2レッグから4連続でゲームを獲り、準々決勝へと駒を進めた。やはり清水選手の後半からの爆発力と、ダブルの決定力が試合を左右したようだ。
第3試合はJDO代表の高山得容選手と、2010年のPDJ優勝者である橋本守容選手の戦い。
ファーストレッグから高山選手がブレイクすると会場は大きく盛り上がった。更に続く第2レッグも高山選手が獲って2ー0とアップ。高山選手は180も出して調子が良さそうだ。だがそう簡単に引き下がる橋本選手でないことは、観客の誰もが分かっていた。
ここから橋本選手の猛反撃が始まり、第3レッグ以降は橋本選手の独壇場となった。安定した100+でスコアを稼ぎ、ゲームをまとめる力もさすがだ。高山選手も第6レッグには180で応戦したが、残念ながら試合の流れを変えることは出来ず、最後は橋本選手が4ー2で勝ち進んだ。
もう1試合は、東日本予選で勝ち残った竹内敦選手の不戦勝となった。
SECOND ROUND
手に汗握る好カード連発
最初の試合は、これまでこの大会で3度の優勝経験を持ち、今回西日本予選で優勝してここまで上がってきた村松治樹選手対、1回戦で鈴木選手を下し調子を上げている知野選手。
1投目から知野選手の180で始まったこの試合、どちらも打ち合って4レッグ目まではお互いキープで2ー2とこう着状態。
ここまではやや知野選手が押しているような印象があった。実際知野選手はここまでに180を2回出している。だが、どちらも譲れない状態で始まった第5レッグで、経験豊富な村松選手は我慢のダーツでチャンスをつかんだ。先行していた知野選手だったが、残った38に苦しんでいるうちに村松選手に追いつかれ、大切なゲームを失ってブレイクを許してしまった。
これが試合の流れを変え、続く第6レッグも接戦になったが、村松選手が粘り勝ちで、4ー2と試合を自分のものにした。
次の試合は東日本予選を2位通過し、過去にこの大会で2度の決勝戦進出を果たしている実力派プレイヤー勝見翔選手が登場し、清水選手と対決した。
ファーストレッグ、清水選手が2度の140から最後90をきっちり決めていきなりブレイク。だが次のレッグで勝見選手が、ダブルを引っ張る清水選手を尻目に上がってブレイクバックで1ー1。続く2レッグはお互いにキープし合ってスコアは2ー2とタイ。
そしてここから試合が動いた。第5レッグを先攻の勝見選手が完璧なダーツできっちり自分のものにすると、最終レッグとなった第6レッグも勢いに乗って、清水選手の先攻ゲームをブレイクで勝ち取って、次へと望みを繋いだ。清水選手は100+を12回も出しているが、残念ながらそれを勝機に結びつけられなかった。やはりここまでくると、どんなに良いプレイヤーでも勝ち上がることは本当に難しいのだ。勝見選手の勝負強さを印象付けた試合だった。
続く試合は、1回戦不戦勝という運を味方につけてここから登場の竹内選手と、西日本大会2位で、今最も乗っているプレイヤーの1人である小野恵太選手の戦い。この試合でも、知野選手に続き小野選手が180でファーストレッグをスタート。
彼は勢いのままに自身の先攻レッグを幸先良く勝ち取った。続くセカンドレッグも小野選手がブレイクで獲ると、竹内選手は第3レッグに反撃に出てブレイクバックし、この時点でスコアは2-1。だが、流れに乗る小野選手を止めることは難しかった。第4レッグに3度目となる180を出した小野選手はここから更に竹内選手を引き離し、最後は4ー1で小野選手が勝利を手にした。
それにしても、小野選手のプレイは素晴らしかった。3本のアベレージも30を超えて、世界に通用する戦いぶりだ。気持ち良さそうに投げる小野選手の姿はステージ上で輝いて見えた。
準々決勝最後の試合は、東日本予選1位通過で、日本のダーツ界を長い間牽引してきた功労者でもあるジョニーこと安食賢一選手と、橋本選手との戦いという好カード。この大会初めてフルレッグまでもつれた大接戦だった。
最初安食選手が2レッグ連取で、2ー0といきなりピンチの橋本選手。だが、次の2レッグは橋本選手が取り返して、2ー2とイーブン。さすが橋本選手だ。次の2レッグはお互いにキープで3ー3と試合はここからが本番。
運命の最終レッグ、安食選手も決して悪いプレイではなかったが、橋本選手は100+を3回と96で25残しとし、最後もダブルをきっちり入れて素晴らしい粘り勝ちを見せてくれた。
それにしても、本当にレベルの高いダーツで楽しませてもらった。まさに、手に汗握る試合と言っていいだろう。両選手に拍手を送りたい。
SEMI FINAL
ここからは、ベストオブ9レッグとなり、更に面白い試合が目白押しだった。準決勝に残ったのは、村松選手、勝見選手、小野選手、橋本選手の日本ダーツ界を代表する4人のプレイヤー達。
第1試合で激突したのは、勝見選手と村松選手。最初のレッグはスローなスタートでお互い上がりに苦しんだが、最後は先攻の勝見選手が何とか獲った。続くレッグも勝見選手がブレイクで獲り、更に第3レッグもキープで勝見選手がものにした。だが、この後村松選手が奇跡を起こす。0ー3ダウンから怒涛の5レッグ連取という凄いプレイを見せてくれたのだ。
勝負所は第4、5レッグ。押されムードに逆らって村松選手が我慢のキープをして、その後ブレイクという流れが、勝ちへの道筋を作ったのだ。村松選手は技術だけでなく、ゲームの流れをいいところでつかむという天性の才に恵まれた、稀なプレイヤーだろう。彼だからこそ出来た、劇的な逆転試合だった。
準決勝もう1つの試合である小野選手対橋本選手の戦いは、更に見ごたえのあるものになった。最初の2レッグはお互いにキープして1-1。
そしてドラマは第3レッグにやって来た。初めは両選手共に削りがいまひとつだったが、170残しで橋本選手がなんと20T20Tインブルでハイオフしてしまったのだ。これには観客も大感激だった。淡々と投げる橋本選手の姿は本当にカッコイイ。
このブレイクが試合の方向性を決定したように思う。その後小野選手も良く戦って第5、7レッグを獲ったものの、橋本選手は第6レッグにも148で上がり、彼に向かう大きな勢いのようなものの前に小野選手は3ー5と力尽きた。小野選手もスタッツを見れば、決して橋本選手に劣っていない。ここまで来ると、後は試合の駆け引き次第で結果が決まってしまう。一瞬も目が離せない、緊張の連続のような試合だった。
FINAL
やはりこの二人は何か特別だ
2013年度PDJファイナルのファイナリストは村松選手と橋本選手。何度も繰り返されている組み合わせだ。しかし何度観ても、面白い。
決勝はベストオブ11レッグという長丁場。一瞬でも集中が切れた者が敗者となる過酷な戦いだ。この試合、序盤にダーツが良く入っているように見えたのは村松選手。最初の2レッグを両選手共にキープ。続く3、4レッグは橋本選手が連取して3ー1とリード。だが次の5、6レッグ、今度は村松選手が連取して3ー3のイーブン。このあたりになると、スコア100+はもう当たり前という感がしてくる。更に7、8レッグも村松選手が獲ったが、その第8レッグを、村松選手はあっさり12ダーツで上がっている。この時点でスコア5|3と村松選手が一歩先に行く。だが、ダーツにはいつでも魔物がすんでいる。第9レッグ途中まで好調だった村松選手のダーツが突然入らなくなる。その隙に橋本選手が苦しみながらも何とかこのレッグを獲ると、流れががらりと変わってしまった。第10レッグをキープした橋本選手が続く第11レッグもブレイク。最後は96残しを2本で決めた橋本選手が、6ー5で村松選手を抑え、2013年度PDJの王者となった。
橋本選手の底力を、改めて思い知らされた試合運びだった。村松選手も凄いプレイの連続で応戦し、まさにPDJの決勝戦にふさわしい、「死闘」だったと思う。
LADIES FINAL
女子の決勝は鈴木未来選手と浅野ゆかり選手の対戦。両者共にリラックスムードではあったが、やはり大舞台ではベテランの浅野選手に分があったようだ。
第1レッグ、浅野選手は100+を2回出してさすがの戦い振り。ダブルに苦しんだものの、最後はきっちり決めていきなりブレイクの浅野選手。次のレッグも浅野選手が獲って、鈴木選手は後がない。第3レッグには鈴木選手のダーツが集まり始め、このレッグはしっかりキープで1ー2と1つ返した。だがさすが女王の浅野選手はこの反撃に動じず、リードされていた第4レッグを落ち着いて逆転で獲り、3ー1で優勝を手にした。浅野選手のスコア能力と安定のプレイが、鈴木選手を寄せ付けなかった。これは女子全般に言えることだが、ダーツの横ぶれを修正して行くことが、今後の課題になってくるだろう。
橋本 守容 Morihiro Hashimoto INTERVIEW
お疲れさまでした。そして優勝おめでとうございます。
ありがとうございます。
今回も充実のメンバーでしたね。
はい。僕も始まる前から強い選手が揃ったなと思いました。
第一戦目ではまず2レッグ先攻されましたが、やっぱり緊張もありましたか?
緊張というほどのものではなかったんですが、初戦の硬さというか、ゲームの始まりの硬さがちょっとありましたね。
第二戦目は今ソフトで調子のいいジョニー選手とでしたが、いかがでしたか?
ソフトもそうですけどハードもかなり投げてると思うので、とにかく付いて行こうと思いながら投げました。ここでも最初の2レッグを獲られて結構苦しかったんですけど、付いて行けたので良かったと思います。
次の試合では小野恵太選手とでしたが、小野選手は第一戦目は素晴らしいダーツを投げましたが…。
そうですね。それを見てたのでなんとか勢いを止めるダーツを出そうと思って投げたんですが、上手く出せたので良かったです。
ハイオフでは周囲から歓声が上がってましたが、ご自身ではどのような気持ちでしたか?
本当にあの一発が決まったことでその後の流れが僕に傾いてきたと思うし、あの170はキーポイントでしたね。
小野選手は後で「あんな場面であんなの打ってくるなんて信じられない」なんて話してました。
170なんで、60入った時点でインブルは思いきって投げました。
その後の148にも驚きましたよ。普段からああいう練習もされてるんですか?
あんまり練習はしないですけどね。まぁ入ったらの話なんで……。とにかく思いっきり投げるだけです。
決勝戦では良き仲間であり良きライバルである村松選手とでした。初回から優勝を競い合っていますが、今年はまたアニー選手の順番がやって来ましたね。
僕も2回目なので、僕自身の持てる全てが出せればいいと思ってます。1回の経験は大きいと思うのでその経験を生かして、前回よりもう一つさらに上に行きたいですね。ぜひ勝ちたいです。ぜひ頑張って、高いレベルの試合がしたいと思います。応援お願い致します。